企業法務コラム
留学目的や就労目的で日本に在留する外国人は急速に増加しています。 法務省の調査によりますと、平成30年末における在留外国人の数は273万1093人(前年末比6.6%増加)であり、過去最高を記録しています。そして、多くの在留外国人が日本で何らかの仕事をすることを希望しています。
しかし、アルバイトであっても外国人を採用するうえでは、日本人を採用する場合と異なる法的なルールがあるのです。この遵守を怠ると、アルバイトに応募してきた外国人だけではなく採用した事業主が罰せられる可能性があります。
そのような事態を防ぐために、本コラムでは外国人をアルバイトとして採用するときに事業主として注意しておくべき点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
人手不足が問題化している日本の現状も相まって、新たな労働力として外国人を採用する動きは、業態や雇用形態を問わず急速に広まっています。
これまで外国人を労働者として受け入れたことのない事業主の中には、たとえアルバイトのように短期間の採用であっても言葉の壁や文化の違いなどを考慮し、外国人を採用することについて躊躇してしまう人も多いのではないかと思います。
しかし、アルバイトに応募してきた外国人の在留資格や仕事で求められる能力などに特段の問題がないと判断できるのであれば、外国人を採用することについて過度な懸念を抱く必要はありません。
まずは、外国人労働者を雇用する際のメリット・デメリットを把握しましょう。
以下の点を理解した上で、外国人労働者の雇用を検討することが大切です。
日本でアルバイトを希望している外国人は生活資金稼得や技能取得などの目的がはっきりしており、モチベーションの高い人が数多くいます。
そのような外国人をアルバイトとして採用することは、労働力不足を補うだけでなくさまざまなメリットがあります。
たとえば、採用した外国人アルバイトが既存の従業員では話せない言語に通じていれば、事業としての対応範囲が広がります。事業が接客などのサービス業である場合、観光目的の訪日外国人が著しく増えている昨今、外国人観光客の集客増やサービス提供の円滑化が期待できます。
また、外国人労働者の積極的な受け入れを促進する政府や一部の公益財団法人による、各種の助成金制度を活用することも可能です。
日本人と外国人の間では、どうしても言葉や文化の違いがあります。
たとえば、外国人労働者が雇用契約書や就業規則を充分に理解できておらず、事業主との間で賃金トラブルがおきたり、上手くコミュニケーションが取れず、他の従業員、あるいは顧客との間でトラブルにつながってしまう可能性などが考えられます。
問題社員のトラブルから、
アルバイトや正規雇用を問わず、外国人を採用するときは事業主に当該外国人の在留資格(ビザ)を確認する必要があります。 採用前に事業主が在留資格を確認する目的は、外国人の「不法就労」を防ぐことにあります。
外国人の在留資格は、主に在留カードや就労資格証明書で確認します。
① 在留カードとは
在留カードとは、外国人の身分証明書のひとつで、住所・氏名・国籍・生年月日・現在の在留資格の種類・在留期間・在留カードの有効期限、就労制限の有無などが記載されており、入管法で日本に中長期間滞在するすべての外国人に所持が義務付けられています。
在留カードの表面に「在留資格」「在留期間」覧があるほか、在留カード裏面に「資格外活動許可」覧があるので、当該記載を確認することになります。
② 就労資格証明書とは
就労資格証明書とは、在留する外国人からの申請に基づき,その者が行うことができる収入を伴う事業を運営する活動または報酬を受ける活動(以下「就労活動」といいます。)を法務大臣が証明する文書です。
在留カードの「在留資格」覧を見るだけでは、具体的にどのような活動が認められているかについては直ちに判断がつかず,入管法の別表に記載されている各種の在留資格に対応する活動を参照しなければいけない場合もあります。
そこで,入管法は,雇用主等と外国人の双方の利便を図るため,外国人が希望する場合には,その者が行うことができる就労活動を具体的に示した就労資格証明書を交付することができることとし,雇用しようとする外国人がどのような就労活動を行うことができるのか容易に確認できるようにしました。
旅券(パスポート)についても、在留資格を確認することができますが、在留カードの発行を受けた時点からは、在留資格は在留カードで管理されることになり、旅券を見ても現在の在留資格は分からなくなる点に注意が必要です。
