企業法務コラム
「振替休日」と「代休」の違いを正しく理解している方は、意外と少ないのではないでしょうか。
どちらも休日出勤の代わりに労働者に対して与えられる休日ですが、法律上の取り扱いには違いがあるので注意が必要です。もし、両者を混同・勘違いしていて、自社で誤った運用をしていることが分かった場合は、早急にルールの見直しに着手してください。
この記事では、振替休日と代休の違いや、それぞれの場合における賃金の考え方などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
まずは、振替休日と代休の法律上の違いについて、基本的な事項を押さえておきましょう。
① 振替休日
「振替休日」とは、就業規則の定めに従い、あらかじめ休日と定められていた日を労働日(勤務日)とし、その代わりに他の労働日を休日とした場合(休日の振替)に、休日となった日のことをいいます。
② 代休
これに対して「代休」とは、特に事前の振替がなく休日労働が行われた場合に、その代償として、もともと労働日だった日を休みにした場合をいいます。
振替休日は「事前に決める」ものであるのに対して、代休は、実際に休日労働が行われた場合に、「後から取得する」ものであるという違いがあります。
上記の帰結として、振替休日と代休では、割増賃金の要否に違いが生じます。
振替休日の場合、もともと休日だった日は、振替休日を設定して労働者が働いた段階ですでに休日ではなくなっています。つまり労働者は、もともと休日だった日に労働をしたとしても、通常どおりの労働義務を果たしたにすぎないのです。
そのため振替休日のケースでは、使用者は労働者に対して、労働基準法第37条第1項本文に基づく、休日労働の割増賃金(35%以上)を支払う必要がありません。
これに対して代休のケースでは、代休の対象となる休日労働をした段階では、その日は依然として休日です。
したがって代休の場合、使用者は労働者に対して、休日労働の割増賃金の支払いが必要です。
問題社員のトラブルから、
前述のとおり、振替休日と代休の違いは、休日労働に対する割増賃金の要否という形で実質的な影響が生じます。
ただし、ひとくちに休日労働といっても、労働した日が法定休日か、法定外休日によって、割増賃金の考え方は異なります。
まず理解しておきたいのが、労働基準法上、休日労働とは「法定休日」における労働を意味しているという点です。
法定休日は、「週1日または4週4日」と定められています(労働基準法第35条第1項・第2項)。
実際には「土日休み」など、就業規則で週2回の休日が定められている企業が一般的ですが、この場合は、どちらか1日のみが「法定休日」、残りの1日が「法定外休日」として扱われます。週休2日のうち、どちらを法定休日とするかは就業規則で定めることができます。
振替休日を設定せずに休日出勤をした場合は、35%以上の割増賃金の支払いが必要になるのは前述のとおりですが、対象となるのは法定休日に労働した場合に限られます。
問題社員のトラブルから、
実際に振替休日や代休が発生した場合における賃金の考え方について、具体例を用いて見ていきましょう。
(1)から(3)の計算例では、以下の事例を前提とします。
たとえば、20××年10月31日(土)を労働日に、同月29日(木)を振替休日にする、休日の振替が行われたとします。
この場合、10月31日に労働者が働いた分については、休日労働ではなく、あくまでも通常の労働としてカウントされます。
そのため、10月25日(日)~31日(土)の1週間の賃金は、労働日が5日間ですので、通常と変わらず5万円です。
一方、20××年10月31日(土)に休日労働をした労働者が、同年11月4日(水)に代休を取得したケースを考えてみます。
この場合、10月31日の労働は法律上の休日労働ですので、35%の割増賃金が適用されます。
上記のケースでは、労働者は10月25日(日)~31日(土)の1週間のうちで6日間働いており、かつ31日の労働には35%の割増賃金が適用されるので、1週間の賃金は6万3500円です。
ただし、11月4日に代休を取得するので、翌週の賃金は1万円減ることになります。
結果的に、労働者は通常の労働を継続した場合に比べて、トータルで3500円分多くの賃金を得ることになります。
振替休日を取得した場合は、休日労働の割増賃金は不要ですが、「時間外労働の割増賃金」については分けて考えなければなりません。
この場合、10月25日(日)~31日(土)の1週間について、休日労働は行われていないものの、トータルの労働時間は48時間であり、法定労働時間(40時間)を上回る8時間の時間外労働が発生しています。
したがって、8時間分については、25%の時間外に労働に基づく割増賃金を支払わなければなりません。
この考え方に従って、10月25日(日)~31日(土)の1週間の賃金を計算すると、6万2500円になります。翌週の代休取得による1万円の賃金減少と相殺しても、労働者に支払う賃金は2500円分多くなるのです。
このように、同一週内で振替休日を確保できない場合、時間外労働に基づく割増賃金が発生する可能性があるので注意しましょう。
問題社員のトラブルから、
振替休日と代休の取得には、法律上、特に期限は設けられていません。
しかし、休日については就業規則の必要的記載事項です(労働基準法第89条第1項第1号)。そのため、振替休日と代休の取得時期も、就業規則のルールに従います。
ただし、振替休日も代休も、休日に労働をした労働者の体を休ませる趣旨のものなので、あまりにも労働日から遠い時期に取得させるのは適切ではありません。
長くても1か月以内程度の期間を区切って取得させるルールを定めることが望ましいでしょう。
問題社員のトラブルから、
代休を取得させる予定なのに、消化できずにたまってしまっている社員がいる場合には、使用者としては賃金の支払いや労使協定(36協定)との関係で注意しなければならない場合があります。
まず、一般的に「振替休日がたまる」という言い方がされることがありますが、これは法律的にあり得ません。振替休日は、あくまでも前もって指定するものであって、労働者が事後的に取得するという性質のものではないからです。
よって、有給休暇と同じように「未消化」「たまる」といったことが問題となるのは、代休のみであることを理解しておきましょう。
代休未消化の社員がいる場合には、次の点に注意が必要です。
① 賃金の締め日が先に来てしまう
労働者が代休を取得するよりも先に賃金の締め日が来てしまうと、使用者は代休分の賃金を控除することはできず、休日労働の割増賃金全額を上乗せした賃金を支払わなければなりません。
もちろん、翌月に代休を取得した場合には、翌月の賃金から代休分を控除することは可能です。しかし、当初の資金計画がずれてくる可能性があるので、使用者側としては資金繰りに問題がないか、念のためチェックしておきましょう。
② 36協定における休日労働の規定に抵触する可能性がある
36協定(労働者の時間外労働などに関する労使協定)において、「休日労働をさせた労働者には、使用者側が率先して代休を取得させる」などの規定が設けられている場合があります。
この場合、使用者が代休未消化の労働者を放置していると、36協定に違反しているとして、労働組合などから指摘を受ける可能性があります。
もし、業務多忙などで代休を消化できない労働者がいる場合は、使用者側主導で業務量を調整するなどして、代休の取得を奨励することが大切です。
問題社員のトラブルから、
振替休日は、事前に指定する代わりに休日労働の割増賃金が発生せず、代休は、事前の振替がない代わりに割増賃金が発生するという違いがあります。
使用者としては、計画的に事前に休日の振替を行い、割増賃金を抑制する方向で対応するのが望ましいでしょう。
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