企業法務コラム

2024年10月07日
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出資金は払い戻しが必要? 返還の要否や返還手続きなどを解説

出資金は払い戻しが必要? 返還の要否や返還手続きなどを解説

会社をやめる共同経営者(共同出資者)から、「出資したお金を返してほしい」と、出資金の払い戻しを請求されるケースがあります。

そのようなとき、言われたとおりに出資金を返還しなければならないのか、また返還する際はどのように払い戻しをしたらよいのか、わからないことも多いでしょう。

本記事では、事業から離脱する共同出資者に出資金を払い戻す必要があるのかどうか、および払い戻しの手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、株式会社の出資金は「払い戻し不要」が原則

株式会社の出資金は、原則として払い戻しが不要です。
また、株式会社の株式は不特定多数の者によって保有されることを想定し、その譲渡は原則自由とされています(会社法第127条)。

株式を自由に譲渡できるのであれば、出資者は第三者への譲渡によって投下資本を回収できるため、会社が出資金の払い戻しを行う必要はありません。

そのため株式会社においては、事業から離脱する共同出資者への出資金の払い戻しは、原則として行わなくてもよいことになります。

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2、株式会社の出資金の払い戻しが必要になるケース

株式会社においても、以下のいずれかに該当する際は、例外的に出資金を払い戻さなければなりません。

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。


  1. (1)株式の譲渡を承認しない場合

    株式会社の株式の譲渡は原則として自由ですが、定款の定めによって、発行する全部または一部の株式に譲渡制限を付すことが認められています。
    譲渡制限の内容は、株式の譲渡時に株式会社の承認を要するというものです(会社法第2条第17号、第107条第2項第1号)。

    譲渡制限株式の株主は、その株式を他人に譲渡しようとするときに、会社に対して「譲渡を承認するか否かを決めてほしい」と請求することができます(会社法第136条、第138条第1号)。

    また、すでに譲渡制限株式を取得した者も、事後的に会社に対して「株式の取得を承認するか否かの決定をしてほしい」という請求をすることが可能です(会社法第137条、第138条第2号)。

    後述する手続きによって、会社が譲渡制限株式の譲渡(取得)を承認しない旨を決定したときは、会社または会社が指定する者(=指定買取人)において、その株式を買い取らなければなりません(会社法第140条)。
    この場合の株式の買い取りは、出資金の払い戻しとしての性質を有します。

  2. (2)株式買取請求を受けた場合

    株式会社が株主に損害を及ぼすおそれがある行為などをするときには、反対株主による株式買取請求(保有する株式の買い取りを求めること)が認められています。

    反対株主による株式買取請求が認められる8つのケース
    • ① 株式に譲渡制限を付す旨の定款変更をする場合(会社法第116条1項1号、2号)
    • ② 株式に全部取得条項を付す定款変更をする場合(同項2号)
    • ③ 次に掲げる行為をする場合において、種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき(同項3号)
      ・株式の併合または株式の分割
      ・株式無償割り当て
      ・単元株式数についての定款変更
      ・株式を引き受ける者の募集
      ・新株予約権を引き受ける者の募集
      ・新株予約権無償割り当て
    • ④ 株式の併合により、1株に満たない端数が生ずる場合(会社法第182条の4)
    • ⑤ 事業譲渡等をする場合(会社法第469条)
    • ⑥ 吸収合併、吸収分割または株式交換をする場合(会社法第785条第1項、第797条第1項。例外あり)
    • ⑦ 新設合併、新設分割または株式移転をする場合(会社法第806条第1項。例外あり)
    • ⑧ 株式交付をする場合(会社法第816条の6第1項)

    反対株主による株式買取請求を受けた会社は、その株式を買い取らなければなりません。この場合の株式の買い取りは、出資金の払い戻しとしての性質を有します。

  3. (3)会社を解散・清算する場合

    会社を解散・清算する場合は、債権者に対して債務を弁済した後、残った会社財産(=残余財産)を株主に分配します(会社法第481条第3号)。
    残余財産の分配は、その全部または一部が出資金の払い戻しとしての性質を有します。

3、株式会社の出資金を払い戻す際の手続き

株式会社の出資金の払い戻しを要する各ケースにおいて、会社が行うべき払い戻し手続きの流れを解説します。

  1. (1)株式の譲渡を承認しない場合の払い戻し手続き

    会社として、株式の譲渡を承認しないケースでの払い戻し手続きの流れは、以下のとおりです。

    ① 譲渡不承認決定
    譲渡制限株式の譲渡(取得)に関する承認を求められた会社は、原則として株主総会決議(取締役会設置会社では取締役会決議)により、譲渡制限株式の譲渡(取得)を承認するか否かを決定します(会社法第139条第1項)。

    ② 買い取りに関する事項の決定
    譲渡制限株式の譲渡(取得)を承認しないときは、会社は対象株式を買い取らなければなりません。
    その際は原則、株主総会決議(取締役会設置会社では取締役会決議)により、以下の事項を定める必要があります(会社法第140条第1項~第3項)。
    • 対象株式を買い取る旨
    • 株式会社が買い取る対象株式の数(種類株式発行会社では、対象株式の種類および種類ごとの数)

    ③ 譲渡等承認請求者に対する通知・売買代金の供託
    不承認決定の内容および対象株式の買い取りに関する上記事項は、譲渡等承認請求者に対して通知しなければなりません(会社法第139条第2項、第141条第1項)。
    また、対象株式の買い取りに関する事項の通知と併せて、売買価格相当額を本店所在地の供託所に供託した上で、当該供託を証する書面を譲渡等承認請求者に交付する必要があります(会社法第141条第2項)。

