企業法務コラム

2019年07月22日
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労働時間の把握が義務化! 対応できていないとどのような罰則があるのか

労働時間の把握が義務化! 対応できていないとどのような罰則があるのか

近年政府が熱心に進めている「働き方改革」により「労働安全衛生法」が改正され、2019年4月から各企業には従業員の労働時間の把握が義務化されました。

現時点でまだ労働時間の把握をしていないなら、早急に適切な対処をする必要があります。

義務化に対応できていないとどのようなリスクが生じるのか、具体的にはどういった方法で労働時間を管理すれば良いのかなど、注意点を交えながら弁護士が解説していきます。

1、2019年4月から労働時間の把握が義務化

2019年4月1日から、働き方改革によって労働基準法や関連法が改正されました。
働き方改革関連法の1つとして「労働安全衛生法(労安衛法)」があります。この法律の改正により各企業や事業者に「従業員の労働時間の把握」が義務化されました。
このように労働時間把握が義務化された理由は、適切な勤怠管理、労務管理を行うことによって長時間労働や過重労働を防ぎ、従業員の適正な健康管理と安全な就業環境の提供を実現するためです。

実は、これまでも、厚生労働省のガイドラインによって使用者には従業員の労働時間を把握することが求められていました。 もっともこれはあくまで割増賃金を適正に支払うことを目的としていたため、労働基準法上の「管理監督者」や「裁量労働制」の適用労働者、「事業場外労働のみなし労働時間制」の適用労働者は、労働時間把握の対象外とされていました。

しかし、それでは対象外とされる労働者について、過度な長時間労働や休憩なしの連続労働などが行われ、健康や安全が守られていないのではないかと懸念されていました。
そこで、健康管理の観点から法改正を行い、「管理監督者」や「裁量労働制」の適用労働者も含め、「高度プロフェッショナル制度」の対象者以外のすべての労働者の労働時間の把握が義務化されたのです。

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2、把握が義務化された労働時間の考え方と適用範囲について

労働時間の把握が義務化されると、「どこからどこまでが労働時間か」が問題となります。
以下で把握が義務化された「労働時間」についての考え方と労安衛法の適用範囲をご説明します。

  1. (1)把握が義務化された労働時間とは?

    今回、使用者側に把握が義務化された「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令のもとに置かれている時間です。客観的に「労働者の行為が使用者から義務づけられたと評価できるかどうか」で判断されます。

    現実に与えられた業務をこなしている時間だけではなく、次のような時間も指揮命令下で義務的に行われる限り、労働時間に含まれます。

    • 業務開始時の交代引継ぎ、朝礼、体操等
    • 業務終了時の清掃時間
    • 指示があればすぐに対応しなければならない待機時間(手待ち時間)
    • 参加が義務づけられている研修、教育訓練の受講、会社側の指示により学習をしていた時間
    上記のような時間はすべて労働時間に含まれ、把握が義務化されました。

  2. (2)労働時間把握義務化の対象となる事業所と労働者

    労働時間把握義務化が適用される事業所は、労働時間に関する法律(労働基準法)が適用されるすべての事業所です。中小零細企業も適用対象です。
    労働時間把握義務化の対象となる労働者は、高度プロフェッショナル制度の対象者を除くすべての労働者で、たとえば次のような労働者がすべて含まれます。

    • パート、アルバイト
    • 裁量労働制の適用者
    • 短時間労働者
    • 派遣労働者
    • 管理監督者を含む管理職全般
    • 研究開発業務従事者
    • 事業場外労働のみなし労働時間制の適用者
    • 契約社員
    つまり、雇用形態、勤務時間、役職等にかかわらず、基本的にはすべての労働者についての労働時間の把握が義務化されたと考えても良い状況です。

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3、適正な労働時間の把握のために企業が行わなければならないこと

働き方改革関連法によって、企業には労働者の労働時間の把握が義務化されましたが、それを実現するために、企業としてはどのようなことをすれば良いのでしょうか?
以下ではその具体的な方法をご紹介します。

  1. (1)原則として客観的な記録による把握が必要

    従業員の労働時間の把握方法として、原則として、タイムカードやICカード、パソコンのログインログオフ時間、使用者による現認など、客観的な記録により労働時間を確認し、記録する必要があります。
    勤怠管理ソフトを導入するなどして、社内の勤怠管理システムを構築すると良いでしょう。

  2. (2)例外的に自己申告による把握が認められる場合

    労働者が業務に直行又は直帰する場合で社外から勤怠管理システムにアクセスできないなど、やむを得ず客観的な方法により労働時間を把握できない場合には、例外的に「自己申告」による労働時間の把握も認められます。

    この場合、次のような手順が必要です。

    ① 関係者に十分な説明を行う
    まずは自己申告制の対象となる労働者本人に対し、労働の実態を正しく記録して適正に自己申告するよう、十分に説明をしましょう。
    労働時間を管理する役職を設ける場合、その者にも労働時間の把握の重要性を伝え、適切に自己申告制を運用するよう要求しましょう。