旅券を所持していない外国人の場合には、A4の用紙に在留資格のシールが貼られた「在留資格証明書」が交付されることもあります。)。
また、在留カードの交付対象者は、住民票の写しの交付を受けることができるところ、住民票にも在留資格や在留期限が記載されます。
① 入管法別表1に規定された在留資格の場合
入管法別表1に規定された在留資格(「投資・経営」「技術」「教育」等24種類)の場合は、当該資格において想定された就労活動しか行うことができないことに注意が必要です。
② 入管法別表2に規定された在留資格の場合
なお、入管法別表2に規定された在留資格(永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者の4種類。)の場合、在留中の活動内容について制限されることはないため、従事する業務内容に制限はありません。
もし在留資格を確認しておらず、かつ採用した外国人が不法就労者に該当していた場合、あるいは資格外活動への業務指示を行った場合、事業主は不法就労助長罪に問われ、出入国管理および難民認定法(以下、入管法)第73条の2第1項1号の規定により3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。
問題社員のトラブルから、
アルバイトとして採用している外国人の在留資格が「留学」である場合は、特に注意が必要です。
在留資格が留学の場合、たとえアルバイトであろうと原則として日本での就労はできません。
しかし、在留カードの裏面の資格外活動許可欄に「許可(風俗を除く)」と記載されていれば、出入国在留管理庁(旧:入国管理局)に就労活動が認められているため留学生であっても日本で就労すること、つまりアルバイトが可能です(前記(1)(2)のとおり、旅券よりも在留カードで確認する方が無難です。)。
ただし、資格外活動としてアルバイトが認められている留学生には、入管法施行規則第19条第5項により就労時間について以下の規定がなされています。
もし採用を予定している外国人がいわゆる「就学生」であれば、学校が長期休業期間中であっても1日4時間までに限定されています。 上記の規定は、採用した外国人がアルバイトを掛け持ちしているときでも通算して適用されます。
このほか、事業内容が風俗営業等の規制および業務の適正化等に関する法律(風営法)に定める風俗業に関連する仕事に該当する場合は、外国人留学生をアルバイトとして採用することはできません。
もし外国人留学生が風営法に定める風俗業でアルバイトをした場合、不法就労に該当します。
上記の規定に違反すると、入管法第73条の2の第1項の規定により3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。
問題社員のトラブルから、
外国人をアルバイトとして採用する場合において、日本語の問題は避けて通れません。
特にサービス業など接客が中心の業務にアルバイトを採用する場合は、採用後の業務に支障がないレベルの日本語力を有しているか、面接時にしっかりと確認してください。
また、採用した外国人ができるだけ言葉の壁にぶつからず業務を遂行できるように、日ごろコミュニケーションを取るときはもちろんのこと、業務マニュアルについても平易な日本語を用いるようにしておくとよいでしょう。
外国人を新規に採用、および採用した外国人が離職するとき、労働施策総合的推進法第28条の規定に基づき、事業主は、当該外国人の氏名・在留資格・在留期間等を明記した「外国人雇用状況届出書」を厚生労働大臣(ハローワーク)に届け出なければなりません。
これはアルバイト採用であっても同様です。
この届出を怠った事業主には、同法第40条の規定により30万円以下の罰金が科される可能性があります。
その他の外国人アルバイトを新規に採用する基本的な手続きは、日本人と同様です。
「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して雇用主が適切に対処するための指針」第4条4号でも明らかなとおり、外国人を雇用する事業者には、日本人を雇用するときと同条件で社会保険(健康保険、厚生年金保険)及び雇用保険への加入が義務付けられています。
社会保険については、アルバイト採用であっても、一般社員の労働時間または労働日数の4分の3以上であれば社会保険の加入義務が生じます(健康保険法3条9号、厚生年金法12条5号)。
