企業法務コラム

2021年04月13日
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JASRACは音楽教室から著作物使用料を徴収できるのか? 知財高裁判決を解説

JASRACは音楽教室から著作物使用料を徴収できるのか? 知財高裁判決を解説

令和3年3月18日、知財高裁において、音楽教室運営事業者と日本音楽著作権協会(以下JASRAC)の間の訴訟の控訴審判決が出ました。

ニュースなどで、JASRACという名前を耳にされた方も多いと思います。

以下では、訴訟になった経緯や、第一審判決を含め簡単に解説していきます。なお、末尾に判決の詳細な要約をつけておりますので、もしご興味があればご参照ください。

1、JASRACとは

JASRACは、著作権者から著作権の管理を委託され、著作権者にかわって第三者に使用許諾を与えたり、使用料を徴収する団体です。

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2、訴訟に至るまでの経緯

JASRACは、平成23年にフィットネスクラブ、平成24年にカルチャーセンター、平成27年にダンス教授所、平成28年にカラオケ教室における演奏利用の管理を開始してきました。そして、今般、音楽教室についても管理を開始しようとしました。

ヤマハ等が開催している音楽教室では、生徒が興味を持つ楽曲を練習させることで、広く生徒を獲得しようとしていました。JASRACは、これらの楽曲の演奏について、平成29年2月9日頃、ヤマハに対し、平成30年1月1日から「使用料徴収」を開始する予定である旨通知しました。加えて、平成29年6月7日、文化庁長官に対し、音楽教室における演奏についての使用料規定の新設等に係る変更の届け出を提出したのです。

これに対抗する形で、ヤマハなどの音楽教室の運営を行う約250の法人・個人が原告となり、音楽教室での管理楽曲の演奏について使用料の徴収に応じる義務がないことを確認する訴訟が提起されました。

3、知財高裁判決

  1. (1)主要な争点

    著作権法22条は、「著作者は、その著作物を、公衆に直接(中略)聞かせることを目的として(中略)演奏する権利を専有する。」として演奏権を定めています。

    今回の訴訟は、

    • ① そもそも誰が演奏の主体なのか
    • ② 音楽教室での演奏が、「公衆に直接聞かせることを目的」としてなされているか

    以上2点が主要な争点となりました。本判決では、実際に楽器を鳴らす人が教師である場合と生徒である場合について分けて述べられています。

  2. (2)判決内容

    ①教師による演奏行為
    ●演奏主体
    判決は、演奏の主体は音楽教室事業者である、としました。なお、実際に演奏を行っているのは、教室にいる教師なのに、演奏の主体が音楽教室事業者であるというのは変だと思われる方も多いでしょう。

    しかし、本判決は、演奏主体について、「単に個々の演奏行為を物理的・自然的に観察するのみではなく、音楽教室事業の実態を踏まえ、その社会的、経済的側面からの観察も含めて総合的に判断されるべきである」、と述べて、演奏の主体は教師を雇用している音楽教室事業者であると認定しました。

    一言で言えば、音楽教室が教師を雇ってやらせているという認定です。ただ、この点について言えば、音楽教室の月謝が教師ではなく教室に払われることと考え併せれば妥当ともいえるかもしれません。

    ●公衆
    「公衆」とは、不特定または多数の者のことであると判示しました。そして、音楽教室の生徒は、「公衆」にあたるとしました。その理由は、生徒は、音楽教室事業者に対して、受講の申し込みをすれば、誰でもレッスンを受けられる。生徒の個人的特性には何も着目されていないので「不特定」と言えるとしました。

    ●小括
    以上より、本判決では、教師の演奏行為は、音楽教室事業者が主体となって公衆である生徒に直接聞かせることを目的としてなされるということになり、よって演奏権を侵害するものと判示しました。

    ②生徒による演奏行為
    ●演奏主体
    生徒は、演奏技術の教授を受けるためにレッスンに参加しているのであって、音楽教室事業者に演奏を行う義務を負っているわけではないので、生徒の演奏行為の主体は、当該生徒であると認定されました。

    ●公衆
    生徒の演奏行為は、教師の指導を仰ぐためになされているのであり、他の生徒や自分自身に向けているわけではない。そして、教師は生徒との関係では、「特定」の者にあたるので、「公衆」にはあたらない、と判示しました。

