企業法務コラム
飲食店の経営者の方々にとって、客による無断キャンセルは深刻な問題となっています。コース料理や座席などの予約をしておきながら、当日になっても何の連絡もせずに店を訪れない客の存在は、食材費・人件費の損失から機会損失まで、様々な負担を飲食店に与えます。
そのため、飲食店を経営するうえでは、無断キャンセルを予防するための効果的な施策を検討して実施することが重要になります。また、もし無断キャンセルが発生してしまった場合には、内容証明郵便や少額訴訟などによる損害賠償の請求を速やかに行うことが重要になります。
本コラムでは、飲食店を悩ませる無断キャンセル問題の概要から無断キャンセルの予防策、損害賠償請求を行う方補う、そして飲食店が顧問弁護士サービスを利用することのメリットについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説いたします。
予約客の無断キャンセルは、飲食店にとって悩ましい問題になっています。
本来なら、予約をしてもらうことは仕入れの準備がしやすくなり、売り上げの見込みも確実となるため、お店にとっては喜ばしいことです。特に高級店では、予約客が売り上げの大半を占めている場合が多いでしょう。
しかし、近年では、予約当日になっても客が来店せずにキャンセルの連絡もしない、「無断キャンセル」が問題となっています。
無断キャンセルは、予約されていた分の売り上げがなくなるということの他にも、店に損害を与える行為です。予約客に電話しても相手が応答しない場合、「遅れているだけで、いつか店にあらわれるかもしれない」という可能性を考慮しなければならないために、その間は予約分のテーブルや座席を他の客のために使うことができません。そのため、本来なら別の客から得られていたはずの利益も失われてしまう場合があるのです。
また、令和2年では、新型コロナウイルスによる会食の減少を受けて、テイクアウトも増えています。そして、「テイクアウトを注文しておいて、取りに来ない」というかたちの無断キャンセルも増えているのです。
テイクアウトの場合、客が所定の時間に受け取りに来ることを前提に調理をして、持ち帰り用の容器にセットして待つことになります。
これがキャンセルになると、食材を他に転用することもできず、容器も廃棄せざるを得ません。そのため、食材費と容器代がすべて損失になってしまうのです。
一言に「キャンセル」と言っても、「無断キャンセル」と「ドタキャン」では意味するところが異なります。
ドタキャンとは、「直前にキャンセルすること」です。
無断キャンセルとは異なり、直前とはいえ、連絡はされるという違いがあります。このため、無断キャンセルよりはドタキャンの方が、飲食店としては対応がしやすい行為といえるでしょう。
たとえば、当日の午後7時に予約していたときに、午前中にキャンセルの連絡をしてもらえれば、キャンセル後に他の客が連絡した場合には当日に予約を入れることはできます。
また、午後7時直前になってキャンセルされた場合でも、席を空けて、予約のない客を入れることができるからです。
客側の心理としては、当日に電話でキャンセルを伝えることが負担になって、つい無断キャンセルしてしまう場合があるでしょう。
そのため、「キャンセルする場合は、当日でもよいので、できるだけ早く連絡してください」と、予約の際にアナウンスすることで無断キャンセルを防げる可能性があります。
無断キャンセルをすることで飲食店に発生する損害の例として、下記のようなものがあります。
材料費の被害については、高級店である場合や、日持ちしない生ものを多く扱うお店である場合に、深刻なものとなるリスクが特に高まります。
人件費はついては、材料のように他に転用することができないので、他にお客が入らない場合には純粋な損害となります。
機会損失とは、「無断キャンセルした予約の客が入らず、席を空けていた場合に、得られたと判断できる利益額」のことです。たとえば、座席が予約のため10席空席のまま使われなかった場合、1人当たりの平均利益額が3,000円だとすると、30,000円の損失ということになります。
また、満席を理由に客を断った場合には、その客が他の飲食店に流れてしまい、次回以降はお店に来てくれなくなる可能性が生じます。これも、機会損失の一種です。
基本的なことですが、予約客の電話番号と氏名を確認しておくことで、予約時間を過ぎても客が来ない場合には電話して状況を確認することができます。
予約の際には名字だけでなくフルネームでの予約を取ることをマニュアル化することで、もし無断キャンセルされた場合にも人物が特定しやすくなり、損害賠償の請求がしやすくなります。また、フルネームと電話番号の両方を確認されることで、客としても無断キャンセルを行うことに抵抗感を抱くようになる、という効果も期待できるのです。
予約日の前日や、当日の朝などに、店側から客に電話をかけて「予約に変更はないか」という点を確認することも有効な対策です。
客の故意ではなく、単に忘れていただけという理由の無断キャンセルは、店側から確認を行うことで予防できます。
特に大人数での予約が入っている場合には、事前の確認が重要になります。
また、店側から突然に連絡されることを嫌がる客もいます。そのため、予約の時点で「前日または当日に店側から確認の連絡を行います」と伝えておくとよいでしょう。
無断キャンセルをする人のなかには、「自分は料理を食べていないのだから、お金は払う必要はない」と考えている人がいるでしょう。
