企業法務コラム

2024年12月18日
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黄金株(拒否権付株式)とは|特徴や発行する場合の注意点

黄金株(拒否権付株式)とは|特徴や発行する場合の注意点

黄金株とは、株主総会における重要事項の議決について拒否権が与えられた株式です。

黄金株は敵対的買収への防衛策などとして活用できますが、独裁的な経営につながり得るおそれなどのデメリットがあるため、注意して取り扱わなければなりません。

本記事では黄金株について、概要やメリットとデメリット、発行手続き、注意点などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、黄金株とは?

「黄金株」とは、株主総会または取締役会における決議事項について、株主に実質的な拒否権の行使を認める種類株式です。

  1. (1)黄金株は種類株式の一種

    「種類株式」とは、定款の定めに従って発行される、権利の内容が異なる2種類以上の株式です。

    会社が発行する株式の内容は均一(同じ)であるのが原則です。
    しかし、定款で一定の事項を定めることにより、剰余金の配当や議決権の行使などについて、権利の内容が異なる2種類以上の種類株式の発行が認められています(会社法第108条)。なお、種類株式には9つあります。

    黄金株は、種類株式の中の一種(=拒否権付種類株式)として発行が認められているものとなります(同条第1項第8号)。

  2. (2)黄金株の内容

    黄金株の内容は、株主総会または取締役会にて決議すべき事項につき、黄金株主で構成される種類株主総会の決議を必要とするというものです(会社法第108条第1項第8号)。

    すなわち、対象事項が黄金株主の種類株主総会で拒否された場合には、株主総会または取締役会において決議を行っても、その決議に従った業務執行などは認められません。黄金株主には、実質的な拒否権が与えられています。

    また黄金株は、経営上の支配権を確固たるものとする目的で、創業経営者など会社の最重要人物に対して発行されることがあります。

  3. (3)黄金株の拒否権を設定できる事項

    黄金株の拒否権の対象とすることができるのは、株主総会または取締役会にて決議すべき事項です(清算人会設置会社では、清算人会において決議すべき事項を含む)。

    具体的には、以下のような事項を黄金株の拒否権の対象とすることができます。

    • 役員の選任、解任
    • 取締役の報酬の決定
    • 代表取締役の選定、解職
    • 重要な財産の処分、譲り受け
    • 多額の借財
    • 支配人その他の重要な使用人の選任、解任
    • 支店その他の重要な組織の設置、変更、廃止
    • 新株の発行、新株予約権の発行
    • 事業譲渡
    • 合併、会社分割などの組織再編行為
    など
  4. (4)黄金株の拒否権の行使方法

    黄金株の拒否権は、種類株主総会において、該当事項に関する決議を行わないという方法で行使します。

    黄金株の拒否権対象事項については、株主総会または取締役会における決議の他、黄金株主の種類株主総会の決議が必要とされます(会社法第108条第1項第8号)。

    したがって、黄金株主の種類株主総会で決議が行われなければ、拒否権対象事項に関する業務執行などは認められません。ただし実際に黄金株主の種類株主総会を開催して否決する必要はなく、可決の決議を行わないことで足ります。

  5. (5)上場会社における黄金株の発行状況

    日本の上場会社では、大手石油開発企業である株式会社INPEXのみが黄金株を発行しています。

    株式会社INPEXにおける黄金株は「甲種類株式」と呼称されており、保有者は経済産業大臣です。同社の定款により、経営上の重要事項については甲種類株式に係る甲種類株主総会の決議が必要とされています。

    株式会社INPEXはもともとエネルギー供給を安定させるための国策会社であり、海外のエネルギー企業による買収などを防ぐために、黄金株が発行されています。

    参考:「株式情報(株式の状況)」(株式会社INPEX)
    参考:「定款」(株式会社INPEX)

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2、黄金株を発行するメリット・デメリット

黄金株はあまりにも強力な効果を持つ株式なので、その発行にはメリットだけでなくデメリットも伴います。黄金株の発行を検討する際には、メリット・デメリットの両面を適切に比較して判断しましょう。

  1. (1)黄金株を発行するメリット

    黄金株を発行するメリットとしては、以下の各点が挙げられます。

    ① 経営を強力にコントロールできる
    経営上の事項について拒否権を行使できる黄金株を保有すれば、経営権を大幅に強化することができます。

    ② 敵対的買収への防衛策として機能する
    黄金株が発行されている状況では、普通株式を買い集めても完全に経営を掌握することはできないので、敵対的買収を試みるファンドなどから敬遠されます。すなわち、黄金株が敵対的買収への防衛策として機能します。

    ③ 事業承継後にも影響力を残せる
    後継者に株式の大部分を承継した後も、黄金株を保有しておけば、会社経営に対する大きな影響力を引き続き保持することができます。
  2. (2)黄金株を発行するデメリット