    ② 自己申告によって把握した労働時間が現実の労働時間と合致しているか確認する
    次に、自己申告によって把握した労働時間が現実の労働時間と合っているか確認する必要があります。現実の労働時間が労働者の自己申告による労働時間と異なる場合などがありますので、必要に応じて実態調査を行い、状況を補正する必要があります

    ③ 自己申告の報告が適正に行われているか確認する
    自己申告した労働時間より長く社内にいる労働者がいることがわかったら、報告が適正に行われているかについて確認する必要があります。
    たとえば休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等として労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事している場合などは労働時間として扱わなければなりません。

    ④ 自己申告の労働時間に上限を設けてはならない
    自己申告制は、労働者から適正な申告がなされて初めて成り立つものですので、使用者は、労働者が自己申告できる労働時間に上限を設け上限を超える申告を認めないなどの運用をしてはなりません。

    ⑤ 社内通達や残業代に関する制度も再確認
    残業代を減らすための社内通達や残業代を定額払いとする制度などが、労働者による適切な労働時間の申告を阻害していないか確認する必要があります。
    もしも阻害している可能性があれば、改善措置をとります。

    ⑥ 法令違反の残業が行われていないか確認
    法定労働時間や36協定による規制が守られているかも確認しましょう。
    記録上は守られているように報告されていても、実際には法律の上限を超えて労働している場合などには、早急に是正する必要があります。

  3. (3)賃金台帳の適正な記入

    労働基準法108条及び労働基準法施行規則54条により、使用者は労働者の労働日数や労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数などを賃金台帳に適正に記入しなければならないとされています。
    これらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合、30万円以下の罰金刑が科されるおそれがあります(労働基準法120条1号)。

  4. (4)労働時間の記録に関する書類の保管期間

    使用者は労働者の出勤簿やタイムカードなどの労働時間に関する記録を、賃金台帳などと同様に3年間保存しなければなりません(労働基準法109条)。
    これに違反した場合も、30万円以下の罰金刑が科されるおそれがあります(労働基準法120条1号)。

  5. (5)労働時間等設定改善委員会等の活用

    会社は、必要に応じて「労働時間等設定改善委員会」などの組織を活用して、労働時間管理に関する問題点を発見したり解消のための措置をとったりすることを求められます。

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4、労働時間把握の義務化に違反した場合の問題点と相談先

もしも使用者が労働時間の把握義務化に違反して適正な措置をとらなかったら、どういった罰則やペナルティがあるのでしょうか?
以下で労働時間把握義務化に違反した場合の問題や、労働時間把握義務化について迷ったときの相談先をご紹介します。

  1. (1)労働時間を把握できていない場合の問題点

    まず、今回の改正法による労働時間把握の義務化に罰則は用意されていません。
    しかし、労働者の労働時間を適切に把握できていないと、労働時間の上限規制に違反して長時間労働をさせることになったり、年次有給休暇を適切に取得させなかったりするなどといった結果につながりやすくなります。
    その結果、刑事罰も適用される可能性がありますし、企業に対する社会的信用も低下します。

  2. (2)労働時間把握義務化についての相談先

    労働時間の把握義務化は始まったばかりで、その具体的な方法や企業に求められる対応がよくわからないことがあるでしょう。自社の現在の運用方法が正しいか、確認したい企業もあるはずです。

    その場合には、次のような機関で相談ができます。

    ① 労働基準監督署
    地域の労働基準監督署は、管轄内の企業に法律を守らせるための機関です。
    企業からすると「なるべくなら関わりたくないところ」というイメージもあるかもしれませんが、労働法令に関する運用方法がわかりにくい場合、きちんと教えてくれます。
    労働時間把握義務化についてわからないことがあったら、まずは労働基準監督署に相談してみると良いでしょう。

    ② 都道府県の労働局
    労基署と並ぶ厚生労働省の出先機関として、都道府県の労働局があります。
    ここでも労働者の権利を守るためのさまざまな施策が実施されており、企業側からも労働関係法令の遵守方法についての相談を受け付けています。
    わからないことがあったら労働局に相談をしてみるのも1つの方法です。

    ③ 弁護士
    労基署や労働局に相談するのは抵抗があるという場合、またこれらの機関に聞いても疑問が解消できなかった場合には、企業法務に詳しい弁護士に相談してみる方法が有効です。
    弁護士は法令について正しい知識を有しており、実務に即したアドバイスを行うことができます。トラブルが起こった場合、弁護士に代理人となってもらい、労働者や労基署との交渉や対応を任せることも可能です。

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5、まとめ

ベリーベスト法律事務所では、中小企業を始めとした各業種の事業所向けに積極的に法的支援を実施しています。顧問弁護士サービスについても数種類のプランを設けており、各企業の状況やニーズに合ったサービスを提供することができます。

労働時間の把握義務化をはじめとして、労務管理や法令遵守について疑問がある場合、法律関係の知識が必須です。まずはお気軽に当事務所までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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