企業法務コラム
近年は、企業の規模や業界に関係なく、就活生にインターンシップの機会を提供する企業は珍しくなくなってきました。学生の間でも、インターンシップは就活の重要なプロセスとして定着しつつあるようです。
また、今後の労働力人口の減少が確実視されるなか、採用にむけて優秀かつ企業の仕事内容に適性のある学生の囲い込みや入社後のミスマッチを防ぐ観点から、新たにインターンシップ制度を導入しようと考えている企業も多いでしょう。
しかし、インターンシップを実施する際は労働関連法令に抵触しないよう、注意が必要です。そこで本コラムでは、インターンシップを導入する際に企業が注意しておくべきポイントについて、主に労働関連法規の関連を中心にベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
インターンという言葉は、いろいろな意味に使われています。
なお、インターンもインターンシップも、いずれも法律に書かれている言葉ではありません。
広辞苑によりますと、インターンとは、「医師・利用師・美容師などの志望者が修学後免許を得るための要件として職場で行う実習また実習生」のことをいうようです。
もっとも、筆者の経験によりますと、近年は、免許や資格の習得を目的とする者に限られず、もっと広く、企業や官公庁等で就業体験をすることや就業体験をする人も広くインターンと呼んでいるようです。
インターンによく似た言葉として、「インターンシップ」という言葉があります。
学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うことを、「インターンシップ」と呼んでいるようです。
このインターンシップを略して「インターン」と呼ぶこともあり、「インターン」と「インターンシップ」ははっきり区別して使われているわけではありません。
本コラムでは、便宜上、インターンの制度を「インターンシップ」、インターンをする人のことを「インターン生」と呼ぶことにします。
アルバイトも、実は、法律上の言葉ではありません。
法律上は、「1週間の所定労働時間が、同一の事業所に雇用される通常の労働者の所定労働時間と比べて短い労働者」を「短時間労働者」と呼んでおり(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第2条)、「アルバイト」と呼ばれる人は、だいたいこの「短時間労働者」にあたることが多いようです。
法律上も明らかなように、アルバイトは企業と雇用関係のある「労働者」であることがほとんどです。そして、「労働者」を使うにあたっては、使用者は、労働基準法等に代表される労働関係法令の決まりを守らなければなりません。
問題社員のトラブルから、
それでは、労働を体験するインターン生は「労働者」にあたるのでしょうか。
結論を先に言ってしまいますと、ケースバイケースになります。
労働基準法上の「労働者」とは、「事業または事業所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています(労働基準法第9条)。
労働者にあたるかどうかにあたっては、
が重要なポイントになります。
なお、労働契約法上、「労働者」とは、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」(同法第2条第1項)と規定されており、若干表現は異なるものの、①使用性と②賃金性によって労働者かどうかを判断のポイントとする点では、労働基準法上の「労働者」と同じです。
もっとも、「労働者」にあたるかどうかの判断にあたっては、その他の事情も補助的に考慮されます。
インターン生が労働基準法又は労働契約法上の「労働者」にあたるかどうかについては、具体的なケースにおいて、先述した①「使用」性と②「賃金」性を重視して判断することになります。
行政通達(平成9・9・18基発636号)に、「一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられる」というものがあり、参考になります。
民法上は、雇用契約を締結すると、給与を支払わなければならないと考えられています(民法第623条)。そして、雇用契約は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約束し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約束することによって成立します。
したがって、雇用契約がなければ報酬を支払わなくてよいのですが、雇用契約があるかどうかは個別事情を考慮して判断されますので、事情によっては意図せず雇用契約の成立が認められることもあり得ます。
雇用契約が成立するかどうかは、先述した「労働者」に該当するかどうかと概ね同じ判断要素で判断することができます。
企業側がインターン生に対して一定の金員を払うケースもありますが、そのような場合には雇用契約が成立する可能性があります。
