企業法務コラム
ストックオプション制度は、会社が金銭を負担することなくインセンティブ報酬を用意できる点などが評価され、近年いっそう注目を集めています。
ストックオプションの発行にはさまざまな手続きが必要となりますので、導入を検討する企業は、弁護士のサポートを受けながら検討・対応を進めましょう。
今回はストックオプション制度について、概要・メリット・手続き・注意点などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
※2023年6月8日:一部、内容を改定
「ストックオプション」とは、会社の役員・従業員・外部協力者などに対して発行される新株予約権のことをいいます。
ストックオプションの権利者は、会社の成長によって株価が上昇したタイミングで権利を行使し、権利行使価額で株式を取得します。
そして、取得した株式を売却することで、売却時の株価と権利行使価額との差額を、権利者の利益とすることが可能です。
会社の評価(株価)が上がるほど、権利行使時に利益を多く得られる仕組みであるため、ストックオプションは従業員等へのインセンティブ報酬として広く活用されています。
株式の希釈化に注意
ただし、ストックオプションが権利行使されると、新たに株式が発行されることにより、既存株主の保有割合が低下します。これを「株式の希釈化」といいます。
ストックオプションを発行する際には、将来的な権利行使により、創業経営者などが保有する株式が過度に希釈化されないよう注意が必要です。
ストックオプション制度を導入することによって、会社には主に、以下のようなメリットが生じることを期待できます。
金銭によるインセンティブ報酬の場合、会社には金銭的な負担・支出が発生します。
これに対して、ストックオプションをインセンティブ報酬として発行すれば、会社に金銭的な負担・支出は発生しません。
そのため、資金力が十分でないスタートアップやベンチャー企業では、ストックオプションを活用するメリットが大きいといえます。
先述のとおり、会社が成長して株価が上昇すればするほど、ストックオプションの権利行使・売却による利益は大きくなります。
すなわちストックオプションは、純粋な業績連動型のインセンティブ報酬なのです。
ストックオプションの付与を受けた権利者は、会社に貢献して企業価値を高めることへのモチベーションが高まると考えられます。
ストックオプションにはさまざまな種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。
以下では、ストックオプションの主な種類と特徴について、見ていきましょう。
ストックオプションは、割り当て時に権利者による金銭の払い込みを要する場合と、払い込みを要しない場合の両方があります。
具体的には、以下のように呼ばれています。
インセンティブ報酬として権利者に直接発行されるストックオプションは、無償ストックオプションであるケースが大半です。
これに対して、後述する信託型ストックオプションなどは、有償ストックオプションに該当します。
一定の要件を満たす無償ストックオプションは、所得税・住民税の課税に関して優遇措置を受けられます。以下のように呼ばれます。
税制適格ストックオプションが受けられる優遇措置は、以下の2点です。
ストックオプション制度を導入したい場合、自社の希望に応じて、どのような制度設計が適しているのか、検討することが大切です。
次の章では、ストックオプションの代表的なスキームをご紹介します。
株式報酬型ストックオプションとは、権利行使価額を通常1円に設定することで、実質的には株式そのものと同等の価値を権利者に与える、ストックオプションのスキームです(なお、令和元年の会社法改正で、上場会社の取締役や執行役に付与する場合に限り、権利行使価額をゼロ円にすることが認められました。)。
会社役員に対して、役員退職慰労金の代替として与えられることが多いストックオプションであり、退職金型ストックオプションとも呼ばれています。
一般の従業員の退職金は、会社の退職金規程に基づき支払われますが、役員退職慰労金は必ずしも退職金規程を定める必要はありません。
その一方、役員退職慰労金は従業員の退職金とは異なり、定款で定めていない限り、株主総会で退職慰労金の金額や具体的な算定方法を決議する必要があります。
この役員退職慰労金は固定的・年功的な意味合いが強いことから、株主等からの批判を受けることがあるため、制度を廃止し代替として株式報酬型ストックオプションを導入する会社が増えているのです。
株式報酬型ストックオプションには、以下のようなメリットが考えられます。