    ④ 売買価格の決定
    実際の売買価格は、会社または指定買取人と譲渡等承認請求者の協議によって定めます(会社法第144条第1項)。
    協議がまとまらないときは、対象株式の買い取りに関する事項の通知があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定の申し立てが可能です(同条第2項)。当該申し立てがあったときは、裁判所が定めた額が売買価格となります(同条第4項)。
    期間内に裁判所に対する価格決定の申し立てが行われなかったときは、会社が定めた額が売買価格です(同条第5項)。

    ⑤ 売買代金の支払い
    決定した価格の売買代金を譲渡等承認請求者に支払う形で、出資金の払い戻しを行います。事前に供託した供託金は、売買代金の支払いに充当されます(同条第6項)

    なお、株式会社ではない別の者(=指定買取人)を対象株式の買取人として指定することも可能です(会社法第140条第4項)。その場合、上記②以降の対応は、会社の代わりに指定買取人が行うことになります(会社法第142条)。

  2. (2)株式買取請求を受けた場合の払い戻し手続き

    株式買取請求の手続きは、対象となる事由ごとに個別に定められています。大まかな流れは共通していますが、細部が異なるケースもあるので、対応する規定を必ず確認しましょう。

    一例として、株式に譲渡制限を付す旨の定款変更をするケースでの株式買取請求の流れを紹介します。

    ① 株主に対する定款変更の事前通知
    会社は、定款変更が効力を生ずる日の20日前までに、新たな譲渡制限の対象となる株主に対して当該定款変更の旨を通知し、または公告しなければなりません(会社法第116条第3項、第4項)。

    ② 会社に対する事前の反対通知・株主総会における反対議決権の行使
    株式買取請求を行う株主は、株主総会に先立って定款変更に反対する旨を会社に通知し、かつ株主総会において実際に反対する必要があります(同条第2項第1号)。

    ③ 株式買取請求
    株式買取請求を行う株主は、定款変更の効力発生日の20日前から前日までに、株式の数(種類株式発行会社では、株式の種類および種類ごとの数)を明らかにして株式買取請求を行います(同条第5項)。

    ④ 株式の価格の決定
    買取価格は原則として、株主と会社の間の協議によって決定します(会社法第117条第1項)。
    ただし、定款変更の効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、その後30日以内に限り、裁判所に対して価格決定の申し立てを行うことが可能です(同条第2項)。
    会社は、裁判所の価格決定があるまでは、会社が公正な価格と認める額を株主に対して支払うことが認められます(同条第5項)。

    ⑤ 株式の買い取り
    定款変更の効力発生日において、株式の買い取りの効力が生じ、出資金の払い戻しが完了します(同条第6項)。
  3. (3)会社を解散・清算する場合の払い戻し手続き

    会社を解散・清算するケースで、残余財産の分配に至るまでの流れは以下のとおりです。

    ① 会社の解散の決定
    株主総会の特別決議によって、会社の解散を決定します(会社法第471条第3号)。

    ② 清算人による現務の結了
    取締役などが清算人に就任し、現務を結了します(会社法第481条第1号)。具体的には、取引先との契約の解約や従業員の解雇などを行います。

    ③ 債権の取り立て・債務の弁済
    清算人が会社の有する債権を取り立て、会社が負う債務を弁済します(同条第2号)。

    ④ 残余財産の分配
    清算人が残余財産の種類およびその割り当てに関する事項を定め、その内容に従って株主に残余財産を分配します(会社法第504条以下)。

4、株式会社以外の形態では、出資金の払い戻しを要するケースが多い

株式会社以外の事業形態では、出資者の離脱に伴い、出資金の払い戻しを要するケースが多いです。

たとえば持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)の場合、社員は退社に伴って出資金の払い戻しを請求することが可能です(会社法第624条)。ただし合同会社においては、出資金の払い戻しが制限されることがあります(会社法第632条~第636条)。

任意組合でも、脱退した組合員に対して、脱退時における組合財産の状況に従って持分の払い戻しを行うものとされています(民法第681条)。

5、企業法務について弁護士に相談するメリット

出資金の払い戻しに関する取り扱いを含めて、企業法務に関する悩みや疑問点は弁護士に相談することがおすすめです。

弁護士に相談・依頼すれば、会社法その他の法令に従って正しく事務を行うことができ、コンプライアンスの強化につながります。また、出資者・取引先・従業員などとのトラブルのリスクを抑えることも可能です。

弁護士と顧問契約を締結すれば、会社経営に関する疑問点などについても、いつでも相談できるようになります。顧問弁護士がいない企業は、この機会に弁護士との顧問契約をご検討ください。

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6、まとめ

株式会社では、出資金の払い戻しが原則不要です。
ただし、譲渡制限株式の譲渡(取得)を承認しないケースや株式買取請求を受けたケース、会社を解散・清算するケースにおいては、例外的に出資金を払い戻す必要があります。

出資金の払い戻しや、その他の会社経営上の論点について対応に迷ったら、弁護士のアドバイスを受けましょう。

ベリーベスト法律事務所は、企業法務に関するご相談を随時受け付けております。また、顧問契約締結も可能なため、長期にわたるサポートもいたします。ぜひ一度、お気軽にお問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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