企業法務コラム
中古車関連事業を展開する企業が、常習的に自動車の修理代金や保険金などを水増しして請求していた事案が大きく報道され、厳しい批判を浴びました。水増し請求(不正請求)は重大なコンプライアンス違反であり、発覚すれば会社は窮地に立たされてしまうでしょう。
会社の内部者による水増し請求が発覚したら、コンプライアンスの観点から告発や公益通報を検討しましょう。ただし告発にはリスクも伴うため、対応方針については弁護士にご相談ください。
本記事では、社内で水増し請求が発覚した場合の対処法や注意点などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
水増し請求とは、実際に必要な代金よりも多くの代金を請求する行為です。水増し請求については、詐欺罪を中心に以下の犯罪が成立する可能性があります。
詐欺罪は、相手をだまして財物を交付させる犯罪です。また有償で提供されるサービスを、対価を支払わずに受けて財産上の利益を得る行為も詐欺罪に当たります。詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」とされています(刑法第246条)。
水増し請求は、本来請求できる金額を超える請求を行い、相手方から不正に金銭の支払いを受けようとする行為です。すなわち、水増し請求は取引の相手方をだまして財産を交付させる行為であるため、詐欺罪が成立する可能性があります。
詐欺罪のほかにも、水増し請求には以下の犯罪が成立する可能性があります。
会社の内部者による水増し請求を知った場合には、社内窓口・社外窓口・行政機関・報道機関などへの「公益通報」を検討しましょう。
なお、いわゆる「内部告発」は必ずしも公益通報に該当しません。公益通報として保護を受けるためには、公益通報者保護法に基づく一定の要件を満たす必要があります。
「公益通報」とは、公益通報者保護法に基づく犯罪行為などの通報をいいます。水増し請求は詐欺罪などに該当し得るため、公益通報の対象となる可能性が高いです。
公益通報をした者(=公益通報者)は、公益通報者保護法により保護されます。会社は、公益通報をしたことを理由として公益通報者を不利益に取り扱ってはならず(同法第3条乃至第5条)、公益通報によって損害を受けたことを理由として公益通報者に対して損害賠償を請求することもできません(同法第7条)。
公益通報者が役員である場合は、株主総会決議によって公益通報者を解任することまでは否定されませんが、公益通報をしたことを理由として解任した場合、会社は、解任によって公益通報者に生じた損害を賠償しなければなりません(同法第6条)。
行政機関や報道機関などに対して、会社の内部者による違法行為を暴露する行為は、一般に「内部告発」と呼ばれます。
内部告発は、必ずしも公益通報者保護法により保護されるとは限りません。公益通報としての要件を満たす場合に限り、公益通報者保護法により保護されます。
公益通報者保護法では、公益通報の通報先を以下のとおり定めています。
会社が設置した社内窓口または社外窓口への内部告発は、実名か匿名かにかかわらず、また水増し請求が行われているという確信がなくても、その疑いを持っていれば公益通報として認められます。
これに対して、行政機関などに対する内部告発を匿名で行う場合は、水増し請求が行われ、またはこれから行われると信ずるに足りる相当の理由がなければ、公益通報として保護されません。
また、報道機関に対する内部告発が公益通報として保護されるためには、さらに厳しい要件を満たす必要があります。
このように、公益通報として保護されるのは内部告発のうち一部であり、保護の要件は通報先によって異なる点に注意が必要です。
水増し請求の告発(公益通報を含む)をする際には、通報後に生じる事態やリスクを考慮したうえで、慎重に行いましょう。
水増し請求について告発を行う際には、水増し請求が行われているか、または将来的に行われる可能性が高いことの証拠を確保することが大切です。
有力な証拠があれば、会社としても適切な対応をとりやすくなり、捜査機関(警察・検察)も捜査に動きやすくなります。
特に、行政機関などに対して匿名で告発する場合や、報道機関に対して告発する際には、公益通報として保護を受けるために、水増し請求の確実な証拠が必要です。関係者間におけるやり取りの内容が記録されたメールや録音、取引履歴、請求書などの証拠をできる限り確保しておきましょう。
内部告発が公益通報として保護されるための要件は、通報先によって異なります。会社が設置した社内窓口および社外窓口への通報要件がもっとも緩やかで、行政機関などへの通報要件はやや厳しくなり、報道機関などへの通報要件は非常に厳しくなっています。
会社が設置した社内窓口または社外窓口があれば、基本的にはそこに通報するのがよいでしょう。特に社外窓口へ通報すれば、独立した立場の担当者により公平に事案を取り扱ってもらえます。
社内窓口・社外窓口が設置されていない場合や、どちらも具体的な対応を期待できない場合は、行政機関などへの通報を検討しましょう。
公益通報者保護法所定の事項を記載した書面により実名通報をすれば、社内窓口・社外窓口と同等の要件により、公益通報として保護を受けられます。
匿名で行政機関などへ通報する場合は、水増し請求に関する確実な証拠を確保しましょう。
報道機関などに対する通報は、公益通報としての保護の要件が非常に厳しいので、弁護士に相談してから行うことをおすすめします。
内部告発によって会社内部の不正行為が世間の知るところになれば、会社は行政処分や刑事罰の対象になるほか、社会的な評判も失ってしまうでしょう。
コンプライアンス上の問題点を改善するためには、内部告発がやむを得ないケースもあります。
その一方で、内部告発の目的は、会社の健全な利益を守ることにあります。内部告発に関与する経営陣を中心に、一時的に失われてしまいかねない会社の業績や評判を、どのように回復するかの方策についても併せて検討しましょう。
会社の内部者による水増し請求が発覚した場合の危機管理対応については、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、告発を検討している内容が不正にあたるか否かについて、法的な観点から助言いたします。また、実際に告発を行う際には、通報者が不利益を被らないように、公益通報の要件を踏まえて適切な手続きの進め方もアドバイスいたします。
さらに、内部告発を行った後の対応や、会社の業績・評判を回復するための取り組みについても、弁護士が独立・客観的な立場からサポートいたします。
会社の内部者による水増し請求が発覚したら、速やかに弁護士へご相談ください。
会社の内部者による水増し請求の疑いが生じたら、会社が設置した社内窓口・社外窓口や行政機関などへの内部告発を検討することができます。
内部告発を行う際には、できる限り事実関係を正確に調査したうえで、公益通報としての保護を受けられるかどうかについての検討を行う必要があります。弁護士にご相談いただければ、内部告発者が不利益を受けないように、注意すべきポイントや適切な対応についてアドバイス・サポートいたします。
ベリーベスト法律事務所は、企業の危機管理対応に関するご相談を随時受け付けております。会社の内部者による水増し請求が発覚したら、速やかにベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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