企業法務コラム
令和元年4月より、使用者は労働者に対して、年5日以上の有給休暇を取得させることが義務化されました。
有給休暇の取得に関する使用者の義務を果たすにあたっては、「計画年休(年次有給休暇の計画的付与制度)」の導入を検討することをおすすめします。計画年休を導入することで、従業員に有給休暇をスムーズに取得させることができるようになるでしょう。
本コラムでは、計画年休の概要や手続き、メリットやデメリットについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
計画年休の制度は、令和元年4月より使用者に課されている、労働者に年次有給休暇を取得させる義務を果たすことに利用できます。
まずは、年次有給休暇に関する使用者側の義務について、労働基準法上の基本的なルールを解説します。
「年次有給休暇」とは、労働基準法に基づいて労働者に付与される、有給の休暇を意味します。
使用者には、基準期間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対し、その継続勤務期間に応じた日数の年次有給休暇を与えることが義務付けられています(労働基準法第39条第1項、第2項)。
所定労働日数が週4日以下(週以外の期間によって所定労働日数が定められている場合は、年216日以下)の労働者についても、所定労働日数と継続勤務期間に応じて、一定の日数の年次有給休暇が付与されます(同条第3項、労働基準法施行規則第24条の3)。
なお、労働契約に基づき、年次有給休暇の日数を超えて有給の休暇が与えられる場合もあります。
この場合の休暇は、会社独自の制度によって与えられるものであり(特別休暇など)、労働基準法上の年次有給休暇とは異なる点に注意してください。
令和元年4月1日より、いわゆる「働き方改革関連法」が施行されました。
その一環として、年間10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、時季を定めて1年に5日以上の年次有給休暇を与えることが、使用者に義務付けられたのです(労働基準法第39条第7項)。この義務に違反した場合、30万円以下の罰金に処するものとされています(労働基準法第120条1号)。
仕事が忙しすぎて年次有給休暇を取得しにくい労働者が多い状況を考慮したうえで、使用者主導で年次有給休暇を取得させることにより労働者の心身のリフレッシュを図るための施策となります。
使用者は、年間10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日以上年次有給休暇を取得させることを義務付けられています(労働基準法第39条第7項)。
以下の要件をいずれも満たす労働者は、すべて、年次有給休暇の取得義務の対象となるのです。
年次有給休暇の日数(原則)
継続勤務期間 | 年次有給休暇の日数 |
---|---|
6か月以上1年6か月未満 | 10日以上 |
1年6か月以上2年6か月未満 | 11日以上 |
2年6か月以上3年6か月未満 | 12日以上 |
3年6か月以上4年6か月未満 | 14日以上 |
4年6か月以上5年6か月未満 | 16日以上 |
5年6か月以上6年6か月未満 | 18日以上 |
6年6か月以上 | 20日以上 |
パートタイムで働く労働者などについても、所定労働日数と継続勤務期間に応じて、下表の日数の年次有給休暇が付与されます(同条第3項、労働基準法施行規則第24条の3)。
下表に従い、年10日以上の有給休暇が付与される場合は、年次有給休暇の取得義務の対象となるのです。
年次有給休暇の日数(パートタイム等)
週所定労働時間 | 4日 | 3日 | 2日 | 1日 | |
年所定労働時間 | 169日以上 216日以下 | 121日以上 168日以下 | 73日以上 120日以下 | 48日以上 72日以下 |
継続勤務期間 | 6か月以上 1年6か月未満 | 7日以上 | 5日以上 | 3日以上 | 1日以上 |
1年6か月以上 2年6か月未満 | 8日以上 | 6日以上 | 4日以上 | 2日以上 | |
2年6か月以上 3年6か月未満 | 9日以上 | 6日以上 | 4日以上 | 2日以上 | |
3年6か月以上 4年6か月未満 | 10日以上 | 8日以上 | 5日以上 | 2日以上 | |
4年6か月以上 5年6か月未満 | 12日以上 | 9日以上 | 6日以上 | 3日以上 | |
5年6か月以上 6年6か月未満 | 13日以上 | 10日以上 | 6日以上 | 3日以上 | |
6年6か月以上 | 15日以上 | 11日以上 | 7日以上 | 3日以上 |
問題社員のトラブルから、
計画年休(年次有給休暇の計画的付与制度)とは、年次有給休暇のうち5日を超える部分について、労使協定に基づき計画的に労働者へ付与する制度です(労働基準法第39条第6項)。
計画年休は、労使協定で定めた方法に従う限り、全労働者に対して一斉に付与することも、グループ(部署)や個人ごとに個別に付与することも、どちらも認められています。
計画年休の導入例としては、以下のようなパターンが挙げられます。
企業側としては、こうした手続きや従業員への配慮について、一定のコスト負担を強いられる点が、計画年休導入のデメリットと言えます。
労働者側にとっては、業務が忙しかったとしても会社の制度として年次有給休暇を取得できるため、休むことに関して抵抗感を覚える必要がない点が、計画年休のメリットとなります。
その反面、計画年休により年次有給休暇が消費された結果、自分の判断で自由に取得できる年次有給休暇の日数が減ってしまう点が、労働者側にとってのデメリットです。
計画年休を導入する場合、労使協定の締結と就業規則への規定が必要となります。
計画年休を導入するためには、労使協定の締結が必要になります(労働基準法第39条第6項)。
労働者側の当事者は、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働組合がない場合は労働者の過半数代表者となります。
労使協定で定めるべき事項は、以下のとおりです。
なお、計画年休に関する労使協定は、労働基準監督署に届け出する必要はありません。
計画年休は休暇に関する制度であるため、就業規則における必要的記載事項となります(労働基準法第89条第1号)。
計画年休に関する労使協定を締結したら、その内容を就業規則に反映する改定を行いましょう。
なお、労使協定とは異なり、計画年休に関する変更後の就業規則については、労働基準監督署への届け出が必要です。
以下では、計画年休の導入する際に、労働者側とのトラブルを回避するために企業側が注意すべきポイントについて解説します。
労働者の立場からすると、計画年休は「有給取得の時期を勝手に決められる」という印象を強く持ってしまいがちです。
そのため、企業側としては、「計画年休は労働者側にもメリットがある制度だ」ということを、きちんと説明するようにしましょう。
計画年休を導入するにあたっては、年次有給休暇の付与対象外である労働者や、日数が不足している労働者をどのように取り扱うかが、企業側にとって重要な検討課題となります。
事業場全体を計画年休によって休業とするならば、年次有給休暇が少ない(またはない)労働者に対しては、少なくとも平均賃金の60%の休業手当を支払わなければなりません(労働基準法第26条)。
また、年次有給休暇が少ない(またはない)労働者は出勤させて、他の労働者には計画年休を取得させる場合には、計画年休の対象外となる従業員に業務負担が偏らないように配慮する必要があるでしょう。
いずれにしても、労働者間で不公平感が出ないような制度設計を行うことが大切です。
問題社員のトラブルから、
計画年休を導入することには、企業側にとっては、「年次有給休暇の取得に関する義務を漏れなく果たしながら、計画的に出勤管理を行うことができる」というメリットがあります。
その一方で、計画年休を導入する際には、労働者が不公平を感じないようなフォローや説明が必要になります。
計画年休をトラブルなく円滑に導入するためには、制度設計や手続きに関して、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、計画年休の導入を含めて、企業の労務管理に関するご相談を受け付けております。
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