このように、株式報酬型ストックオプションは権利者・株主・会社の全員が、恩恵を受けることを期待できるスキームといえるでしょう。
このように、目的によって、制度設計が異なりますので、注意が必要です。
信託型ストックオプションは、あらかじめ信託銀行等の受託者にストックオプションをプールしておき、信託期間中の貢献度に応じて、対象の従業員等へストックオプションを配分するというスキームです。
先述の株式報酬型ストックオプションは権利者へ直接、ストックオプションを割り当てますが、信託型ストックオプションは付与する対象者を後から決めるため、貢献度に応じて公平に分配することができます。
従業員向けのストックオプション制度としても導入しやすいスキームでしょう。
具体的には、創業経営等の委託者が信託銀行等の受託者に金銭を信託し、受託者はその金銭を払い込んでストックオプションを取得します。
そして受託者が取得したストックオプションは、信託期間中の貢献度などによって付与されるポイントに応じて、対象役員・従業員に付与される、という流れです。
通常、ストックオプションを発行するときは毎回、所定の作業や登記が必要となります。
一方、信託型ストックオプションはあらかじめ、信託として発行・保有するため、発行回数を抑えて費用負担を減らすることが可能です。
さらに、委託者がすでに株式の発行価額を負担しているため、付与された権利者は発行価額を支払う必要がありません。
権利者としては、費用を支払うことなく、有償ストックオプションを取得できることになります。
信託型ストックオプションの場合、権利行使時の経済的利益については、最大通算55.945%(所得税最大45.945%、住民税10%)の総合課税が行われます。
ストックオプション制度を会社に導入する際、会社法に従って手続きを取ることが必要です。この章では、基本的な導入の流れをご紹介します。
まずは、何を目的にストックオプションを発行したいのか、情報を整理し、自社に適切なスキームを考えましょう。
そのうえで、導入時期や付与する対象者、権利行使のタイミング等を話し合うことが大切です。
情報整理等が終わったら、会社法上、定める必要がある「募集事項」について協議し、草案をまとめます。募集事項については、次項をご確認ください。
株主総会の特別決議によって定めるべき主な募集事項は、以下のとおりです。
そして、募集事項の決定方法としては、以下の2つの方法があります。
上述の「② 取締役会又は取締役(取締役会がない場合)に募集事項の決定の委任」を選択したとしても、以下の内容は株主総会で決定しなくてはならないため、注意が必要です。
また、役員に対してストックオプションを付与したい場合は、別途、株主総会で決議を取る必要があります。
ストックオプションの募集事項を決定した後、権利者となる者へ申込み事項を通知します。申込み事項として通知するべき内容は以下のとおりです(会社法会社法第242条第2項)
ストックオプションの権利者となる者が申込みを行った後(会社法第242条)、会社は割り当てるストックオプションの数を決定する割当決議を行います。
その後、割り当てた数を申し込んだ権利者となる者へ通知しましょう。
募集事項で定められた割当日に、権利者となる者は権利者となります。
権利者となる者がストックオプションを有償で受け取る場合は、払込期日または払込期間内に、所定の払込金額を支払わなければなりません。
なお、会社はストックオプションの発行後、遅滞なく、新株予約権原簿を作成する必要があります(会社法第249条)。
最後にストックオプションの登記申請を行いましょう。
登記申請は、ストックオプションの発行日から2週間以内に行わなければならないため、注意が必要です(会社法第915条第1項)。
2週間を過ぎてしまうと、登記懈怠として過料が科されるため、必ず申請を行ってください。
ストックオプション制度には、会社の金銭的負担なくインセンティブ報酬を提供できるメリットがあります。
ストックオプションの発行に当たっては、会社法上の手続きや税務・会計に関する注意点が存在するため、まずは、税理士などと連携した対応が可能な弁護士に相談したほうがよいでしょう。
ベリーベスト法律事務所は、ストックオプションの発行に関して、企業からのご相談を随時受け付けております。
グループ内税理士との連携により、法律・税務の両方の観点から、充実したサポートをご提供します。
ストックオプション制度の導入をご検討中の企業経営者・担当者の方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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