企業法務コラム
企業が業績の回復をはかる手段として「早期退職制度」の導入が検討されるようになっています。早期退職制度という言葉からは、「リストラ」や「クビ」などのネガティブな内容をイメージされる場合もあります。
しかし、早期退職制度は、企業だけでなく労働者側にもメリットのある制度となり得るものなのです。企業が早期退職制度を導入するにあたっては、労働者からネガティブなイメージを持たれることを避けるための対策を行うことが重要になります。
本コラムでは、早期退職制度のメリットとデメリット、実施の方法、トラブルを避けるための運用の注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
まず、早期退職制度の概要や、類似する他の制度との違いについて解説いたします。
早期退職制度とは、会社が通常の退職よりも有利な条件を提示して、退職希望者を募集して、定年前に退職を促す制度のことを指します。
早期退職制度は、業績が低迷したときの人件費削減の手段として使われることもあります。また、将来を見据えた事業規模に見合う人員構成を目指すための手段として使われることもあります。この場合には、人員削減や世代間の人員バランスの調整などの会社側の事情から従業員の人数をコントロールしたいときに、優遇措置と引き換えに従業員に退職してもらう、というかたちで使われることになります。
早期退職制度と似た制度として、「希望退職制度」というものが存在します。
希望退職制度とは、主に業績悪化に伴う人件費削減や将来の経営リスクに備えて、時期や人数を限定して退職者を募集する制度のことを指します。
早期退職制度と希望退職制度は、いずれも、「退職するかどうか」を労働者本人の判断に委ねて、退職にあたって一定の優遇措置を設けるという共通点があります。
ただし、希望退職制度は、人件費削減を主な目的として、目標人員を明示して、期間を限定する方法で行われるものです。一方で、早期退職制度は、目標人員を定めず、恒常的な制度として実施される、という点で異なっているのです。
選択定年制とは、会社が設定した条件に該当する労働者について、定年に達する前に退職することによって、優遇措置を受けられる制度のことをいいます。定年前に早期に退職するという点や、退職にあたって優遇措置を受けられるという点では、早期退職制度と共通する制度になります。しかし、選択定年制は、自己都合退職として扱われることになりますので、会社都合退職として扱われる早期退職制度に比べると、失業保険の待機期間や受給期間という点で労働者側にデメリットがあるのです。
問題社員のトラブルから、
会社が早期退職制度を導入して、従業員の退職希望を募るにあたっては、従業員が応募しやすくなるように効果的な優遇措置を設定して制度を設計しなければなりません。
優遇措置の具体的な種類について、解説いたします。
早期退職制度によって退職する労働者には、通常の退職金に加えて、割り増し退職金を支給するという措置を講じることが考えられます。早期退職制度を実施している企業には、割り増し退職金を優遇措置として導入しているところが多いでしょう。
割り増し退職金の内容としては、退職者に一律の割り増し退職金を支給するほか、年齢・勤務年数別に段階的に割り増し退職金を支給するという対応にすることができます。自社の経営状況や社風などを考慮したうえで、制度を設計するとよいでしょう。
特別休暇制度とは、労働基準法で定められた休日以外に、企業が独自に労働者に対して休日を付与する制度のことを指します。一般的には、「慶弔休暇」や「リフレッシュ休暇」などの名称で採用されることが多い制度です。
早期退職制度には労働者のセカンドキャリアの促進という目的もありますので、労働者が新たな就職先を見つけるまでの期間として特別休暇を与えることも、優遇措置の一つとして考えられます。なお、特別休暇を有給とするか無給とするかは、企業の側で自由に決めることができます。
また、早期退職制度に応募した労働者に有給休暇が残っているときには、すべて消化してからの退職とする方法や、それが難しいようであれば有給休暇の買い上げという措置などを検討すべきでしょう。
退職後の転職や再就職先を支援することも、優遇措置の方法として検討することができます。
早期退職制度を導入する主な目的が経営状態の悪化による人件費削減である場合には、退職者の目標人員を達成することが必要になります。金銭的な優遇措置だけでは十分な効果が見込めないときには、再就職先を支援する制度も導入してみることをおすすめします。
問題社員のトラブルから、
早期退職制度には、メリットだけでなくデメリットも存在します。制度を導入する際には、メリットとデメリットを踏まえて慎重に判断する必要があるのです。
早期退職制度の最大のメリットは「人件費の削減」です。勤続年数が長い労働者ほど毎月の給与額は高額になってしまうため、定年前に退職をしてもらうことで、毎月の人件費を大幅に減少することができるのです。したがって、業績が悪化した企業では、整理解雇に踏み切る前段階として早期退職制度が実施されることがあります。
また、業績が好調な企業においても早期退職制度を実施するメリットがあります。それは、「人員の入れ替えによって、企業の若返りや活性化をはかることができる」という点です。少子高齢化がすすんだことで、企業内でも高齢の社員が増えてきています。これによって、若手社員の活躍の場が少なくなったり、優秀な人材が昇進できなかったりするといった弊害が生じています。しかし、早期退職制度を導入して中高年層の希望退職者を募ることによって、企業の若返りや若手社員のキャリア形成の促進が期待できるのです。
