企業法務コラム
化粧品のマーケティング手法のひとつに、「ギフティング」というものがあります。
化粧品のギフティングは、販売促進などに高い効果を期待できる一方で、投稿内容や方法によっては、景品表示法や薬機法(旧薬事法)の広告規制に抵触するおそれがあるマーケティング施策です。
ギフティングを活用する際には、弁護士のアドバイスを受けながら、各種の法規制に違反しないように十分ご注意ください。本コラムでは、インフルエンサーなどに化粧品のギフティングを依頼するとき、事業者が注意するべきポイントについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
ギフティングとは、インフルエンサーに対して自社製品やそのサンプルを提供し、使用した感想や特徴などを紹介してもらうマーケティング施策です。
特に化粧品については、Instagram、TikTok、YouTubeなどのSNSや動画サイトで盛んにギフティングが行われています。
ギフティングは、「無償ギフティング」と「有償ギフティング」の2種類に大別されます。
ステルスマーケティング(ステマ)は、ギフティングに関連するマーケティング手法として論じられることがあります。ギフティングとステマは異なるものですが、ギフティングがステマにも該当するケースはよく見られるのが実情です。
令和5年3月28日に発出された内閣府の告示によって、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示、すなわち事業者が自分で出していると評価できるのに、そのことが一般の人からはわからなくなっている表示を、景品表示法の規制の対象にしています。
これが、法律上規制される「ステマ」です。
参考:「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の指定及び「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」の公表について(消費者庁)
ギフティングと言っても試供品を1つずつ配っただけで、特にその後の発信も働きかけていないようなケースは事業者による表示ではないので、ステマに該当しません。
また、ギフティングの投稿の中で「事業者から依頼されたこと(いわゆる「企業案件」であること)」が表示されていれば、発信内容を事業者が指示していても、ステマに当たりません。
これに対して、事業者が発信することに対価を提供し、あるいは発信内容を指示しつつ、インフルエンサー自身の考え・感想であるかのように発信されているギフティングについては、ステマに該当すると考えられます。
ギフティングには、薬機法の広告規制が適用される可能性がありますが、そのためには「広告」に該当することが必要です。なお、薬機法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と言います。
ギフティングが広告に該当するかどうかは、厚生労働省の通達の基準に従って判断されます。
厚生労働省の通達によれば、薬機法上の広告に該当するのは、3つの要件を満たす医薬品等(化粧品を含む)に関するものです。
化粧品に関するギフティングは、事業者が依頼している時点で、顧客(ユーザー)を誘引する意図は明確と思われます。
したがって、特定の商品名を出してSNSや動画サイトに公開されたものであれば、化粧品のギフティングは、薬機法上の「広告」に該当する可能性が高いと考えられます。
これに対して、化粧品に関する以下の宣伝・PRは、薬機法上の「広告」に該当しないと考えられます。
前述した、「① 顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること」の要件を満たさないためです。
前述した「② 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器または再生医療等製品の商品名が明らかにされていること」の要件を満たさないためです。
前述した「③ 一般人が認知できる状態であること」の要件を満たさないためです。
ギフティングには、景品表示法および薬機法の広告規制が適用されることがあります。
なお、景品表示法の正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」です。
景品表示法では、以下の表示(広告)が不当表示として禁止されています。
景品表示法の罰則
景品表示法違反の不当表示をした事業者は、消費者庁の措置命令を受ける可能性があります(同法第7条)。
措置命令に違反した場合は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される規定になっています(同法第36条第1項)。
また、優良誤認表示・有利誤認表示をした場合は、課徴金納付命令を受ける可能性があります(同法第8条第3項)。
薬機法では、医薬品等の虚偽または誇大な広告を禁止しています(同法第66条第1項)。化粧品も「医薬品等」に含まれるため、ギフティングが広告に当たる場合は、薬機法の広告規制が適用されます。
化粧品が薬機法上の虚偽・誇大広告に該当するか否かを判断する際には、厚生労働省や日本化粧品工業連合会のガイドラインもご参考ください。
参考:
医薬品等適正広告基準(厚生労働省)
医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等(厚生労働省)
化粧品等の適正広告ガイドライン(日本化粧品工業連合会)
薬機法の広告規制に違反した場合の罰則
薬機法の広告規制に違反した場合は、課徴金納付命令の対象となり(同法第75条の5の2)、さらに「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」(同法第85条)が科され得るため、要注意です。
化粧品のギフティングに関するトラブルを回避するには、慎重に対応する必要があります。
インフルエンサーに化粧品のギフティングを依頼する際には、景品表示法や薬機法の広告規制に注意が必要です。
不安がある際には、弁護士に相談することで、ギフティングの広告規制に関するアドバイスやリーガルチェックを受けることができます。
ベリーベスト法律事務所は、企業広告に関するご相談を随時受け付けております。
景品表示法・薬機法上の広告規制対応に関しても、経験豊富な弁護士が具体的にアドバイスいたします。
インフルエンサーへのギフティング依頼を検討中のご担当者さまは、ベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。
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