企業法務コラム
「事業承継」という言葉に敏感な人は多いのではないでしょうか。
事業承継とは読んで字のごとく『家業や事業を後継者が継ぐ』ことです。
それでは、具体的に何を『継ぐ』のでしょうか? それは以下の2つを指します。
例えば、超人気の店を経営している70歳のカリスマ店主がいたとします。この方の経営している店舗(土地建物)は所有であれ賃貸(権利金)であれ事業用資産ですし、使っている調理器具や日々仕入れに必要なお金も事業用資産です。
「物的承継」とは、これら事業用資産を承継することをいいます。一方、「人的承継」とは、この店主の鮨を握る技術や、そこで働く店員、そして長年通っていただいたお客さまなどの人脈、信頼関係等を承継することをいいます。この店主の後継者は本当に大変ですが、この二つの承継が必要なのです。
愛知県の後継者不在企業はなんと69.7%で、全国平均の65.4%を上回っており、全国的にも課題感が強いエリアだと思います。それでは、事業承継を進めていくにあたり、実際にどのような問題が出てくるのでしょうか? 先ほどの鮨店のケースを例にお話します。
仮にこの鮨屋の店主が急死したとします。お店は一等地の400m²、相続税の評価額で4億円の店舗用地を持っていたとします。もし、この店を息子が事業承継すると、土地の相続税評価額は何と8000万円の評価(特定事業用宅地の特例)まで下げることができますが、廃業した場合は4億円の評価額として多額の相続税を払う可能性が出てきます!
また、法人を経営している企業オーナーの方であれば、その会社の株式を持っています。自社株式も「物的承継」です。この自社株式、当然市場で現金にできません。価値がないと思いきや、赤字会社なのにこの自社株式が高額の評価額になり相続税や贈与税の負担が重くなってしまい、相続に大変苦労をされた遺族の方もいらっしゃいます。
古くからの取引先や従業員の方々の将来、その方の家族のことも考えると、廃業はそう簡単な選択肢ではありません。しかし世の中、繁盛していない店や、赤字続きの中小零細企業もたくさんあります。「息子にはこんな思いはさせられない。俺の代で終わりだ」と現経営者の代で事業を終わらせるケースも多く見受けられるようになりました。
「まだまだ俺はやれる! 俺が死んだら後は勝手にやってくれ!」こんな風に現実から目をそむけるとどうなるでしょうか。いざ廃業の時に、遺族には先ほどお話した「物的承継」が重くのしかかってくるのです。
一つ目の選択肢は、親族への事業承継としてお話をして参りましたが、これ以外にも事業承継の方法はあります。
二つ目は、長年一緒にやってきたやる気のある従業員や役員などに会社や家業を継いでもらうのです。「人的承継」はうまくいく感じがしますね。しかし、この時、問題になるのはこの社員の方々に「物的承継」を行うだけのお金、すなわち事業用資産を購入する資金があるのか、ということです。また、銀行の融資を受けていれば新しい「社員後継者」が保証人になる必要が出てきますが、その際、銀行が前経営者の保証を外してくれるのか、という問題もあります。また、譲り渡す前経営者の今後の生活資金の確保もしなくてはなりません。
三つ目は、事業や会社の中で働いている社員ではなく、外部の方々に後を継いでもらういわゆる「M&A」なんていいますよね。一般的にはお金を持っている個人や企業にその会社や家業を売りますので、前経営者には資金が入ってきます。「物的承継」の問題は解決できそうです。しかし、前経営者に慣れ親しんだ従業員や幹部はどうでしょうか? 新社長、新経営者の方針がわからず不安になるのではないでしょうか。力のある本当に必要な従業員が辞めてしまったり、従来の取引先が不安になり取引を解消してくる恐れもあります。このようにM&Aには「人的承継」の難しさが絶えず付きまといます。
非常に難しい経営課題の一つである「事業承継」ですが、間違いなく言えることは「事業承継をスムーズに行うには、経営者の強い意志が必要」ということです。それを踏まえて、事業承継への具体的な対策をお話します。
ここでは、具体的に「退職金」と「株式譲渡」の2つをご紹介します。
例えば、前経営者に役員退職金を払ったとしましょう。金額の多寡はありますが、少なくとも半額は所得税の計算から控除されます。場合によっては所得税がほとんどかからないケースもあります。
会社の承継であれば、退職金の支給がその会社の課税所得に影響を与え、その会社の株価が一般的には下がります。従来の事例では、3億円近い自社株式の評価を「相続時精算課税制度」という制度を適用し、500万円の贈与税でまずは後継者に承継させたことがあります。また従業員への承継では、8億円近い前経営者の自社株式を後継者の従業員複数に一人当たり200万円程度の譲渡価格で承継させた実例があります。
「取引先に事業承継に伴う迷惑をかけたくない」というのであれば、少なくとも1年~2年ぐらいは顧問として取引先のきめ細かいサポートを行う気概は必要だと思います。また「従業員に経営をさせたい」という強い思いがあるのでれば、前述の従業員一人当たり200万円(この時は総額は約2500万円)という極めて低い価格で譲るという英断を、前経営者が行う必要もあります。
退職金、株式譲渡の他にも事業承継をスムーズにするために取るべき対策はあります。今やさまざまな情報が溢れておりますが、変わらずに言えることは「事業承継を円滑に進めるためには専門家のアドバイスが不可欠」ということです。愛着のあるご自身の事業を気持ち良く次の世代に引き継ぎたい。税理士法人ベリーベストは、経営者さまと同じ目線に立ち、経営理念・戦略を踏まえて、現経営者から後継者へのスムーズな事業承継をサポートします。承継にお困りなら、経験豊富な弁護士・税理士等の専門家にご相談されることをおすすめいたします。
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