企業法務コラム
午後10時から午前5時の間に労働した従業員には、深夜手当として割増賃金を支払う必要があります。労働基準法に沿って正しく計算を行い、適切に割増賃金の支払いを行いましょう。
仮に「従業員に割増賃金を払わない」「支給額が適切ではない」などのことがあれば、違法行為としてペナルティを受ける可能性があります。
本コラムでは、深夜残業の割増賃金に関するルールや計算方法、違反した企業のペナルティなどを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
労働基準法では、深夜労働(深夜残業)に関する割増賃金ルールが定められています。
深夜労働とは、午後10時から午前5時までに行われる労働のことです。
深夜労働のうち、会社が定める所定労働時間を超える残業に該当するものは、深夜残業と呼ばれます。
たとえば、午後10時から働き始めた従業員は深夜労働に該当しますが、朝から働いていて終了が午後10時を過ぎたという従業員は、午後10時以降の残業については深夜残業と呼ぶことになります。
経営者などの使用者は深夜労働・深夜残業を行った従業員に対して、労働基準法所定の割増賃金を支払わなければなりません。
所定労働時間を超え、法定労働時間以内 | 通常の賃金に対して125%以上 |
---|---|
法定労働時間を超えるケース | 通常の賃金に対して150%以上 |
法定労働時間を月60時間以上超過するケース | 超過部分につき、通常の賃金に対して175%以上 ※中小企業については、令和5年3月31日までは通常の賃金に対して150%以上 |
従業員のなかでも、権限・裁量・待遇などの観点から経営者と一体的な立場にある者を管理監督者といいます。
管理監督者については、「労働時間に関する規制が適用されない」と認識している方もいるでしょう(労働基準法第41条第2号)。
しかし、深夜労働の割増賃金は、管理監督者に対しても支払いを要するものと解されています(昭和63年3月14日基発第150号、平成11年3月31日基発第168号)。
深夜労働は、規則的な生活が崩れてストレスがかかるものです。
それを埋め合わせるために支払われる深夜手当の趣旨は、通常の従業員だけでなく管理監督者にも当てはまるということが理由とされます。
したがって、管理監督者が午後10時から午前5時までに労働を行えば、会社は通常の賃金に対して125%以上の割増賃金を支払うことが必要です。
ただし、時間外労働分の割増賃金は適用されません。
残業であるか否かにかかわらず、割増率は通常の賃金に対して125%以上で足りると留意しておきましょう。
問題社員のトラブルから、
深夜労働(深夜残業)の賃金額は、以下の式によって計算します。
なお、1時間あたりの基礎賃金は、以下の式での算出が可能です。
※月給制の場合
ここからは、
① 残業ではない深夜労働
② 時間外労働かつ深夜労働
③ 休日労働かつ深夜労働
の3つのケースに分けて、深夜労働(深夜残業)の割増賃金の計算例を紹介します。
問題社員のトラブルから、
労働基準法に従って深夜労働(深夜残業)の割増賃金を適切に支払わない場合、企業は以下のペナルティのリスクを負います。
これらのリスクを回避するためにも、従業員の深夜労働(深夜残業)の状況を適切に管理しなければなりません。
深夜労働(深夜残業)の割増賃金の支払いに不足があると、従業員から未払い賃金(残業代)を請求される可能性があるということに留意しましょう。
未払い賃金請求権は、発生から3年(令和2年3月31日までに発生したものは2年)が経過すれば時効消滅します。
逆にいえば、3年間はさかのぼって未払い賃金を請求される可能性があるということです。
なお前述のとおり、管理監督者であっても深夜労働(深夜残業)の割増賃金は発生するため、労働基準法に従って忘れずに支払いましょう。
深夜労働(深夜残業)の割増賃金を支払わない会社は、従業員から見れば「ブラック企業」です。そのような会社に、優秀な従業員が定着することは望めません。
せっかく採用した従業員もすぐに転職してしまい、新規採用も次第に難航するようになり、中長期的に見て会社の成長が阻害されてしまいます。
優秀な従業員を定着させるには、労働基準法に従って正しく深夜手当を支払うことが大前提です。
深夜労働(深夜残業)の割増賃金を適切に支払わないことは、労働基準法違反となります。労働基準法違反の行為は、労働基準監督署による行政指導の対象です。
深夜手当の未払いで労働基準監督署の行政指導を受ければ、その対応に追われることになります。特に人員に余裕がない企業にとっては、行政指導への対応に時間を取られ、事業運営に支障が生じてしまうことになりかねません。
また、行政指導が行われた事実が報道などにより周知された場合、会社の評判悪化につながってしまいます。
行政指導を受けることによって生じるデメリットを回避するためにも、労働基準法に従って深夜手当をきちんと支払いましょう。
行政指導にとどまらず、深夜手当の未払いは刑事罰の対象とされています。
深夜手当の未払いによる労働基準法違反の罪の法定刑は、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」です(労働基準法第119条第1号)。
事業主の代理人・使用人その他の従業者が深夜手当の未払いの罪を犯した場合には、事業主にも「30万円以下の罰金」が科されます(同法第121条第1項)。
深夜手当の未払いが現実に処罰される可能性は低いですが、万が一、逮捕・起訴・有罪判決に至った場合、会社の事業や評判に大きな悪影響が生じることは避けられません。
深夜手当を含む賃金の未払いは、それだけ悪質な行為であることを認識した上で、会社全体として避けられるような取り組みを行うべきです。
問題社員のトラブルから、
時間外労働手当・休日手当・深夜手当(残業代)については、労働基準法によって厳密にルールが定められています。
適切な金額の残業代を支払わなければ、未払い残業代請求や労働基準監督署による行政指導・刑事罰を受け、会社にとって大きなダメージになりかねません。
もし残業代の支払いについて疑問点がある場合には、弁護士に相談して解消することをおすすめいたします。
弁護士にご相談いただければ、労働基準法のルールを踏まえて、残業代精算の正しいあり方をアドバイスいたします。
もし従業員との間でトラブルが生じそうになっても、弁護士が迅速に検討を行い、解決に向けた方策をご提案することが可能です。
また、顧問弁護士を契約すれば、残業代その他の労働法上の疑問点につき、いつでもスムーズにご相談いただくことができます。
労務コンプライアンスを強化したい企業は、弁護士との顧問契約をご検討ください。
問題社員のトラブルから、
深夜残業については、労働基準法に従って割増賃金を支払わなければなりません。
通常の賃金に対する割増率は、法定労働時間の範囲内の部分については125%以上、法定労働時間を超える部分のうち、月60時間以内の部分は150%以上、月60時間を超える部分は175%以上です。休日労働かつ深夜労働の場合は、通常の賃金に対して160%以上の割増賃金の支払いが必要になります。
労働基準法に従って正しく深夜手当を支払わないと、未払い残業代請求や行政処分・刑事罰により、会社にとって深刻なダメージが生じかねません。
深夜手当未払いによるリスクを回避するためには、労働基準法上の取り扱いにつき、その都度顧問弁護士に確認することがおすすめです。
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