1. 問題発生:労災事故発生、内容証明到達
製造業を営むA社の工場で勤務する作業員Bは、工場で機械に巻き込まれて指を切断した。Bは、工場長の指示がないのに休憩時間中に勝手に機械を操作して怪我をしたが、工場長はBに労災保険が支給されるよう上記の状況を明らかにしないまま諸手続をすすめた。
Bは、労災保険で後遺障害の認定を受けたことから、工場長に対し、怪我で働けない分の損害賠償をしてほしいと求めたが、工場長は、「労災保険をもらえるよう配慮したのに更にお金を請求するとは恩を仇で返すのか。」と言ってBの請求を拒否した。
1ヶ月後、A社に、Bの代理人と称する弁護士Xから、労働災害による休業損害・後遺障害による逸失利益・慰謝料等の損害賠償の支払を求める内容証明郵便が届いた。
2. 相談:事実関係の確認、対応方針の決定
A社の社長は、そもそも本件のようなBの勝手な行動が原因の事故でも労働災害といえるのか、仮にいえるとしても労災保険が支給されてもなおA社の損害賠償義務が発生するのかを相談するため、法律事務所を訪れ、弁護士Yと面談した。
弁護士Yは、社長の話を聞き、Bの勝手な行動による事故ではあるがA社の業務と全く関係ないと主張することは困難と思われること、労災保険が支給されてもA社にBに対する安全配慮義務違反などがあれば労災保険で補填できない損害を賠償する義務を負う場合があること、本件はA社のBへの安全教育や作業指示などが適切に行われたかが明確ではなくA社に何の義務違反もないと主張することは困難と思われること、弁護士Xの請求する損害賠償金額については減額の交渉の余地があると思われる旨を説明した。
そして、弁護士Yは社長と協議し、本件について、弁護士Xが主張する損害賠償金額(逸失利益・慰謝料)が同種事例等と比較して高額であること、B自身の勝手な行動という点は損害賠償額を減額する事由となりうることを主張して、弁護士Xの請求金額を減額する交渉をする方針で臨むこととなった。
3. 示談交渉:争点の確認及び調整
弁護士Yは、弁護士Xに対し、弁護士Xの主張する損害賠償金額(逸失利益・慰謝料)が同種事例等と比較して高額であること、事故発生にはB自身の過失が大きく影響していることは過失相殺事由として損害賠償金額の減額事由となりうることを説明の上、弁護士Xの請求する損害賠償額の減額を求め、何度か主張のやりとりをした。
4. 解決:合意書締結
数度の交渉の後、弁護士Xと弁護士Yとで、A社がBに対し、当初の請求金額の約3分の1の金額を解決金として支払うことで合意が成立した。
5. 事後の対応:社内体制の整備
A社では、本件の解決に至るまでに課題となった問題点について、弁護士Yのアドバイスを受けながら、社内体制を整備した。具体的には、工場長を含む管理者に対して労働災害に関わる諸手続の注意事項を周知させるとともに、工場での機械操作のマニュアルや操作担当者の教育体制を確立し、所定の教育を受けた者のみが機械を操作できるようにするとともに、所定の作業時間以外には、機械の操作ができないよう施錠を徹底させるなどの安全管理体制を整えた。
その結果、A社では、機械操作に限らず工場全体での安全意識が高まり、本件事故発生以前と比較し、作業中の労働災害発生件数が大幅に減少した。