企業法務コラム

2021年04月05日
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2021年3月1日から障害者雇用(障がい者雇用)の法定雇用率引き上げ。企業がやるべきことは?

2021年3月1日から障害者雇用(障がい者雇用)の法定雇用率引き上げ。企業がやるべきことは?

令和2年9月、ある有名コーヒーチェーンが「障害者雇用優良事業所等の厚生労働大臣賞表彰」を受賞しました。このコーヒーチェーンでは、障害者雇用率が3.15%と法定雇用率を上回ったためです。

しかし、令和元年6月時点で民間企業の障がい者の実雇用率が2.11%にとどまっていることが示すとおり、民間企業全体でみると障がい者雇用はまだまだ進んでいません。そのような中、障がい者の法定雇用率が令和3年3月1日から引き上げられることとなりました。

障がい者の法定雇用率引き上げに向けて、企業がやるべきことはどのようなことなのでしょうか。

1、法定雇用率とは

法定雇用率とは、会社全体の常用労働者に対する障がい者の法律上満たすべき割合のことをいいます。
すべての事業主はこの割合以上の障がい者を雇用するよう、障害者雇用促進法で義務づけられているのです。民間企業のみならず、国や地方公共団体などの行政機関でも法定雇用率を満たすことが義務とされています。

  1. (1)法定雇用率が定められている背景

    障がい者雇用について法定雇用率が定められているのには理由があります。
    私たちには憲法で「職業選択の自由」が保障されていますが、採用するほうもまた「採用の自由」が認められています。
    しかし、採用側の自由を無制限に認めてしまうと、障がい者のような、多くは生まれながらにしてハンデを背負った方が希望の職業につくチャンスを得にくくなってしまいます。

    このことから、法律で障がい者の雇用率に関する定めをもうけ、障がい者の雇用が促されるような仕組みを作っているのです。

  2. (2)法定雇用率の対象となる事業者・労働者とは

    この法定雇用率の対象となる条件が、事業者にも労働者にも規定されています。

    ①事業者側

    • 勤続して勤務する労働者が一定数以上働いている事業所を経営する者

    以下で述べるとおり、現在、民間企業の法定雇用率は2.2%となっているため、従業員を45.5人以上雇用している事業主は、障がい者を1人以上雇用しなければなりません。
    ※なお、2021年3月1日から法定雇用率が2.3%に引き上がるため、対象となる事業主の範囲は43.5人以上に広がります。

    ②労働者側

    • 無期雇用の労働者
    • 1年間以上雇用されている労働者または雇用開始から1年間以上雇用されると見込まれる者(契約社員・パート・アルバイトなど)
    • 1年以上継続して雇用される者で、そのうち1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の者(短時間労働者。パート・アルバイトなど)

2、2021年3月1日から法定雇用率は0.1%ずつ引き上げ

いまだ達成できていない企業の多い法定雇用率ですが、2021年3月1日より、さらに0.1%ずつ引き上げられることとなりました。

  1. (1)現在の障がい者の法定雇用率は?

    法定雇用率は1976年に義務化されて以来、何度か引き上げられてきました。
    直近では障害者雇用促進法が改正された平成30年に、精神障害者も対象に加えられたことからそのパーセンテージが上がっています。

    現在の法定雇用率は以下のとおりです。

    区分現在の法定雇用率
    民間企業2.2%
    国・地方自治体2.5%
    都道府県などの教育委員会2.4%
  2. (2)法定雇用率引き上げの背景とは

    令和2年7月、厚生労働省 労働政策審議会 障害者雇用分科会で2021年1月1日より法定雇用率を0.1%ずつ引き上げることが決まりました。
    しかし、その後新型コロナウイルス感染拡大により経済状況が悪化し、経済界から引き上げ時期について配慮するよう声が上がっていました。

    その結果、2か月後ろ倒しした2021年3月1日から法定雇用率の引き上げを実施することとなったのです。

3、障がい者雇用における法定雇用率の計算方法は?

