企業法務コラム
裁量労働制とは、多様な働き方を労働者が選択できる制度です。裁量労働制を導入することで、残業代の抑制や、専門性を持つ人材の確保につながるメリットがあります。
その反面、導入には労働基準法に基づく手続きが必要となるほか、制度の運用に関する注意点にも留意しなければなりません。
今回は裁量労働制の概要と、導入した場合のメリット・デメリット、労働基準法上の手続きや注意点などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
裁量労働制とは、社会経済の変化により、一定の専門的・裁量的業務に従事する労働者が増加したことがきっかけで導入された制度です。
法律で定められた業務について労使協定でみなし労働時間数を定めた場合には、当該業務を遂行する労働者については、実際の労働時間数にかかわりなく協定で定める時間数労働したものと「みなす」ことができます。
たとえば、みなし時間を7時間とした場合、実際には9時間働いていても、2時間働いていても、7時間働いたものとみなされます。
労働基準法では、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類が認められています。
専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)の対象となる業務は、以下に限定されています。
具体的には、厚生労働省令(労働基準法施行規則24条の2の2第2項)において規定する5業務のほか、平成9年厚生労働大臣告示7号において規定する6業務、平成14年厚生労働省告示第22号において規定する8業務を加えた合計19職種に導入が認められています。
専門業務型裁量労働制を導入するにあたって、業務の実態、その遂行方法はそれぞれなので、上記業務のうち、具体的にどのようなものについて本制度を適用するかについては、業務実態等を熟知している労使間で協議し、労使協定で決めることとなっています。
そして、本制度が適用された場合、対象労働者には業務の遂行方法や時間配分について、大幅な裁量が与えられます。勤務時間も原則として労働者の自由となります。
企画業務型裁量労働制(労働基準法第38条の4)は、
に「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」(労働基準法38条の4第1項第2号)が就く場合のみ導入が認められます。
対象労働者か否かは、対象業務ごとに異なりうるものであり、この範囲を特定するために必要な職務経験年数等は異なっていますが、たとえば、大学の学部を卒業した労働者であって全く職務経験がない労働者は、客観的にみて対象労働者に該当し得ず、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験が必要とされます。
専門業務型裁量労働制と異なる点
専門業務型裁量労働制とは異なり、対象職種は厳密に限定されてはいませんが、導入要件は厳格に設定されています。
対象労働者に対して、業務の遂行方法や時間配分につき大幅な裁量が与えられる点は、専門業務型裁量労働制と同様です。
問題社員のトラブルから、
労働基準法で認められている労働時間制度はいくつかあり、裁量労働制と比較されるケースも多いです。
裁量労働制と各労働時間制度について、どのような違いがあるのかを確認しておきましょう。
事業場外みなし労働時間制は、
という制度です(労働基準法第38条の2)。
この制度の対象となる業務は、
となります。
事業場外で業務に従事する場合の考え方
1日の労働時間の全部を事業場外で業務に従事する場合だけではなく、1日の労働時間のうち一部を事業場外で業務に従事する場合についてもその日の労働時間を算定することが困難な場合には、対象となります。
一方で、事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能なので、この制度の適用はありません。
たとえば、取材記者や外勤営業社員などはこの制度が適用される可能性があります。
フレックスタイム制は、
こととした制度です(労働基準法第32条の3)。
この制度は、労働者の自由な時間管理が保障されることを前提として、各日、各週の労働時間を予め特定することを要件とせずに、日または週の法定労働時間を超えて労働させることを認める制度です。
フレックスタイム制には、みなし労働時間が適用されない
フレックスタイム制の場合、裁量労働制とは異なり、みなし労働時間が適用されるわけではありません。また、労働者は一定の範囲内で労働時間を自由に決められるものの、業務上の幅広い裁量が与えられるわけではありません。
高度プロフェッショナル制度は、
に従事し、かつ
の給与が保障された労働者に対してのみ適用し得る労働時間制度です(労働基準法第41条の2)。
高度プロフェッショナル制度は、
を対象として、労使委員会の決議や労働者本人の同意を前提として、
ことにより、労働基準法に定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定が適用除外になる制度です。
問題社員のトラブルから、
裁量労働制には、企業側・労働者側の双方にとって、メリット・デメリットの両面が存在します。裁量労働制の導入を検討する際には、会社としてだけではなく、労働者にとっても導入がプラスになるかどうかを、総合的な観点から判断することが大切です。
メリット
デメリット
メリット
デメリット
問題社員のトラブルから、
企業が裁量労働制を導入するには、労働基準法に基づいた手続きを経る必要があります。
① 専門業務型裁量労働制を導入する場合
会社と労働組合等との間で、労使協定を締結する必要があります(労働基準法38条の3)。
この協定には、裁量労働に該当する業務と当該業務の遂行に必要とされる時間を定める必要があります。この時間は、1日当たりの時間数を定めることとされています。
また、当該事業場における裁量労働に該当する業務がいくつかに類型化され、それぞれごとにその遂行に必要とされる時間が異なる場合には、労使協定でそれぞれに時間数を決めることになります。
② 企画業務型裁量労働制を導入する場合
労使委員会(労働者側が半数以上を占め、労使の代表者で構成された委員会)において、全委員の5分の4以上の多数による決議を行うことが必要です(労働基準法38条の4)。
当該決議において、以下の点の事項を決める必要があります。
裁量労働制の導入に関する労使協定・労使委員会決議を、事業場を管轄する労働基準監督署に提出します。
裁量労働制の導入は、始業・終業時刻や賃金の計算方法等に関する変更を伴うため、就業規則の変更も必要です。変更後の就業規則を、事業場を管轄する労働基準監督署に届け出することも忘れずに行いましょう。
企画業務型裁量労働制の場合
企画業務型裁量労働制に限り、みなし労働時間制の適用について、対象労働者の同意を得る必要があります(同法第38条の4第1項第6号)。
専門業務型裁量労働制の場合
これに対して専門業務型裁量労働制は、対象職種に従事する従業員について一律に適用されるため、個別に同意を取得することは不要です。
問題社員のトラブルから、
裁量労働制は導入して終わりではなく、その後の運用に関しても注意すべきポイントがあります。
必要に応じて弁護士のアドバイスを受けながら、裁量労働制の円滑な運用を目指しましょう。
裁量労働制で働く労働者は、働く時間を自由に定めることができるため、残業という考え方がなくなります。
しかし、法定労働時間(1日8時間/週40時間)は適用されるため、みなし労働時間が法定労働時間を超過した場合は、残業代(時間外手当)が発生します。
また、法定休日に労働した場合や、深夜労働をした場合も、通常の労働形態と同様に割増賃金が発生するので注意しましょう。
裁量労働制は、労働者に裁量はあるものの会社が管理をしなくてもよい、ということではありません。みなし労働時間と実際の労働時間に大幅な乖離(かいり)がないかなど、継続的に確認することが大切です。
裁量労働制で働く労働者については、会社の労務管理が十分に及ばず、長時間労働や深夜労働が慢性化するケースも少なくありません。
そのため、会社には健康・福祉確保措置を講ずることが義務付けられています。
問題社員のトラブルから、
裁量労働制を導入してうまく活用すれば、労働者の生産性向上や、有能な人材の確保につながる可能性があります。
一方で、裁量労働制の導入・運用に関する労働基準法のルールには注意すべきポイントが多く、漏れないように対応するのは非常に大変です。
弁護士にご相談いただければ、労使協定の締結や労使委員会決議、就業規則の変更、労働基準監督署への届け出など、必要な手続きを総合的にサポートします。
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