企業法務コラム

2024年11月06日
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誹謗中傷対策に侮辱罪が厳罰化|事業主や企業が知っておくべき対処法

誹謗中傷対策に侮辱罪が厳罰化|事業主や企業が知っておくべき対処法

インターネット上の悪質な誹謗中傷が社会問題となっています。この要因のひとつには、誹謗中傷をした場合の刑罰が軽すぎるという点が挙げられるでしょう。そのため、令和4年の刑法改正により、侮辱罪が厳罰化されることになりました。

このような侮辱罪の厳罰化は、誹謗中傷の書き込みに対する一定の抑止力となります。しかし、実際に誹謗中傷の書き込みがなされてしまった場合には、刑罰以外にも適切な方法で対処することが重要です。

本コラムでは、誹謗中傷対策による侮辱罪厳罰化の詳細や、誹謗中傷の書き込みをされた場合の対処法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、誹謗中傷対策による侮辱罪の厳罰化とは

令和4年の法改正により、侮辱罪が厳罰化されることになりました。厳罰化により侮辱罪はどのように変わったのか、1章で解説していきます。

  1. (1)侮辱罪とは

    侮辱罪とは、事実を摘示することなく、公然と人を侮辱したときに成立する犯罪です(刑法231条)。侮辱罪の成立には、以下の3つが要件となります。

    • 公然性があること公然性とは、不特定または多数の人が認識できる状態のことです。実際に不特定または多数の人が認識したことまでは要求されず、特定かつ少数の人への言動であっても、そこから話が広がってしまう可能性があれば公然性の要件を満たします。インターネット上の書き込みは誰でも閲覧できるものであるため、公然性の要件を満たすことになります。
    • 人に対して侮辱的な言動をすること:侮辱とは、他人をおとしめるような言動のことです。「人」には、個人だけではなく、企業などの法人も含まれますので、企業への侮辱罪も成立します。
    • 事実の摘示がないこと:侮辱罪は、「事実の摘示」がないことが要件となります。事実の摘示がないとは、侮辱的な言動にあたって根拠となる事実を示さず、主観的で抽象的な言動に終始することです。たとえば、「バカ」「アホ」などという書き込みは事実の摘示がないため、侮辱罪が成立する可能性があります。
  2. (2)侮辱罪が厳罰化されるに至った背景

    侮辱罪厳罰化の背景には、インターネット上での悪質な誹謗中傷が社会問題になっていたことが挙げられます。

    インターネット上の掲示板やSNSなどでは、誰でも気軽に投稿や発言ができる反面、匿名であることを悪用し、誹謗中傷の書き込みが行われるケースは少なくありません。このような誹謗中傷の書き込みがなされた結果、インターネットやSNSなどで拡散され、取り返しのつかない事態になることもあります。

    実際に令和2年には、SNSでの誹謗中傷が原因で、プロレスラーの女性が命を絶ってしまったという痛ましい事件も起きています。
    そこで、インターネット上での誹謗中傷を取り締まる目的で、侮辱罪の厳罰化に至りました。

  3. (3)厳罰化により侮辱罪はどう変わる?

    刑法改正により、侮辱罪はどのように厳罰化されることになったのか、その内容は4つに分けられます。

    ① 法定刑の上限の引き上げ
    侮辱罪の厳罰化により、法定刑の上限が引き上げられました。

    <侮辱罪の法定刑>
    【改正前】拘留または科料
    【改正後】1年以下の懲役もしくは禁錮、もしくは30万円以下の罰金または拘留、もしくは科料

    改正前の侮辱罪は、「拘留または科料」という刑罰しか規定されておりませんでした。「拘留」は1日以上30日未満の期間、刑事施設に収監すること、「科料」は1000円以上1万円未満の金銭納付を命じられることであり、悪質な誹謗中傷がなされても非常に軽い刑罰しか科すことができませんでした。
    法改正により、懲役・禁錮・罰金という刑罰が追加されたことで、一定の抑止効果が期待できます。

    ② 教唆犯や幇助犯も処罰対象
    改正前は、侮辱罪の教唆犯や幇助犯は、処罰の対象外でした。
    しかし、改正法では、法定刑に懲役・禁錮・罰金が加わったことにより、侮辱罪の教唆犯や幇助犯についても処罰対象に含まれることになります。

