企業法務コラム

2024年12月02日
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労働者の試用期間を延長したい! 違法? 企業の手続きと注意点

労働者の試用期間を延長したい! 違法? 企業の手続きと注意点

多くの企業では、労働者の採用時に試用期間を設けています。試用期間は、企業が労働者の能力・適性を見極めるための期間ですが、元々の期間だけでは本採用をするかどうか判断できないこともあります。

そのような場合には、一定の要件を満たせば期間延長も可能です。ただし、延ばす際にはいくつか注意すべきポイントがありますので、企業の担当者としてはしっかりと押さえておくことが大切でしょう。

今回は、試用期間の延長に関する要件・注意点・手続き・延長後の解雇などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

目次

  1. 1、試用期間の延長はできるのか?
    1. (1)試用期間とは?
    2. (2)試用期間はお試し期間ではない
    3. (3)試用期間延長はできるのか?
  2. 2、試用期間延長のための4つの注意事項と適切な手続き
    1. (1)就業規則に、試用期間延長があるとはっきり書かれていること
    2. (2)合理的な理由があること
    3. (3)社会通念上、延長期間が妥当な長さであること
    4. (4)試用期間の延長を、事前に本人に伝えていること
    5. (5)上記を踏まえた適切な手続きとは
  3. 3、試用期間の延長が認められやすいケース
    1. (1)勤務成績が著しく悪い場合
    2. (2)勤務日数が少ない場合
    3. (3)法律違反があった場合
    4. (4)経歴詐称が発覚した場合
    5. (5)勤務態度が悪く、他社員との協調性がない場合
  4. 4、試用期間の延長が無効になりやすいケース
    1. (1)就業規則に試用期間延長に関する規定がない場合
    2. (2)試用期間の延長の期限を定めていない場合
    3. (3)繰り返し試用期間の延長を行う場合
    4. (4)期間の延長について合理的な理由がない場合
    5. (5)試用期間の延長について、本人に同意を得ていない場合
  5. 5、本採用の拒否が認められる場合とは
    1. (1)本採用の拒否の場合にも、解雇予告が必要
    2. (2)試用期間が終わった時の本採用拒否と比べて、高度の合理性と相当性が必要
    3. (3)本採用をしないことが認められるケース
    4. (4)採用する努力をしたかが重要なポイントに
  6. 6、まとめ

1、試用期間の延長はできるのか?

試用期間延長は、そもそも可能なのでしょうか。
まずは、試用期間の概要と延長の可否について説明します。

  1. (1)試用期間とは?

    試用期間とは、企業が労働者の能力や適性を見極めるために本採用前に設けられる期間です。

    企業が労働者を採用する際には、書類選考や面接などを実施しますが、それだけでは労働者の能力や適性がはっきりとは分かりません。
    労働者を適正な部署に配置するためには、一定期間労働者の働きぶりを確認する必要があります。そこで、実際に働きながら労働者の能力や適性を見極めるための期間が試用期間です。

    期間の長さは企業によって異なりますが、3~6か月程度を設定するのが一般的です。

  2. (2)試用期間はお試し期間ではない

    試用期間というと「お試し期間」というイメージを持たれる方も多いため、その期間中は簡単に解雇できると考える方もいるかもしれません。
    しかし、試用期間であっても会社と労働者との間には「解約権留保付き労働契約」が成立しています。

    つまり、「本採用拒否」は解雇にあたり、客観的に合理的な理由があって社会通念上相当であるといえる場合でなければ、本採用を拒否することはできません(労働契約法16条)。

    解約権留保付きという点で、通常の解雇よりも若干広い範囲で解雇が認められてはいますが、本採用拒否の有効性は、厳格な要件で判断される点に注意が必要です。

  3. (3)試用期間延長はできるのか?

    当初定めた期間では、採用予定者の能力や仕事に対する適性を見極めるには足りないという場合、期間を延ばしたいと考える企業も多いと思います。

    結論からいえば、試用期間の延長を禁止する法令はありませんので、延長はできます
    ただし、その延長は、労働者に対して不利益を与えることになりますので、会社側が無条件に行えるものではなく、一定の要件を満たす必要があります

    詳しい条件や手続きについては、次章で説明します。

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2、試用期間延長のための4つの注意事項と適切な手続き

試用期間を延長する際には、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか。
以下では、期間の延長をするための4つの注意事項と手続きについて説明します。

