戒告とは、就業規則違反に当たる問題行為があった従業員に対して、企業が厳重注意を行う懲戒処分です。
戒告はもっとも軽い懲戒処分ですが、手続きが不適切だと無効になるおそれがあります。戒告処分を行う際には、事前に弁護士のアドバイスを受けましょう。
本記事では、企業が労働者に対して行う戒告処分について、要件・効果・手続きの流れ・注意点などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「訓告」や「譴責」との違い
「訓告」や「譴責」などの懲戒処分を設けている企業もありますが、いずれも使用者が労働者に対して厳重注意を与えるものであり、実質的に戒告と同じです。
※戒告は公務員に対して行われることもありますが、本記事では民間企業における戒告に絞って解説します。
企業が労働者に対して戒告処分を行うためには、以下の要件をいずれも満たす必要があります。
戒告はもっとも軽い部類の懲戒処分であるため、比較的軽微な就業規則違反に対して行われることが多いです。
具体的には、以下のような行為が戒告の対象となります。
戒告には、他の種類の懲戒処分(減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇など)とは異なり、労働者に対して直ちに具体的な不利益を発生させる効果がありません。
しかし、戒告によって社内における労働者の評価が下がることにより、賞与の減額・昇給や昇進の遅れ・退職金の減額などが生じることがあります。
戒告の対象となった労働者をその後どのように取り扱うかは、企業によって考え方が分かれるところです。
問題社員のトラブルから、
企業が戒告を行う際には、以下の流れで手続きを行いましょう。
戒告処分を行うだけの理由があるかどうかを確認するため、まずは事実関係を調査する必要があります。
対象労働者がやり取りしたメールや、社内に残っている資料などを精査し、就業規則違反に当たる非違行為が認められるかどうかを調べましょう。
また、非違行為に関わったと思われる他の労働者などから事情を聞き取ることも、事実関係の正確な把握に役立ちます。
戒告処分を行う前に、対象労働者本人の弁明を聞きましょう。
本人の弁明を聞くことは、事実関係をより正確に把握するために役立ちます。
また、弁明の機会を与えることにより、戒告について適正に手続きを行ったものと説明しやすくなり、後のトラブルへの備えとなります。
タイミングに注意
本人に弁明の機会を与えるのは、資料の精査や関係者への聞き取りなど、事実関係の調査がおおむね済んでからにしましょう。
調査の途中で本人に弁明の機会を与えると、証拠隠滅などのきっかけを与えてしまうおそれがあるためです。
自由に発言させることが大切
また、本人から弁明を聞く際には、プレッシャーを与えることなく自由に発言させることが大切です。
たとえば、大人数が待ち構えた会議室に本人を呼び出すような形をとると、萎縮してしまって十分な弁明を得られないおそれがあります。
企業側では1名または少数の担当者が参加し、本人に自由な発言を促すことが望ましいでしょう。
戒告相当の非違行為が認められると判断した場合は、取締役会などの機関において戒告処分を決定します。
戒告処分は、文書で本人に通知するのが一般的です。
戒告に伴って始末書の提出などを求める場合は、その旨も通知書面に記載しましょう。
また、戒告処分を行っただけで済ませるのではなく、本人に対して注意指導を継続することが大切です。
上司などが本人の振る舞いを観察し、定期的に面談を設けるなどして改善指導を行いましょう。
企業が戒告を行う際には、特に以下の2点に注意して対応しましょう。
戒告処分の前提となる事実関係に誤認があると、客観的・合理的な理由がないものとして、戒告処分が無効になってしまうおそれがあります。
労働者の非違行為に関する情報が入ってきても、それを鵜呑みにするのではなく、必ず会社として十分な調査を行い、事実関係の正確な把握に努めましょう。
戒告はもっとも軽い懲戒処分なので、「重すぎる」という理由で無効となるリスクは低いです。
しかしながら、労働者の非違行為が非常に軽微である場合は、戒告相当にも及ばないと判断され、戒告処分が無効となる可能性が否定できません。
企業が戒告処分を行う際には、労働者の行為の性質・態様を実質的に判断し、
・本当に就業規則違反に該当するかどうか
・戒告を行うべきかどうか
を慎重に判断することが求められます。
戒告を受けた労働者の賞与が減額されるケースは、多くの企業において見られます。
戒告を理由とする賞与の減額は認められる余地が大きいですが、
・賞与規程などに減額の根拠規定がない
・あまりにも大幅に賞与を減額した場合
などの場合には違法と判断されるおそれがあるのでご注意ください。
毎月支給すべき基本給などとは異なり、賞与については、勤務成績等を考慮して金額を変動させることにつき、会社の広い裁量が認められると解されています。
戒告は懲戒処分であり、賞与の査定に当たってマイナス要因とすることは合理的といえます。
したがって基本的には、戒告を理由に賞与を減額することは認められやすいと考えられます。
ただし、賞与の計算方法について賞与規程などに詳細な定めがある場合は、その規定を適用して賞与の額を決定しなければなりません。
たとえば、賞与規程において詳細な計算式が定められている一方で、その計算式には戒告を理由とする減額を行うための変数が含まれていなかったとします。
この場合、賞与規程において別途の根拠規定がない限り、戒告を理由とする賞与の減額は違法と判断されるおそれがあるので注意が必要です。
戒告は減給などと異なり、賃金の減額を伴わない懲戒処分です。
たとえ就業規則に戒告に伴う規定として賞与の支給について明記していたとしても、
・戒告を理由に賞与の全部を不支給
・または大幅に減額
すると、実質的な減給処分であるとして違法と判断される可能性が高いと考えられます。
戒告を理由とするあまりにも大幅な賞与のカットは、労働者の反発を招き、トラブルになる可能性が高まります。
労働者から訴訟を提起されるおそれもあるため、慎重な対応が必要です。
労働者に対する戒告などの懲戒処分や、その他の人事・労務管理上の問題については、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、法律のルールおよび労働実務を踏まえて、企業の実情に即した人事・労務管理のあり方をアドバイスし、社内体制の構築についても丁寧にサポートいたします。
弁護士と顧問契約を締結すれば、人事・労務管理の問題を含めて、企業が日々直面する法律問題全般につき、いつでもスムーズに相談することが可能です。
人事・労務管理にお悩みの企業は、顧問弁護士との契約をご検討ください。
問題社員のトラブルから、
戒告はもっとも軽い懲戒処分ですが、安易に行うと無効と判断されるリスクがあります。調査を通じて事実関係を正確に把握し、弁護士のアドバイスも受けた上で、戒告を行うことが適切かどうかを慎重に判断しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。
戒告を含む懲戒処分の可否を慎重に判断したい企業は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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