  1. (1)法定雇用率を算出するための計算式

    障がい者の法定雇用率は以下の数式で算出されています。

    法定雇用率 =(対象障害者である常用労働者の数 + 失業している対象障害者の数)÷(常用労働者数 + 失業者数)

    先述のとおり、平成30年からは法定雇用率の算定基礎に、身体障害者、知的障害者のみならず精神障害者も含めることとなりました。

  2. (2)障害の程度や種類によってカウント方法は異なる

    障害者雇用率の計算には、障害の程度や種類によってカウントの仕方が異なります。
    以下のようなルールになっているので、計算するときは気をつけて計算してください。

    • 短時間労働者は、原則1人を0.5人としてカウントする。
    • 重度身体障害者・重度知的障害者は1人を2人とカウントする。
        ただし、短時間重度身体障害者・短時間重度知的障害者は1人としてカウントする。
    • 短時間精神障害者については、以下の①②の要件をどちらも満たす場合には1人としてカウントする。
        ①新規雇入れから3年以内の方、または精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内の方
        ②2023年3月31日までに雇い入れられ、精神障害者保健福祉手帳を取得した方

4、法定雇用率を達成できなかったときの罰則は?

一定規模以上の企業には、毎年6月1日時点の障がい者の雇用状況を報告する義務があります。そこで実雇用率が法定雇用率に満たない企業には、行政指導と障害者雇用納付金の2つのペナルティーが課されることがあります。

  1. (1)行政指導・企業名の公表

    まず、行政指導を受けます。ハローワークの所長より、翌年1月を始期とする2年間の雇入れ計画を作成するよう命令が通達されます。
    障がい者の雇い入れが計画どおりに進んでいない場合は、1年目の12月に計画の適正実施の勧告が行われます。

    計画期間の終了後に特に雇用状況の改善が進んでいない企業には、計画期間終了後9か月間、公表を前提とした特別指導がされたのちに、企業名が公表されます。

  2. (2)障害者雇用納付金制度

    ①制度の概要
    障がい者を雇用している企業は、障がい者を受け入れるために設備投資などのコストをかけていますが、障がい者を雇用していない企業ではそのようなコストはかけていません。
    そうすると、障がい者を雇用している企業と雇用していない企業との間に不均衡が生まれてしまいます。

    そこで、不均衡を解消するためにあるのが、障害者雇用納付金制度です。
    雇用率未達成企業から納付金を徴収し、雇用率達成企業に対して、調整金、報奨金を支給するとともに、障がい者の雇用促進等を図るための各種助成金を支給しています。

    ②支給条件
    常用労働者100人超の企業で障害者雇用率が法定雇用率に満たない場合は、不足1人あたり月額5万円を企業から徴収します。

    逆に、法定雇用率の達成企業には超過1人あたり月額2万7千円を支給しています。

    さらに、常用労働者100人以下で、障害者雇用率が4%超または障がい者を6人超雇用する中小企業事業主には、超過1人あたり月額2万1千円を支給しています。

    その他、在宅で仕事をしている障がい者または在宅就業支援団体に年間35万円以上の仕事を発注した事業主にも、特例調整金または特例報奨金が支給されます。

5、障がい者雇用を進めるために企業が取り組むべき8つのこと

障がい者雇用に対する理解は企業の間でも進んできてはいますが、法定雇用率の達成企業は48%に過ぎません。つまり、半数以上の企業では法定雇用率が達成できていないのです。

障がい者雇用を進め、法定雇用率を達成するためには以下のような取り組みが必要です。

  1. (1)社内規程の見直し・整備

    就労を希望する障がい者には、さまざまな配慮を必要とする方が少なくありません。
    障がい者を受け入れる際には、障がいのある従業員のニーズに対応するため、就業規則をはじめとする社内規程を見直し、必要であれば整備するようにしましょう。

    たとえば、以下のようなものがあげられます。

    就業規則や社内規定の見直しを行う場合の一例
    • 有給休暇・傷病休暇の日数を増やす
    • フレックスタイム制度や在宅勤務制度、短時間勤務制度を導入する
    • 時間単位の有給休暇を設ける
    • 休職・復職のサポート体制の整備
    • メンターやOJTコーチ制度の構築
  2. (2)障がい者の方にお願いしたい業務を考える

    平成30年度障害者雇用実態調査結果(PDF:1.07MB)」によれば、障がい者雇用が進まない理由の第1位は、「会社内に適切な仕事がない」ことでした。

    しかし、障害の程度は十人十色で、できることもできないことも人によって異なりますので、「この仕事は障がい者には無理だろう」と決めつけないことが大切です。
    人手が足りていなくて困っている仕事や、重要度が高いにもかかわらずまだ手をつけられていない仕事がないかどうか、社内で検討してみましょう。

