企業法務コラム

2021年12月15日
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社内利用で著作権侵害にならないために! 私的利用の範囲を確認

社内利用で著作権侵害にならないために! 私的利用の範囲を確認

著作物を社内で利用する際は、著作権の侵害にならないように気を付けなければなりません。

たとえば新聞記事やweb記事などを利用して、プレゼンテーション資料や社内報を作成する場合などは、著作権侵害に当たるのでしょうか?

「私的利用」に該当する場合には、著作権者の許諾なく著作物を利用できますが、私的利用の範囲はかなり狭く設定されているため、企業担当者としては十分に注意が必要です。この記事では、著作権法に基づく著作物の私的利用の範囲を中心に、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、著作権法の概要と直近改正のポイント

著作物の利用に関するルールは、著作権法という法律で定められています。

著作権法は、2020年に成立した改正法によってさらにアップデートされていますので、著作権法の概要と、2020年改正法のポイントを改めて押さえておきましょう。

  1. (1)著作権法とは

    著作権法は、著作物の創作者の権利(著作権)を保護するための法律です。

    著作権法では、著作権者に対して、著作物の複製その他の利用に関する独占権が認められています。
    著作権者は、著作権に基づき、著作物の利用を第三者に対して許諾することによって、ライセンス料を得ることができます。
    このように、著作権者が著作物からの収益を得られる仕組みを確保することによって、制作者の創作意欲を刺激し、多様な著作物の誕生を促進することが、著作権法の目的とされています。

  2. (2)2020年成立・改正著作権法のポイント

    著作権法の内容は、時代背景などを踏まえて、年々法改正によってアップデートされています。

    2020年6月5日に成立し、直近の改正著作権法においては、主に以下の点が改正されました。

    • ① リーチサイト対策
    • ② 著作物の円滑な利用を図るための措置(写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大など)
    • ③ 違法ダウンロード規制の強化
    • ④ 著作権の適切な保護を図るための措置(著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化など)
    • ⑤ プログラムの著作物にかかる登録制度の整備


    なお、③については2021年1月1日に施行され、インターネット上に掲載された違法な侵害コンテンツのダウンロード規制の対象が、音楽と映像からすべての著作物(漫画、書籍、論文など)に拡大されました。

    改正著作権法の内容については、詳しくは以下のリンクをご参照ください。
    参考:令和2年通常国会著作権法改正について

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2、著作物の私的利用とは?

著作物の利用には、原則として著作権者の許諾が必要です。

しかし、常に著作権者の許諾が必要だとすれば、著作物の円滑な利用に不都合を生じてしまう場合があります。そこで著作権法には、著作権者の許諾を得ずとも著作物を利用できるいくつかの例外が定められています。

著作物の「私的利用」も、その例外のひとつです。以下では、著作物の私的利用について解説します。

  1. (1)私的利用は著作権者の許諾なく可能

    著作権法第30条第1項では、「個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするとき」は、一部の例外を除き、著作権者の許可を得ずして、著作物を複製できると定められています。

    これを著作物の「私的利用」といいます。

    なお、著作物の私的利用が認められる場合には、同様の目的であれば、翻訳・編曲・変形・翻案も認められます(著作権法第47条の6第1項第1号)。

  2. (2)私的利用と認められる範囲は?

    著作物の私的利用と認められるのは、「個人的にまたは家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」で利用する場合に限られます。つまり、個人の観賞用や、家族に見せるために複製する場合には私的利用に当たります

    その一方で、家族以外も閲覧できるクラウド上に公衆送信したり、親しい間柄だとしても家族以外に複製物を頒布したりする場合は、私的利用に当たらず、著作権者の許諾を要します

    企業担当者にとっては、社内資料として著作物を利用することが「私的利用」に該当するかどうかが関心事になるでしょう。

    この点、裁判例では、


    「企業その他の団体において、内部的に業務上利用するために著作物を複製する行為は、その目的が個人的な使用にあるとはいえず、かつ家庭内に準ずる限られた範囲内における使用にあるとはいえない」


    と判示し、企業が業務上著作物を利用する場合には、たとえ内部的に利用するだけであっても、私的利用には該当しないという立場が取られています(東京地判昭和52年7月22日)。

    よって、社内で著作物を利用する場合には、私的利用の例外によって著作権者の許諾を不要と整理することはできません。そのため、正面から著作権者の許諾を得るか、別の例外ルールが適用できるかどうかを検討する必要があるでしょう。

3、ケース別|社内・社外で著作物を扱う際に知っておくべきポイント

企業にとっては、コンプライアンスの観点から、著作権の利用時には権利処理をきちんと行うことが大切です。
以下では、企業が社内・社外で著作物を利用する際の注意点を、ケース別に解説します。

  1. (1)広報・社内報の中で利用するとき

    広報紙やプレスリリースなど、対外的に公表する資料に著作物を掲載する場合はもちろん、社内報のように社内のみで閲読する資料に著作物を掲載する場合についても、裁判例に照らすと、著作物の「私的利用」には該当しません。