    ③ 公訴時効が長くなる
    公訴時効とは、犯罪行為を終えた時点から一定期間が経過することにより、起訴できなくなる制度のことです。

    改正前の侮辱罪の公訴時効期間は1年とされていましたが、改正後の侮辱罪の公訴時効期間は3年と、期間が伸長されました。これにより悪質な書き込みをした人物を特定して、処罰できる可能性が高くなります。

    ④ 施行日以降の行為が対象
    厳罰化された侮辱罪は、施行日である令和4年7月7日以降に行われた侮辱行為に対して適用されます。
    改正刑法施行日前に行われた侮辱行為に対しては、改正前の侮辱罪が適用されることに留意しましょう。

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2、侮辱罪と名誉毀損罪は何が違うのか|具体的な事例

侮辱罪と名誉毀損罪は、何が違うのでしょうか。具体的な事例を挙げて説明します。

  1. (1)名誉毀損罪とは

    名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示して、人の名誉を毀損した場合に成立する犯罪です(刑法230条1項)。名誉毀損罪が成立した場合には、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金に処せられます。

    なお、名誉毀損罪の成立には、要件が満たされていることが必要です。

    <名誉毀損罪の成立要件>
    • 公然性があること:公然性とは、侮辱罪と同様に、不特定または多数の人が認識できる状態のことをいいます。
    • 人の名誉を毀損したこと:名誉を毀損する行為とは、他人の社会的評価が低下するおそれのある言動をすることです。個人の名誉感情ではなく、社会からの一般的評価が低下するおそれがあるかどうかがポイントになります。
    • 事実の摘示があること:名誉毀損では、「事実の摘示」が要件となります。事実の摘示のない主観的で抽象的な誹謗中傷では、名誉毀損罪は成立しません。
  2. (2)侮辱罪と名誉毀損罪の違い

    侮辱罪と名誉毀損罪は、「事実の摘示」があるかどうかという違いがあります。

    誹謗中傷にあたって、事実の摘示を伴うものが名誉毀損罪となり、事実の摘示を伴わないものが侮辱罪と考えましょう。

    たとえば、インターネット上の掲示板で「○○さんは不倫をしている」「○○さんには犯罪歴がある」という書き込みがあった場合には、事実の摘示がありますので、侮辱罪ではなく名誉毀損罪が成立します。
    他方、「〇〇さんは言い訳ばかりで何もしない」「「〇〇さんは頭が悪い」という書き込みは、事実の摘示がありません。そのため、名誉毀損罪ではなく侮辱罪が成立します。

    事実の摘示の有無を判断する際は、示された情報の真偽を証拠などによって確認できるかどうかポイントです。

3、誹謗中傷の書き込みを見つけたときの対処法

インターネット上で誹謗中傷の書き込みを見つけた際に、どのように対処すればよいのかを解説します。

  1. (1)誹謗中傷の書き込みを放置することによるデメリット

    インターネット上に流れた情報は、瞬く間に拡散し、不特定多数の人の目に触れることになります。また、いったん拡散されてしまった情報はインターネット上に半永久的に残ってしまうため、早期に適切な対処を行わなければ取り返しのつかない事態につながることに注意しなければなりません。

    <誹謗中傷の書き込み放置によって生じ得るデメリット>
    • 事実とは異なる情報の拡散
    • 企業や個人に対するイメージの悪化
    • 売り上げの減少
    • 取引先からの信用低下
    • 採用活動への悪影響
    • 離職率の増加
  2. (2)誹謗中傷の書き込みへの対処法

    インターネット上での誹謗中傷の書き込みに対しては、しっかりと対処するようにしましょう。

    ① 書き込みの証拠を保存
    誹謗中傷の書き込みがなされたら、すぐに削除申請をするのではなく、まずは、書き込みがなされた証拠を残しておくことが重要です。

    なぜなら、誹謗中傷の書き込みをした人に対して、損害賠償請求や刑事告訴などを検討する場合、書き込み自体が削除されてしまうと、それらの法的対応が難しくなるからです。

    <書き込みの証拠を保存する方法>
    • ウェブページを印刷して保存する
    • スクリーンショットにより画像を保存する

    ② 書き込みの削除請求
    書き込みの証拠保存ができた時点で、速やかに書き込みの削除を行います。

    <書き込みの削除の方法>
    • 削除申請フォームからの削除依頼
    • 投稿者への削除依頼
    • ガイドラインに則った削除請求
    • 書き込みの削除を求める仮処分の申し立て

