企業法務コラム
支払不能または債務超過に陥った会社では、破産申し立ての是非を巡って、取締役間で意見が対立することがよくあります。
会社の破産申し立てについて、他の取締役の反対に遭った場合は、「準自己破産」の申し立てを検討しましょう。
今回は「準自己破産」の概要・メリット・デメリット・手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「準自己破産」とは、法人の役員などの申し立てにより、当該法人について行われる破産手続きです。
法人については、法人自身(=債務者)と法人の債権者が破産手続開始の申し立てをすることができます(破産法第18条第1項)。
さらに法人については、以下の者による「準自己破産」の申し立てが認められています(破産法第19条第1項、第2項)。
株式会社の取締役などが準自己破産を申し立てる際には、破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければなりません(破産法第19条第3項)。
法人に係る破産手続開始の原因は、「支払不能」または「債務超過」の2つです。
上記いずれかの破産手続開始の原因が存在することのほか、破産手続きの費用を予納することと、申し立てが誠実にされたものであることが必要です(破産法第30条第1項)。
準自己破産の費用は、少額管財事件として取り扱われるケースで20万円程度、通常の管財事件(特定管財)として取り扱われるケースで70万円以上です。
少額管財の運用を行っている裁判所は限られており、少額管財の適用を受けるためには破産申し立てを弁護士に依頼する必要があります。
また準自己破産の場合、取締役間で破産申し立てに関する意見が食い違っているようなケースでは、複雑な事件として少額管財の取り扱いが認められず、特定管財になることが多いため、注意が必要です。
準自己破産を申し立てる際には、申立人(取締役など)が費用を立て替えなければなりません。
申立人が立て替えた費用は、他の債権に優先して会社財産から随時弁済を受けられます(破産法第2条第7号、第148条第1項、第151条)。ただし、法人に財産がほとんど残っていない場合は、回収不能となってしまうこともあるのでご注意ください。
準自己破産は、通常の破産申し立てと比較した場合に、メリット・デメリットの両面があります。活用すべきケースを見極めて、適切な場合に限り準自己破産を申し立てましょう。
準自己破産のメリットは、経営陣の意見が一致していない状態でも、法人について破産申し立てを行うことができる点です。
たとえば取締役会設置会社である株式会社の場合、会社として破産申し立てを行うためには、取締役会決議を経る必要があります。
取締役会決議は原則として、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数が賛成した場合に成立します(定款で決議要件を加重できます。会社法第369条第1項)。
したがって、取締役の間で破産申し立てに反対する意見が多数を占めている場合は、会社として破産申し立てを行うことはできません。
しかしこのような状況でも、会社が支払不能または債務超過の状態にあるならば、破産申し立てをした方がステークホルダーの利益となる場合があります。この場合、取締役は自らの判断により、単独で会社の準自己破産を申し立てることが可能です。
準自己破産の主なデメリットとしては、以下のような点において申立人の負担が大きいことが挙げられます。
また、たとえば株式会社において、他の取締役の意見を無視して準自己破産の申し立てを強行すると、経営陣の間の対立・分断が決定的となってしまう可能性が高い点もデメリットといえます。
準自己破産を申し立てるべきケースとしては、以下のようなケースが挙げられます。
準自己破産の手続きは、以下の流れで進行します。
まずは会社について、破産手続開始の申し立て(準自己破産の申し立て)を行います。主な申立書類は以下のとおりです。
破産手続開始の申し立てが受理されると、申立人は裁判所から審尋を受けます。審尋では、破産手続開始の原因となる事実の存否に関する事項を中心に、会社の状況について質問がなされます。
準自己破産の要件が揃っていることが確認できた場合、裁判所は破産手続開始の決定を行います(破産法第30条第1項)。
破産手続開始の決定が行われるのと同時に、裁判所は破産管財人を選任します。破産管財人は、財産を換価・処分して債権者に配当するなど、法人破産における一連の対応を行います。
破産手続開始の決定をもって、法人財産(=破産財団)の管理処分権は破産管財人に専属します(破産法第78条第1項)。
破産管財人は、破産財団を適宜の方法によって換価・処分し、債権者への配当に充てる原資を確保します。
破産財団の換価・処分に関する状況は、債権者集会において、破産管財人が法人債権者に対して報告します。債権者集会は、破産手続開始の決定から3か月程度が経過した時期に行われるケースが多いです。
破産財団の換価・処分が終了した後、破産管財人は債権者に対して配当を行います。
債権者に対する配当が完了した後、裁判所は破産手続終結の決定を行います(破産法第220条第1項)。破産手続終結の決定については、裁判所によってその主文および理由の要旨が公告され、法人に対しても通知されます(同条第2項)。
なお、破産手続きの費用が不足したために債権者配当が行われなかった場合は、裁判所が破産手続廃止の決定を行います(破産法第217条第1項)。破産手続廃止の決定の主文と理由の要旨は公告され、法人に対しても通知されます(同条第4項)。
破産手続廃止の決定に対しては、公告掲載日の翌日から起算して2週間に限り、即時抗告による不服申し立てが認められています(破産法第9条、第10条第2項)。
破産手続きについて終結または廃止の決定がなされた場合、裁判所書記官が法務局の登記所に嘱託を行い、その旨の登記が行われます(破産法第257条第7項、第1項)。
破産手続終結または廃止の登記をもって法人格は消滅し、残った債務はすべて免責されます。
準自己破産の申し立てについては、通常の法人破産の申し立てに比べると複雑な対応が求められます。そのため、準自己破産を申し立てる際には、弁護士へのご依頼をおすすめします。
弁護士にご依頼いただければ、破産法の規定に従ってスムーズに準自己破産の申し立てを行います。事案によっては少額管財事件として取り扱われ、裁判所に納める予納金を抑えられる可能性がある点も、弁護士へご依頼いただくことのメリットです。
準自己破産の申し立てを検討している方は、お早めに弁護士までご相談ください。
法人の自己破産申し立てについては、準自己破産という特別の形態が認められています。
他の取締役が破産申し立てに対して不合理に反対している場合には、準自己破産の申し立てを検討しましょう。また、取締役の行方不明などによって取締役会決議の定足数を満たせない場合にも、準自己破産が解決策になり得ます。
準自己破産の申し立てには、通常の破産申し立てよりも複雑な対応が求められるため、弁護士へのご依頼がおすすめです。
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