予約の段階で、「当日のキャンセルの場合にはキャンセル料が発生するので、キャンセルする場合には前日までに連絡してください」と告知しておくことで、そのような人のキャンセルを防ぐことができる可能性があります。
また、「予約時間から20分経過した場合には自動的にキャンセルとなる」などのポリシーを定めることも有効です。20分待って来なかった場合には他の客を入れることができるようにすることで、被害を最小限にくい止めることが可能になります。
前払い制やデポジット(預り金)制度の導入も、無断キャンセルを防ぐ有効な手段です。
お金を事前に払っていれば、余程のことがない限り、来店するためです。また、もし来店しなかった場合にも、すでに預かっているお金からキャンセル料を差し引いて、被害を補填することができます。
ただし、前払い制やデポジットに対応したシステムや決裁制度を整備することが前提となります。
無断キャンセルがあった場合に、上限の範囲内で代金の全額を保証してくれるサービスがあります。このような保証サービスに加入するというのもひとつの方法です。ただし、毎月数千円の負担で保証料を払う必要があります。
無断キャンセルを行った客に対しては、民事訴訟を行って損害賠償を請求することができます。
民事訴訟の内容としては、「不法行為」に基づく損害賠償請求か、「債務不履行」に基づく損害賠償請求か、どちらかになります。
不法行為の場合、立証責任は原告にあるため、立証できない場合には損害賠償が請求できなくなる可能性があります。そのため、債務不履行で訴えた方がよいでしょう。
損害額については、客がコースを予約していた場合には、「コース料金の全額」を請求できる可能性があります。
ただし、食材費や人件費などのうち、他の客へのサービスに転用したものがある場合には、その分が損害額から差し引かれる必要があります。
料理の予約はなく、座席だけが予約された場合には、平均客単価の5~7割をキャンセル料として請求できる可能性があります。
平均客単価の全額を請求できない理由は、「無断キャンセルがなければ、その分の座席を他の客によって埋められていた」と言い切ることは難しいためです。また、コース予約の場合と同様に、他の客へのサービスに転用できた費用を損害として請求することはできません。
通常、損害賠償を請求する際には、裁判を行う前にまず相手の住所を調べて内容証明郵便を送付します。
この際に弁護士に依頼して、弁護士の名前付きの内容証明郵便を送付することで、裁判をせずとも相手が損害賠償を行ってくれる可能性が高まります。弁護士という文字を目にすることで、こちらが法律的手段に訴えるほど真剣に損害賠償を請求する意志であることが伝わるためです。
もし内容証明郵便を送付しても相手が無視を続けるようであれば、次には、「支払督促」か「少額訴訟」という手段を検討することになります。
内容証明郵便も無視するような相手である場合には、裁判所からの書面も無視されてしまう可能性が高いでしょう。
その場合には、差し押さえを実地するために、請求額について債務名義を取ることが可能です。
ただし、実際にお金を回収するためには、相手の銀行口座などの財産について調べる必要があるため、その分の調査費用がかかります。弁護士費用も発生するため、請求する金額によっては赤字となってしまう可能性がある点について、注意してください。
予約客に無断キャンセルをされてしまった場合でも、支払督促や少額訴訟などの手段を実施することで、損害賠償を請求することは可能です。
ただし、損害賠償の請求には手間や労力がかかります。また、訴訟などの手段には費用もかかるため、無断キャンセルによって生じた損害の金額によっては、賠償を請求することにメリットがない場合もあるのです。
そのため、そもそも無断キャンセルが発生しないような仕組みを店側で設けて、予防することが重要であると言えるでしょう。
顧問弁護士サービスを利用すれば、無断キャンセルの問題に効果的に対処して予防することが可能な利用規約や契約を、専門的な法律知識に基づいて作成することが可能です。
また、もし無断キャンセルが発生した場合にも、損害額や店の事情について考慮したうえで、最善の対処をするための判断をくだすことができます。
また、弁護士名義で内容証明郵便を送ったり、「店側の顧問弁護士です」と名乗って電話したりするだけでも、軽い気持ちで無断キャンセルを行った客が反省してすぐにキャンセル料を払ってくれる、という可能性が高くなるのです。
弁護士と顧問契約を締結していれば、無断キャンセルの他にも、お客様同士のトラブル、従業員とのトラブルや労使問題、事業拡大に伴う契約・規約の改訂など、法律的な問題について幅広く対応させられます。
無断キャンセルの問題や、その他の法律トラブルにお悩みの飲食店経営者様は、ベリーベスト法律事務所にまで、お気軽にお問い合わせください。顧問弁護士サービスの内容について、丁寧に説明いたします。
本コラムでは、飲食店の経営者の方々向けに、無断キャンセルを予防する方法と損害賠償を請求する方法について解説いたしました。
顧問弁護士サービスを利用することで、無断キャンセルを効果的に予防することができます。また、もし無断キャンセルが発生した場合にも、損害賠償の請求を速やかに開始することができます。
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顧問弁護士の利用を検討されている飲食店の経営者様は、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所にまでお問い合わせください。
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