企業法務コラム
会社に問題社員がいて、給料分の働きをしないどころか、次々と問題を引き起こしているような場合には、一刻も早く辞めさせたいと考えることでしょう。
しかし法律上、使用者が労働者を解雇により辞めさせるハードルは非常に高くなっています。そのため、問題社員を辞めさせる際には、法律を踏まえた慎重な対応が求められます。
この記事では、会社の問題社員を辞めさせる方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
会社の問題社員の行動パターンはさまざまですが、その中でも代表的な4つをピックアップして紹介します。
職務怠慢で給料分の働きをしない社員は、会社にとっては頭が痛い存在です。
特に、
などのケースでは、従業員としての義務を果たしていないと評価されても仕方ありません。
これらのケースは、いずれも就業規則違反に該当し得るため、使用者側から従業員に対してなんらかの懲戒処分を行うことができる場合があります。
他の従業員に比べて著しく能力が低く、基本的な業務さえ満足にこなせない社員は、ほかの従業員の足を引っ張る分、会社にとってマイナスな存在であるとさえいえるでしょう。
単に仕事に慣れていないというだけなら改善の余地はありますが、再三指導を行ったり、研修を受けさせたりしたにもかかわらず全く改善の兆しを見せないという場合は、どうにかして辞めさせる方法を検討したいでしょう。
会社の従業員には、労働契約や労働基準法その他の法令によって、さまざまな権利が認められています。
しかし、ささいな会社の不手際を声高に言いはやしたり、上司からの指示をなんでもすぐにパワハラ呼ばわりしたりする社員は、会社に協力する気がない問題社員と評価すべきでしょう。
こうした社員は、権利を盾にしている分、経営者や上司にとっても非常に扱い方が難しい存在です。
周りの同僚にセクハラやパワハラを行って社内の秩序を乱す従業員は、使用者にとってもっとも悪質な部類の問題社員といえるでしょう。
こうした問題社員を放置していると、他の従業員が精神を病んで辞めてしまうリスクもあるため、早急に辞めさせるなどの対応が必要です。
問題社員にはすぐに辞めてもらいたいと考えるのもわかりますが、労働法規による解雇規制が非常に強力なことを考えると、解雇は最終手段であると考えなければなりません。
解雇をする前に、使用者側が問題社員に対してとるべき対応について解説します。
基本的なことではありますが、やはり問題社員に対しては、根気強い注意や指導を行うことが第一の対処法になります。
まずは上司から注意・指導を行いますが、上司だけで荷が重ければ、他の部署の管理職や、問題社員と年の近い先輩などにも協力を仰いで更生を促しましょう。
もし将来的に問題社員を解雇したいと考えていた場合にも、「注意・指導を行ったけれど全く改善の見込みがなかった」という事実を積み重ねていくことで、解雇が適法であると認められやすくなる可能性もあります。
問題社員と人事部の面談をセットし、現状の人事評価について正式に問題社員に伝える方法も考えられます。
周囲からの評価がよくないことを直接聞かされれば、ある程度改善に向けた動きが見られるかもしれません。
また人事面談の場では、これ以上勤務態度の悪い状態が続くようであれば、懲戒処分を検討せざるを得ない旨を伝えておくと、問題社員の危機感をあおることにもつながります。
注意・指導・面談などによっても改善の兆しが見えない場合には、懲戒処分により具体的な制裁を科すことも検討すべきです。
ただし、懲戒処分を行えるのは、就業規則などに規定される懲戒事由に該当する場合に限られます(就業規則のある会社では、就業規則に懲戒の事由及び程度を定めておくことが必要となります(労働基準法第89条9号))。
さらに懲戒処分については、労働契約法において次のルールが規定されています。
労働契約法第15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
懲戒処分を行う際には、上記の懲戒処分の要件を満たしているかどうか、法的な観点から慎重に検討することが必要です。
問題社員を辞めさせる際には、いきなり解雇するのではなく、自主的な退職を促す「退職勧奨」を行う方が安全です。
退職勧奨とは、文字通り「退職を勧める」という意味で、会社が従業員に退職を促し、従業員がそれに応じて退職するという形態です。
退職勧奨は、会社側が一方的に従業員を辞めさせる「解雇」とは異なり、従業員が同意のうえで自主的に会社を辞めます。
そのため、後から労使間の紛争が再燃する可能性が解雇する場合と比べて低いので、会社にとってはいわば後腐れなく従業員を辞めさせることができるメリットがあります。
