企業法務コラム
2019年4月から外国人労働者の新しい在留資格として「特定技能1号および2号」が創設されたように、政府が推進する外国人労働者の受け入れはますます拡大しています。
その一方で、外国人労働者と雇用先の企業とのトラブルは後を絶たず、この対応に頭を悩ませている企業は多いようです。
そこで本コラムでは、外国人労働者との間でトラブルが発生したときの解決方法とトラブルを未然に防ぐために企業がとるべき対策について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
外国人労働者との間で発生しやすいトラブルは、以下のようなケースです。
たとえ外国人であろうと、日本国内で就労している以上、労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令の規定は日本人の労働者と同様に適用されます。
つまり、企業には外国人労働者に対して、日本人労働者に対するものと同等の労務管理が義務付けられているのです。
したがって、賃金の未払いや最低賃金法に定められた賃金を下回る処遇は法令違反です。
厚生労働省による「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」においても、外国人であることを理由に労働条件について日本人労働者と異なる不当な差別を設けることを禁止しています。
採用・研修などの雇用管理や社会保険の加入、安全衛生管理、離職時の再就職支援などについても同様です。
① 外国人雇用状況届出書について
また、外国人労働者の新規採用および離職時には、当該外国人の氏名・在留資格・在留期間を明記した「外国人雇用状況届出書」を厚生労働大臣(ハローワーク)に届け出る義務があり(労働施策総合推進法第28条1項)、かかる届け出があった際に、国が雇用管理の改善の促進または再就職の促進に努めることになっています(労働施策総合推進法第28条2項)。
② 社会保険の加入を怠った企業への罰則
そして、社会保険の加入を怠った企業には、6月以下の懲役または50万円以下の罰金が(健康保険法第48条、第208条)、「外国人雇用状況届出書」を厚生労働大臣(ハローワーク)に届け出る義務を怠った場合には、30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働施策総合推進法第28条1項、第40条1項2号)。
日本国内における外国人の不法就労を防ぐために、外国人労働者を雇用する企業には、採用時に旅券(パスポート)や在留カード(身分証明書のひとつで、出入国管理及び難民認定法の規定により日本に中長期間滞在するすべての外国人に所持が義務付けられているもの)により、当該外国人労働者の在留資格を確認することが義務付けられています。
これを怠り不法就労の外国人を雇用した企業には不法就労助長罪が適用され、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります(出入国管理及び難民認定法第73条の2)。
日本人労働者と同様に、外国人を雇用する際は企業に業務の内容・賃金・労働時間・就業する場所・労働契約の期間など主要な労働条件を明示した「労働条件通知書」や「雇用通知書」などの書面を交付することが義務付けられています。
この労働条件の明示義務に違反した企業は、30万円以下の罰金が科される可能性があります(労働基準法第120条1号)。
しかし、外国人労働者に限った話ではありませんが、企業が労働者に対して労働条件についてしっかりと説明したつもりでも、「当初想定していた仕事内容と違う」「仕事内容がハードすぎる」などの理由から、ある日突然仕事に来なくなる外国人労働者は多いようです。
問題社員のトラブルから、
外国人労働者の受け入れ拡大は、政府が掲げる「働き方改革実行計画」の主要テーマのひとつです。
外国人労働者の受け入れ拡大のために、外国人労働者の雇用に関する関係各法令や制度は頻繁に改正が行われており、年々複雑化しています。
複雑な法制度に対する企業の不十分な理解や対応不足が、外国人労働者の雇用に関するトラブルの原因となった事例は多いです。
職場内における従業員同士のコミュニケーションが重要であることは、言うまでもないでしょう。それは日本人労働者であろうと外国人労働者であろうと変わりません。