    しかし、企業が写真などの著作物をこうした資料において掲載したいのは、記事の内容を補強するための引用資料とする目的であることが通常でしょう。

    そのため、著作権法第32条第1項に規定される「引用」の要件を満たす形であれば、著作権者の許諾を得ることなく著作物を掲載することが可能です。

    著作物を引用として掲載する場合には、以下のチェックポイントをすべてクリアしている必要があります

    • ① 引用の必要性があること
    • ② 引用部分とそれ以外が明瞭に区別されていること
    • ③ 本文が主、引用部分が従であること
    • ④ 引用部分にオリジナルからの改変が加えられていないこと
    • ⑤ 出典を明示すること(新聞社(出版社)名、発行年(日)、著者、ページ数など)
  2. (2)プレゼンテーション資料として利用するとき

    プレゼン資料の中で著作物を掲載する場合についても、広報・社内報の場合と同じことがいえます。

    社内利用・社外利用のいずれの場合についても、企業が業務目的で利用するものである限りは、「私的利用」には該当しません

    よって、著作権者の許諾なくプレゼン資料中に著作物を掲載する際には、引用の要件を満たしていることを確認すべきでしょう。

  3. (3)記事や雑誌を参考資料として利用するとき

    新聞記事やweb記事、雑誌記事などには、いずれも著作権が認められています。したがって、企業がこれらの記事情報を参考資料として公表物を作成する場合には、著作権侵害に該当しないように注意する必要があります。

    すでに解説しているとおり、「引用」として著作物をそのまま掲載する場合には、引用の要件を満たしているかどうかチェックすることが必要です。

    一方、著作物である記事を参考にして独自記事を作成する場合には、完成した記事が元記事の「翻案」に当たらないように注意する必要があります。

    翻案とは、既存の著作物に基づき、かつその表現上の本質的な特徴の同一性を維持しながら、表現形式などを変更して新たな著作物を創作する行為をいいます。

    つまり、完成した記事と元記事を見比べて、構成や言葉遣いなどが酷似している場合には翻案に該当するため、著作権者の許諾が必要になります。

    これらを踏まえると、企業独自の記事を作成する際には、たとえ元ネタとなる記事があったとしても、その文章の流れをなぞることはせずに、ゼロから新しく文章を作成する必要があるでしょう。

  4. (4)フリー素材を使用するとき

    フリー素材は、著作権者によって利用が開放された素材であるため、基本的には誰でも利用することが可能です。

    しかし、ひと口にフリー素材といっても、著作権者がすべての利用方法を許諾しているのか、それとも一定の利用方法については制限をかけているのかは、著作権者の方針によって異なります。

    たとえば、フリー素材の中にも商業利用は禁止しているというものもあり、このようなフリー素材を企業が無許諾で利用すると、著作権法違反に問われる可能性があります

    したがって、フリー素材を利用する際には、すぐに飛びつくのではなく、利用許諾の範囲を確認することが大切です。

4、著作権侵害を防ぐには? 企業が取れる対策とは

著作権侵害は、企業にとっての重大なコンプライアンス違反に該当します。そのため企業としては、社内でコンプライアンス違反が発生することを防ぐ対策を採らなければなりません。

  1. (1)著作権侵害で問われる責任

    著作権侵害を行った者は、著作権法違反として、「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」が科され、またはこれらが併科されます(著作権法第119条第1項)。

    さらに、法人の代表者・代理人・使用人その他の従業者が、法人の業務に関して著作権侵害を行った場合には、法人にも3億円以下の罰金刑が科されます(同法第124条第1項第1号)。

    また、著作権侵害は民法上の不法行為(民法第709条)に該当するため、著作権者から損害賠償を請求される可能性があります

  2. (2)著作権侵害を回避するための対策

    企業が社内で著作権侵害が発生することを防ぐための対策としては、以下のものが考えられます。

    ① 著作権に関する社内研修を行う
    何よりもまず、社員に対して著作権に対する意識付けやルールの周知を行うことが先決です。そのためには、定期的に著作権に関する社内研修を行うことが有効です。

    必要に応じて弁護士に外部講師を依頼し、社内で講義をしてもらうことも効果的でしょう。

    ② 知財法務部門のリソースを強化する
    現場で著作権侵害になり得る行為が発生しそうになった場合でも、知財法務部門の適切なチェックによって問題が指摘されれば、未然に違反行為の発生を防ぐことができます。

    そのため、知財法務部門に企業内弁護士を採用するなどしてリソースを強化することが、著作権侵害防止につながります

    なお、コスト面の都合上、新たに社内で法務人材を雇うことが難しいという場合には、外部弁護士にチェックを依頼することもひとつの手段です。

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5、まとめ

著作権法の内容は、年々アップデートが続けられています。法改正や社会情勢の変化に合わせて、社員の著作権に対する意識を高めていかなければ、企業が思わぬトラブルに巻き込まれてしまう事態になりかねません。

ベリーベスト法律事務所では、知的財産専門チームが、依頼者である企業のためにきめ細やかな対応を行います。著作権に関するコンプライアンス対応などにお悩みの企業担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

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