企業法務コラム
現在、特許庁において、第三者意見募集制度(日本版アミカスブリーフ制度)の導入が検討されています。
日本ではなじみのない制度なので、「アミカスブリーフとは?」という方も多いと思います。
以下では、アミカスブリーフ制度について、簡単に紹介していきます。
アミカスブリーフ制度は、後述するように元々米国の制度であり、裁判所に対して、当事者および参加人以外の第三者が、事件の処理に有用な意見や資料を提供する制度をいいます(アミカスブリーフとは、提供される意見や資料のことを意味します)。現在、日本の裁判において制度上これに類似するようなものはありません。
なぜ、現在の日本において、アミカスブリーフ制度の導入が検討されているのでしょうか。その背景を簡単に申し上げれば、近年、社会の構造の複雑化により、通常の裁判官が持ちえない業界特有の知見や高度な専門性が知財事件の解決にも要求されるようになりました。
そのことが広く認識されることとなった直接のきっかけがアップル対サムスン事件であったと言えます。
このような事案においても、当事者にとどまらず幅広い専門知識が裁判所に提供されることにより、高度・複雑な知識が要求されるような特許訴訟においても、幅広い意見を参考に社会の実態を踏まえた判断をしやすくなることが期待されています。
元来、アミカスブリーフ制度は米国の制度です。
米国では、アミカスキュリエ(amicus curiae)という「裁判所の友」または「法廷助言者」と訳される、係属中の訴訟事件について情報や意見を提出する第三者が制度上存在し、このアミカスキュリエが提出する意見書のことをアミカスブリーフ(amicus brief)といいます。
米国のアミカスブリーフ制度は、最高裁規則や連邦控訴手続き規則などに根拠規定(※)があります。これらの規則によると両当事者の同意や裁判所の許可を得て、第三者がアミカスブリーフを提出することができます。両当事者の同意による場合、第三者の範囲に限定はありません。
(※脚注:米国最高裁規則Rule37, 連邦控訴手続規則Rule29及び連邦巡回控訴裁判所規則Rule29等)
なお情報提供は、基本的にはいずれかの当事者を支持する必要がありますが、アミカスブリーフでは中立的な立場からいずれも支持しない情報提供も可能になっているという特徴もあります。提出された意見書は、商用データベースや裁判所のウェブサイト等を通じて何人も閲覧が可能になります。
過去に、知財高裁において、アミカスブリーフ制度そのものというわけではありませんが、広く一般から意見を募集するという試みがされたことがあります。試みがされた訴訟は、アップル対サムスン事件知財高裁大合議判決(平成26年5月16日)です。
アップルとサムスンの知財訴訟については、新聞などでも大きく報道されていたので、ご存じの方も多いと思います。アップルとサムスンの知財訴訟は世界各地で行われ、日本においても訴訟になり、平成26年5月16日に知財高裁で判決がされました。
この知財高裁の事案を極簡単に紹介しますと、アップルによるiPhoneやiPadの生産等が、サムスンの有する特許を侵害しているか否かが争われた事件です。
この事件では、標準規格に必須となる特許についてFRAND宣言がされた場合における効力が主要な争点となりました。FRAND宣言とは、公正、合理的かつ非差別的な条件(Fair, Reasonable And Non-Discriminatory)でライセンスを許諾する用意がある旨の宣言のことをいいます。
標準規格を定めることのメリットは大きいのですが、標準規格に準拠した商品を提供しようとすると避けることができない特許が存在することがあります。この場合、その特許権者から法外なライセンス料を要求されたりすると、標準規格に準拠した商品を提供できなくなってしまいます。
そこで、業界団体は、標準規格を策定する団体を設立し、標準化に参加する者に対し、上述のFRAND宣言をすることを求めるのです。これにより、標準規格に準拠した商品の提供者は合理的な条件で許諾を受けることができるようになります。
もっとも、特許権者がFRAND宣言をしていても、特許権者の許諾を得ていなければ、形式的には特許権侵害になるとも思えます。そのため、FRAND宣言がされた特許権に基づく差止請求権や損害賠償請求権の行使には、何らかの制限があるのではないかが議論されてきました。
詳細は割愛しますが、この争点に関して、知財高裁はFRAND宣言をした特許権者による権利行使は一定の場合に権利濫用にあたり、損害賠償額もFRAND下でのライセンス料相当額に限られる旨を判断しています。
この争点は極めて複雑でかつ業界特有の事情なども関わってくるものであること、日本のみならず国際的な観点からとらえるべき重要な論点であること、そして何より裁判所における判断が、技術開発や技術の活用の在り方、企業活動、社会生活等に大きな影響を与えるものと予想されていました。
これらの事情を加味して、裁判所は「FRAND宣言がされた場合の当該特許による差止請求権および損害賠償請求権の行使に何らかの制限があるか」という特定の争点に限定して、国内国外を問わずに広く第三者の意見を募集するとの異例の決定を行いました。その結果、国内外、個人・法人・団体を問わず、50を超える意見が寄せられました。
第三者意見募集制度(日本版アミカスブリーフ制度)がどのような内容になるかは、現時点では固まっていません。
すでに上記アップル対サムスン事件で利用された実績があることから制度の導入自体については前向きな意見は多くなっています。
しかし、米国でのアミカスブリーフ制度がやや濫用的に利用されることにより裁判所の負担が極端に増えることや、日本と米国の法制度の違いなどから、たとえば裁判所が要求した場合等に限られたり、意見を求める論点が法解釈論に限定されたり等、導入されたとしても、元となる米国の制度とは若干の違いが出てくるものと予想されています。
今後、この「日本版」アミカスブリーフ制度がどのような制度になり、どのように運用されていくか注目されます。
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