退職勧奨の手順や方法については、特に決まったルールはなく、会社側が何らかの方法で従業員に「辞めてほしい」旨を伝えることになります。
その際、従業員にとっても退職するメリットがあるように、上乗せ退職金などの提案が行われる場合が多いようです。
退職勧奨を行う場合の最大の注意点は、退職勧奨に応じるかどうかは従業員の任意であり、無理やり辞めさせてはならないということです。
たとえば、
などの方法を用いて従業員を辞めさせる場合、事実上強制的に辞めさせたと判断される可能性があります。
強制的に従業員を辞めさせるということは、会社が従業員を一方的に辞めさせる解雇と実質的に同じですので、解雇に関する法規制が適用されてしまいます。
そうなると、不当解雇と判断されてしまうリスクが非常に高まってしまうでしょう。
それだけでなく、パワハラ的な言動などを用いた場合には、そのことに対する損害賠償請求(慰謝料)をされるリスクも生じます。
このような事態が生じないように、退職勧奨は従業員の任意性が最大限に確保できる方法により行うことが大切です。
従業員が退職勧奨に応じない場合は、別の方法を模索するほかありません。
すぐに解雇して辞めさせる方法が念頭に浮かぶと思いますが、解雇の要件を満たしているかどうかを慎重に検討する必要があります。
あくまでも解雇は最終手段であって、配置転換をしたり、上乗せ退職金を増額して引き続き退職勧奨を行ったりするなど、よりマイルドな方法を模索する方が無難です。
どのような方法が適切なのかについては、弁護士に確認することをおすすめいたします。
労働契約法第16条により、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効」とされています。
そのため、たとえ問題社員であっても、解雇をする際には極めて慎重な検討が必要になります。
問題社員の解雇が有効となるためには、就業規則に定められる解雇事由(普通解雇の場合)または懲戒事由(懲戒解雇の場合)に該当することが必須です。
このうち懲戒解雇の場合は、さらに懲戒解雇相当の重大な違反行為があったかどうかが判断されることになります。
また、普通解雇・懲戒解雇のいずれについても、労働契約法第16条の規定に従い、解雇に客観的に合理的な理由があり、かつ解雇が社会通念上相当と認められることが要求されます。
①解雇が有効と判断される可能性が高いケース
具体的には、
などの事情があれば、解雇が合理的かつ社会通念上相当と認められる可能性が高いでしょう。
②解雇予告手当の支払いに注意
なお、どのような理由による解雇でも、よほど例外的な事情がない限り、30日以上前の予告または30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当の支払いが必要です(労働基準法第20条第1項)。
上記の解雇要件を満たさないにもかかわらず問題社員を解雇し、問題社員による不当解雇の主張が認められてしまうと、会社は以下のリスクを負うことになります。
①問題社員を会社の従業員として復帰させなければならない
不当解雇は法的に無効なため、問題社員を会社の従業員として復帰させる必要があります。
②未払い分の賃金全額を支払う義務を負う
不当解雇後、問題社員に対して支払っていなかった賃金の全額を支払わなければなりません。
③不当解雇を行った企業として社会的評判が毀損される
もし不当解雇をした事実がインターネットなどで拡散されてしまうと、会社の評判に傷がついてしまう可能性があります。
再三解説したように、法律上、会社が従業員を解雇するハードルは非常に高いのが現実です。
そのため、問題社員を辞めさせることを検討している場合でも、すぐに解雇してしまうのではなく、どのような方法をとったらよいか事前に弁護士に相談することをおすすめいたします。
弁護士からは、問題社員のこれまでの行動や、会社の就業規則の内容などを考慮して、穏便に問題社員を辞めさせる方法についてアドバイスを受けることができます。
後に問題社員との間で紛争を発生させないためにも、一度弁護士にご相談ください。
問題社員に対する注意・指導や退職勧奨が奏功しない場合には、解雇も選択肢に入ってきます。しかし、解雇は法律上の要件がとても厳しいので、安易な解雇は禁物です。
問題社員への対応に悩んでいる会社担当者の方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所では、問題社員を穏便に辞めさせる方法などについて、労働問題専門チームが専門的な知見を踏まえてアドバイスいたします。
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