貸主(賃貸人、オーナー)に建物からの立ち退きを求められても、借り主(賃借人、入居者)は原則として拒否することができます。
ただし、借り主に債務不履行がある場合や、物件が老朽化している場合など、立ち退きを拒否できないケースもあるため注意が必要です。立ち退き請求を受けた借り主の方は、対処法について弁護士にご相談ください。
本記事では、借り主が貸主の立ち退き請求を拒否できるのかどうかなどを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
賃貸物件である建物の借り主は原則として、貸主から立ち退くよう言われても拒否することができます。
契約期間の途中で、貸主が一方的に借り主を立ち退かせることはできません。
また、契約期間が満了するタイミングでも、貸主が契約更新を拒絶するためには正当な事由が必要とされています(借地借家法第28条)。
したがって、貸主から立ち退きを請求されても、すんなり応じる必要はありません。立ち退き料の交渉などを行い、条件がよいと判断した場合のみ立ち退きに応じればよいでしょう。
ただし、以下に挙げるようなケースにおいては、借り主が建物からの立ち退きを拒否できないので注意が必要です。
建物賃貸借契約書において、契約の更新がないこととする旨が定められているときは、貸主は借り主に対し、期間満了時に立ち退きを求めることができます(借地借家法第38条第1項)。
このような契約は「定期建物賃貸借」と呼ばれています。定期建物賃貸借の期間が満了する際に立ち退きを求められた場合、借り主は原則として立ち退きを拒否できません。
ただし、定期建物賃貸借契約は書面または電磁的記録で締結する必要があり、口頭での締結は認められません(同条第1項、第2項)。
また、貸主は借り主に対し、契約の更新がなく、契約期間が終わることに伴ってその建物の賃貸借契約が終わることを説明する義務があります。当該説明は、契約締結前にあらかじめ書面または電磁的記録を交付して行わなければなりません(同条第2項乃至第4項)。
建物賃貸借契約が口頭で締結されている場合や、貸主が書面等の交付または説明を行っていなかった場合には、借り主は立ち退きを拒否することができます。
借り主に以下のような債務不履行がある場合、貸主は債務不履行に基づいて建物賃貸借契約を解除することができます(民法第541条、第542条、第540条1項)。もっとも、賃貸借契約の性質上、債務不履行が信頼関係を破壊しない特段の事情がある場合には、契約解除は否定されます。
建物賃貸借契約が適法に債務不履行解除された場合、借り主は立ち退きを拒否することができません。
貸主は、正当な事由があると認められる場合に限り、契約期間が満了する1年前から6か月前までの間に借り主へ更新拒絶の通知をして、建物賃貸借契約を終了させることができます(借地借家法第26条第1項、第28条)。
正当な事由の有無は、以下の事情を総合的に考慮して判断されます。
借り主側よりも、貸主側において特に建物を使用する必要性が高く、かつ貸主が相当額の立ち退き料を提示した場合には、契約更新拒絶の正当性が認められ、借り主は立ち退きを拒否できない可能性が高いです。
都市計画などの公共事業が行われる際には、対象地域の土地を収用することが認められています(土地収用法第3条、都市計画法第69条など)。
適法に土地収用が行われる場合には、その土地上の建物の借り主も立ち退きを拒否することができません。
1章・2章では、借り主は原則として立ち退き拒否ができることや、立ち退き拒否ができない場合もあることを解説しました。では、いざ借り主が立ち退き拒否したら、どのような流れで解決が図られるのでしょうか。
立ち退きを拒否する借り主に対して、貸主は立ち退き料を提示して交渉を試みるケースがあります。
借り主としては、立ち退く気が一切ない場合は交渉自体を拒否して構いません。そうでなければ、希望する立ち退き料の額を再提案して、合意の可能性を探るのがよいでしょう。
立ち退き料の額に加えて、立ち退きの時期などについても、貸主と借り主の間で調整を図ります。
立ち退き交渉の中で合意が得られた場合は、貸主と借り主の間で合意書を締結します。合意書には、立ち退き料の額や立ち退きの時期などの条件を明記しましょう。
