企業法務コラム
平成26年の会社法改正によって、特別支配株主の株式等売渡請求という制度が創設されました。株式等売渡請求は、少数株主を排除して経営権を集中させるための手段として非常に有効な制度です。また、事業承継や企業の合併・買収(M&A)の場面でも広く利用されている制度です。
事業承継やM&Aを検討している企業では、株式等売渡請求を利用することによって、スムーズな手続きを実現することが可能になる場合があります。
今回は、株式売渡請求に関する少数株主の排除やその手続きなどについてべリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。
株式等売渡請求とは、どのような制度なのでしょうか。制度の概要と具体的な要件について説明します。
株式等売渡請求とは、対象会社の総株主の議決権のうち10分の9以上を有する特別支配株主が一定の条件等を定めて対象会社に対して通知を行い、対象会社においてその承諾や売渡株主に対する通知や公告などの手続きを経ることによって、「少数株主が有する株式など(株式、新株予約権、新株予約権付社債)を強制的にすべて取得することができる制度」のことをいいます。
特別支配株主の株式等売渡請求制度は、平成26年の会社法改正によって導入された制度です。
会社法改正前も、全部取得条項付種類株式を利用することによって、少数株主の株式などを強制的に取得することは可能でした(会社法108条1項7号)。
しかし、この方法は、株主総会決議が必要であること、複雑な手続きが必要であることなどから迅速に手続きを進めなければならないM&Aの場面での不都合性が指摘されていました。
特別支配株主の株式等売渡請求は、株主総会決議が不要であるなど従来の制度に比べて簡略化され、少数株主を排除する必要がある場面ではスムーズに実行することが可能になりました。
株式等売渡請求を行うためには、主に以下の要件を満たす必要があります。
① 特別支配株主
特別支配株主とは、対象となる会社の総株主の議決権の10分の9以上を有している株主のことをいいます(会社法179条1項)。
特別支配株主といえるためには、原則として1人または1社で保有株式要件を満たす必要がありますので、経営陣の株主を合計して10分の9以上となることでは足りません。
また、上記の保有株式要件は、対象会社に「株式等売渡請求の通知する時点」、「対象会社の承認を受ける時点」、「売渡株式等の全部を取得する時点」において満たしていることが必要です(会社法179条の3第1項、179条の9第1項)。
② 対象となる会社
株式等売渡請求の対象となる会社は、公開会社だけでなく、非公開会社も含まれます。
ただし、清算株式会社は、株式等売渡請求の対象となる会社には含まれません(会社法509条2項)。
③ 対象となる株式
特別支配株主は、株式等売渡請求を行う場合には以下の株式を除く対象会社のすべての株式を対象にする必要があります。
スクイーズアウトとは、少数株主の個別同意を得ることなく、支配株主が少数株主の保有するすべての株式を取得することをいいます。
スクイーズアウトは、M&A後の会社運営を円滑化するために、少数株主の会社経営への影響力を排除することを目的として行われることが多いです。
少数株主が任意に保有する株式の売却に応じてくれればよいですが、経営方針に反対する株主は、簡単には売却に応じてくれないでしょう。そのような場合には、株式等売渡請求を利用してスクイーズアウトを実施することでスムーズな株式取得が可能になります。
全部取得条項付種類株式や株式併合などの従来のスクイーズアウトの手段に比べて株式等売渡請求は、手続きが簡易化されていますので、スクイーズアウトを目指す企業にとってはメリットの大きい制度であるといえます。
株式等売渡請求を実施するメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
株式等売渡請求によって、少数株主から強制的に株式を取得することができ、支配株主にすべての経営権を集中させることが可能になります。それによって、会社の意思決定が迅速になり、株主管理に要する事務作業の軽減が可能になります。
また、株主間の対立によって生じる経営の停滞や支配権をめぐる紛争も回避する効果があります。少数株主がいなくなることによって、仮に経営判断の誤りによって会社に損害を与えたとしても、少数株主から訴訟を提起されるリスクがなくなるというメリットもあります。
スクイーズアウトの手段として行われる株式等売渡請求の最大のメリットは、株主総会決議を経ることなく、取締役会決議で行うことができるという点です。
