企業法務コラム
会社を辞める際にトラブルがあった元従業員から、退職後に会社に対して嫌がらせをされることがあります。
代表的なものは、転職サイトの口コミで低評価や事実と異なる悪口を書かれる、SNSを介して誹謗中傷をされたりする、などのケースがあります。さらに、優秀な社員の引き抜きや顧客を取られるという損害やリスクが生じることもあり、法に基づいた適切な対処が必要となる事案も少なくありません。
今回は、元従業員から嫌がらせをされた場合の対応や予防策について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
退職した元従業員から会社に対して嫌がらせがなされることがあります。以下では、元従業員からの嫌がらせの代表的なケースを紹介します。
元従業員が転職サイトや口コミサイトに会社の悪口を書き込み、会社の社会的評価を低下させようとすることがあります。
転職サイトに悪い評判が書き込まれてしまうと、企業への就職や転職を希望する人が減少し、優秀な人材が集まらなくなるおそれがあります。同様に、口コミサイトに悪い評判が書き込まれてしまうと、商品やサービスを利用する人が減少し、売り上げの減少という事態を招きます。
元従業員が利用しているSNSにウソの投稿がなされることで、不特定多数の人に企業の誤ったイメージが広まるおそれがあります。SNSは、誰でも気軽に利用できる情報発信ツールですが、当事者以外の第三者では書き込まれた情報の真偽を判断することができません。ウソの投稿であってもそれを目にした第三者は、本当のことだと誤解してしまい、企業に対して悪い印象を抱く可能性があるでしょう。
元従業員が会社での経験を生かして独立・開業するようなケースでは、会社の従業員が引き抜かれてしまうこともあります。会社にとって、知識や経験豊富な従業員は、非常に貴重な資産といえますので、そのような従業員が引き抜かれてしまうと、会社の運営に重大な支障が生じることがあります。
元従業員が同業他社に転職する際には、自身が担当していた顧客に対して、転職先との取引を持ちかけることがあります。顧客としては、担当者である元従業員を信用して取引をしているという面もありますので、元従業員から契約の乗り換えを求められれば、それに応じてしまう顧客もいるでしょう。顧客が奪われてしまうと企業としては、売り上げの低下に直結する大きな問題になります。
元従業員からインターネットやSNSなどにより嫌がらせの書き込みがあった場合には、以下のような対処法が考えられます。
インターネットやSNSで嫌がらせの書き込みを放置していると、会社への誤解が広まり、気付くと被害が拡大しているおそれがあります。そのため、元従業員からの嫌がらせの書き込みを発見したときは、事実関係を確認し、迅速に書き込みの削除を行うことが大切です。
書き込みをしたのが元従業員であることが明らかであるときは、元従業員に対して書き込みの削除を求める通知書を送付します。また、書き込みをした相手の身元が不明な場合は、サイト管理者やプロバイダに対して削除請求を行います。
なお、サイト管理者やプロバイダが任意に削除に応じてくれない場合には、裁判所に削除の仮処分を求める必要があります。
インターネットやSNSに嫌がらせの書き込みがなされた場合には、書き込みをした相手に対し、損害賠償請求や刑事告訴などの法的責任追及をすることができます。しかし、法的責任追及をする前提として、まずは誰が嫌がらせの書き込みをしたのかを特定しなければなりません。
インターネットやSNSでの書き込みは、匿名でなされることが多いため、書き込んだ人物を特定するためには、発信者情報開示請求という手続きが必要になります。
一般的に、プロバイダやサイト管理者は、任意の交渉では開示には応じてくれないケースも多く、その場合は発信者情報開示仮処分や発信者情報開示請求訴訟によって、書き込んだ人物の特定を行います。
また、令和4年10月1日施行のプロバイダ責任制限法の改正により、従前の発信者情報開示請求の訴訟手続等に加えて、発信者情報開示命令制度が導入されました。発信者情報開示命令を使用することで、より容易に開示請求を行うことができるようになりました。
嫌がらせの書き込みをしたのが元従業員であると特定できたら、嫌がらせの書き込みにより発生した損害を元従業員に支払ってもらうよう求めます。
このような損害賠償請求は、まずは、元従業員との交渉によって行いますが、元従業員が交渉に応じないとき、または応じても希望する条件で示談に至らないときは、裁判所に損害賠償請求訴訟を提起します。
