企業法務コラム

2023年03月30日
  • 職業安定法

2022年10月から職業安定法が改正!企業が抑えるべき4つのポイント

2022年10月から職業安定法が改正!企業が抑えるべき4つのポイント

2022年10月、職業安定法が改正され、人材募集(求人)に関するルールが追加・厳格化されました。

職業安定法は、職業紹介・労働者募集・労働者供給などについて定めた法律ですが、労働基準法や労働契約法などと比べると、あまりなじみがない法律かもしれません。しかし、職業安定法は、企業が人材募集をする際に重要となり、違反に対しては罰則もありますので、十分に理解しておく必要があります。

本コラムでは、職業安定法の概要、法改正のポイント、企業が人材募集をする際に注意すべき点などについて、弁護士が解説します。

1、職業安定法とは?

  1. (1)職業安定法とはどのような法律か

    職業安定法は、職業紹介(人材紹介)の適正な運営の確保をするために必要なルールを定め、各人のもつ能力に適合する職業に就く機会を与えることによって、職業の安定を図り、経済および社会の発展に寄与することを目的とする法律です。

    以下、職業安定法で用いられる用語について、内容をお伝えします。

  2. (2)職業紹介

    職業紹介とは、「求人および求職の申し込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること」をいいます(職業安定法4条1項)。

    企業は人材を募集し、他方、求職者は職を探していますが、このような状況において、企業と求職者の間を取り持ち、雇用関係が円滑に成立するように支援をすることが、職業紹介にあたります。

    職業紹介によって雇用関係が成立するまでの流れは、次のようになります。

    • ① 企業が、職業紹介事業者に対して、求人に関する情報を提供する
    • ② 職業紹介事業者が、求職者に対して、企業の求人情報を提供する
    • ③ 求職者が、職業紹介事業者を通して、企業に応募する

    職業紹介事業者の具体例としては、公的なものではハローワーク(公共職業安定所)があり、民間のものでは就職・転職エージェントなどの人材紹介会社が該当します。

  3. (3)労働者募集

    企業が人材を募集することを労働者募集といいますが、その際、求人を行う企業は、求職者に対し、その求人などに関する情報を的確に表示しなければなりません(職業安定法5条の4第1項)。
    虚偽の表示や誤解を生じさせる表示を行うことは禁止されていますし、情報に変更などがあったときには、最新の内容に保つ措置を講じる必要があります。

    情報の提供にあたって的確な表示が義務付けられるのは、次の5つの情報です。

    • 求人情報
    • 求職者情報
    • 求人企業に関する情報
    • 自社に関する情報
    • 事業の実績に関する情報

    なお、新聞、雑誌、文書、WEBサイト、メール、アプリ、テレビなど、どのような手段で求人を行うかということに関係なく、的確な表示の義務が課されます。

  4. (4)労働者供給

    労働者供給とは、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」(職業安定法第4条8項)をいいます。

    労働者供給事業は、労働組合法の要件に適合する労働組合などが、厚生労働大臣の許可を受けて無料で行うことができるもので、イメージとしては、労働者派遣法における派遣(人材派遣)と似ています。

    しかし、労働者供給と派遣は、次の点で大きく異なります

    派遣の場合
    派遣では、派遣元と派遣される労働者との間に雇用関係があることが前提で、派遣先と労働者の間には、指揮命令関係はありますが、雇用関係はありません。
    労働者供給の場合
    これに対して、労働者供給では、供給元と労働者の間に支配関係があることを前提に、労働者は供給先との間で雇用関係または指揮命令関係があります。

    供給元と労働者との間には支配関係という曖昧な関係しかなく、誰が雇い主としての責任を負うのかが不明確になるという点に、派遣との大きな差があるといえます。

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2、2022年10月からの職業安定法改正で変わった2つのポイント

  1. (1)法改正の背景と目的

    職業安定法が改正された背景には、インターネットを利用した求人・求職活動が拡大する中で、従来のエージェントのほかにも、ネット上の求人情報を集めて提供するポータルサイトのような、新しい形の職業紹介事業者が登場したことなどがあります。

    このような状況を踏まえて、新たな職業紹介事業者も含めた統一的なルールを定めることで、求職者が安心して、サービスを利用できるようにすることに加え、人材を募集する企業と求職者とのマッチング機能の質を向上させることを目的として、改正法が成立しました。

  2. (2)改正内容

    では、職業安定法の、改正内容におけるポイントをお伝えします。
    新たに創設されたルールや厳格化したルールがあり、違反に対しては罰則も定められていますので、人材募集活動においても法令順守が必要です。

    改正のポイントは大きく2つです。

    ① 新たな求人メディアなどについて広く法的に位置づけ
    エージェントなどの従来の職業紹介事業者以外にも、職業安定法の適用を受けない新たなサービスが登場したことから、これらすべてに共通のルールを適用しました。