また、株式の端数処理も不要となりますので、スクイーズアウトを実現するための期間が大幅に短縮することができます。
M&Aなどの場面では、早急にスクイーズアウトを完了させる必要がありますので、株式等売渡請求は、効果的なM&Aを実現する手段として有効に機能するでしょう。
株式等売渡請求をする場合には、以下のような手順を踏んで行うことになります。
特別支配株主が株式等売渡請求を行う場合には、対象会社に対して、株式等売渡請求の条件(売渡株式の対価として交付する金銭の額またはその算定方法、売渡株式等の取得日など)を定めて通知することが必要です(会社法179条の2)。
特別支配株主から上記の通知がなされた場合には、対象会社は、支配株主による株式等売渡を承認するかどうかを判断しなければなりません(会社法179条の3第1項)。
対象会社が取締役会設置会社である場合には取締役会決議が必要となり、取締役会設置会社でない場合には、取締役の過半数の決定が必要となります。
対象会社が株式等売渡請求を承認した場合には、取得日の20日前までに売渡株主などに株式等売渡請求を承認したこと、株式等売渡請求の条件などを通知しなければなりません(会社法179条の4第1項1号)。
売渡株主以外の売渡新株予約権者などに対しては、通知ではなく公告で代えることができます。
対象会社は、売渡株主等に対する通知または公告のいずれか早い日から取得日後6か月(非公開会社の場合は取得日後1年)を経過するまでの間、特別支配株主の氏名や株式等売渡請求の条件などを記載した書面または電磁的記録をその本店に備え置かなければなりません(会社法179条の5)。
株式等売渡請求をした特別支配株主は、取得日に売渡株式等のすべてを取得します(法179条の9第1項)。
対象会社は、取得日後遅滞なく、株式等売渡請求により特別支配株主が取得した売渡株式等の数、その他の株式等売渡請求による売渡株式等の取得に関する事項として法務省令で定める事項を記載した書面または電磁的記録を作成し、取得日から6か月間(非公開会社の場合は取得日後1年)、その本店に備え置かなければなりません(会社法179条の10、会社法施行規則33条の8)。
株式等売渡請求を進める際には、以下のような留意点がありますので、それらも踏まえて検討をしていく必要があります。
特別支配株主の株式等売渡請求を実行するためには、対象となる会社の総株主の議決権の10分の9以上を有していることが必要になります。
一般的な会社では、90%以上の議決権を1人の株主が有していることは多くはないため、株式等売渡請求を実行するためには高いハードルがあるといえます。
株式等売渡請求を実施する場合には、少数株主からすべての株式などを取得しなければなりません。そのため、スクイーズアウト後も特定の人を株主として残しておきたいという場合には、特別支配株主が株式などをすべて取得した後に、再度、株式を譲渡しなければなりません。
この場合には、特別支配株主の取得時点と再度の譲渡時点の2回課税されることになりますので、税務上の非効率が生じる可能性があります。
特別支配株主の株式等売渡請求は、少数株主の承諾なく強制的に株式を取得する手続きですので、それに不満のある少数株主に対しては、会社法上対抗措置が規定されています。
たとえば、売買価格に不服がある売渡株主等は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対して、その有する売渡株式等の売買価格決定の申し立てをすることが可能です(会社法179条の8)。
この場合には、裁判所が売買価格を決定しますので、支配株主としては、買い取り価格が想定よりも高騰するという可能性も視野に入れなければなりません。
特別支配株主は、株式等売渡請求によって少数株主の株式を買い取ることが可能ですが、半ば強制的な手続きゆえに、訴訟リスクなど係争へと発展する可能性もあります。株式等売渡請求を進める際には、さまざまなリスクを踏まえて慎重に検討することが必要です。
そのためには弁護士などの専門家による事前の準備・相談が必要不可欠です。また、べリーベスト法律事務所には、事業承継専門チームとM&A専門チームがあり、他士業と連携した対応も可能です。
事業承継やM&Aを検討している方は、べリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
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