合意書に定められた条件にしたがって、借り主は貸主に対して物件を明け渡します。
立ち退きについて合意が得られず、貸主がどうしても借り主を立ち退かせたいと思った場合、借り主に対して訴訟を起こすしか方法がありません。
訴訟では、建物賃貸借契約の更新を拒絶する正当な事由があるかどうかなどが主な争点となります。貸主側の主張が認められれば、裁判所は借り主に対して物件の明け渡しを命ずる判決を言い渡します。
明け渡しを命ずる判決が確定した後、借り主が物件から立ち退かない場合は、貸主は裁判所に強制執行を申し立てることができます。
強制執行では、執行官立ち会いの下で強制的に開錠し、荷物を運び出した上で鍵を付け替えるという流れで、強制的に明け渡しが執行されます。
都市計画などに伴って土地が収用される際の手続きは、通常の立ち退きとは異なります。
まず国土交通大臣または都道府県知事が事業認定手続(=土地収用の公益性を認定する手続き)を行い、次いで収用委員会が収用裁決手続(=補償金の額などを決定する手続き)を行います。
土地所有者や賃借人は、収用裁決手続によって決まった補償金を受け取る代わりに、土地や土地上の建物を行政に渡さなければなりません。明け渡しを拒否すると、行政代執行によって強制的に明け渡しが行われます。
借り主が貸主から立ち退きを要求された際には、まず立ち退きを拒否できるかどうかを慎重に検討しましょう。
定期建物賃貸借契約の期間が満了する場合、債務不履行がある場合、賃貸借契約の更新を拒絶する正当事由がある場合などには、立ち退きを拒否できない点に注意が必要です。
立ち退きを拒否できるケースであれば、少なくとも立ち退き料をもらうまで退去すべきではありません。
弁護士のアドバイスを受けながら、立ち退き料の相場を踏まえて貸主と交渉しましょう。好条件の立ち退き料が提示されなければ、立ち退きを拒否して建物を使用し続けて問題ありません。
借り主が建物から立ち退く際には、貸主から原状回復費用の負担を求められることがよくあります。
借り主が原状回復義務を負うのは、借り主の責に帰すべき事由によって生じた損傷のみです。通常損耗や経年変化については、借り主は原状回復義務を負いません(民法第621条)。この考え方は、オフィス・店舗・住宅などの物件の種類を問わず共通です。
ただし、賃貸借契約において特約が定められている場合は、上記の原則が修正されることがあります。
借り主が個人の場合は、法的知識の乏しさに配慮して特約の効力を限定的とする傾向にありますが、借り主が法人の場合は、特約は有効と判断されるケースが多いです。
借り主の原状回復義務を加重する契約条項が定められている場合は、立ち退きに当たって原状回復費用の負担が重くなりやすいので注意が必要です。
ただし、借り主が法人であっても、明らかに高額過ぎるクリーニング費用が設定されているような場合には、その特約が公序良俗に反し無効と判断されることもあります(民法第90条)。
貸主の原状回復請求に応じるべきかどうかの判断が難しい場合には、弁護士にご相談ください。
「地元に根差して営業しているので、店舗から立ち退くと顧客離れが避けられない」
「同じような条件のテナント物件が他に見つからないので、今の場所を立ち退きたくない」
上記のような事情から、貸主の立ち退き要求を断りたいと考えているのであれば、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は借り主の代理人として、貸主との間での交渉を代行します。
借地借家法のルールを踏まえつつ、立ち退く義務がないことを決然と主張します。仮に立ち退きを受け入れるとしても、できる限り多くの立ち退き料を得られるように、貸主の態度を見ながら適切に交渉を進めます。
不動産の立ち退きに関するトラブルにお悩みの企業は、お早めに弁護士へご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、立ち退きトラブルに関する企業のご相談を随時受け付けております。ぜひお早めにご相談ください。
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