    ●小括
    そのため、本判決は、生徒の演奏行為は、演奏権を侵害しないとしました。

  3. (3)第一審判決との違い

    なお、第一審判決は、生徒のした演奏の主体も音楽教室事業者であると判示し、生徒は他の生徒又は演奏している自分自身に対し、「直接聞かせることを目的」として演奏をしていると判示していましたので、知財高裁判決はこの点が違うことになります。

4、おわりに

いかがでしたでしょうか。長らく争われてきた音楽教室での著作権管理について、ようやく、控訴審判決が出ました。

控訴審判決では、生徒の演奏行為については、演奏権侵害にあたらないとの判断が出され、原告全面敗訴の第一審と比較して知財高裁が社会的にバランスをとろうとした態度もうかがわれます。

背景には、著作権を強く保護すると、「そもそも著作物を利用することを避けようとする傾向が生まれてしまう」、「新たな創造が生まれない」などの、音楽家を中心とした批判的な意見が多かったこと、第一審では、「生徒が公衆である演奏している自分自身に聞かせる目的で演奏している」などという文理的に無理のあるような解釈がなされたことなどが、あるのかもしれません。

他方で、生徒が演奏するのは適法で、教師が見本を演奏することは違法というのは一般人から見ると奇異に映る部分もあるかもしれません。
また、そもそも完成された演奏ではなく、練習中のものに対して使用料を聴取することや、単に見本を見せるだけのコンサートを開くわけでもない演奏にお金を取ることが妥当なのかということ。
さらに言えば文化的な価値を継承する観点から見て、私企業によるものといえども教育的・公益的なもので違法とするべきではないのではないか、著作権を委託する音楽家の方からしてもこれが本当に望む結論なのか等、 この紛争に関してはさまざまな議論を巻き起こしています。

われわれ法律家の立場からは、通常、知財高裁の判決は知的財産権に関し、かなり権威のある判断であるとの感覚があり、そのために今回の判断にも注目していたのですが、この結論は少々中途半端であるようにも思えます。

もし最高裁への上告があれば、さらに異なった判断が出る可能性があり、そのため今回の判決がどのように社会的に影響を及ぼすのかについての言及は避けたいと思います。ただ、皆さまには今回の判決についてぜひ知っていただき、その意味や著作権制度の意義、現行の著作権法の改正の要否等、われわれと共に考えていたけたら幸いです。

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<別紙 要約>

第1 争点

  1. 1 原告らについての確認の利益の有無(争点1)
  2. 2 音楽教室における演奏が「公衆」に対するものであるか(争点2)
  3. 3 音楽教室における演奏が「聞かせることを目的」とするものであるか(争点3)
  4. 4 音楽教室における2小節以内の演奏について演奏権が及ぶか(争点4)
  5. 5 演奏権の消尽の成否(争点5)
  6. 6 録音物の再生に係る実質的違法性阻却事由の有無(争点6)
  7. 7 権利濫用の成否(争点7)


第2 判決内容

1 東京地裁判決(令和2年2月28日)の内容
原判決は、確認の利益を認めた(争点1)上で、①音楽教室事業者である原告らは、音楽著作物である被告管理楽曲の利用主体である、②教室内にいる生徒は「公衆」である、③教師は、著作権法22条にいう「公衆」である生徒に対し、生徒は、「公衆」である他の生徒または演奏している自分自身に対し、「直接(中略)聞かせることを目的」として演奏をしている(争点2・3)、④2小節以内の演奏であっても音楽著作物の利用であるとし(争点4)、⑤原告らの、演奏権の消尽(争点5)、実質的違法阻却事由(争点6)及び権利濫用(争点7)の主張をいずれも排斥し、被告の原告らに対する著作権侵害に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権のいずれの存在も認めて、原告らの請求をいずれも棄却した。

2 知財高裁判決の内容
(1)原判決をおおむね是認した内容

1著作権集中管理団体の功罪をめぐる論争について 知的財産法政策学研究 Vol.51(2018)
知財高裁は、上記争点のうち、争点1・4・5・6・7について、おおむね原判決を是認した。

