企業法務コラム
コロナ禍などを原因とする業績悪化により、収支がひっ迫している企業は少なくありません。収支改善のためには、人員削減(リストラ)を行うことも、場合によっては検討すべきでしょう。
ただし、人員削減には法律上の留意事項があるので、弁護士への事前相談をおすすめいたします。
この記事では、企業が人員削減を行う際に注意すべき点や、人員削減以外のコストカット手法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
人員削減とは、企業が人件費を削減する目的で、全体の労働者数を減らすことをいいます。
人員削減の動機としては、社会の景気悪化・企業の不祥事・不採算部門の撤退など、さまざまなパターンが考えられます。
特に最近では、新型コロナウイルス感染症の影響による業績悪化を理由に、人員整理を行う企業も少なくないでしょう。
問題社員のトラブルから、
人員整理には、企業の収支を改善できるメリットがある一方で、従業員との間で労務紛争を引き起こすリスクがあります。
人員整理のメリットにして最大の目的は、人件費をコストカットして企業収支を改善することにあります。
好調時よりも売り上げが低下した企業は、コストを削減しなければ赤字体質となってしまいます。コストカットを目指す際に、まずターゲットとなるのが、企業にとって負担の重い固定費である「人件費」です。
人員削減は、人件費にメスを入れることで固定費を減らし、企業収支を健全化することを意図して行われます。
人員削減によって収支が改善すれば、倒産リスクも減りますし、余剰資金を設備投資などに振り分けることもできるので、企業にとって多くのメリットがあるといえるでしょう。
ただし、人員削減のやり方によっては、従業員との間で労務紛争が発生してしまうおそれがあるので注意が必要です。
後述するように、会社が従業員を強制的に退職させる(解雇する)ことは、労働契約法によって厳しく制限されています。
そのため、人員削減を行う際には、できる限り解雇以外の方法を選択することをおすすめいたします。
問題社員のトラブルから、
人員削減の方法にはさまざまなパターンがありますが、その中でも代表的な方法の概要・特徴について解説します。
新卒採用の数を絞り、中途採用も必要最小限度にとどめれば、入社する従業員よりも退職する従業員の方が多くなり、結果的に人員削減につながります。
ただし、従業員の新陳代謝が進まずに高齢化し、組織としての活力がなくなってしまうおそれがあることに注意が必要です。
派遣社員を受け入れている場合には、期間満了をもって派遣契約を更新せずに人件費を削減することも考えられます。
なお、期間満了に伴う契約終了は特段制限されませんが、期間途中での解約については、原則としてやむを得ない事情と派遣元の同意が必要である点に注意しましょう。
雇用期間の定めがある有期雇用労働者(契約社員)については、期間満了をもって雇用契約を終了することで人員削減を実現できます。
これを有期雇用労働者の「雇い止め」といい、通常の解雇よりは法律上のハードルが低いのが特徴です。
契約の期間が5年を超える場合
ただし、有期労働契約の期間が5年を超える場合、労働者の申し込みによって無期労働契約に転換されてしまいます(労働契約法第18条第1項)。
有期労働契約が更新されたものとみなされるケース
また、以下のいずれかに該当する有期労働契約について、雇い止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、労働者の申し込みによって従前と同一内容の有期労働契約が更新されたものとみなされる点にも注意しましょう(同法第19条、いわゆる「雇い止め法理」)。
主に中高年層の労働者に向けて、早期希望退職者(早期退職者)を募集する方法もあります。
希望退職募集の際には、賃金の1年分~2年分程度の割り増し退職金を提示するのが一般的です。
そのため、一時的に人件費は増大しますが、数年以上のスパンで見れば、人員削減による人件費の削減が実現できるでしょう。
従業員に対して個別に退職をお願いする「退職勧奨」も、人員整理の手法としてはよく用いられます。
退職勧奨はあくまでも、労働者が任意に退職に応じることが前提となります。
退職勧奨の状況などに鑑み、実質的に会社が従業員に対して退職を強制していると評価される場合には、解雇と同様の厳格な規制が適用されてしまうので注意しましょう。
経営不振などを理由として従業員を強制的に退職させる「整理解雇」は、人員削減の最後の手段です。
後述する「解雇権濫用の法理」(労働契約法第16条)により、厳格な要件を満たす場合にのみ整理解雇の適法性が認められます。
そのため、会社が従業員を解雇するためには、事前に慎重な法的検討を行うことが必須です。
問題社員のトラブルから、
労働契約法第16条に定められる「解雇権濫用の法理」により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は違法・無効となります。
整理解雇についても、この「解雇権濫用の法理」が適用され、会社が従業員を整理解雇するための要件はかなり厳しくなっています。
整理解雇における解雇権濫用の法理は、「整理解雇の4要件」として裁判実務上具体化されています。
整理解雇の4要件の概要は、以下のとおりです。
① 人員整理の必要性
整理解雇をしなければ経営が破綻すると認められるほど、高度の必要性が要求されます。
② 解雇回避努力義務の履行
整理解雇の前に、役員報酬の削減・新規採用の停止・希望退職者の募集など、解雇以外の手段によるコストカットの努力を十分に尽くす必要があります。
③ 被解雇者選定の合理性
整理解雇の対象者は、業績や能力などの客観的な基準により選定しなければならず、経営者の好みなどの恣意的な選定は認められません。
④ 手続きの妥当性
労働者(および労働組合)に対して、整理解雇の必要性や基準などを十分に説明し、納得を得ることが求められます。
会社が従業員を整理解雇する際には、事前に上記の各要件を満たしているかどうかを検討する必要があります。
新型コロナウイルス感染症による経営不振を原因とする解雇も、法律上は整理解雇に分類されるため、上記の「整理解雇の4要件」を満たすことが必要です。
具体的には、使用者は整理解雇を実行する前に、以下のステップを踏みましょう。
整理解雇の要件を満たしているかどうか不安な場合は、一度弁護士までご相談ください。
問題社員のトラブルから、
既存の従業員について人員削減を行うと、労務紛争に発展してしまうリスクがあります。
そのため、人員削減以外の手法も実践し、企業にとってのリスクを抑えながらコストカットを実現しましょう。
人員整理以外に考えられる主なコストカット手法は、以下のとおりです。
人件費以外にも、毎月無駄にかかっている費用を見直すことで、企業の収支を健全化できます。
各部署の業務が効率化できれば、社内全体として時間外労働が減少し、結果的に人件費を減らすことができます。
基本給をカットすることは原則として認められませんが、賞与の額は会社の裁量によって柔軟に調整することが可能です。
従業員のモチベーションにも関わるため、さじ加減が難しいところですが、十分に説明を尽くし、業績が上向いた際には優遇することを約束したうえで、一時的に賞与をカットすることはあり得るでしょう。
コロナ禍による売り上げ減少などの要件を満たす事業者は、従業員に対して支給する休業手当(労働基準法第26条)の補填として「雇用調整助成金」を受け取ることができます。
(参考:厚生労働省:雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例))
雇用調整助成金を活用すると、従業員の雇用を維持しながら、実質的に人件費を削減することが可能です。
対象となる事業主の方は、厚生労働省の窓口に問い合わせされることをおすすめします。
問題社員のトラブルから、
コロナ禍で苦境に立たされている企業はコストカットが急務ですが、人員整理は手順や方法を誤ると、労務紛争に発展するリスクがあります。
ベリーベスト法律事務所では、事業主の方からの労務に関する全般的なご相談を受け付けています。
コロナ禍などを原因とする業績不振により、人員整理をご検討中の事業主の方は、お早めにベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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