  3. (3)求人票はできるだけ詳細に書く

    ハローワークなどに求人票を出す際には、業務内容や求める条件などをできるだけ具体的に、また応募しやすいように工夫しましょう。

    たとえば、「社会人経験不問」「未経験者も活躍しています」のように、求職者が安心して応募できる内容を記載しましょう。

    また、仕事内容についてもできるだけ詳しく書きます。
    たとえば、「一般事務」であれば「エクセルを使いますが、文字や数字の入力ができればOK」「9時~10時が忙しいです」「電話応対はありません」のように、具体的に明記します。

    さらに、配慮できること・できないこともあらかじめ求人票にのせておきます。
    「オフィスにエレベーターあり」「障がい者用トイレはありません」「音声読み上げソフトがあります」などと書いておくと、職場環境が把握しやすいでしょう。

  4. (4)面接では働く意欲と障害の内容を確認

    面接では、職務経験やスキルなどはもちろん、働く意欲と障害の内容を確認しておきます。中には、親に早く働くように言われて面接に来ている方もいます。
    少しスキルや経験が足りなくても、「ここで働きたい」「成長したい」という思いが伝わってくる方を採用すると良いでしょう。

    また、面接のときに障害の内容もできるだけ細かく把握しておくと、入社前に準備を進めやすいでしょう。
    また、安全配慮義務の観点からも、具体的な症状や必要な配慮などを事前確認することが不可欠です。

  5. (5)職場実習や職場体験を受け入れる

    障がい者を雇用したことのない企業には、職場実習や職場体験を受け入れるのもおすすめです。障がい者にとっては、入社する前に実際の仕事を体験したり職場環境を知ったりすることができますし、会社側にとっては、求職者がどのような障害特性をもっているのかを把握したり、障がい者雇用したときのイメージをつかんだりすることができます。

  6. (6)定着支援のためのジョブコーチ制度を利用する

    雇用した障がい者には長く働いてもらいたいものです。
    しかし、障がい者雇用に慣れていない企業では、障がい者とコミュニケーションがうまく取れず、人事担当者や直属の上司が人知れず悩むケースも少なくありません。

    そのようなときは、ジョブコーチ制度を利用する方法があります。
    ジョブコーチとは厚生労働省の行う事業のひとつで、障がい者の就労支援について専門性を持った方が職場に出向き、事業者と障がい者双方を直接支援する制度です。ジョブコーチがいれば、労使双方にとって頼りどころになるでしょう。

  7. (7)助成金を活用する

    障がい者雇用に取り組む際には、さまざまな助成金が用意されています。
    下記に障がい者の雇い入れ等を支援する助成金の一例を示しますので、あてはまるものがあれば積極的に申請してみましょう。

    特定求職者雇用開発助成金障がい者を継続的に雇用する労働者として雇い入れたとき等にもらえるもの
    トライアル雇用助成金障がい者を試行的に雇い入れた場合にもらえるもの
    障害者雇用安定助成金ジョブコーチの援助が必要な障がい者のために、ジョブコーチを受け入れるときにもらえるもの
    障害者雇用納付金制度に基づく助成金障がい者を雇用するときに作業施設などの設置・整備、必要な介助等の措置を講じた場合にもらえるもの
    人材開発支援助成金
    (障害者職業能力開発コース)
    障がい者の職業能力の開発・向上を目的に、職業能力開発のための訓練施設や設備を整備したり、実際に訓練を行ったりする際にもらえるもの


    この他にも、障がい者が働き続けられるよう支援する助成金も多数ありますので、確認してみましょう。

  8. (8)特例子会社をつくる

    障がい者雇用の受け皿として、特例子会社をつくる方法もあります。
    特例子会社とは、企業が障がい者雇用の促進と安定のために設立する子会社のことです。

    ①メリット
    事業主にとっては障がい者雇用のためのリソースをそこに集中でき、個々の障害特性にも配慮した環境を整えられる点でメリットがあります。
    また、一定の要件を満たす場合には、特例としてその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして、実雇用率を算定できるというメリットもあります。

    ②デメリット
    一方、障がい者が健常者と隔離されてしまうことや、特例子会社単体で黒字化を達成することが難しい点がデメリットといえるでしょう。

6、まとめ

障害者雇用促進法で規定されている「不当な差別の禁止」「合理的配慮の提供義務」は、どこまでが差別で、どこからが合理的配慮なのかはなかなか線引きが難しいものです。
障がい者雇用に必要な雇用契約書や就業規則の規定についても、専門的なアドバイスが必要です。

障がい者の受け入れで不安を抱えている企業担当者の方は、ベリーベスト法律事務所のお近くのオフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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