企業法務コラム
従業員によるYou TubeやツイッターなどのSNSへの投稿がきっかけで、会社のイメージが大きく悪化し、企業経営や人材確保に悪影響を及ぼしてしまうケースが少なくありません。
これからの企業が安全に運営していくには、従業員のSNS対策が重要です。本コラムでは現在、企業に求められるSNS対策方法を、弁護士が詳しく解説いたします。
なぜ企業にSNS対策が求められるのでしょうか? 従業員がSNS上で発言をすることにより、企業活動にどういった悪影響が及ぶ可能性があるのか事例を挙げて確認しましょう。
社内の重要事項を知っている従業員が軽率にSNSに情報を投稿することにより、経営に関する重要な機密情報や顧客情報が漏えいしてしまうリスクがあります。
従業員が顧客や取引先の悪口を書いたり、反社会的な発言をしたりしてSNS炎上を起こし、企業全体へのイメージが大きく悪化するおそれがあります。イメージが悪化すれば、商品やサービスが売れなくなって収支状況の悪化につながる可能性があります。
従業員によるSNSへの不適切な投稿により企業イメージが低下して、優秀な人材が応募してこなくなったり退職者が出たりして、人材確保に悪影響を及ぼします。
ネット炎上の破壊力を軽く考えるべきではありません。従業員が投稿した不適切な記事や動画などが原因となって、企業が倒産や閉店に追い込まれるケースもありえます。
以上のように、従業員の不適切なSNS利用によって会社にさまざまな悪影響が及ぶ可能性があるので、企業がSNS対策を行うことは極めて重要です。
問題社員のトラブルから、
従業員によるSNS利用で企業が損害を被らないためには、以下のようなSNS対策を行いましょう。
まずは企業におけるSNS等の利用方法を定めた「ソーシャルメディアポリシー(SNS利用ガイドライン)」を作成しましょう。「企業の公式アカウント」だけではなく「従業員の個人アカウント」の利用方法についても言及する必要があります。
ポリシーには著作権や名誉権などの他者の権利を侵害しないこと、企業や取引先、顧客に関する情報を投稿しないこと、会社に関する真偽不明な情報は投稿しないことなどを盛り込みましょう。
各従業員に対し、ソーシャルメディアポリシーに従って適切にSNSアカウントを運用することを誓約する内容の誓約書を作成して会社宛てに提出してもらいます。
個人のLINEやYou Tube、Facebook、Twitter、Instagramやブログなどすべてが対象となることを念押ししましょう。
企業のSNS対策として、従業員に対しソーシャルリスクを周知するための教育研修を行うことが重要です。どういった行為が違法になるのか、何をしたらネットリスクが高まるのか、リスク管理のためにはどのようなことに注意すべきかなど、ネットになじみのない世代やSNSの影響力を軽く考えがちな若い世代の従業員などにも徹底して周知させましょう。
また、これまで実際に従業員による不適切動画などの投稿が炎上して企業が被害を被ったケースがあり、場合によっては従業員も損害賠償の負担を負ったり業務妨害罪で告訴されたりする可能性があることも告げ、強く注意喚起しましょう。
SNS対策として、従業員がSNSアカウントを運用する際の指針や違反したときの処分方法を就業規則に盛り込んでおくと効果的です。SNS利用の際の禁止事項、違反した場合の懲戒方法などを記載しておくと良いでしょう。
そして、ソーシャルメディアポリシー(SNS利用ガイドライン)を遵守すべきことも就業規則の中に書き込みましょう。たとえば懲戒処分の有効性などにおいて会社に有利に働きうることが期待できます。
SNS対策として、従業員によるSNS投稿内容を定期的にチェックすることも方法の1つです。ただ、会社がそのような監視をしても良いのかと心配になる方もいるでしょう。
しかし、この点について、従業員がインターネット上で公開している情報は、特段従業員の了承がなくとも監視でき、さらに、「友だち」などとして登録された者だけが閲覧できる情報であっても、会社が従業員の任意の了承を得てSNS上でつながるなら、これによって閲覧できる情報も監視対象に含めることができるとする見解があります(神奈川県弁護士会IT法研究会編『ネットトラブルの法律相談Q&A(第2版)』法学書院、34頁参照)。
