企業法務コラム
インターネット上で悪質な誹謗中傷を受けたとき、個人や企業、事業主としてどのような対応が可能なのでしょうか。
悪口や根拠のない中傷がSNSなどで広く拡散された場合、企業のブランド価値や個人の社会的評価が低下したり、業務に支障が生じたりするリスクが予想されるため、すみやかに法的措置を取って被害の拡大を防がなければなりません。
この記事では、ネット上で企業に対する誹謗中傷を見つけたら、まず始めにすべきこと・してはいけないこと、具体的な法的措置(記事の削除請求、加害者に対する損害賠償・謝罪請求)について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
インターネット上で誹謗中傷を見つけた時、個人や企業、事業主がすべきことは主に5つあります。してはいけないNG行為と併せて、解説します。
① 証拠を保全する
まずは、事後の裁判手続きに備えて、証拠を保全しておくことが重要です。
誹謗中傷に気付いてすぐの段階では、どのような対応を取るか判断しかねるでしょう。しかし裁判手続きなどの法的措置を取ることになった場合には、証拠が必要となります。そのため、まずは証拠を残すことが大切です。
ネット上の誹謗中傷の証拠は、誹謗中傷が書き込まれているページをスクリーンショットする方法が一般的ですが、その際、そのページのURLと書き込み時間が映り込むように撮影する必要があります。また、URLは、「http://」も含めて全てを表示させておかなければなりません。
② サイト管理者に削除を依頼する
法的措置をとるかどうかまでは判断できていないけれども、書き込みだけは削除して、さらなる被害の拡散を防ぎたいという場合には、サイト管理者(例えば、X(旧Twitter)であればX社、InstagramであればMeta社)に対して、削除依頼を行いましょう。
各サイトやSNSの利用規約やサイトポリシーでは、禁止・違反行為に当たる書き込みの条件、禁止・違反行為に該当する書き込みの削除、などが定められていることが一般的です。
このような場合、サイト管理者の問い合わせフォームから、サイト管理者が定める手続きに従い、どの書き込みが、どの禁止・違反行為に該当するかなどを説明し、削除を依頼することになります。
ただし、実際に削除するかどうかは、各サイト管理者が基準を設けていて、その基準に合致しているかどうかによって判断されることになります。そのため、依頼どおりに削除されないことも少なくありません。
③ 声明文・警告文を出す
企業であれば、自社ホームページやSNSのプロフィール欄などに、注意喚起の声明文や、誹謗中傷に対しては法的措置を講じるなどといった警告文を掲載する方法も考えられます。
最近では、プロ野球選手やサッカー選手に対する誹謗中傷に対して、球団やクラブチームが声明文を発表するなどといった例も見受けられます。
個人であれば、プロフィール欄や固定コメント枠を利用して、ネットトラブル対策のセミナーを受講していることを記載するなど、誹謗中傷への対応方法について精通していることを示唆して牽制しておくことは、有効な方法として考えられます。
④ 無視する
誹謗中傷が軽微な場合や、具体的な悪影響や実害が生じるおそれがないような場合には、無視することが有効なケースもあります。加害者にとって、誹謗中傷の相手から何らの反応もなければ、やがて興味を失い、それ以上の誹謗中傷を行わなくなる、ということが期待できるからです。
ただし、一人の書き込みに対して他の人が興味を示して反応し、どんどん情報が拡散しているような場合や、放置していれば、将来的に自社の評価やブランド力に悪影響があると見込まれる場合などには、無視することは適切ではありません。
判断に迷った場合は、誹謗中傷やネットトラブルに実績のある弁護士など、第三者に相談することをおすすめします。
誹謗中傷に対して、加害者に直接反論を返したりすることは、原則、NGです。
誹謗中傷の内容が事実無根であったり、こちらの言い分が正しかったりしたとしても、加害者は匿名であるため、まっとうな議論を期待することができません。また、反論したことがきっかけで炎上し、情報が拡散してしまうリスクがあるからです。
炎上に発展して情報が拡散し、被害がさらに拡大することになれば、加害者の思うとおりの結果となり、誹謗中傷がさらに加速することにもつながりかねません。
ネットは議論をする場ではないということを意識したうえで、冷静かつ適切に対応することが必要です。
「1、(1)誹謗中傷を受けたときに取るべき4つの対応」でお伝えした対応で効果がなければ、以下の3つの法的措置を講じることになります。
サイト管理者に直接依頼をしても書き込みを削除してもらえなかった場合、サイト管理者を相手方として、裁判所に対して削除の仮処分を申し立てる裁判手続きを取る必要があります。
裁判所によって、法律上の要件を満たしていると判断されれば、サイト管理者に対して、当該書き込みの削除を命じる仮処分命令が発せられます。審理に必要な期間は、約1~2か月です。
仮処分命令が発せられれば、通常、1週間程度で、サイト管理者によって書き込みの削除が行われます。
誹謗中傷を行った加害者に損害賠償などを請求するためには、加害者の身元を特定する必要がありますが、ネット上の誹謗中傷は匿名で行われることがほとんどです。
そのため、損害賠償などを請求する前段階として、加害者の身元を特定するための裁判手続きを取らなければなりません。