    いずれの方法をとるにしても、誹謗中傷の書き込みがなされた状態で放置するのはデメリットが生じ得る可能性があるので、できる限り早めに対応することが重要です。

    ③ 発信者情報開示請求
    発信者情報開示請求とは、インターネット上に誹謗中傷の書き込みをした人の特定をする手続きです。

    匿名でなされたインターネット上の書き込み自体からは、その投稿をした本人を特定することができません。しかし、掲示板やサイトの運営者は、書き込みをした人のIPアドレスなどを保有しています。そのため、運営者に発信者情報開示請求をすることで、IPアドレスなどを取得することが可能です。

    IPアドレスがわかれば、書き込みをした人が利用したプロバイダが判明します。そして、プロバイダは、書き込みをした人の住所や氏名などの情報を保有しているため、プロバイダに発信者情報開示請求をすることで、書き込みをした人を特定することができます。

    このような発信者情報開示請求は、任意の交渉で応じてもらうことが難しく、裁判所の仮処分や訴訟といった方法で行うのが一般的です。

    ④ 損害賠償請求
    インターネット上の誹謗中傷の書き込みで侮辱された被害者は、加害者に対して、損害賠償請求ができる可能性があります。
    損害賠償請求は、まずは加害者を特定することが必要です。あらかじめ、発信者情報開示請求により、書き込みをした人を特定しておきましょう。

    ⑤ 刑事告訴
    インターネット上で誹謗中傷をされた場合には、侮辱罪や名誉毀損罪などが成立する可能性があります。加害者への刑事罰を希望する際は、警察に刑事告訴をすることが必要です。

    ただし、告訴状を受理してもらうのは容易ではなく、あらかじめ加害者を特定する・十分な証拠をそろえるなどの対応が必要になることもあります。

4、誹謗中傷に関して弁護士に相談するべき4つの理由

インターネット上で誹謗中傷の書き込みをされた場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)書き込みが誹謗中傷(侮辱罪)にあたるのかを法的に判断してもらえる

    書き込みをした人への法的責任追及をするためには、その前提として、誹謗中傷がなされたかどうかという法的判断が必要になります。

    インターネット上に書き込まれた内容が誹謗中傷にあたるのかどうかは、法的判断が必要な内容であるため、まずは弁護士に相談をして、判断してもらうとよいでしょう

  2. (2)削除請求を弁護士以外の業者に依頼すると非弁行為に該当するリスクがある

    インターネット上の誹謗中傷については、弁護士以外の業者に依頼して削除をするという方法も考えられます。しかし、削除請求にあたっては、運営元との交渉や仮処分、訴訟といった法的手続きが必要になるものも少なくありません。

    このような法律事務を弁護士以外の人が報酬を得る目的で行うことは、非弁行為として禁止されています。弁護士以外の業者では、適切な対応ができない可能性もありますので、削除請求は弁護士に依頼するのがおすすめです。

  3. (3)削除請求や損害賠償請求などをスムーズに進められる

    弁護士に依頼をして削除請求を行えば、サイト管理者が任意に応じてくれる可能性もあります。任意に削除に応じてくれない場合でも、速やかに仮処分などの法的手段を講じることができますので、迅速かつ確実な対応が期待できます。

    また、書き込みをした人への損害賠償請求をするためには、発信者情報開示請求という手続きが必要となりますが、弁護士であれば、仮処分や訴訟などによって、相手を特定することが可能です。アクセスログは、およそ3か月程度しか保存されず、保存期間を経過してしまうと消去されてしまいますので、速やかに弁護士に相談することが重要となります。

  4. (4)書き込みによる被害を最小限に抑え、今後の対策についても相談できる

    インターネット上での誹謗中傷は、情報が瞬く間に拡散するという性質があるため、迅速に対応することが重要になります

    弁護士であれば、必要な対応を熟知していますので、状況に応じた最善の対処を行うことで、書き込みによる被害を最小限に抑えることが可能です。

    また、誹謗中傷の書き込みが繰り返しなされている状況だと、今後も同様の被害が予想されます。そんなとき、今後の対策についても弁護士に相談することができますので、安心です。

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5、まとめ

インターネット上に誹謗中傷の書き込みがされてしまうと、個人でも企業でも大きな損害を被るおそれがあります。インターネットの性質を考慮すると、誹謗中傷の書き込みを発見した時点で、すぐに弁護士に相談し、適切な対処を行うことが重要です。

ベリーベスト法律事務所には、インターネット上のトラブルについて豊富な解決実績とノウハウがあります。誹謗中傷でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。

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