関連するものとして、SNSではなく電子メールの監視に関する裁判例があります。
そこでは、「監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となる」(東京地判平成13年12月3日労判826号76頁)、調査の必要性と相当性いずれかを欠く場合に違法(東京地判平成14年2月26日労判825号50頁)などという判断が示されています。
簡単にいうならば、事案を個別具体的にみて、世間一般の感覚から不当だといえるほどなら違法ということになりそうです。
企業の業種として炎上による甚大な被害が生じえて、これを防ぐために、従業員に監視することを周知したうえで、完全に従業員の任意によってURLやアカウント名などを得たなら、従業員のSNS上の情報を監視しても問題ないということになりそうです。
ただ、この点の判断は個別の事案によりますから、安易に自己判断で行うことはせず、弁護士に相談して実施しましょう。
さて、では実際に監視をするということになったとして、その具体的方法についてですが、「SNS投稿監視サービス」を導入するという方法があります。
「SNS投稿監視サービス」を利用せずに、自社で従業員のSNSを定期的にチェックするという方法もあります。ただ、非常に手間がかかるでしょう。なにより、従業員としても、社長や他の従業員などから直接SNSを監視されるというのは、抵抗感が強くなり、完全に任意な協力を得ることがなおさら難しくなるでしょう。
そのため、外部の「SNS投稿監視サービス」を利用する方法があるということです。費用との兼ね合いもありますが、導入をご検討いただいても良いでしょう。
従業員を雇い入れる際のSNS対策として、企業のソーシャルメディアポリシーを伝え、雇用契約書にもSNSにおける情報発信についての規定や違反した場合の処分に関する規定を盛り込むようにしましょう。もちろん口頭でも説明を行い、従業員の意識向上に努めましょう。
企業がSNS対策としてリスクマネジメントをしていても、炎上などのトラブルが起こってしまう可能性をゼロにはできません。実際に問題が起こったときに備えて広報部がどのように対応するのか策定しておくべきです。
各対応の担当者を決めて企業の公式アカウントからの発表方法やマスコミへの対応方法などを定めておきましょう。
SNS対策として、不適切投稿などを行って問題を起こした社員に対する処分方法についても明確にしておくべきです。
たとえばソーシャルメディアガイドラインで処分の指針を明らかにし、就業規則で懲戒処分を定めるなどの対応が考えられます。
問題社員のトラブルから、
企業のSNS対策として、従業員による不適切投稿によって炎上したり機密情報が漏えいしたりした場合にどのような対応をすれば良いのかみてみましょう。
まずは問題となっている投稿を特定し、保存します。URLがわかる形でスクリーンショットを撮り、プリントアウトしましょう。投稿自体は早急に削除させる必要があるため、URLの保存だけでは足りません。また拡散される間に加工されることもあるので、オリジナルの投稿内容を特定しましょう。
次に、誰がそのような不適切投稿をしたのか調べる必要があります。
SNSアカウントが匿名で、どの従業員による投稿かを調べるのが困難な場合には、裁判所における仮処分や訴訟が必要なケースもあります。投稿者が特定されたら、どういった経緯で投稿を行ったのかなど、事情聴取をして調べます。
SNS対策では早急に問題の投稿を削除させることが重要です。投稿が残っている限り、拡散されて炎上するリスクが高まるからです。
また、問題の投稿が行われたアカウントにおいて、速やかに謝罪の投稿をさせましょう。
SNS対策で企業イメージの低下を防ぐには、企業としての態度を世間に示す必要があります。従業員への管理不十分で騒ぎを起こしてしまったことについての謝罪や今後の再発防止策を発表し、公式コメントをコーポレートサイトなどで公表すると良いでしょう。
問題を起こした従業員に対する処分も必要です。
まずは就業規則の懲戒規定にもとづいて処分を検討しましょう。懲戒規定の中に懲戒解雇も盛り込んでおけば、特に悪質である時など、場合によっては解雇することも考えられます。
