企業法務コラム
「循環取引」とは、架空の売上を計上する不正会計の一種です。
循環取引を行うと、金融商品取引法違反や特別背任・詐欺などの犯罪に問われる可能性があります。企業の経営者や法務・コンプライアンス担当者は、社内で違法な循環取引が行われることを防ぐため、できる限りの対策を講じましょう。
今回は循環取引について、概要・違法性の判断基準・罰則・事例・企業が講ずべき対策などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
具体的に、循環取引とはどのような取引を指すのでしょうか。詳しく見ておきましょう。
循環取引とは、複数の企業が共謀して、特定の商品の売買をグループ内で繰り返し、売上や利益を不正計上する取引を意味します。
循環取引の仕組みを単純化すると、以下の設例のような状況になります。
設例において、A社が所有していた商品Xは、結局A社のところに戻ってきています。このように、実際には商品を移転させず、帳簿上だけは取引を行ったようにみせる処理を行う取引が、循環取引です。
その一方で、B社には110万円の売上と10万円の利益が、C社には120万円の売上と10万円の利益が、それぞれ計上されることになります。商品を帳簿上で循環させることにより、売上と利益を架空計上するというのが、循環取引の仕組みです。
循環取引を行う目的には、大きく分けて以下の3点があります。
循環取引のすべてが違法というわけではありませんが、金融商品取引法違反・特別背任罪・詐欺罪といった犯罪に該当する循環取引も存在します。
各犯罪について、違法性(犯罪該当性)の判断基準と罰則を見てみましょう。
上場会社は、有価証券報告書などの開示書類を通じて、毎期の決算内容を正しく公表することが義務付けられています。
循環取引は、架空の売上や利益を計上する粉飾決算の一種です。実態のない循環取引を行い、その結果を決算に反映させた場合、開示書類の虚偽記載として金融商品取引法違反に該当します(同法第197条第1項)。
開示書類の虚偽記載を行った者には、「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金」が科され、または併科されます。
さらに、法人の代表者・代理人・使用人その他の従業者が開示書類の虚偽記載を行った場合、法人にも「7億円以下の罰金」が科されます(同法第207条第1項第1号)。
取締役などの役員が、自己もしくは第三者の利益を図り、または会社に損害を加える目的で任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を与えた場合には「特別背任罪」に問われます(会社法第960条第1項)。
循環取引によって損失を計上した場合や、循環取引が金融商品取引法違反の粉飾決算に当たる場合には、担当役員について特別背任罪が成立する可能性があります。
特別背任罪の法定刑は「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金」であり、併科される場合もあります。
循環取引による粉飾決算を行い、財務状況が良いと金融機関に誤信させて融資を受けた場合には、「詐欺罪」が成立する可能性があります(刑法第246条)。
また、循環取引であることを知らない会社に取引を持ち掛け、売買代金等を詐取した場合にも、やはり詐欺罪が成立することがあります。
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。
過去に循環取引が問題となり、経営者や担当者の逮捕・起訴に至った事例を2つ紹介します。
株式会社メディア・リンクスは、情報システム事業を行うIT企業で、大阪証券取引所(現在は東京証券取引所と経営統合)のヘラクレス市場(現在は東証のJASDAQへ統合)へ上場していました。
メディア・リンクスが販売した情報システム商品は、複数の会社の間を転々売買された後、最終的にメディア・リンクスへ戻ってくる形になっていました。まさに循環取引の典型例といえます。
平成15年3月期の決算において、メディア・リンクスは約165億円の売上を計上しましたが、そのうち約140億円が循環取引による架空計上であることが判明しました。
メディア・リンクスは平成16年5月に上場廃止となり、元社長は有価証券報告書の虚偽記載の罪で逮捕・起訴され、最終的に懲役3年6か月の実刑判決を受けました(大阪地裁平成17年5月2日判決)。
IT業界の主要企業が多数関係しており、業界慣行が暴露された事件という側面もあったため、社会的に大きな注目を集めました。
株式会社加ト吉は、冷凍食品の大手企業として、かつての東証第一部市場に上場していました。この事件では、元常務が主導して循環取引を行い、6年間で約985億円の不正取引高を計上しました。
循環取引の目的は、実質的に経営破綻していた取引先を金融支援することでしたが、その一方で加ト吉には約50億円の損害が発生したのです。
元常務は逮捕・起訴された後、最高裁平成22年11月12日決定によって上告が棄却され、懲役7年の実刑判決が確定しました。
加ト吉はその後「テーブルマーク株式会社」へと商号変更を行い、日本たばこ産業(JT)の完全子会社となっています。
社内で違法な循環取引が行われることを防ぐには、経営陣や法務・コンプライアンス担当者が主導して、以下の対策を講じることが推奨されます。
取引の権限が特定の者に集中すると、長期間にわたって循環取引が繰り返されるおそれがあります。
そのため、同じ部署でも複数の者に取引権限を与えたり、人事異動によって定期的に取引権限を変更したりして、循環取引の慢性化を防ぐことが重要です。
日常的に行われる循環取引を撲滅するには、内部監査体制を強化することが効果的です。
監査に関する実務経験を有する人材を雇用したうえで、定期監査と抜き打ち監査を徹底的に行いましょう。
このようにすることで、役員・従業員の間で「常に監視されている」という意識が芽生え、循環取引のようなコンプライアンス違反を行う社員は見られなくなると期待できます。
社内の人間による内部監査だけでは、客観的な視点から違法な循環取引を発見するには不十分な側面があります。そのため、監査法人等に依頼して、定期的に外部監査を実施することが望ましいです。
上場企業であれば、上場規程によって外部監査が義務付けられているので、その際に循環取引についても徹底的に調べるように依頼すると良いでしょう。
これに対して非上場会社の場合、外部監査の実施は必須ではありません。しかし、循環取引の防止・コンプライアンス強化の観点からは、任意に外部監査を実施することが推奨されます。
社内で違法な循環取引が発生することを防ぐため、弁護士がご協力できることもたくさんあります。
たとえば、会社のニーズに応じて以下のサポートをご提供可能です。
違法な循環取引の防止を含めて、社内のコンプライアンス体制を強化したい場合には、一度弁護士までご相談ください。
違法な循環取引が発覚すると、代表者・担当者の逮捕・起訴に発展し、会社の信用や株価などにも多大な悪影響が生じます。
会社としては、社内で違法な循環取引が行われることのないように、内部監査体制の整備やコンプライアンス研修の実施など、適切な対策を講じることが大切です。
弁護士にご相談いただければ、コンプライアンス強化の観点から何をすべきかについて、会社の状況に合わせたアドバイスをご提供いたします。
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