企業法務コラム
著作権侵害は、民事上の損害賠償責任などのほか、刑事上の責任を負う可能性もある行為です。
では、記事・画像・動画などの自社に著作権のあるコンテンツが無断転載されたとき、相手方に対しては、どのような責任追及ができるのでしょうか。
本コラムでは、著作権侵害の相手方にどのような責任追及ができるのか、責任を追及するための手続きの流れ、損害賠償を請求できる場合の相場などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
著作物の無断転載は、著作権を侵害する行為です。
著作権者の許諾がないにもかかわらず、著作物をコピー・上映・掲載などして使用すれば、著作権侵害にあたります。
著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています(著作権法2条1項1号)。
著作物にあたり得るものとしては、小説・音楽・絵画・建築・映画・写真などがあります。
身近な例でいえば、YouTube・Instagram・Twitterなどにアップされている写真や動画などが、著作物となり得ます。
これらの著作物を著作権者に無断で使用すれば、無断転載として著作権侵害に該当する、ということになります。
著作権者の許諾がないという点では無断転載と同じなのですが、引用を行えば、無断転載にも著作権侵にも該当しません。
引用とは、著作権法32条1項で、次の要件を満たす行為であると定められています。
これだけでは抽象的で分かりづらいですが、具体的には、次のルールを遵守しなければならないとされています。
これらのルールに従い、適法に引用を行えば、著作権者に無断で著作物を利用しても違法とはなりません。
自社の著作物が無断転載されていることを発見した場合、その相手方に対しては、次の請求をすることが可能です。
まずは、直接、相手方に対し、無断転載の記事や投稿の削除を請求することが考えられます。
著作権フリーだと勘違いしていたなど、相手方に悪意がないと認められる場合や、無断転載をしているのが相手方1人だけで、特に拡散しているなどと認められない場合には、有効な方法であるといえます。
ただし、当事者から直接連絡すれば、相手を刺激してしまい、DMなどの連絡がネット上に晒されてしまうリスクが考えられます。
相手の身元が不明である場合、名前や住所などを特定する必要がありますが、再発を防止するためにも、弁護士から警告と削除を求める文書を送付する方が適切であるケースも少なくありません。
また、相手方の身元を特定することができれば、著作権法第112条に基づき、無断転載の停止(削除請求)に加えて、著作物の使用の差し止めを請求することも可能になります。
このように、削除請求などを行う場合であっても、事実上の請求を行うのか、法律に基づいて裁判手続きを利用するのかなど、複数の方法があります。
無断転載によって経済的な損害を受けた場合には、民法709・710条に基づき、損害賠償請求が可能です。
経済的な損害の例としては、次のようなものが考えられます。
無断転載などの著作権侵害行為には、罰則が定められていますので、著作権の侵害を受けた被害者は、告訴などによって刑事事件化することも可能です。
罰則は、個人の場合、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(懲役と罰金の両方が科せられることもある)、法人の場合、3億円以下の罰金で、重い刑罰が予定されているといえます。
パロディ化などの改変によって著作者人格権が侵害されたケースでは、著作権法第115条に基づき、新聞への謝罪広告の掲載を求めるなど、名誉を回復するための措置請求を行うことも可能です。
無断転載が行われていても、前の章でお伝えした法的な対応ができないケースも存在しますので、具体的にお伝えします。
著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されていますが、これに該当しないコンテンツであれば、いくら無断転載されたとしても著作権侵害にはあたらず、法的な対応ができないということになります。
著作物にあたらないものの代表的なものとしては、次のようなものがあるとされています。
著作物にあたるかどうかは、裁判でも争われるほど難しい問題ですので、著作物にあたるかどうかで争いがあるような場合には、弁護士への相談をおすすめします。
著作物は、著作権者が許諾(同意)すれば、許諾の範囲内で自由に転載などを行うことができます。
したがって、一切の制限なく自由に使用してよいと許諾したケースでは、無断転載であるとして法的な対応をとることができなくなります。
