企業法務コラム
契約社員やパートなど非正規雇用が増える中、正社員と非正規社員の中間に位置するものとして、「限定正社員」というものがあります。多様な働き方を認めると共に、人手不足が深刻化する中、離職を防ぎ会社に定着してもらうという意図があります。
このような社会情勢から中小企業でも限定正社員を導入しようというところも増えています。ただ、導入するにあたりどのような手続きが必要なのかわからないという声も聞かれます。
そこで、本コラムでは、限定正社員制度を導入する場合、会社はどのような点に注意しなければならないか、また、限定正社員制度を導入する場合のメリット、デメリットなどについて解説していきます。
限定正社員とは、文字通り限定された正社員ということです。
限定される内容は、主に以下の3つです。
法律上の定めがあるわけではないので、これ以外でも限定することは可能です。
そもそも、「正社員」、「非正規社員」という区分も法律上はなく、会社が勝手に区別しているだけのことです。ちなみに厚生労働省ではこれら限定された正社員のことを「多様な正社員」と呼称しています。
勤務地限定正社員とは、全国に事業者があるような会社において、通常の正社員が全国転勤をするものである場合に、勤務地だけを限定する正社員をいいます。
勤務地を限定する場合でも、たとえば東北6県に限定するような「地域限定型」や採用時の居住地から通勤可能な事業場に限定する「地区限定型」、渋谷支店に限定するというように事業所を限定する「事業場限定型」があります。
職務限定正社員とは、通常の正社員がいわゆる「総合職」として職種・職務に限定なく働くものである場合に、職種・職務を限定する正社員をいいます。
たとえば、仕事内容を営業職に限定する場合やシステム開発に限定する場合などが典型例です。範囲をもう少し広げて、事務職に限定するという場合もあります。
勤務時間限定正社員とは、通常の正社員の勤務時間に比べ少ない勤務時間とする正社員です。
たとえば、正規の勤務時間が9:00から18:00の会社において、勤務時間を9:00から16:00に限定するなどです。
また、勤務時間は同じでも、時間外労働や休日労働を免除する限定という場合もあります。その他、シフト勤務などで、勤務時間帯(深夜勤務を除くなど)や勤務曜日を限定する方法もあります。
問題社員のトラブルから、
限定正社員制度を導入することで優秀な人材の確保や定着を図ることができます。
専門的な知識やスキルを持つ人材は、自分の知識やスキルを会社で生かしたいと考えています。
① 労働者の不安を解消できる
しかし、総合職として会社に入社すると営業に回されるかもしれないし、管理部門に回されるかもしれません。このような人事上の制約から、優秀な人材が入社をしてこない可能性があります。
また、仮に優秀な人材が入社したとしても、別の部署への異動により、自分には合わないとして会社を辞めてしまう人もいます。
このような場合、職務限定正社員とすることで、入社する人の不安を解消することができ、また、すでに働いている人は安心して職務に集中できるようになるため、定着率も上昇すると言われています。
② 出産後、会社に復帰しやすくなる
優秀な女性社員が出産のため、退職するというケースもありますが、労働時間を限定した正社員とすれば、辞めることなく出産後は会社に復帰してくれるということも可能になります。
少子高齢化によって人手不足が顕著となっていますが、人それぞれ事情は違うので、会社の枠にはめるという考えではなく、労働者の事情に合わせて会社が柔軟に対応することで多様な人材を活用できるようになります。
具体的には、勤務地や時間を限定すれば、残業がないため家庭と両立することが可能となり、子育てをしている人や家族の介護を行っている人でも働いてもらえるようになります。
日本はゼネラリストの養成が目的であり、ジョブローテーションによりいろいろな部署を経験することに主眼が置かれてきました。
しかし、ゼネラリストでは高度化する社会には対応できなくなっており、スペシャリストの養成が急務となっています。限定正社員によって地域や職種を限定することで、専門性を高めることが可能になり、技能の蓄積や継承もできるようになります。
学生の中には地元で就職したいという人もいますし、家庭の事情から地元を離れられないという人もいます。そのような人材を地域限定の社員として採用すれば、人材確保につながり、地元に根付いた活動も行うことができます。
どの地域にも特色があり、地元の人でなければわからないこともあります。