なお、雇用契約が成立せず、「労働者」にあたらない場合であっても、「特別の社会的接触関係」にあると、安全配慮義務という義務が生じうるといわれています。
そのため、インターン生が、その生命身体の安全を確保しつつインターンシップに従事できるよう、必要な配慮をすることが必要です。
たとえ名目がインターンシップであったとしても、実体からインターン生が労働者にあたると認定された場合は、労働基準法が適用され、さらに最低賃金法も適用されます。
この場合、インターンシップ契約で最低賃金以下の報酬額を定めていたとしても、最低賃金法第4条の規定により無効になります。その期間について、企業はインターン生に対し、少なくとも同法で定める最低賃金を支払わなければなりません。
これに違反すると、同法第40条の規定により、企業に対して50万円の罰金が科せられる可能性があります。
なお、最低賃金額は都道府県ごとに異なる上、改定されることが多いため、注意が必要です。
また、雇用契約であると認められた場合、雇用保険法の適用があります。
そのため、報酬や給与のほかに注意しなければいけないのが、雇用保険の加入です。
通常、週所定労働時間が20時間未満の者、同一事業主での雇用見込みが30日以内の者、学生であって厚生労働省令で定める者等については、雇用保険制度の適用はありません(雇用保険法第6条1号、2号、4号等)。
そのため、下記に該当する場合、雇用保険に加入する必要が生じ得ます。
インターン生が学生であっても、その学生が休学中の場合や夜間学部生である場合は、学生が本業とはいえない可能性があります。
もっとも、上記以外にも雇用保険に加入しなければならない場合がありますので、専門家に相談したほうが安心です。
雇用契約ではない場合、法律でインターンシップ契約を書面で取り交わすことは義務付けられていません。
また、インターンシップ契約時に取り交わす書面(契約書)に明記すべき事項が、法的に規定されているわけでもありません。
しかし、インターンシップが開始したあとのトラブルを避けるためにも、インターンシップ契約の内容は書面に明記するべきです。
契約書には、以下の事項を明記しておくと良いでしょう。
なお、最近ではインターンシップ中に生じた事故や損害を補償対象とする「インターンシップ保険」が発売されています。
インターンの過失によって企業に損害が生じる事故などが生じたときに、企業が適正な損害賠償額の支払いを受けることができます。
学生が所属している学校に、インターンシップ保険加入の有無を確認しておくのが良いでしょう。また、契約書においてインターンシップ保険加入を義務付けておくことも一案です。
インターンシップ契約を締結するほかに、インターン生となる学生からも誓約書を取得しておくのが望ましいでしょう。
学生から取得する誓約書には、以下のような内容を盛り込んでおくと安心です。
誓約書を取得しておくことで、後日トラブルが発生したときの有力な証拠となり得ます。また、心理的な義務感を与える効果も期待できるでしょう。
そのほか、インターンシップ中の処遇に関して記載した確認書も交わしておくこともおすすめします。
インターンシップの期間や交通費といった手当て、確認事項などを記載しておくことで、学生側との意識合わせもできスムーズにインターンシップをスタートできるでしょう。
インターンシップの参加者が労働者と認められる場合は、インターンシップの参加者との契約は雇用契約となります。
その際の労働条件は、通常の雇用と同じ労働関連法令が適用される点に注意が必要です。
労働契約を締結する際、賃金・労働時間その他の労働条件を労働者に明示する必要があります(労働基準法第15条1項)。
そして、これらのうちの一部は、契約書に記載しなければなりませんから(労働基準法施行規則第5条)、それらについては、確実に記載することが必要です。
問題社員のトラブルから、
インターンシップと称していても、その内容次第では参加者との間に雇用契約が生じていると認定されます。適正な賃金の支払いなどがなされていなかった場合は、企業に労働関連法令違反が問われる可能性があるでしょう。
したがって、企業の人事部としてはインターンシップを導入する際に、その内容や条件が労働に該当するものではないことを、法的にチェックしておくことが必要です。
なお、法的なチェックや契約書の作成に関しては、弁護士に依頼することをおすすめします。導入するインターンシップの内容について、法的な側面から適切なアドバイスが期待できます。また、万が一インターンシップにおいてトラブルが発生したとしても、企業の代理人としての役割を依頼できるので安心です。
インターンシップの導入を検討されている場合は、労働関連について豊富な知見と実績をもつベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご依頼ください。
スムーズにインターンシップ制度がスタートできるよう尽力します。
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