企業法務コラム
上場廃止にはマイナスイメージをもたれがちですが、株式上場の継続に必要な費用等を削減できたり、自由な経営を可能になったりするメリットもあります。
上場を続けるか、それとも上場を廃止するか、自社の状況に応じたベストな選択肢は何かを慎重に検討することが大切です。
今回は、上場廃止のメリット・デメリットや、上場廃止の手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
上場廃止とは、証券取引所(金融商品取引所)に上場されている株式について、市場における取引を全面的に取りやめることを意味します。
株式が上場廃止となるケースは、大まかに以下の3パターンに分類されます。
① 経営不振等により、投資不適格となった場合
証券取引所に上場できるのは、一般の投資家が投資するのに適した組織体制や、財務基盤を備えた会社の株式のみです。
したがって、経営不振などにより、一般投資家による投資対象として不適格となった場合には、上場廃止となります。
具体的には、以下のようなケースが上場廃止となる例として挙げられます。
② 法令違反・上場契約違反を犯した場合
上場している企業が、法令違反や上場契約違反を犯した場合、コンプライアンスの観点から投資不適格と判断され、上場廃止となることがあります。
具体例としては、以下のとおりです。
③ MBO・M&Aを通じて非公開化する場合
企業の運営体制等に問題が起きたケースだけでなく、経営陣による株式取得(MBO=Management Buyout)や、企業間の合併・買収(M&A=Merger and Acquisition)を通じて、会社主導で株式を非公開化し、上場を廃止するケースもあります。
例としては、以下のとおりです。
上場廃止となった株式は、証券取引所の株式市場において取引ができなくなります。そのため、既存株主が保有株式を売却したい場合は、市場を通さず、自分で売却先を見つけなければなりません。
上場廃止が決まった銘柄は「整理銘柄」へと移行し、一定期間(1か月程度)の取引が行われた後に上場廃止となり、株式市場での売買が不可能となります。なお、上場廃止し株式市場で取引が行われなくなったとしても、株主は決議権や利益分配を受ける権利などの権利を持ち続けることに注意が必要です。
上場廃止には、メリット・デメリットの両面が存在します。
会社の状況によっては、MBOやM&Aを通じて株式を非公開化し、自ら上場廃止を選択する場合もあるでしょう。
上場廃止の主なメリット・デメリットは、以下のようなものが挙げられます。
① 自由度の高い経営ができる
株式を非公開化することで、不特定多数の株主が存在する状況を解消し、特定少数の株主に株式を集約できます。
その結果、不特定多数の株主の意見や利益に配慮する必要がなくなり、会社として大胆な経営改革や、自由なチャレンジができるようになります。
② 上場を維持するためのコストを削減できる
上場を維持するためには、証券取引所に数十万円から数百万円の年間上場料を支払わなければなりません。
また、金融商品取引法や、上場規則で義務付けられる開示書類の作成に当たっては、外部業者への委託も発生するため、年間数百万円から数千万円の費用が必要です。
株式の上場を廃止すれば、これらの上場維持にかかるコストを削減できます。
① 大規模な資金調達が難しくなる
上場会社であれば、市場を通じて株式の取得を募集すれば(PO=Public Offering)、大規模な資金調達を行うことができます。
これに対して、上場廃止になると市場を通じた募集ができなくなるため、大規模な資金調達は難しくなります。
② 会社の信用低下につながる
証券取引所に株式を上場していることは、一定水準以上の財務基盤と内部管理体制を有する証拠であるため、会社としての信用アップにつながります。
反対に、上場廃止になってしまうと、有名企業の傘下に入る場合などを除けば、取引先や顧客・利用者などの信用が低下してしまうかもしれません。
以下では、上場廃止手続きの進め方と上場廃止をする際の注意点について説明します。
上場廃止手続きは、基本的には、証券取引所の所定の手続きによって進められていきます。具体的には、以下のような流れになります。
① 臨時株主総会の開催
企業によっては、MBOなどにより上場廃止を行うことがあります。MBOとは「Management Buyout(マネジメント・バイアウト)」の略で、企業の経営陣が投資ファンドや金融機関などから資金調達を行い、経営陣が株主から自社株式を買い上げて、経営権を取得する企業買収の手法です。
このように企業が自主的に上場廃止を行う場合には、臨時株主総会を開催して上場廃止を決定します。
② 証券取引所により監理銘柄に指定
企業が自主的に上場廃止申請をする場合以外のケースでは、当該企業が上場廃止基準に抵触するおそれが生じた時点で、証券取引所により「監理銘柄」に指定されます。
