企業法務コラム
2022年10月、職業安定法が改正され、人材募集(求人)に関するルールが追加・厳格化されました。
職業安定法は、職業紹介・労働者募集・労働者供給などについて定めた法律ですが、労働基準法や労働契約法などと比べると、あまりなじみがない法律かもしれません。しかし、職業安定法は、企業が人材募集をする際に重要となり、違反に対しては罰則もありますので、十分に理解しておく必要があります。
本コラムでは、職業安定法の概要、法改正のポイント、企業が人材募集をする際に注意すべき点などについて、弁護士が解説します。
職業安定法は、職業紹介(人材紹介)の適正な運営の確保をするために必要なルールを定め、各人のもつ能力に適合する職業に就く機会を与えることによって、職業の安定を図り、経済および社会の発展に寄与することを目的とする法律です。
以下、職業安定法で用いられる用語について、内容をお伝えします。
職業紹介とは、「求人および求職の申し込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること」をいいます(職業安定法4条1項)。
企業は人材を募集し、他方、求職者は職を探していますが、このような状況において、企業と求職者の間を取り持ち、雇用関係が円滑に成立するように支援をすることが、職業紹介にあたります。
職業紹介によって雇用関係が成立するまでの流れは、次のようになります。
職業紹介事業者の具体例としては、公的なものではハローワーク(公共職業安定所)があり、民間のものでは就職・転職エージェントなどの人材紹介会社が該当します。
企業が人材を募集することを労働者募集といいますが、その際、求人を行う企業は、求職者に対し、その求人などに関する情報を的確に表示しなければなりません(職業安定法5条の4第1項)。
虚偽の表示や誤解を生じさせる表示を行うことは禁止されていますし、情報に変更などがあったときには、最新の内容に保つ措置を講じる必要があります。
情報の提供にあたって的確な表示が義務付けられるのは、次の5つの情報です。
なお、新聞、雑誌、文書、WEBサイト、メール、アプリ、テレビなど、どのような手段で求人を行うかということに関係なく、的確な表示の義務が課されます。
労働者供給とは、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」(職業安定法第4条8項)をいいます。
労働者供給事業は、労働組合法の要件に適合する労働組合などが、厚生労働大臣の許可を受けて無料で行うことができるもので、イメージとしては、労働者派遣法における派遣(人材派遣)と似ています。
しかし、労働者供給と派遣は、次の点で大きく異なります。
供給元と労働者との間には支配関係という曖昧な関係しかなく、誰が雇い主としての責任を負うのかが不明確になるという点に、派遣との大きな差があるといえます。
問題社員のトラブルから、
職業安定法が改正された背景には、インターネットを利用した求人・求職活動が拡大する中で、従来のエージェントのほかにも、ネット上の求人情報を集めて提供するポータルサイトのような、新しい形の職業紹介事業者が登場したことなどがあります。
このような状況を踏まえて、新たな職業紹介事業者も含めた統一的なルールを定めることで、求職者が安心して、サービスを利用できるようにすることに加え、人材を募集する企業と求職者とのマッチング機能の質を向上させることを目的として、改正法が成立しました。
では、職業安定法の、改正内容におけるポイントをお伝えします。
新たに創設されたルールや厳格化したルールがあり、違反に対しては罰則も定められていますので、人材募集活動においても法令順守が必要です。
改正のポイントは大きく2つです。
① 新たな求人メディアなどについて広く法的に位置づけ
エージェントなどの従来の職業紹介事業者以外にも、職業安定法の適用を受けない新たなサービスが登場したことから、これらすべてに共通のルールを適用しました。
② 新たなルールの創設、これまでのルールの厳格化
問題社員のトラブルから、
人材募集を行う企業がもっとも注意しなければならないのは、求人に関する5つの情報における的確表示であるといえます。
たとえば、子会社での勤務であるにもかかわらず親会社で勤務するかのように表示することや、上場していないにもかかわらず上場企業であるかのように表示するなど、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示は、禁止されています。
また、求人情報は、いつ時点のものであるか明示する必要があります。
企業が求職者の個人情報を収集する場合、その目的を明らかにすることが義務付けられます。
たとえば、「収集した個人情報は、採用選考のためにのみ使用します」などと記載し、求職者の目に入りやすい位置に配置することなどがこれに該当します。
ほかにも、個人情報保護の観点で次のような点に注意が必要です。
求人の条件変更や募集を終了した場合などは、速やかに求人情報の内容変更または掲載を終了しなければなりません。募集情報等提供事業者を利用している場合には、募集の終了や内容の変更を反映するように求める必要があります。
また、募集情報等提供事業者から、求人情報の訂正や変更を依頼された場合には、これに対して速やかに対応しなければなりません。
問題社員のトラブルから、
改正によって新たなルールが創設されたこともあり、職業安定法に違反した場合の罰則の範囲は拡大しています。
この章では、法律に違反した場合の罰則を一覧でご紹介します。
条文 | 具体例 | 罰則 |
---|---|---|
第63条 |
|
1年以上10年以下の懲役 20万円以上300万円以下の罰金 |
第64条 |
|
1年以下の懲役、または100万円以下の罰金 |
第65条 |
|
6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金 |
第66条 |
|
30万円以下の罰金 |
このような刑事罰のほかにも、法律に違反すれば、行政指導を受ける可能性もあるのみならず、法令順守違反として会社の信用・風評を下げてしまうリスクも考えられます。
また、法律に反して人材を募集し実際に雇用するなどとなれば、求職者から訴訟を提起される可能性もあると考えておくべきでしょう。
問題社員のトラブルから、
職業紹介や労働者募集についてのルールを定める職業安定法は、人材を必要とする企業にとって大きく関係する法律である一方で、そのほかの法律に比べてなじみがないかもしれません。
しかし、労働者保護の観点から、2022年10月には改正法が施行され、人材募集に関して新たなルールの創設や既存ルールの厳格化が行われました。
企業が自ら人材を募集する場合はもちろんのこと、エージェントなどの職業紹介事業者を利用する場合であっても、企業にも義務が課されますので注意が必要です。
法に違反した場合には、重ければ10年の懲役刑を受ける可能性があり、何よりも、法令順守違反を理由として社会的評価を下げてしまうリスクがつきまといます。
法律に基づき、求人情報・労働条件を明確に表示し、適正に人材募集・雇用をすることが大切です。
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