企業法務コラム
政府の雇用制度改革の一環として、労働施策総合推進法の改正があり、2021年4月から中途採用比率の公表が義務付けられることになりました。
対象となる企業は、法律で公表が義務付けられた以上、中途採用比率の公表に向けて準備をしなければなりません。しかし、はじめてのことなので、中途採用比率の公表義務化の内容がよくわからないという担当者の方は少なくありません。
そこで、本コラムでは、政府はなぜ企業に中途採用比率の公表を義務付けるのか、中途採用比率の公表義務化の内容、中途採用比率の公表によるメリットやデメリットなどについて解説したいと思います。
中途採用比率の公表義務化とは、労働施策総合推進法(正式名称:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)の改正に伴い導入されたもので、文字通り中途採用比率を公表しなければならないとするものです。
中途採用比率とは、正規雇用労働者の採用者数に占める正規雇用労働者の中途採用者数の割合です。
日本では、特に大企業において新卒一括採用が定着しており、卒業のタイミングを逃すと大企業にはなかなか就職できないという問題があります。
そのため、希望の企業に就職できなかった学生はわざと単位を落とすなどして浪人し、翌年また就職活動をする方もいます。
仮に卒業後に就職できたとしても、新卒採用者でない者は「中途採用者」とひとくくりにされて、不利に扱われることもあるため、新卒採用を意識する学生が多くなります。
しかし、就職のため1年間浪人した方と卒業して1年後に再度チャレンジする方で能力に大きな差があるわけではありません。
このような現状は不合理な雇用慣行であって、終身雇用を前提とした年功序列を重視した会社の都合によるところが大きいです。
そこで、中途採用比率を公表させることによって、中途採用比率の低い会社が能力主義ではなく年功序列の会社と評価される可能性があるため、ひとつの牽制となります。
また、人生100年時代を見据え、働く意欲がある方たちの能力を存分に発揮できる仕組みへ転換させることが急務になっています。
政府としては、中途採用比率の公表義務化で、労働市場における通年採用による中途採用・経験者採用の拡大と促進を狙っているわけです。
問題社員のトラブルから、
労働施策総合推進法第27条の2第1項は、
常時雇用する労働者の数が三百人を超える事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の職業選択に資するよう、雇い入れた通常の労働者及びこれに準ずる者として厚生労働省令で定める者の数に占める中途採用…により雇い入れられた者の数の割合を定期的に公表しなければならない。
と規定しています。
したがって、対象となるのは労働者数301人以上の大企業に限られます。
中小企業においては、中途採用は一般的であり、公表を義務化することにあまり意味がないというのが理由です。
また、新卒一括採用は大企業に多いことから、これを改善するために大企業に公表義務を課しました。
問題社員のトラブルから、
中途採用比率の公表は、労働施策総合推進法に基づく措置なので、公表しない場合には法令違反ということになります。大企業であればコンプライアンスが厳しく求められる時代なので多くの企業はきちんと公表することになるでしょう。
万が一、公表しない企業がある場合には、法律に罰則規定はありませんが、労働政策審議会が省令(ガイドライン)を定める予定であり、それに基づき違反した企業には指導・勧告がなされる予定です。
対象が大企業なので、罰則がなくても遵守すると思われますが、違反者が多いような場合には法律の改正が検討されたり、罰則の規定が検討されたりする可能性もあります。
問題社員のトラブルから、
① 企業側
中途採用比率を公表することで企業側が得られるメリットとしては、中途採用が多いことが前提にはなりますが、転職希望者の応募が増えることが考えられます。
中途採用者が多いということは、転職しても働きやすい環境であると求職者に思われるからです。
また、求職者が増えれば、優秀な人材を獲得できる可能性も高まります。
中途採用者は、人材育成のコストがかからず、多様性も得られます。即戦力の人材を獲得することで職場も活性化することが期待できます。
同業種からの中途採用の場合、同業他社の状況がわかるというメリットがあります。
他業種からの中途採用の場合には、外部の目線で社内の問題点を聞くことができ、業務の改善に活かすことができます。
また中途採用が増えることで、年功序列体系が変化するので、能力主義に転換することができるというのもメリットと言えます。
② 従業員・求職者側
中途採用比率が公表されることで、求職者としても、中途採用者を積極的に採用しているかどうかがわかり安心できるというメリットがあります。会社と従業員のミスマッチも少なくなり、定着率も上昇することが期待できます。
また、新卒一括採用しかしてこなかった企業は、転換を求められることになり、中途採用枠を増やすことが期待できます。そのことによって、中途採用者が採用されやすくなります。
いわゆるプロパー社員は、中途採用者が入社することで、多様な意見を聞くことができ、仕事の面でも参考になる点を吸収できるなどのメリットがあります。組織の硬直した考えを中途採用者が変えてくれることも期待できます。
① 企業側
中途採用比率を公表することによる企業側のデメリットとしては、中途採用が少ない場合、中途採用者の求人面で不利になる可能性があります。中途採用者が少ないということは、転職者が入社しても働きづらいと思われるからです。
中途採用比率を公表するためには、それを集計する人員が必要になり、当然コストも発生します。全国展開している大きな企業の場合、全国の採用状況を全て集計する必要があるため、相当手間と時間が掛かります。
② 従業員・求職者側
優秀な中途採用者が入社することで、新卒採用者が相対的に低く評価される可能性があります。中途採用者の増加によって、年功序列体系が変化するので、能力主義がより求められるようになり、場合によっては、新卒採用者が解雇されるリスクもあります。
また、企業が中途採用者を一定数採用することになれば、新卒採用枠が減らされる可能性があります。
問題社員のトラブルから、
労働政策審議会職業安定分科会「高年齢者の雇用・就業機会の確保及び中途採用に関する情報公表について」によると、
と結論づけています。それを踏まえて公表する内容は次のとおりとなっています。
公表が必要な項目は、「中途採用比率」です。
情報公表の方法については、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案要綱」が令和2年9月25日に公表されており、それによると
とされています。
国は、職場情報の自主的な公表が進むよう、支援を行うとされています。
具体的には、大企業については、法的義務を求める項目以外にも自主的な公表が進むよう、中高年齢者、就職氷河期世代の中途採用比率等といった定量的な情報、中途採用に関する企業の考え方、中途採用後のキャリアパス・人材育成・処遇等といった定性的な情報の公表について支援を行うとしています。
また、中小企業についても、大企業に法的義務を求める項目と併せて他の情報の公表が自主的に進むよう、支援を行うこととされています。
さらに、中途採用を希望する労働者と企業のマッチングを促進するため、正規雇用の中途採用に係る情報公表に関する好事例の収集・周知等を図り、中途採用に関する情報公表のみならず、職場情報の見える化の推進やハローワーク等におけるマッチング機能の充実、人材確保支援等により一層取り組んでいくとしています。
問題社員のトラブルから、
今回は、中途採用比率の公表義務化について解説してきました。
対象となるのは、従業員が301名以上の大企業のみで、公表の方法は、おおむね1年に1回以上、公表した日を明らかにして、直近の3事業年度について、インターネットの利用その他の方法によります。
細かい内容については、省令やガイドラインなどで示されますが、不安な点があれば、顧問弁護士などに内容を確認されることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所には、弁護士だけでなく、社会保険労務士も所属していますので、ご相談に対してワンストップで対応が可能です。今回の中途採用比率の公表義務化も含め、労働問題について疑問点があれば、お気軽にご相談ください。
また、顧問弁護士サービスも行っており、リーズナブルな料金プランもありますので、顧問弁護士について検討している場合には、ぜひご用命ください。
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