  1. (1)就業規則に、試用期間延長があるとはっきり書かれていること

    期間を延長するためには、契約上の根拠があることが条件になります。
    そのため、就業規則で、以下のような定めがなければ、期間を延ばすことはできません

    • 期間を延長する可能性があること
    • 期間が延長される事由
    • 期間を延ばす場合の期間

    就業規則で決めていなかったとしても、労働者の個別の合意があれば、期間を延ばすことは可能です
    しかし、その場合、労働者の立場は特に弱いといえますので、個別の同意を得たとしても、従業員の自由な意思に基づく同意とは評価できない可能性があります。

    そのため、できる限り就業規則において試用期間の延長があることを明示しておくべきでしょう。

  2. (2)合理的な理由があること

    期間延長は、契約上の根拠があっても、常にできるわけではありません。
    そのためには、以下のような合理的な理由が必要です。

    • 病気や怪我などにより期間中の出勤日数が少なく、能力や適性が見極められなかった
    • 労働者としての適格性に問題があるものの、その後改善が見られるかどうかを確認したい
    • 当該部署での適性はないものの、他の部署で適性があるなら本採用も検討できる
  3. (3)社会通念上、延長期間が妥当な長さであること

    延長ができるケースでも、その延長は無制限に認められるわけではありません。
    延長後の試用期間の長さは、社会通念上妥当な範囲におさめる必要があります

    目安としては、3~6か月程度
    具体的な長さに、特に決まりはありませんので、労働者の能力や適性を判断するために必要とされる期間を定めることになります。
    目安としては、3~6か月程度で、当初の試用期間と合わせて1年以内とするべきでしょう。

  4. (4)試用期間の延長を、事前に本人に伝えていること

    期間を延長する場合、事前にその旨を本人に告知する必要があります。
    その告知がない場合、本採用が行われたものとみなされ、もし裁判になった場合には、延長が無効であると裁判所に判断される可能性があります

  5. (5)上記を踏まえた適切な手続きとは

    期間を延長するためには、以下のような手続きを行う必要があります。

    • 就業規則に試用期間の延長に関する定めを設ける
    • 試用期間中に労働者に対して必要な指導などを行う
    • 労働者に対して試用期間が延長されること、その理由、期間を告げる
    • 延長後も引き続き指導などを行い、能力や適性を見極める

3、試用期間の延長が認められやすいケース

試用期間を延ばすには、合理的な理由が必要になりますが、以下のようなケースであれば合理的な理由があると判断されやすいでしょう。

  1. (1)勤務成績が著しく悪い場合

    試用期間中の労働者の勤務成績が著しく悪いという場合、本採用拒否をすべきかどうか判断に迷うケースも多いでしょう。

    このような場合、もう少し時間をかけて労働者の能力や適性を見極めることは労働者にとってもメリットがありますので、試用期間の延長は認められやすいです。

  2. (2)勤務日数が少ない場合

    試用期間中に勤務日数が少ない場合、当初の試用期間だけでは、労働者の能力や適性をしっかり確認することができません。

    そのため、このようなケースでは試用期間の延長が認められやすいでしょうし、勤務日数が少ない理由が無断欠勤による場合は、本採用拒否もこの時点で検討可能でしょう。

  3. (3)法律違反があった場合

    試用期間中に何らかの法律違反があった場合には、会社の信用を害することになりますので、本採用拒否を検討する事情となります。

    ただし、その後の労働者の態度によっては本採用に至る可能性もありますので、法律違反後の労働者の態度や働きぶりを見極めるという理由であれば、試用期間の延長は認められやすいでしょう。

  4. (4)経歴詐称が発覚した場合

    経歴詐称が発覚すると、当初想定していた業務に対応してもらうのが困難な状況になることがあります。
    そのような場合、本採用拒否に踏み込むのも一つですが、別の業務や部署であれば対応できるかどうかを見極めるため、試用期間の延長を選択することも可能です。

  5. (5)勤務態度が悪く、他社員との協調性がない場合

    勤務態度が悪く、他の社員との協調性がない場合、そのままで本採用は難しいといえます。しかし、本人が反省し態度を改める姿勢を示しているのであれば、その後の働き方次第では本採用の可能性も出てきます。

    そのため、本人の勤務態度や協調性の有無を再度確認するという理由であれば、試用期間の延長は認められやすいでしょう。

4、試用期間の延長が無効になりやすいケース

2章で説明した4つの注意事項を満たしていないケースは、試用期間の延長が無効と判断される可能性があります。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。