文化や言語が異なる人々の間で行われる情報のやり取りは、「異文化コミュニケーション」と呼ばれます。
異文化コミュニケーションは、主に言葉による「言語的コミュニケーション」と、ジェスチャーやマナーなど言葉以外の方法による「非言語的コミュニケーション」に大別されます。
いずれの方法も、情報の送り手の意図を正確に伝えることもあれば、逆に送り手と受け手の間に大きな齟齬(そご)を生じさせる原因にもなります。
また、送り手が全く意図していなかったメッセージとして受け手に伝わってしまうこともあります。このようなことが積み重なると、トラブルを回避するために職場内で日本人と外国人労働者との間でコミュニケーションそのものが希薄化してしまうという悪循環に陥ることもあります。
上記の言語や文化の違いは、採用時における労働条件の企業の説明と外国人労働者の理解にも影響を及ぼす場合があります。
たとえ日本人労働者に対するものであっても、労働条件などの説明が不十分では採用後のミスマッチやそれに起因するトラブルは起こり得るものです。
特に外国人の場合は日本人労働者と異なり言葉の壁や文化の違いが存在するため、労働条件などについて企業側がしっかりと説明したつもりでも実は真意が伝わっていなかったということが往々にしてあります。
カルチャーとして残業は当たり前となっている企業の場合、残業を暗黙のうちに外国人労働者にも求めがちです。しかし、残業という考え方がない労働文化の国から来ている外国人労働者の場合、日本特有の残業文化を受け入れることは難しいです。
実際に、残業が常態化している職場の現状をめぐって外国人労働者が労働争議を起こしている事案もあります。
アルバイトなどで外国人留学生を雇用する場合、ビザやパスポート、在留カードで在留期限を確認するだけでは不十分です。
なぜならば、在留資格が留学である外国人は、入国管理局に就労の許可を得ていることが必要だからです。
在留カードの資格外活動許可欄に「許可(風俗を除く)」と記載されていない外国人留学生を採用すると、過失の有無に関係なく不法就労助長罪に問われる可能性があります。
厚生労働省や総務省のデータによりますと、平成29年の外国人労働者の労働災害による死傷件数は2494件・外国人労働者総数に対する発生率は0.2%でした。
同時期の日本全体では2万6674件・全就業者数約6664万人に対する発生率は0.18%ですから、日本人労働者よりも外国人労働者の方が相対的に危険かつ過酷な労働環境で働いていると推察することができます。
そのような労働環境にもかかわらず、決して高いとはいえない賃金しか支払われていない現状について、外国人技能実習生を中心に企業側へ改善を求める声が年々高まっています。
問題社員のトラブルから、
外国人労働者と締結する雇用契約書や外国人労働者に適用する就業規則は、基本的に日本人労働者に対するものと同一で問題ありません。
しかし、雇用契約や就業規則の内容を外国人労働者にしっかりと理解してもらうためには、できるだけ平易な日本語で記載しておくことや外国人労働者の母国語に翻訳したものを準備しておくとよいでしょう。
また、雇用契約を締結する際は、重要な事項の説明について通訳を介しておくとよいでしょう。
このような配慮をすることにより、後日の「言った・聞いていない」などのようなトラブルを防ぐことが期待できます。
先述の通り、外国人労働者にも基本的に日本人労働者と同じ労働関連法令が適用されます。
一方で、外国人労働者を雇用する企業には、追加的に日本人労働者の雇用と異なる法的なルールの遵守が義務付けられています。
たとえば、先述した採用時の在留資格と就労許可の確認義務もそのひとつです。
① 外国人労働者の新規採用および離職時の注意点
そのほか、労働施策総合推進法第28条の規定により、外国人労働者の新規採用および離職時には、当該外国人の氏名・在留資格・在留期間を明記した「外国人雇用状況届出書」を厚生労働大臣(ハローワーク)に届け出る義務があります。
② 外国人技能実習生の場合の注意点
また、採用する外国人労働者が外国人技能実習制度による「外国人技能実習生」の場合、企業は外国人技能実習生を受け入れる体制を整備したうえで、外国人技能実習生のための「技能実習計画」を作成し、厚生労働省と法務省が管轄する「外国人技能実習機構」の認可を受けなければなりません。
