企業法務コラム
育児・介護休業法によって、企業には、時短勤務制度の整備が義務付けられています。
時短勤務制度によって、育児や介護と仕事が両立できることになるため、労働者側から時短勤務の希望がでてくることも予想されます。これまで時短勤務制度を導入したことがなかった企業としては、労働者側からそのような希望がでてきたときには、どのように対応していけばよいか悩ましいところでしょう。
労働者側からの時短勤務の申し出を拒否することは、場合によっては違法となることもありますので、事業主としては慎重な配慮が求められます。
本コラムでは、時短勤務制度や、導入するときのポイントについてベリーベスト法律事務所の弁護士が紹介します。
育児・介護休業法により、時短勤務制度が義務付けられています。
これによって、労働者から育児や介護を理由とした時短勤務の申し出を拒否することは原則として違法となります。
育児・介護休業法とは、働く人たちが育児・介護をしていても仕事ができるようにすることを目的として、休業や時短勤務などの措置を講ずることを定めた法律です。
従来は、育児や介護に従事する方は、仕事を辞めなければならないという選択を余儀なくされる方も数多くいらっしゃったでしょう。
しかし、育児や介護と仕事を両立させるといったワークライフバランスが叫ばれるようになったことを受け、育児休業等に関する法律が成立し、その後、時代の変化に応じた改正を経て、現在の育児・介護休業法に至っています。
時短勤務制度については、当初より定められていましたが、改正によって、その対象や内容が拡大、強化されてきました。
このように育児・介護休業法によって、時短勤務制度が義務付けられていますので、労働者の側から育児や介護を理由として、時短勤務の申し出があったときには、事業主としてはこれに応じなければなりません。
したがって、労働者からの時短勤務の申し出を拒否することは、原則として違法となります。
ただし、事業内容や規模によっては、時短勤務に応じることが困難な場合もありますので、そのような場合には、別途代替措置を設けることで法律の要請を満たすことができます。
その詳細については、後述します。
問題社員のトラブルから、
育児や介護をしている全員が、育児・介護休業法の対象者となるわけではありません。
この法律が適用される対象者や具体的な時短勤務の内容は、以下のとおりです。
育児を理由とする時短勤務については、対象となる子どもが3歳未満か小学校就学前かによって、以下のように扱いが異なります。
① 3歳未満の子どもを育てている労働者
事業主は、3歳未満の子どもを養育する労働者で、育児休業をしていない労働者が希望するときには、1日の所定労働時間は、原則として6時間までとするという短縮する措置を講じなければならないとされています(育児・介護休業法第23条1項、同法施行規則第74条1項)。
なお、以下の労働者については、労使協定により適用除外とすることができます。
ただし、業務の性質や会社の体制に照らして、所定労働時間の短縮を受けられない労働者に対しては、代替措置として、以下のような措置をとらなければなりません(同法第23条2項、同法施行規則第74条2項)。
② 小学校就学前の子どもを育てている労働者
事業主は、小学校に上がる前の3歳以上の子どもを育てる労働者に対しても、所定労働時間の短縮などを講じる義務が課されていますが、努力義務で足りるとされています(同法第24条1項3号)。
そのため、この場合、事業主が労働者からの時短勤務の申し出を拒否したとしても、直ちに違法となるわけではありません。
事業主は、家族を2週間以上、常時介護しなければならない労働者で、介護休業をしていない労働者が希望するときには、所定労働時間の短縮などの措置を講じなければならないとされています(同法第23条3項)。
具体的には、以下のいずれかの措置を、利用開始から3年以上の間で、2回以上の利用を可能とすることが求められます(同法施行規則第74条3項)。
なお、以下の労働者については、労使協定により適用除外とすることができます。
企業が時短勤務制度を導入する際には、上記で述べたことを踏まえる必要がありますが、制度を作っただけでは十分とは言えません。以下についても気を付けていく必要があります。
せっかく時短勤務制度を導入したとしても、それが労働者に認知されていなければ、利用は進まないでしょう。
また、利用する人だけでなく周りの従業員にも時短勤務制度に対する理解がなければ、利用した人が周りの理解を得られず、苦しむ事態にもなりかねません。
マタハラ防止のためにも、時短勤務制度の周知徹底が必要となります。
事業主としては、新人研修や社員研修などにおいて、時短勤務制度の存在と利用促進を周知するように努めましょう。
時短勤務制度は、就業規則にも記載するべきでしょう。
就業規則を変更する際は、労働者の過半数が加入する労働組合または労働者の過半数代表者に意見を聞きます(労働基準法第90条)。
就業規則の変更後は、労働組合または代表者の意見書とともに就業規則を所轄の労働基準監督署長に提出します。
なお、事業主としては、就業規則の変更だけでなく、時短勤務制度の具体的な申請方法や手続きの流れ整備することも重要なポイントです。
変更後の就業規則の内容や申請方法などの手続きの流れは、労働者がわかりやすい場所に掲示するだけでなく、研修などで個別に周知徹底を行うとよいでしょう。
企業としては労働者の意見を反映したうえで、利用しやすい労働制度設計に努めることが重要です。
これまで、時短勤務制度について解説してきましたが、それでは、時短勤務制度の適用がある労働者に対して、残業を依頼することができるのでしょうか。
育児・介護休業法第16条の8では、
3歳未満の子どもを育てている労働者が会社に対して「残業ができない」と申し出た場合には、所定労働時間を超えて労働させてはならない
と規定しています。
また、家族を2週間以上にわたって常時介護する労働者からの申し出があったときも同様です(同法第16条の9)。
したがって、時短勤務制度を使っている労働者から申し出があったときには、残業(時間外労働)を依頼することは違法です。
また、時短勤務の申し出などをした労働者に対する不利益な取り扱いも、育児・介護休業法により禁止されています(同法第23条の2、平成21年厚生労働省令告示第509号)。
そのため、時短勤務の申し出があったことや、残業を拒否したことを理由に解雇、雇い止めなどの不利益取り扱いをすることは違法になりますので、この点にも注意が必要です。
問題社員のトラブルから、
育児や介護を理由とする時短勤務制度については、法律によって企業に導入が義務付けられています。労働者が働きやすい環境を整備するためにも、積極的に時短勤務制度の利用促進に向けて周知徹底を行っていくようにしましょう。
また、時短勤務導入に限らず、会社の人事制度は時代に合わせて変更が必要となってきます。
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会社の人事制度を適法に運用し、働きやすい環境を整備するためにも、ベリーベスト法律事務所の顧問弁護士サービスの利用をおすすめします。
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