  1. (1)就業規則に試用期間延長に関する規定がない場合

    就業規則に試用期間延長に関する規定が明記されていない場合、試用期間を延長する契約上の根拠がありませんので、試用期間の延長は無効と判断されるでしょう。

  2. (2)試用期間の延長の期限を定めていない場合

    試用期間の延長期限を定めずに延長をすると、労働者が著しく不安定な地位に置かれます。この場合は、試用期間の延長は無効と判断されるか、相当な期間内に短縮されるでしょう。

  3. (3)繰り返し試用期間の延長を行う場合

    就業規則で試用期間の延長を繰り返し行うことができる旨の規定があったとしても、複数回試用期間を延長するのは労働者の立場を不安定にしますので、試用期間の延長が無効になる可能性があります

  4. (4)期間の延長について合理的な理由がない場合

    当初の試用期間で労働者の能力や適性の見極めが十分にできているにもかかわらず、試用期間の延長をするのは合理的な理由がないと判断され、試用期間の延長が無効になる可能性があります

  5. (5)試用期間の延長について、本人に同意を得ていない場合

    就業規則に試用期間延長に関する規定がなかったとしても、本人の同意があれば試用期間の延長は可能です。
    しかし、本人の同意がない、または同意があっても自由意思による同意といえない場合には、試用期間の延長は無効になる可能性があります

5、本採用の拒否が認められる場合とは

企業は、試用期間中に労働者の能力や適性を見極めて、本採用をするかどうかの判断をしなければなりません。
以下では、本採用の拒否が認められる場合について説明します。

  1. (1)本採用の拒否の場合にも、解雇予告が必要

    試用期間中であっても会社と労働者との間には労働契約が成立していますので、試用期間満了時の本採用の拒否は、解雇にあたります。
    そのため、本採用を拒否する際には、労働者に対する解雇予告が必要になります。

    本採用拒否における解雇予告は、本採用を拒否する30日前までにしなければならず、解雇予告期間が30日に満たないときは、不足する日数に応じた解雇予告手当を支払わなければなりません

    ただし、試用期間開始から14日以内であれば、解雇予告は不要です(労働基準法21条)。

  2. (2)試用期間が終わった時の本採用拒否と比べて、高度の合理性と相当性が必要

    試用期間を延長した場合、当初の試用期間満了時には、「労働者を本採用拒否しない」と暫定的に決定をしたものと考えられています。

    そのため、使用者は、試用期間延長前に発覚した事情に基づいて、本採用拒否をすることはできず、本採用拒否をするには試用期間延長後に新たに判明した事情に基づいて、判断する必要があります。

    このように試用期間を延ばした後の本採用拒否が有効かどうかは、当初の試用期間における本採用拒否に比べて厳しく審査されますので、企業としては当初の試用期間内に本採用の可否を判断するのが望ましいでしょう。

  3. (3)本採用をしないことが認められるケース

    本採用拒否は、解雇にあたりますので、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ無効となります。

    本採用拒否の有効性は、個別具体的な事情に基づき判断しますので、一概にはいえませんが、以下のような事情があれば本採用拒否が有効と判断される可能性があります

    • 勤務成績が著しく悪い場合
    • 勤怠不良の場合
    • 法律違反があった場合
    • 経歴詐称が発覚した場合
    • 勤務態度が悪く、他社員との協調性がない場合
    • 勤務態度が非常に悪く、指導や注意では改善されない場合
  4. (4)採用する努力をしたかが重要なポイントに

    労働者の能力不足、勤怠不良、協調性不足などを理由に本採用拒否をする場合、試用期間中に適切な教育・指導を行い、改善の機会を与えていなければなりません。

    教育・指導を行わず、十分な改善のチャンスを与えないまま本採用拒否をすると、不当解雇と判断されるリスクが高くなりますので注意が必要です

    具体的には、以下のような対応が必要になります。

    • しっかり研修を実施する
    • 社員と面談を行う
    • 日報などにコメントを書く
    • 事前にこのままでは本採用が難しいことを伝え改善を求める
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6、まとめ

当初の試用期間だけでは労働者の能力や適性が分からなかったという場合には、試用期間を延長することも可能です。
しかし、試用期間の延長は、労働者の立場を不安定にしますので、一定の要件を満たさなければなりません。

また、本採用拒否も解雇と同様に厳格な要件で判断されますので、安易な本採用拒否は、不当解雇として訴えられる可能性もあります。

そのため、試用期間の延長や本採用拒否の判断に迷うときは、弁護士に相談するのがおすすめです
試用期間の延長や本採用拒否に関するお悩みは、当事務所までお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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