このように、外国人労働者に関連する法制度は思いのほか複雑です。必要に応じて弁護士のような専門家の助言を得るとよいでしょう。
外国人労働者とのトラブルを回避するためには、外国人労働者が働きやすい職場環境を整えておくことも重要です。
たとえば、困ったときに誰にでも相談しやすい風通しの良い職場環境にすることはもちろんのこと、業務マニュアルなども外国人がわかりやすいように工夫したり日本語習得の支援なども行うとよいでしょう。
これにより、採用した外国人労働者が早期に企業の戦力となり、企業の利益に貢献する好循環が期待できます。
また、企業として外国人労働者の文化や価値観を共有したうえで、それを尊重するような勤務制度を作ることも重要です。
たとえば、仕事よりも家庭生活を尊重する文化の国から来ている外国人には、仕事と家庭の両立ができるようにフレックスタイム制を認めることも一案でしょう。
問題社員のトラブルから、
トラブルが起きてしまったら、まずは外国人労働者の主張をよく聞いてください。
もし、日本の労働関連法令や慣行、または就業規則に照らして、外国人労働者の主張が不当であると考えられる場合は、会社側からその旨をしっかりと主張し、記録を残してください。
また、勤怠記録など企業が保有している資料の開示を求められた場合は、不必要な開示を避けるためにも、弁護士等の専門家に相談の上、必要な範囲で開示に応じるようにしてください。
重要なポイントは、労働審判や裁判などに移行したときのために外国人労働者との交渉について「企業として誠実に対応した」という事実を残しておくことなのです。
労働審判とは、企業と労働者間のトラブルについて裁判官である労働審判官のほかに労使の専門家である労働審判員2名が審理と評議に加わり、基本的には調停の成立による解決を試みるという法的手続きです。外国人労働者であっても申し立てることができます。
このように、労働審判は企業と労働者による話し合いを基本とするため、話し合いがまとまれば調停成立により解決を図ることができますが、話し合いがまとまらない場合は労働審判官と労働審判員による評議がなされ、必要な審判が下されます。
審判の結果について、企業と労働者のいずれからも不服が申立てられなければ、裁判上の和解と同一の効力を生じます。しかし、審判の結果に企業と労働者のいずれかが不服を申し立てれば審判の内容は失効となり、訴訟に移行します。
労働審判でもトラブルが解決できない場合には訴訟に移行しますし、労働審判を経ることなく、労働者側から訴訟を提起される場合もあります。
訴訟は事案が公表され企業名も開示されるため、企業にとってはマスコミ報道、風評等による企業価値の低下、すなわちレピュテーショナルリスクを負うことになります。
この事態を避けたい場合は、訴訟に至る前に弁護士などの専門家に依頼し、交渉や労働審判の段階でトラブルの早期解決を目指すしかありません。
問題社員のトラブルから、
外国人労働者との間にトラブルが起きたときは、まず弁護士に相談することをおすすめします。
トラブルの相手方である労働者との交渉や裁判などの対応に実績が豊富にある弁護士であれば、各種の法的なアドバイスはもちろんのこと、トラブルの早期解決のため代理人としての役割が期待できます。
また、トラブルを防止するための雇用契約書や就業規則などを作成するにあたってのアドバイスや、さらには翻訳も依頼することも可能です。
問題社員のトラブルから、
外国人労働者とのトラブルを100%回避する方法はありません。
しかし、外国人労働者に関連するトラブルには何が考えられるのか、そのトラブルを防ぐためにはどのような手だてがあるということを知っておくことで、トラブルが発生する可能性を低く抑えることができます。
実際にトラブルが起きてしまった時の対応はもちろんのこと、外国人労働者とのトラブルを未然に防ぐ対策を講じるときも、弁護士は御社の心強いパートナーとなります。
ベリーベスト法律事務所ではワンストップで対応可能な顧問弁護士サービスを提供しており、外国人労働者とのトラブルについてもご相談を受けることが可能です。
外国人労働者とのトラブルでお困りのときは、ぜひベリーベスト法律事務所までご相談ください。トラブル解決のために、ベストを尽くします。
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