    一方、黄金株を発行するデメリットとしては、以下の各点が挙げられます。

    ① 独裁的な経営につながり得る
    黄金株の拒否権が強力過ぎると、保有者が強固な会社支配権を有することになり、独裁的な経営につながるおそれがあります。

    ② 経営能力がない人に黄金株が相続されてしまうリスクがある
    保有者が亡くなると、黄金株は相続の対象となります。
    経営能力がない人に黄金株が相続されると、経営上の意思決定を適切に行うことができず、会社の業績が低下するおそれがあります。

    ③ 事業承継税制が適用されないことがある
    先代経営者などが黄金株を保有している場合には、後継者への事業承継時において事業承継税制の適用を受けることができず、贈与税などの負担が発生することがあります。

    ④ 他の株主から不満が出る
    黄金株の強力な権利を不公平に感じる他の株主から不満が出て、株主対応に関するトラブルが発生するおそれがあります。

3、黄金株を発行する2種類の手続き

黄金株を発行する手続きは、大きく分けて以下の2種類です。

  1. (1)黄金株を新規に発行する手続き

    黄金株を新規に発行する場合の手続きの流れは、以下のとおりです。

    (a)定款変更
    株主総会の特別決議により、黄金株の内容を新たに定める定款変更を行います(会社法第108条第2項、第466条、第309条第2項第11号)。

    (b)募集事項の決定
    株主総会の普通決議(公開会社では取締役会決議)により、黄金株の募集事項を定めます(会社法第199条第1項・第2項、第201条第1項)。

    (c)申し込み・割り当てまたは総数引き受け契約の締結
    黄金株の引き受けに関する申し込みを受け付け、申込者に割り当てる黄金株の数を定めます(会社法第203条、第204条)。
    ただし、黄金株主となる者が会社との間で総数引き受け契約を締結する場合は、上記の申し込みおよび割り当ての手続きを省略可能です(会社法第205条)。

    (d)払い込み
    募集事項で定められた払込期日において、黄金株主となる者が出資の全額を払い込みます(会社法第208条)。出資の履行日に、払込者は黄金株主となります(会社法第209条)。

    (e)変更登記手続き
    法務局において、黄金株の発行に関する変更登記手続きを行います(会社法第911条第3項第9号、第915条第1項)。
  2. (2)発行済株式を黄金株に変更する手続き

    発行済株式を黄金株に変更する場合の手続きの流れは、以下のとおりです。

    (a)定款変更
    株主総会の特別決議により、黄金株の内容を新たに定める定款変更を行います(会社法第108条第2項、第466条、第309条第2項第11号)。

    (b)合意書の締結
    会社と黄金株主になる者の間で、株式の内容を黄金株に変更する旨の合意書を締結します。

    (c)他の株主の同意の取得
    黄金株に変更する株式と同じ種類の株式を保有する株主全員から同意書を取得します。

    (d)変更登記手続き
    法務局において、黄金株の発行に関する変更登記手続きを行います(会社法第911条第3項第9号、第915条第1項)。
    変更登記手続きの際には、定款変更に関する株主総会議事録、会社と黄金株主が締結した合意書、および他の株主の同意書を提出する必要があります。

4、黄金株を発行する際の注意点

会社が黄金株を発行する際には、以下の各点に注意して黄金株の内容を設計しましょう。

  1. (1)譲渡制限を付す

    強力な効果を有する黄金株を、保有者の気まぐれで第三者に譲渡されてしまっては、経営上予期せぬ事態が生じるおそれがあります。
    黄金株には必ず譲渡制限を付し、譲渡時には会社の承認を必要としましょう

  2. (2)拒否権の有効期限を定める

    黄金株の拒否権はあまりにも強力であるため、拒否権を無期限とするのは独裁につながるリスクが高いです。そのため、黄金株の拒否権には、一定の有効期限を定めておきましょう

  3. (3)黄金株の保有者が亡くなった場合の処理を検討する

    経営能力のない人に黄金株が相続されると、会社経営が傾いてしまうリスクが高くなります。保有者が亡くなった際には拒否権を失効させるなど、黄金株の相続が発生した際の処理を検討しておきましょう

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5、まとめ

黄金株は経営権の強化や買収防衛策に関して効果を発揮しますが、その強力過ぎる効果ゆえに、独裁的な経営や相続トラブルなどの大きなリスクを秘めています。黄金株を発行するかどうかは、弁護士のアドバイスを受けながら十分慎重に検討しましょう

ベリーベスト法律事務所は、企業法務に関するご相談を随時受け付けております。黄金株の発行や取り扱いについてお悩みの企業は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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