元従業員による嫌がらせの書き込みがあった場合には、その内容によっては、名誉毀損罪や偽計業務妨害罪、信用毀損罪などが成立する可能性があります。このような犯罪行為に該当する場合には、刑事告訴をすることで書き込みをした元従業員に対して、刑事責任を追及することができる可能性があります。
刑事告訴では、企業が受けた損害の回復自体はできませんが、元従業員からの嫌がらせに対して厳格な姿勢で対応することを世間に示すことで、今後の再発を防止する効果が期待できます。
元従業員からの嫌がらせを防ぐためにできることとしては、以下の対策が考えられます。
元従業員による嫌がらせが行われるのは、嫌がらせ行為をしたときのリスクを十分に理解していないのが原因のひとつとして挙げられます。インターネットやSNSでの嫌がらせなどは損害賠償請求の対象になるだけでなく、刑事告訴により刑事罰を科されるリスクもありますが、それらを理解せず安易な気持ちで嫌がらせをするケースが多いです。
このような嫌がらせを防ぐためには、従業員が会社に在籍している間に、情報セキュリティー、ネットリテラシー、コンプライアンスなどの社内研修を行うのが有効な手段となります。在職中からしっかりと社員教育を行うことで、退職後の元従業員による嫌がらせを防ぐことができます。
競業避止義務とは、会社が行う事業と競業する他社への就職や自ら会社を設立または個人事業主として事業を行うことを禁止することをいいます。多くの企業では、雇用契約や就業規則などで定めていますので、従業員が会社に在籍中は、競業避止義務により競業行為が禁止されます。
しかし、退職した元従業員には、雇用契約や就業規則などによる競業避止義務の効果は及びませんので、別途競業避止義務を課す契約を結ぶ必要があります。ただし、元従業員には、職業選択の自由が保障されていますので、過度な競業避止義務を課してしまうと無効と判断されるおそれもあります。
そのため、退職する従業員との間で競業避止義務を課す契約を結ぶ際には、以下の点に配慮し過度な制約にならないように注意が必要です。
従業員は、会社に在籍中に営業秘密や顧客情報に触れる機会がありますので、退職した元従業員による情報漏えいが生じるリスクがあります。そのようなリスクを回避するためには、退職する従業員との間で秘密保持誓約書を交わす必要があります。
秘密保持誓約書を取り交わしていれば、元従業員に対して情報漏えいによるリスクを周知することができますし、万が一、情報漏えいが生じたとしても契約違反を理由として損害賠償請求を行うことが可能になります。
従業員とのトラブルが発生した場合には、インターネットトラブルの実績がある弁護士に対応を任せるのがおすすめです。
インターネットやSNSで嫌がらせの書き込みがあった場合には、削除請求、発信者情報開示請求などの法的対応が必要になります。サイト管理者やプロバイダは任意の交渉では応じてくれないことが多いため、仮処分や訴訟、非訟手続きなど、適切な手段を選択して対応していかなければなりません。
そのためには、削除請求に関する法的知識や経験が不可欠であり、対応は実績ある弁護士に任せるのが安心といえます。嫌がらせの書き込みを放置していると、あっという間に拡散し、被害が拡大してしまうおそれがあります。早めに弁護士に相談し、対応してもらうようにしましょう。
従業員との間でのトラブルが生じてしまうと、被害を最小限に抑えることができたとしても、被害の発生自体を回避するのは難しくなります。そのため、企業としては、トラブルが生じたときの対応だけではなく、トラブルを生じさせないための対策が非常に重要となります。
従業員とのトラブルを防止するには、契約書や就業規則の見直し、社内規定の整備やマニュアルの作成などが必要になりますが、一般的なひな形を利用していては、適切な対策を講じることはできません。
企業に応じた独自の対策を講じるためには、企業の内情をよく理解した顧問弁護士によるアドバイスやサポートが有効となります。まだ顧問弁護士を利用していないという企業は、積極的に顧問弁護士の導入を検討するようにしましょう。
解雇や懲戒処分により会社に対して不満を抱いた元従業員からインターネットやSNSを通じて嫌がらせがなされるケースがあります。このようなモンスター社員からの嫌がらせを防ぐためには、事前の対策が必要になりますし、万が一、元従業員により嫌がらせが起きてしまったときは迅速な対応が必要になります。
事前の対策および事後の対応を迅速かつ適切に行うためには、顧問弁護士の利用が有効ですので、まずはベリーベスト法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
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