地元の人を採用して長くその地で働くことで責任感をもって取り組むことが期待できます。
問題社員のトラブルから、
限定正社員制度を導入する場合、それに合わせて就業規則も変更しなければなりません。
具体的には、限定正社員の定義やその限定の内容を就業規則に明記する必要があります。
その上で、個別の労働契約書に具体的な限定の内容を明示します。
就業規則に定める具体例は以下のとおりです。
① 勤務地を限定する場合の例
勤務地をある事業所に限定する場合には、
などと記載します。
勤務地を通勤可能な範囲に限定する場合には、
などと記載します。
② 職務限定正社員の場合
職務を限定する場合、
などと記載します。
③ 勤務時間限定正社員の場合
勤務時間を限定する場合は、
などと記載します。
複数の雇用形態があると、正社員が処遇の違いに不満を持つ場合があります。
正社員の残業が多い中、勤務時間限定正社員が早い時間に退社すると不平等を感じるものです。
このような問題を生じさせないようにするため、限定正社員の給与水準や昇進の速度など、正社員から見て納得が得られるものにする必要があります。
ただ、極端に限定正社員の待遇が悪いと、今度は、限定正社員のモチベーションが下がるので、限定正社員も納得する水準にしなければなりません。
複数の雇用形態の労働者が混在している場合、雇用形態ごとに勤務管理をしなければなりません。遅刻早退の管理も労働者ごとに異なるようになるため、勤怠管理を行う職員の負担が増えることになります。
勤怠管理をシステムで対応している場合には、システムの改修が必要になります。
また、勤務地限定正社員がいる場合、人事ローテ―ションについても自由度が制限されるようになるので、早い時点から検討を行う必要があります。
雇用時については、限定正社員の場合、正社員よりも給与が低くなることと、勤務場所を限定した場合、その場所がなくなる可能性があることを伝える必要があります。
問題社員のトラブルから、
限定正社員は、正社員よりも解雇しやすいと誤解している方もいますが、限定正社員は限定された内容以外は正社員と同じであるため、労働契約法上、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者を辞めさせることはできません(労働契約法16条)。
事業所閉鎖や職務の廃止があった場合、限定正社員の扱いはどうなるのでしょうか。
事業所閉鎖や職務の廃止があった場合でも直ちに解雇というわけではありませんが、他の事務所への配置転換に応じられない場合や、職務の変更に全く応じられない場合には解雇ということもあり得ます。
その場合、整理解雇法理またはこれに準拠した枠組みで判断することになります。
一般的に、整理解雇が認められるためには4要件が必要とされています。
① 人員削減の必要性
整理解雇は、経営不振などにより人員を削減する必要性が生じたということですが、そのためには、人員削減以外の経費削減の努力をした上で、それでもなお人員削減が必要であるということが説明できる必要があります。
② 解雇回避努力
解雇を行う前に、配置転換、出向、希望退職の募集など他の手段を行ったかが必要です。
これらの手段によって対処が可能であるのに、解雇したような場合には、解雇権濫用として無効と判断される可能性があります。
③ 人員選定の合理性
解雇すべき人員の選定に合理性があることが必要になります。限定正社員というだけで、無条件に解雇とされるような場合には合理性は認められないでしょう。
整理解雇の対象は通常の正社員も含めて客観的で合理的な基準に基づいて、選定されることが必要です。
④ 手続きの相当性
使用者は、整理解雇を行う場合、労働組合や労働者に対して整理解雇の必要性やその具体的内容について十分な説明をする必要があります。
説明も行わずにいきなり解雇するようなことは認められません。
問題社員のトラブルから、
今回は、限定正社員制度を導入する場合の注意点について解説してきました。
人手不足が深刻化していますので、既存の社員については辞めないよう配慮が必要になりますし、新規採用においても、柔軟な働き方ができることを会社としてアピールすることが求められます。
限定正社員制度の導入は、雇用を確保する上で、会社にとってもメリットがある制度であり、労働者にとっても、多様な働き方ができるという点でメリットがある制度です。
人材確保や人材流出で困っているという場合には、検討してみるとよいでしょう。
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