これは上場廃止基準に抵触するおそれがあるということを一般の投資家に対して周知するために行われる措置です。
③ 証券取引所により整理銘柄に指定
企業が自主的に上場廃止申請をした場合または監理銘柄に指定された後、一定の審査期間を経て、上場廃止基準に該当すると認められた場合には、証券取引所により「整理銘柄」に指定されます。
④ 上場廃止
原則として、整理銘柄として、1か月間売買が行われた後、上場廃止になります。
上場廃止をする際には、以下の点に注意が必要です。
① 資金調達方法が制限される
上場廃止をすることで、株式の市場価値が失われますので、証券取引所を通じた資金調達ができなくなります。そのため、上場廃止をする際には、将来的な資金調達の必要性に備えて、事業継続に必要な資金調達の目途を付けておくことが必要です。
また、上場廃止によって、顧客や一般消費者が抱くブランドイメージが低下し、売り上げが減少するというリスクも生じる可能性があります。ブランドイメージ低下を避けるためには、上場廃止の理由を公表するなどの配慮が必要になります。
② 上場廃止しても株主代表訴訟のリスクはなくならない
株主代表訴訟は、株主でなければ行うことができませんので、MBOにより市場に流通するすべての自社株式を取得することができれば、株主代表訴訟のリスクを排除することができます。
しかし、上場廃止基準に抵触することを理由に上場廃止となった場合、株主は、株主としての地位や権利を失うわけではありません。そのため、このようなケースでは、上場廃止をしたとしても、株主代表訴訟のリスクを排除することができませんので注意が必要です。
③ MBO指針に基づく利益相反回避措置が必要
MBOにより、経営陣が自社株式を取得することは、株主の利益を代表すべき取締役という地位と株式の買収者としての地位が併存することになります。株主の利益を代表すべき取締役としては、出来るかぎり高く株式を取得すべきですが、買収者としては出来るかぎり安く取得したいと考えるため、株主との間で必然的に利益相反の状況が生じてしまいます。
そこで、経済産業省のMBO指針では、以下の利益相反回避措置が必要とされています。
それでは、さまざまな理由から上場を廃止した後に再度、上場することはできるのでしょうか。
一度上場廃止になったとしても、その後、再度証券取引所の「形式要件」と「実質審査基準」の上場審査基準をクリアし、上場審査を通過すれば、株式を再上場することはできます。
ただし、MBO後の再上場を申請した場合、通常の上場審査項目に加えて、さらに審査が行われることに注意が必要です。
MBO後は前述の上場審査だけでなく、以下の審査が行われます。
① MBOと再上場の関連性
前述のとおり、MBOは経営者が株式を買い取って行われるものです。そのため、たとえば経営者が故意に株価を下げたうえでMBOを行い、その後業績を回復させてから再上場をさせると経営者が多くの利益を得ることになります。このように、MBOと再上場の関連性が高すぎる場合には、上場を認めない方向に働きます。
具体的には以下のようなケースが挙げられます。
このような場合、上場審査を通過することは難しく、再度上場することは厳しいといえるでしょう。
② プレミアム配分の適切性・MBO実施の合理性
MBO時に株主の判断の前提となる手続きが正しく行われた上でMBOが成立しているのであれば、大多数の株主が納得して取引に応じたと判断されるため、プレミアム配分の適切性やMBO実施の合理性は問われません。
しかし、MBOの実施手続きが不公正であった場合や、MBO指針に準拠しなかった場合も上場が認められず、再度上場することは難しいでしょう。また、MBO時の計画とMBO後の進行に乖離がある場合には、乖離について十分に説得力のある説明をすることが求められます。
株式の上場を廃止するには、MBOによる株式非公開化をはじめとした、さまざまな手法がありますが、どの方法が適切であるかを判断するためには、法的な知識が必要です。
弁護士にご相談いただければ、上場廃止後の経営戦略なども見据えたうえで、クライアント企業にとってベストな方法・方針をご提案いたします。
上場廃止を検討している場合は、一度弁護士までご相談ください。
上場廃止にはメリットとデメリットの両面があり、本当に上場廃止すべきかどうかは、会社の状況によって異なります。
また、上場廃止にはMBOをはじめとしたさまざまな手法があり、実際に手続きを進めるうえでの注意点も多岐にわたるため、企業法務に詳しい弁護士のアドバイスを受けるのが安心です。
ベリーベスト法律事務所は、上場廃止後の経営に関するアドバイスを含めて、株式の非公開化・上場廃止に関する手続きを一貫してサポートいたします。
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