他方、転載可能な期間・転載先・転載範囲などに条件を付けて許諾したにもかかわらず、条件に違反しているケースや、有償で許諾したにもかかわらず、約束どおりライセンス料が支払われないケースなどでは、有効な許諾を受けているとはいえませんので、法的な対応をとることが可能です。
著作権者として許諾する場合、事後のトラブルやリスクを回避するためにも、弁護士に相談し契約書を作成することをおすすめします。
著作権法30条では、他人の著作物であっても、私的に使用するためであれば、複製などを行ってよいと定められています。
そのため、著作者として許諾していない無断転載であっても、私的使用目的の複製などにあたれば、法的な対応をとることはできません。
しかし、複製したコンテンツをYouTube・Instagram・Twitterなどに掲載して第三者の閲覧が可能な状態にしていたり、売却して利益を得ていたりするような場合には、私的使用目的にあたるとは明言できないため、無断転載として法的に対応することが可能なケースが多いでしょう。
すでにお伝えしたように、著作権法の引用にあたる転載であれば、著作権法で許された行為ですので、法的な対応をとることはできません。
無断転載の被害に遭い、削除や損害賠償を請求するときには、一般的に、次の手順で対策を講じる必要があります。
削除や損害賠償を請求するにあたっては、相手の名前や住所などの身元を特定する必要があります。
企業サイトなどであれば相手が明確となっているため、すぐに特定できるでしょう。しかし、SNSなど本名を明示していない媒体での無断転載であれば、相手に心当たりにあったとしても、確実にその方が無断転載しているとは限りません。
そこで、まずは、相手の身元を特定することを目的に、発信者情報を開示するようプロバイダなどに求め、開示された発信者情報から当該無断転載の投稿者を特定していく必要があります。
発信者情報を開示してもらうための法的手続きは、「発信者情報開示請求」と「発信者情報開示命令」の、いずれかを選択することになります。それぞれの違いは以下の通りです。
無断転載を行った者の身元が判明すれば、訴訟を提起して、差止請求(削除請求)を行います。
同時に、相手側に一定期間謝罪文や経緯説明文を掲載するよう求めることも可能です。
損害賠償についても、相手の身元が判明すれば、訴訟の提起が可能となります。
通常の損害賠償請求とは異なり、著作権法では、著作権侵害を行った者が利益を受けている場合、その額を損害の額と推定したり、本来支払うべきライセンス料相当額を損害額とすることを認めたりするなど、損害額の証明について、著作権者を保護するための規定が設けられています(著作権法114条2・3項)。
最後に、無断転載について損害賠償が認められた裁判例をご紹介します。
自身の作品を海賊版サイト「漫画村」に無断で掲載された漫画家が、漫画村に掲載する広告を募集してその利益を漫画村に提供していた会社らを被告として、損害賠償を求めた事件です。
判決では、漫画村による作品の無断転載は著作権侵害にあたることを前提に、会社らが漫画村に利益を提供した行為は、著作権侵害の幇助にあたるとして、損害賠償が命じられました。なお、損害賠償の額を算定するにあたっては、前の章でお伝えした著作権法114条1項による推定が適用されました(知的財産高裁令和4年6月29日判決(令和4年(ネ)第10005号))。
損害額として2億円を超える請求がなされていますので、無断転載による著作権侵害には大きな責任が発生することがうかがえます。
著作権者が、画像検索結果からダウンロードしたフリー素材サイトに掲載されていた写真を、著作権フリーと誤信して利用した者に対して、損害賠償を請求した事案です。
判決では、フリー素材サイトに掲載されていたものであったとしても、それを使用した者には著作権侵害が成立し、過失責任が成立するとされました(東京地裁平成24年12月21日判決(平成23年(ワ)第32584号))。
たとえフリー素材サイトに掲載されているコンテンツであっても、漫然と信じて使用すれば、思いがけない責任を負うことになり得るといえます。
無断転載によって自身の著作権を侵害された場合、著作権などの知的財産に詳しいことに加えて、ネットトラブルに精通した弁護士への相談が望ましいといえます。
著作権侵害は、そもそも著作物にあたるかどうかについて判断の難しい点があります。また、ネット上で著作権侵害が行われている場合には、削除を優先すべきか、時間をかけてでも発信者情報開始請求を経て損害賠償請求をすべきかなど、事案に応じた判断が求められます。
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