    • 新たなサービスも職業安定法の適用対象化
    • 求職者に関する情報を集めて企業などに提供する者を届け出制化

    ② 新たなルールの創設、これまでのルールの厳格化

    • 求人などにおける情報について的確表示を義務付け
    • 虚偽の表示や誤解を生じさせる表示の禁止
    • 情報に変更が生じた場合に最新・正確な内容に保つ措置の義務付け
    • 迅速・適切な苦情処理の義務付け
    • 個人情報の保護、秘密保持の義務付け
    • 法令違反に対する改善命令等の創設
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3、企業が人材募集をする際に注意すべきこと

  1. (1)求人等に関する情報の提供にあたって順守すべき事項を把握する

    人材募集を行う企業がもっとも注意しなければならないのは、求人に関する5つの情報における的確表示であるといえます。

    • 求人情報
    • 求職者情報
    • 求人企業に関する情報
    • 自社に関する情報
    • 事業の実績に関する情報

    たとえば、子会社での勤務であるにもかかわらず親会社で勤務するかのように表示することや、上場していないにもかかわらず上場企業であるかのように表示するなど、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示は、禁止されています。

    また、求人情報は、いつ時点のものであるか明示する必要があります。

  2. (2)求職者に明示しなければならない内容を記載する

    企業が求職者の個人情報を収集する場合、その目的を明らかにすることが義務付けられます。

    たとえば、「収集した個人情報は、採用選考のためにのみ使用します」などと記載し、求職者の目に入りやすい位置に配置することなどがこれに該当します。

    ほかにも、個人情報保護の観点で次のような点に注意が必要です。

    • 求職者の個人情報は、業務の目的達成に必要な範囲内で収集・使用・保管を義務付け
    • 業務上知り得た求職者の秘密を漏らすことの禁止
    • 求職者の個人情報を、みだりに、第三者に提供することの禁止
  3. (3)求人情報に変更がある場合は速やかに変更対応をする

    求人の条件変更や募集を終了した場合などは、速やかに求人情報の内容変更または掲載を終了しなければなりません。募集情報等提供事業者を利用している場合には、募集の終了や内容の変更を反映するように求める必要があります。

    また、募集情報等提供事業者から、求人情報の訂正や変更を依頼された場合には、これに対して速やかに対応しなければなりません。

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4、職業安定法に違反した場合の罰則

改正によって新たなルールが創設されたこともあり、職業安定法に違反した場合の罰則の範囲は拡大しています。

この章では、法律に違反した場合の罰則を一覧でご紹介します。

条文 具体例 罰則
第63条
  • 暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、職業紹介、労働者の募集もしくは労働者の供給を行い、またはこれらに従事したとき
  • 公衆衛生または公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供もしくは労働者の供給を行い、またはこれらに従事したとき
1年以上10年以下の懲役
20万円以上300万円以下の罰金
第64条
  • 厚生労働大臣の許可を得ずに事業を行ったとき
  • 不正の行為によって厚生労働大臣の許可を得たとき
  • 事業の停止命令に違反したとき
  • 名義貸しを行ったとき
1年以下の懲役、または100万円以下の罰金
第65条
  • 虚偽の広告や虚偽の条件によって、職業紹介や人材募集を行ったとき
  • 虚偽の条件によって、職業紹介事業者に求人の申し込みを行ったとき
6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金
第66条
  • 行政庁による立ち入りや検査を拒み、妨げるなどしたき
30万円以下の罰金

このような刑事罰のほかにも、法律に違反すれば、行政指導を受ける可能性もあるのみならず、法令順守違反として会社の信用・風評を下げてしまうリスクも考えられます。

また、法律に反して人材を募集し実際に雇用するなどとなれば、求職者から訴訟を提起される可能性もあると考えておくべきでしょう。

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5、まとめ

職業紹介や労働者募集についてのルールを定める職業安定法は、人材を必要とする企業にとって大きく関係する法律である一方で、そのほかの法律に比べてなじみがないかもしれません。

しかし、労働者保護の観点から、2022年10月には改正法が施行され、人材募集に関して新たなルールの創設や既存ルールの厳格化が行われました。
企業が自ら人材を募集する場合はもちろんのこと、エージェントなどの職業紹介事業者を利用する場合であっても、企業にも義務が課されますので注意が必要です。

法に違反した場合には、重ければ10年の懲役刑を受ける可能性があり、何よりも、法令順守違反を理由として社会的評価を下げてしまうリスクがつきまといます
法律に基づき、求人情報・労働条件を明確に表示し、適正に人材募集・雇用をすることが大切です。

弁護士なら、正確な知識に基づいた法的サポートが可能で、企業が負う可能性のあるリスクを最小化して採用活動を進めることができます
また、採用だけでなく人事労務全般に関する制度の整備やトラブルの解決などについて、アドバイス・サポートが可能です。

この機会に、ぜひ、顧問弁護士の継続的サポートをご検討ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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