早期退職制度の優遇措置として「割り増し退職金」の制度を導入すると、長期的には人件費が削減できるとしても、短期的には人件費の支出はむしろ増えてしまうことになります。
また、「誰が早期退職を応募してくるか」ということを事前に正確に把握することはできません。そのため、優遇措置をあまりに労働者側にとって有利に設定しすぎると、会社に残ってほしい優秀な人材まで流出してしまうというリスクがあるのです。
問題社員のトラブルから、
早期退職制度を導入・実施するためには、以下のような手続きが必要になります。
早期退職制度を実施する前段階として、社内において早期退職制度の制度設計を行う必要があります。
具体的には、早期退職制度導入の目的、規模、時期、対象者、優遇措置などを検討する必要があります。とくに、優遇措置の内容によっては、想定していた規模の退職者が集まらないといったことや、反対に、必要な人材が流出してしまったという事態も生じる可能性があります。そのため、「どの程度の優遇措置をとるか」ということについて、導入する前から慎重に判断する必要があるのです。
また、早期退職制度を実施するにあたっては、経営者や現場の役職者に対して早期退職制度導入の必要性について説明して、社内コンセンサスを得たうえで導入をすすめることが重要になります。
なお、早期退職制度は、「重要な業務執行」(会社法362条4項)に該当します。そのため、制度の実施を決定する際には、取締役会を開催する必要があるのです。
① 従業員に対する条件提示
早期退職制度の実施する際には、早期退職制度の募集基準(実施要領)を従業員に対して明示しましょう。募集基準は、トラブルが起こらないように明確に定めておく必要があります。具体的には、以下のような事項を定めておくとよいでしょう。
従業員に条件を提示する方法としては、回覧、文書での掲示、説明会の実施などの選択肢があります。
② 面談
早期退職制度の実施を発表したあとは、従業員の個人面談をすすめましょう。早期退職制度の趣旨や目的を理解してもらうためには、文書による掲示だけでは不十分なことが多いため、より理解を深めてもらうためにも、早い段階で面談を行ったほうがよいでしょう。とくに、早期退職制度導入の目的が「経営不振の脱却」である場合には、従業員に経営の実態を理解してもらうことが不可欠となるのです。
また、割り増し退職金や優遇措置が従業員ごとに異なるケースでは、個々の従業員にとっては「自分が制度を利用したときには、どの程度の優遇措置を受けられるか」が早期退職に応募するかどうかを判断するうえで重要な要素となります。そのため、従業員と面談を行う際には、その従業員が早期退職制度を利用した場合の具体的な条件についても明確に回答できるようにしておきましょう。
③ 辞令発令
退職日を決定したあとには、退職者に対して辞令を発令することが必要になります。
希望退職者が退職届を提出し、会社側が辞令を発令することによって、会社と従業員との間の雇用契約は効力を失うことになるのです。
問題社員のトラブルから、
早期退職制度を運用する際には、以下のような点に注意する必要があります。
早期退職制度は退職勧奨とは異なり、特定の労働者に対して行うものではなく、一定の条件を満たす労働者に対して広く募集するものです。そのため、会社側としては、想定以上の退職希望者が出てしまったり、重要なポストを担う人材が流出してしたりしまうリスクがあるのです。
そのようなリスクを回避するために、早期退職制度の適用がある労働者の範囲を限定すること(勤続年数、年齢、部署、職種など)や早期退職制度の利用にあたっては会社の承諾を得ることを条件とするなどの措置をとるとよいでしょう。
なお、希望退職者に対して会社の承諾を要件とすることや優遇措置の内容に差異を設けることは、法律的な問題となる場合もあります。そのため、制度の導入にあたっては弁護士に相談することをおすすめします。
早期退職制度を実施する際には、目的や内容について周知を徹底することが重要です。
早期退職制度は、組織の活性化という前向きな目的で利用される一方、リストラ(整理解雇)の前段階として利用されることがあります。早期退職制度の実施を決めたとしても、その目的が従業員に十分に理解されていないと、経営不安をあおり、業務に混乱が生じることがあるのです。
また、早期退職制度の内容が不明確である場合には、「そんな条件であれば応募しなかった」など、制度の内容を誤解した労働者との間でトラブルが生じる可能性があります。
そのため、早期退職制度の内容や応募方法などについては、明確に周知するとともに個別の面談でも具体的に説明するようにしましょう。
早期退職制度に限った問題ではありませんが、退職する労働者との間には誓約書や秘密保持契約書などを作成し、退職後にも守秘義務を徹底することが重要です。
早期退職制度の対象となる労働者は、ある程度知識や経験のある中高年層であることが多いでしょう。したがって、重要な企業秘密やノウハウを有していることが珍しくないといえます。そのため、会社にとって重要な情報が転職先の他社に流出することがないよう、通常よりもさらに徹底した対策が必要になるのです。
問題社員のトラブルから、
近年の経済の状況を受けて、早期退職制度の導入は多くの企業で検討されています。
しかし、早期退職制度を実施する際には、退職や優遇にかかる条件や実施のルールなどについて入念に検討する必要があります。また、場合によって法律的なトラブルが生じる可能性もあるのです。法律的に問題なく早期退職制度を導入するためにも、ぜひ、ベリーベスト法律事務所の顧問弁護士サービスをご利用ください。
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