企業法務コラム
物品などのデザインは、知的財産権のひとつである「意匠権」によって保護されています。
登録意匠を意匠権者に無断で模倣すると、意匠権者から意匠権侵害訴訟を提起され、場合によっては巨額の損害賠償義務や刑事罰などが科されることにもなりかねません。そのため、自社で新たにデザインなどの開発を行う際には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめします。
この記事では、意匠権の概要・侵害時のペナルティー・意匠権侵害によるトラブルを回避するための対処法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
まずは、意匠権の目的・要件・存続期間・確認方法など、基本的な制度概要について解説します。
意匠権は、いわゆるデザインを保護することを目的とした知的財産権です。
商品・建築物・店舗などに魅力的なデザインを採用すると、顧客の購買意欲を促進し、大きな経済的利益を得られる可能性が高まります。その一方で、デザインは公衆の面前に提示されるため、比較的容易に模倣の対象となってしまう側面があります。
そこで、デザインを生み出した人の出願に応じて「意匠権」を認め、無断での模倣を禁止することにより、デザインから得られる経済的利益を保護することが意図されているのです。
意匠権の保護対象となる「意匠」は、以下のとおり定義されています。
【意匠法 第2条第1項】(一部省略)
「意匠」とは、物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合、建築物の形状等又は画像であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。
現行法における意匠の定義は、社会の中に存在するデザイン全般を幅広くカバーしています。意匠権による保護の対象となるデザインには、次のようなものが具体例としてあげられます。
意匠登録の要件として主なものとしては、次のとおりです。
① 工業上の利用可能性
デザインをビジネス上利用することにより、経済的利益を得られる可能性があることが必要です(意匠法第3条第1項)。
② 新規性
出願前にすでに存在する意匠(公知意匠)の中に、同一または類似した意匠が存在しないことが必要です(同項各号参照)。
③ 創作の非容易性
当業者(意匠の属する分野において通常の知識を有する者。同じような事業を営む他の業者など)が容易に生み出すことのできない程度に、独創性のあるデザインであることが必要です(同条第2項参照)。
④ 不登録事由に該当しないこと
以下の事由のいずれかに該当する場合、意匠登録が認められません(同法第5条)。
⑤ 先願
同一または類似の意匠について2件以上の出願があった場合、一番先に出願した意匠についてのみ、意匠登録が認められます(同法第9条第1項)。
意匠権の存続期間は、原則として「意匠登録出願の日から25年」です(意匠法第21条第1項)。
なお意匠法では、デザインをシリーズ化するケースなどに備えて、出願中または登録済みの自己の意匠に類似した意匠を「関連意匠」として登録することを認めています。この関連意匠については、存続期間が「基礎意匠の意匠登録出願の日から25年」とされているため、基礎意匠(本意匠)の存続期間が満了すると同時に、関連意匠の存続期間も満了することになります。
登録意匠の有無を確認するには、独立行政法人 工業所有権情報・研修館が運営するデータベースを用いると良いでしょう。同データベースでは、登録意匠に加えて、特許権・実用新案権・商標権についての登録情報も検索することが可能です。
(参考:「特許情報プラットフォーム」(独立行政法人工業所有権情報・研修館))
登録意匠と似ているように見える意匠があった際、それが意匠権侵害に該当するかどうかは、非常に微妙な判断になることも多々あります。似ているかどうかの判断基準には抽象的な部分があることも否めませんが、大まかな考え方を理解しておくことが大切です。
知財高裁平成23年3月28日判決(平成22年(ネ)第10014号)では、デザインのうち、もっとも注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、要部について共通性があるかを観察することがポイントであると指摘しています。
つまり、そのデザインたらしめている要素は何かということを、比較対象となる2つのデザイン双方について特定したうえで、その要素が似ているかどうかを検討することが重要になります。
同知財高裁判決では、“意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要する”とも指摘しています。
デザインは全体として見る人に印象を与えるので、部分ごとの類似性を検討することも重要ではあるものの、最終的には全体比較によって意匠権侵害の有無を判断しなければなりません。