雇用保険については、事業所規模にかかわらず、以下の場合には適用対象となります(雇用保険法6条)。
ただし、日本と社会保障協定を締結している国から来日している外国人については、日本と本国における社会保険料の二重払いを防止する観点から、厚生年金保険料の支払義務が免除される場合があります。
日本国内で就労している外国人には、日本人と同様に労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令の規定が適用されます。
つまり、賃金などの雇用条件については、同一の雇用条件であれば、国籍に関係なく同一の賃金としなければならないのです。もちろん、外国人アルバイトであるこということを理由とした不当な解雇もできません。
したがって、外国人アルバイトは日本人アルバイトと比べて安価な労働力であるという考え方は、法的に誤りです。
問題社員のトラブルから、
外国人アルバイトの採用に限らず、雇用契約書の作成は法的に必要とされているわけではありません。労働基準法第15条における「労働条件の明示義務」は、採用時に雇用通知書や労働条件通知書などを交付するだけで法的要件を満たすことはできます。
しかし、雇用契約書が使用者と労働者が雇用契約締結時に労働条件などについて合意したことを証する性質を持つことを考慮すると、後々のトラブルを防ぐ観点から作成しておいたほうがよいでしょう。
雇用契約書に記載すべき事項については、日本人に対してのものと同じもので問題ありません。ただし、外国人を採用する場合は口頭でも内容についてしっかりと説明し、文化や慣習上の違いによる誤解を生じさせないようにすることが重要です。
もちろん、言葉の違いによる誤解についても同様です。
コストはかかりますが、労働条件を説明するときには通訳を依頼したり、外国人アルバイトの母国語に翻訳した雇用契約書をあわせて交付しておくとよいかもしれません。
雇用契約書は、長期にわたって既存の同じものを使いまわしがちです。
しかし、同じアルバイトでも先述した外国人留学生を採用する場合は入管法で定められた労働時間が他の日本人アルバイトと異なります。
したがって、雇用契約書上、必ずしも日本人アルバイトと同じ条件の労働時間とすることはできません。
また、外国人をアルバイトとして採用するときはビザや在留資格などに変更が生じたときの事業者に対する報告義務などに関する条項についても雇用契約書に設けておくべきでしょう。
つまり、日本人と同じ雇用条件で採用するといっても、外国人アルバイトに対する雇用契約書は、日本人アルバイトと異なり、事業者として入管法など各種法律の規制に対応できるような内容に見直しておく配慮が必要なのです。
これは事業者のリーガルリスクを軽減する観点から、とても重要なことなのです。
新たに外国人アルバイトを採用するときに既存の雇用契約書を見直すときは、弁護士に依頼することがおすすめです。
外国人の雇用に関する各種法令や制度に知見をもつ弁護士であれば、適法な内容の雇用契約書を作成することはもちろんのこと、外国人にも理解しやすい平易な日本語で作成することが可能です。また、雇用契約書の外国語訳について対応可能な事務所もあります。
適法な雇用契約書を作成するという観点であれば、日本人向けのものも含め弁護士に見直しを依頼することをおすすめします。
問題社員のトラブルから、
日本において深刻な人出不足はすでに顕在化しており、その影響を肌身に感じている経営者の方は多いと思います。そして少子高齢化に進展に伴い、日本では今後ますます労働力不足が深刻化することが見込まれています。
多くの経営者にとって、新たな人材の採用が経営の最重要課題とならざるを得ない日はそう遠くないのかもしれません。そのときは、外国人の採用は当たり前の時代になっているでしょう。
そのような中で、アルバイト・正社員を問わず外国人を採用するときは、まず弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、採用時の雇用契約書のチェックに限らず採用後の予期しないトラブルについても対応可能です。
幅広い法律問題を取り扱うベリーベスト法律事務所では、外国人の採用についてのご相談も承っています。ぜひお気軽に、ご連絡ください。
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