加害者の身元を特定するためには、まず、サイト管理者(コンテンツプロバイダ)を相手方として、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示の仮処分を申し立てます。この手続きにより、加害者に割り当てられたIPアドレスが判明し、加害者が契約するインターネットプロバイダ(アクセスプロバイダ)の特定が可能となります。
次に、加害者が契約しているインターネットプロバイダを被告として、加害者の住所・氏名・メールアドレスなどの開示を請求する民事訴訟を提起します(個人情報の開示を請求するため、仮処分ではなく民事訴訟の提起が必要となります)。これは通常の訴訟による手続きであるため、審理には6か月から1年程度の期間がかかります。
なお、発信者情報開示請求とは別に、令和4年10月、発信者情報開示命令という新たな裁判手続きが創設されました。
発信者情報開示命令では、サイト管理者への請求とインターネットプロバイダへの請求を一連の裁判手続きの中で行うことが可能です。これにより、より簡易かつ迅速な被害者の救済が期待できるようになりました。
発信者情報開示請求は、複数の裁判手続きを取らなければならないという点がデメリットですが、発信者情報開示命令も、異議が申し立てられれば通常の訴訟に移行することがあるため、当初から発信者情報開示請求を選択していた方が結果的に短い期間で済んでいた、ということもあり得ます。
どちらの裁判手続きを選択すべきであるかは、事案に応じた個別具体的な判断が必要となりますので、お悩みの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
加害者の身元が特定できれば、加害者を被告として、損害賠償を請求する民事訴訟を提起したり、刑事告訴を検討したりすることができます。
損害賠償請求訴訟では、慰謝料、信用低下による損害、削除や発信者情報開示にかかった弁護士費用、損害賠償請求訴訟の弁護士費用などを請求することが可能です。
なお、個人が被害者であるケースでは、慰謝料は50万円以内となることが多く、費用倒れとなるリスクがありますし、また、いくら訴訟で勝訴しても、加害者に資力がなければ空振りに終わるリスクも考えられます。
そのため、いったんは削除請求だけにとどめて様子を見るか、加害者を特定して損害賠償請求まで行うか、弁護士と相談して慎重に検討する必要があるといえます。
損害賠償請求を行えば、金銭的な回復を図ることはできますが、傷つけられてしまった名誉そのものが回復されるわけではありません。
毀損された名誉を回復するための方法としては、次の2つの方法を挙げることができます。
民事訴訟で加害者に請求することができるのは、損害賠償請求だけではありません。誹謗中傷によって名誉を毀損された場合には、名誉を回復のための方法として、謝罪広告の掲載請求を行うことが可能です。
謝罪広告の掲載請求は、損害賠償を請求する民事訴訟の中で同時に行うことが可能で、掲載を求める謝罪文の内容についても、被害者側で指定して請求することが可能です。ただし、必ずしも請求どおり認められるとは限りません。
書き込みが個人の単なる感想・意見・評価にとどまる場合には、当該書き込みが犯罪に当たることはありませんが、誰かの身体や財産に危害を加えるような内容の書き込みが行われたり、侮辱、名誉毀損、業務妨害に当たる書き込みが行われたりして、犯罪が成立する場合には、刑事告訴や被害届の提出を検討することも必要となってきます。
また、刑事事件化させて加害者に刑罰を受けさせることで、再発防止効果を期待することもできます。
自分の受けた誹謗中傷が刑事事件化するような事案であるかどうかについては、個人で警察に相談することも可能ですが、円滑な立件や捜査を期待するという観点からすれば、弁護士に相談して意見を求め、十分な資料と適切な内容の告訴状をもって警察に持ち込むことが望ましいでしょう。
誹謗中傷を受けたとき、法的措置以外の対応だけでなく、法的措置についても、個人で対応することが不可能というわけではありません。
しかし、個別具体的な事案において、いかなる対応を取ることが適切であるかを判断するためには、ネットトラブルに関する知識や経験が求められますし、法的措置をとる場合には、裁判手続きに関する専門的な知識も必要となります。
個人ですべてに対応するには限界がありますので、ネットでの誹謗中傷トラブルに巻き込まれてしまったときには、ネットトラブルに詳しい弁護士に依頼することが望ましいといえるでしょう。
インターネットで誹謗中傷を受けていることを発見したら、被害が拡大する前に、速やかに弁護士に相談して、今後の方針を検討することが適切です。
弁護士に相談すれば、ひとまずは無視して様子を見るべきか、まずは削除の裁判手続きを取ったうえで、損害賠償請求までを視野に入れるべきであるかなど、専門的な観点からのアドバイスを受けることが可能となります。
このほか、名誉毀損、侮辱、脅迫、業務妨害などに該当する悪質な誹謗中傷に対しては、告訴状や被害届を提出して刑事事件化させて、刑事責任を問うことも可能です。裁判手続きには法律知識が必要ですし、ネットトラブルに特有の対応法も求められることとなりますので、ネットでの誹謗中傷は、実績ある弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所ではこれまで、誹謗中傷などのインターネットトラブルに対応してきた実績があります。誹謗中傷で悩んでいる、どう解決していいかわからないとお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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