(2)争点2・3についての判示内容

  • ア 著作権法22条
    著作権法22条は、「著作者は、その著作物を、公衆に直接(中略)聞かせることを目的として(中略)演奏する権利を専有する。」として演奏権を定めている。
  • イ 「演奏」・「公衆」
    著作権法は、「演奏」それ自体の定義規定を置いておらず、その内容は日常用語的な意味に委ねられている。
    「公衆」とは、「特定かつ少数」以外の者(不特定又は多数の者)をいうことになる。
    特定とは、著作権者の保護と著作物利用者の便宜を調整して著作権の及ぶ範囲を合目的な領域に設定しようとする同条の趣旨からみると、演奏権の主体と演奏を聞かせようとする目的の相手方との間に個人的な結合関係があることをいうものと解される。
  • ウ 演奏利用主体の判断基準について 演奏主体については、単に個々の教室における演奏行為を物理的・自然的に観察するのみではなく、音楽教室事業の実態を踏まえ、その社会的、経済的側面からの観察も含めて総合的に判断されるべきである。このような観点からすると、音楽教室における演奏の主体の判断にあたっては、演奏の対象、方法、演奏への関与の内容、程度等の諸要素を考慮し、誰が当該音楽著作物の演奏をしているかを判断するのが相当である。〔ロクラクⅡ事件最高裁判決参照〕
  • エ 「直接・・・聞かせることを目的」 「直接」とは、演奏に際して、演奏者が面前にいる相手方に向けて演奏をする目的を有することを著作権法は求めている。
    「聞かせることを目的」として演奏することを著作権法22条は要求している。この文言の趣旨は、「公衆」に対して演奏を聞かせる状況ではなかったにもかかわらず、たまたま「公衆」に演奏を聞かれた状況を生じたからといって、これを演奏権の行使とはしないこと、逆に、「公衆」に対して演奏を聞かせる状況であったにもかかわらず、たまたま「公衆」に演奏を聞かれなかったという状況が生じたからといって、これを演奏権の行使から外さない趣旨で設けられたものと解するのが相当である。
  • オ 教師による演奏行為についてのあてはめ→著作権法22条の演奏行為にあたる
    音楽教室における教師の演奏行為は、音楽教室事業者たる原告らとの関係においては雇用契約又は準委任契約に基づく義務の履行として行われる。さらに、教師の演奏が行われる音楽教室は、原告らが設営し、その費用負担の下に演奏に必要な音響設備、録音物の再生装置等の設備が設置され、原告らがこれらを占有管理していると推認されるので、教師がした演奏の主体は、原告ら音楽教室事業者であるというべきである。
    教師が生徒に「聞かせる」ために演奏していることは明らかである。
    生徒が原告らに対して受講の申し込みをして原告らとの間で受講契約を締結すれば、誰でもそのレッスンを受講することができ、このような音楽教室事業が反復継続して行われており、この受講契約締結に際しては、生徒の個人的特性には何ら着目されていないから、原告らと生徒が契約を締結する時点では、個人的な結合関係がない。そして、音楽教室事業者と生徒は、不特定者を相手方として形成された有償契約たる本件受講契約上の当事者の関係を出ないから、生徒は不特定の者という性質を保有し続ける。したがって、生徒は、「不特定」の者に当たり、「公衆」といえる。
  • カ 生徒による演奏行為についてのあてはめ→著作権法22条の演奏行為にあたらない
    生徒は、受講契約に基づき、演奏技術の教授を受けるためレッスンに参加しているのであるから、教授を受ける権利を有し、これに対して受講料を支払う義務はあるが、演奏を行う義務を教師や音楽教室事業者に対して負っておらず、その演奏は、生徒の任意かつ自主的な姿勢に任されているものであって、音楽教室事業者が演奏を法律上も事実上も強制することはできない。したがって、生徒の演奏行為の主体は当該生徒である。
    生徒の演奏行為は、教師の指導を仰ぐために、専ら教師に向けてされているのであり、他の生徒に向けてされているとはいえないから、他の生徒に「聞かせる目的」で演奏しているのではないというべきであるし、自らに「聞かせる目的」のものともいえないことは明らかである。
    生徒の演奏について教師が「公衆」に該当しないことは当事者間に争いがない。
  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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