出向契約書は、労働者の出向に関する契約書で、労働者(出向社員)・出向元企業・出向先企業の3者間で締結します。
出向契約書を適切に作成しなければ、労働者とのトラブルに発展する可能性もありますので注意が必要です。特に出向中の賃金の取り扱いなどについては、出向契約書で明確に定めておきましょう。
本記事では出向契約書について、目的・記載事項・注意点などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
出向契約書は、労働者の出向に関する条件などを定めた契約書です。
「出向」には、「在籍出向」と「転籍出向」の2種類があります。
単に「出向」と言う場合は、在籍出向を指す場合が多いです。
これに対して、転籍出向は「転籍」と呼ばれるのが一般的です。
本記事ではこれ以降、「出向=在籍出向」として解説します。
出向契約を締結するのは、労働者・出向元企業・出向先企業の3者です。
出向契約では、出向に関する労働条件のほか、賃金の分担など出向元・出向先の間でのルールも定める必要があります。
そのため、出向の関係者である労働者・出向元企業・出向先企業の間で、ひとつの出向契約書を締結することが一般的です。
問題社員のトラブルから、
出向契約書の主な記載事項は、以下のとおりです。
転籍出向ではなく、在籍出向である旨を明記します。
具体的には、以下の2点を明記しましょう。
※出向元・出向先の両方に雇用されている状態となります。
出向元と出向先の名称および所在地を明記します。
出向する労働者の氏名および生年月日、ならびに出向期間を明記します。
出向中の業務に関して、勤務地・所属・役職・業務内容などを明記します。
出向中の労働条件に関して、以下の事項などを定めます。
以下の支払いについて、出向元と出向先のどちらの負担とするかを明記します。
労働者の出向元における勤怠がどのように取り扱われるのかを明記します。
一例として、以下の事項などを定めることが多いです。
出向元に対する、労働者の出向状況の報告について、内容・方法・時期などを定めます。
報告は労働者自ら行う場合と、出向先が行う場合の両方が考えられます。
出向先が、労働者を他社へさらに出向させてはならない旨を定めます。
労働者が出向元に復職する事由を定めます。
その他、以下の事項などを定めます。
出向契約書の記載例については、厚生労働省のウェブサイトにも掲載されています。
参考:「在籍型出向支援」(厚生労働省)
企業が出向契約書を締結する際には、特に以下の3点に注意しましょう。
出向元と出向先の間では、賃金や社会保険料などの支払いルールを明確化することがもっとも重要です。
賃金・社会保険料などの負担者が明確でないと、出向元と出向先の間でトラブルに発展し得ることに加えて、双方において法令違反の状態が生じるおそれがあります。
出向契約書において、賃金・社会保険料などの負担者や支払い方法を明確に定めておきましょう。
労働者と出向元の間では、人事評価をどのように行うかが問題になり得ます。
労働者が実際に働くのは出向先ですが、出向先におけるパフォーマンスは、出向元の人事評価において適切に考慮されなければなりません。
出向先からの人事評価に関する報告をそのまま採用する方法も考えられる一方で、そのまま採用するのではなく、出向元において定めた一定のルールに従って評価に変換する方法なども考えられます。
人事評価の方法については、必ずしも出向契約書に明記しなくても構いませんが、出向元の社内規定などによって明確化しておくとよいでしょう。
就業規則などにおいて出向に関するルールが明記されていれば、会社は労働者の同意を得なくても出向を命じることができます。
ただし、出向の必要性・対象労働者の選定に関係する事情、その他の事情に照らして、人事権の濫用と認められる出向命令は無効です(労働契約法第14条)。
たとえば、以下のような出向命令は無効になるリスクがあります。
出向命令が権利濫用に当たらないようにするためには、出向の必要性や対象労働者の選定などを適切に行うことが大切です。
弁護士のアドバイスを踏まえて、事前に慎重な検討を行いましょう。
出向契約書を作成しなかった場合、出向元・出向先の各企業は以下のリスクを負うことになってしまいます。
出向契約書の締結は、出向について労働者が同意していたことの証拠のひとつとなります。
これに対して、出向契約書を作成せず、労働者から十分な理解を得ないまま出向命令を強行した場合には、労働者から人事権の濫用を主張されるリスクが高まります。
出向に反発する労働者から人事権の濫用による出向命令の無効を主張されると、深刻な労使トラブルに発展しかねません。
労働者とのトラブルのリスクを抑えるためにも、出向契約書を作成・締結することをおすすめします。
出向契約書を締結しないと、賃金や社会保険料などの支払いに関して、出向元と出向先の間でトラブルになるリスクが高くなります。
出向元・出向先のどちらも支払いを拒否すると、双方が労働者とのトラブルに巻き込まれるほか、労働基準監督署や年金事務所などによる行政指導・行政処分などの対象になる可能性があります。
賃金や社会保険料などの支払いに関する煩雑なトラブルを避けるためにも、出向契約書を締結しておきましょう。
出向契約書・雇用契約書の作成や、その他の人事労務に関する事柄については、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、労働基準法や労働契約法などの各種法令を踏まえて、労務上のリスクを抑えられるような対応方法をアドバイスいたします。
出向契約書を含めた書類の作成についても、弁護士にご依頼いただければ、企業の方針や状況を伺ったうえで適切な内容となるよう作成をサポートいたします。
労働者の出向など、人事労務についてお悩みの企業は弁護士にご相談ください。
問題社員のトラブルから、
出向契約書は、出向に関するトラブルを避ける観点から重要な書面です。
出向中の労働条件や賃金・社会保険料の負担者など、必要な事項を漏れなく定めましょう。
労働者の出向に関するトラブルを予防するためには、弁護士のアドバイスを受けるのが安心です。
出向契約書などの書類についても、弁護士がご要望に合わせて速やかに作成いたします。
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