その際に目安となるのは、「要部の類似性から受ける印象と、他の部分の差異から受ける印象のどちらが上回っているか」という考え方です。たとえば要部がかなり似ていて、それ以外の部分に細かい違いがあるにすぎないという程度の場合には、意匠全体としては類似性が肯定され、意匠権侵害に当たる可能性が高いでしょう。
一方、要部はある程度似ているものの、それ以外の部分が全く異なっており、全体的に見ると似ているという印象はあまり受けないという場合には、意匠権侵害に当たらないと判断される公算が大きくなります。
意匠権侵害事件が発生した場合、侵害者は法律上、以下のペナルティーを受ける可能性があります。
意匠権者・専用実施権者は、侵害者に対して、意匠の使用その他の侵害行為の停止または予防を請求することができます(意匠法第37条第1項、第2項)。
たとえば、すでにデザインを商品化した後にトラブルになった場合は、商品の全回収などにより多額の損害が発生する可能性があるので、十分注意が必要です。
意匠権侵害は民法上の不法行為(民法第709条)に該当するので、意匠権者・専用実施権者は侵害者に対して、不法行為に基づく損害賠償を請求できます。
なお、意匠法では、損害額の推定規定が設けられています(意匠法第39条)。
意匠権侵害に当たる行為により、意匠権者・専用実施権者の業務上の信用を害した場合、意匠権者・専用実施権者は侵害者に対して、業務上の信用を回復するのに必要な措置を請求できます(意匠法第41条、特許法第106条)。
信用回復措置の例としては、広く公衆に伝わるような形で、日刊紙やテレビCMなどを利用した謝罪広告を行うことなどが考えられます。
意匠権侵害に当たる行為によって不当に利益を得たことにより、意匠権者・専用実施権者が損失を被った場合には、損失と因果関係のある利益を「不当利得」として返還しなければなりません(民法第703条、第704条)。
なお、不当利得返還請求権は、不法行為に基づく損害賠償請求権と範囲が重なる場合があります。
故意に意匠権または専用実施権を侵害した場合、「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」に処され、またはこれらが併科されます(意匠法第69条)。
さらに、侵害者が法人の代表者・代理人・使用人その他の従業者である場合には、当該法人にも「3億円以下の罰金」が科されます(同法第74条第1項第1号)。
他人の意匠権を侵害した場合、企業は経済的な面・評判の面などから、大きなダメージを受けてしまいます。そのため、意匠権侵害が発生しないように、次のような点に留意した予防策をとることが大切です。
登録意匠は前述のデータベースで調査できるので、新奇のデザインを用いた商品開発などを行う際には、すでに類似意匠が登録されていないか、事前に徹底した調査を行うことが重要です。
特に、デザインを採用する予定の商品と同じ機能を持つ既存商品については、同一または類似のデザインが用いられていないかを入念にチェックしましょう。
意匠権侵害が問題になりそうな既存のデザインが見つかった場合、予定どおりデザインを商品化して問題がないかを判断するために、侵害と評価できるほどの同一性・類似性があるかどうか検討しなければなりません。
しかしすでに解説したように、同一性・類似性の判断基準は非常に抽象的であり、一般の方が正確に判断することは困難です。そのため、意匠権侵害のおそれや懸念が生じた場合には、顧問弁護士に相談することをおすすめします。
顧問弁護士に相談すれば、判例などを踏まえたうえで、意匠権侵害のリスクや、どの程度類似性を解消すればビジネス上のリスクが許容範囲に収まるかについて適切なアドバイスを受けられます。
他人の意匠権を侵害した場合、差止・損害賠償請求などによる経済的ダメージを受けることに加えて、最悪の場合、刑事罰が科され企業の社会的な評判を失墜させてしまうことにもなりかねません。
そのため、デザインを商品化する際などには、事前に顧問弁護士に相談をして、意匠権侵害のリスク・可能性・予防策などについて助言を求めることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、知的財産専門チームを設けており、意匠権侵害に関する問題を集中的に取り扱っています。知的財産専門チームには、ベリーベストグループの弁理士も所属しているので、弁護士・弁理士が連携したうえで、意匠権侵害の問題に対処することが可能です。
意匠権侵害の問題にお悩みの企業担当者の方は、ぜひ一度、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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