企業法務コラム
改正公益通報者保護法は、令和2年6月12日に公布され、2022年6月1日から施行されています。
公益通報者保護法が改正されたことにより、一部の事業者については、新たに内部公益通報(公益通報)に関する体制整備が義務付けられます。また、すでに内部公益通報制度を導入している事業者においても、制度の見直しが必要です。改正後の公益通報者保護法のルールを踏まえて、各事業者は適切にご対応ください。
本コラムでは、改正公益通報者保護法の内容や、企業がとるべき対応などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
公益通報者保護法とは、事業者やその構成員による違法行為を早期に摘発するため、内部公益通報者の保護をはじめとした公益通報に関するルールなどを定めた法律です。
公益通報者保護法は、企業などの内部者(役員・従業員など)による、社内における違法行為の通報を促すことを目的としています。
早期に違法行為の通報が行われれば、各事業者において迅速に是正・処分などの対応を行うことができます。また、行政機関による摘発も迅速に行うことが可能となります。
しかし、公益通報をした者が解雇されるなどの不利益を被ってしまう可能性があれば、たとえ違法行為があったとしても誰も通報できず、黙殺されてしまうことになりかねません。
そこで、事業者内部における違法行為の抑止・取り締まりを効果的に行うため、公益通報(内部公益通報)を行った者が不利益を受けないようにするルールを定めているのが公益通報者保護法です。
その主眼は、公益通報を行った役員・従業員などを保護することで、公益通報に関する心理的な障壁をなくす点にあります。
公益通報者保護法では、公益通報者を保護するため、以下の行為が禁止されています。
また、公益通報を理由に役員が解任された場合、当該役員は事業者に対して、解任により生じた損害の賠償を請求できます(同法第6条)。
ただし、公益通報者保護法による保護を受けるためには、公益通報の要件を満たさなければなりません。
そこで、2022年6月に施行された改正公益通報者保護法では、より公益通報しやすい環境を作るため、公益通報の要件を緩和するルール変更が行われました。
改正法による主な変更点は、以下のとおりです。
301人以上の事業者の場合
常時使用する労働者が301人以上の事業者は、新たに内部公益通報に関する体制整備を行うことが義務付けられました(公益通報者保護法11条1項、2項)。
対象事業者は、消費者庁が定める指針に沿って、内部公益通報に関する体制整備を行う必要があります。
具体的には、以下の対応が求められています。
内部公益通報者が通報しやすい環境を作るためにも、人事などの部署への設置はできるだけ避け、組織の長や幹部が関係しないよう、独立性を確保するほうがよいとされています。
301人以下の事業者の場合
常時使用する労働者が300名以下の事業者については、体制整備は努力義務とされています。
公益通報への対応に従事する者(=公益通報対応業務従事者)については、改正法により新たに守秘義務が明記されました。
公益通報対応業務従事者は、業務上知り得た事項のうち、公益通報者を特定させるものを理由なく漏らしてはいけません(公益通報者保護法第12条)。
また、過去に公益通報対応業務従事者だった者についても、同様の守秘義務が課されています。
公益通報として保護される通報は、以下の3種類に大別されます。
上記のうち「② 権限を有する行政機関に対する通報」と「③ 報道機関等に対する通報」については、名誉毀損にあたる不当なリークを抑止するため、「① 事業者内部の内部公益通報窓口に対する通報」よりも厳しい要件が設けられていました。
しかし今回の改正法により、「②権限を有する行政機関に対する通報」と「③報道機関等に対する通報」の各要件が、以下のとおり緩和されました。
ただし、公益通報者保護法の保護対象にならない通報についても、労働契約法などにより通報者が保護されている可能性があることを知っておくべきでしょう。
従来の公益通報者保護法では、公益通報者として保護されるのは労働者に限られていました。
しかし、今回の改正により、新たに1年以内に退職した者と役員が、公益通報者として保護されるようになりました(公益通報者保護法第2条第1項各号)。
従来の公益通報者保護法では、公益通報の通報対象事実は、犯罪行為に関するものに限定されていました。
今回の改正法では、過料の理由とされている犯罪にはあたらない事実についても、新たに通報対象事実に含まれることとなりました(公益通報者保護法第2条第3項第1号)。
事業者が内部公益通報を受けるための体制を整えていない場合でも、直接的な罰則はありません。
しかし、本規定について必要があると認められた事業者は、内閣総理大臣から報告を求められることや、助言・指導、もしくは勧告を受ける場合があります(同条第15条)。
さらに、その勧告に従わなければ公表される可能性(同条第16条)があるだけでなく、報告をしなかった、または虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料に処されます(同条第22条)。
公益通報者保護法の改正に伴い、各企業においては、自社の状況に応じて内部公益通報制度の導入・見直しを行うことが求められます。
また、新たな内部公益通報制度に関して、窓口担当者に対する研修を実施することや、社内全体への周知を図ることも大切です。
常時使用する労働者が301人以上の事業者は、改正法によって内部公益通報体制の整備が義務付けられました。
該当する事業者において、内部公益通報体制が未整備の場合は、早急に体制整備へと着手することをおすすめします。
また、すでに内部公益通報制度を導入している事業者においては、改正法によるルール変更に対応しなければなりません。
内部公益通報対応業務従事者の守秘義務の新設や、公益通報として保護される通報の範囲拡大などを、既存の社内規程や業務マニュアルに反映しましょう。
内部公益通報窓口担当者は、改正公益通報者保護法によるルール変更を踏まえて、最新のルールに沿った方法で内部公益通報対応業務を行う必要があります。
改正法によるルール変更を実際の業務へ浸透させるには、内部公益通報窓口担当者に対する研修を実施することが効果的です。
弁護士を講師に呼ぶなどして、内部公益通報窓口担当者の知識のアップデートを図りましょう。
改正公益通報者保護法では、公益通報として保護される通報の範囲が大幅に広がった点が大きな特徴です。
企業としては、自社の役員や従業員に対して、改正法をふまえた新たな内部公益通報制度の内容を周知すべきでしょう。
公益通報の要件が緩和されたことをアナウンスして、内部公益通報に対する役員・従業員の心理的なハードルを避けることが、自社における違法行為の抑止につながります。
改正公益通報者保護法への対応を含めて、企業における法改正対応や社内体制の整備については、弁護士へのご相談をおすすめします。
弁護士は、クライアント企業の実情に応じて、円滑な業務遂行を確保しつつ、コンプライアンスの強化につながるような体制整備の方法についてアドバイスすることが可能です。
さらに、社内規程の作成・変更などについても、弁護士に一任していただけます。
公益通報者保護法に関しては、社外の内部通報窓口を弁護士へご依頼いただくことも可能です。詳しくは、以下の記事を併せてご参照ください。
2022年6月1日に施行された改正公益通報者保護法を踏まえて、各企業は内部公益通報制度の導入・見直しを行うべき場合があります。
また、法改正対応は、さまざまな法律について頻繁に発生します。
ベリーベスト法律事務所では、クライアント企業のニーズに合わせてご利用いただける顧問弁護士サービスをご提供しております。
顧問弁護士と契約すれば、法改正対応その他の法務に関していつでもご質問いただけます。
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