会社が被った損害の賠償請求が可能な場合もありますし、悪質なケースでは業務妨害罪等による刑事告訴も検討します。
以上のSNS対策措置は、可能な限り「迅速に」行う必要があります。
ネット上では、いったん炎上するとものすごい速さで情報が拡散します。炎上して企業への評判が回復不可能な程度に落ちてしまってから対応しても、信用を取り戻すことは不可能です。
上記の(1)~(5)の過程をすべて「1週間以内」で終えられるくらいの構えでSNS対策に臨みましょう。
問題社員のトラブルから、
企業がSNS対策で危機管理を行う際、弁護士がサポートできることがたくさんあります。
以下ではSNS対策で弁護士にできることをご紹介します。
従業員によるSNS被害を防ぐには、ソーシャルメディアポリシーを策定し、従業員にネット上でのどのような行為が違法になるのかなど正確に理解してもらう必要があります。その上で起こりうるトラブルを予測してその発生を抑止しうるルールを考え、さらにそのルールを、きちんとルールとして機能するように記述する必要があります。
これらは、自社内では対応が難しいケースがあるでしょう。
そのようなとき、弁護士が代わってSNS対策に有効なガイドラインを作成します。
従業員に書かせる誓約書のひな形の作成も弁護士が行うことができます。
リスクを抑えるためにどのような内容にするのが最適かを考えた上で、わかりやすい内容に仕上げます。
SNS対策のために雇用契約書や就業規則の内容を改定する必要がある会社では、弁護士が法的な観点から適切な内容を検討し、必要事項を盛り込んで有効な契約書や就業規則を作成します。
もし会社において雇用契約書や就業規則を作成していないようであれば、速やかにこれらを作成した方が良いでしょう。
しかし、雇用契約書や就業規則をイチから作成することは容易ではありません。この場合にはなおさら弁護士がお役に立つことでしょう。
SNSへの投稿が匿名で行われたために投稿者がわからないケースが多々あります。
その場合、弁護士であれば仮処分や発信者情報開示請求訴訟などの手続をとって投稿者を特定していくことができます。
不適切投稿を行った従業員に対して懲戒可能か、またどういった懲戒処分を適用すべきか、弁護士であれば適切に判断可能です。
特に懲戒処分は、安易に行うと裁判所から無効との判断が下されるリスクがあります。懲戒の手続が不十分で無効となることもありえます。そして無効となった場合には、逆に従業員に対して損害賠償を払わなければならなくなることすら考えられます。
社内での検討だけで懲戒処分を下すのではなく、弁護士に相談の上、懲戒のための手続を慎重に行ってから処分を下すことが望ましいでしょう。
問題を起こした従業員に損害賠償請求を行うかどうか迷ったら、弁護士が状況を見て手続を取るべきかどうか判断します。代理人として請求手続を進めることも可能です。
従業員に対して業務妨害罪で刑事告訴を行うかどうか検討する際、弁護士が法的観点から助言をします。実際に告訴すると決めたら、弁護士が告訴状を作成し告訴の手続きを代行できます。
SNSで炎上すると、マスコミや株主への対応が必要になるケースもあります。
そのようなときには弁護士が記者会見や株主総会などに出席して発言を行うことが可能です。また広報部の担当者に弁護士が対応方法をアドバイスします。
問題社員のトラブルから、
最近では、SNSをビジネスに活用する企業も増えています。確かにSNSはポイントを押さえて上手に利用すれば、広告方法としても非常に効果的です。
しかしいったん間違った活用方法をされると、企業にとって大打撃となるおそれがあるツールです。従業員のSNS対策、適切な情報管理はこれからの企業が安全に運営するに際し必須となるでしょう。
まだ何の対策もできていない企業や今後SNS対策を強化したい企業の経営者さま、ご担当者さまがおられましたら、ぜひとも一度、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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