企業法務コラム
黄金株とは、株主総会における重要事項の議決について拒否権が与えられた株式です。
黄金株は敵対的買収への防衛策などとして活用できますが、独裁的な経営につながり得るおそれなどのデメリットがあるため、注意して取り扱わなければなりません。
本記事では黄金株について、概要やメリットとデメリット、発行手続き、注意点などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「黄金株」とは、株主総会または取締役会における決議事項について、株主に実質的な拒否権の行使を認める種類株式です。
「種類株式」とは、定款の定めに従って発行される、権利の内容が異なる2種類以上の株式です。
会社が発行する株式の内容は均一(同じ)であるのが原則です。
しかし、定款で一定の事項を定めることにより、剰余金の配当や議決権の行使などについて、権利の内容が異なる2種類以上の種類株式の発行が認められています(会社法第108条)。なお、種類株式には9つあります。
黄金株は、種類株式の中の一種(=拒否権付種類株式)として発行が認められているものとなります(同条第1項第8号)。
黄金株の内容は、株主総会または取締役会にて決議すべき事項につき、黄金株主で構成される種類株主総会の決議を必要とするというものです(会社法第108条第1項第8号)。
すなわち、対象事項が黄金株主の種類株主総会で拒否された場合には、株主総会または取締役会において決議を行っても、その決議に従った業務執行などは認められません。黄金株主には、実質的な拒否権が与えられています。
また黄金株は、経営上の支配権を確固たるものとする目的で、創業経営者など会社の最重要人物に対して発行されることがあります。
黄金株の拒否権の対象とすることができるのは、株主総会または取締役会にて決議すべき事項です(清算人会設置会社では、清算人会において決議すべき事項を含む)。
具体的には、以下のような事項を黄金株の拒否権の対象とすることができます。
黄金株の拒否権は、種類株主総会において、該当事項に関する決議を行わないという方法で行使します。
黄金株の拒否権対象事項については、株主総会または取締役会における決議の他、黄金株主の種類株主総会の決議が必要とされます(会社法第108条第1項第8号)。
したがって、黄金株主の種類株主総会で決議が行われなければ、拒否権対象事項に関する業務執行などは認められません。ただし実際に黄金株主の種類株主総会を開催して否決する必要はなく、可決の決議を行わないことで足ります。
日本の上場会社では、大手石油開発企業である株式会社INPEXのみが黄金株を発行しています。
株式会社INPEXにおける黄金株は「甲種類株式」と呼称されており、保有者は経済産業大臣です。同社の定款により、経営上の重要事項については甲種類株式に係る甲種類株主総会の決議が必要とされています。
株式会社INPEXはもともとエネルギー供給を安定させるための国策会社であり、海外のエネルギー企業による買収などを防ぐために、黄金株が発行されています。
参考:「株式情報(株式の状況)」(株式会社INPEX)
参考:「定款」(株式会社INPEX)
黄金株はあまりにも強力な効果を持つ株式なので、その発行にはメリットだけでなくデメリットも伴います。黄金株の発行を検討する際には、メリット・デメリットの両面を適切に比較して判断しましょう。
黄金株を発行するメリットとしては、以下の各点が挙げられます。
一方、黄金株を発行するデメリットとしては、以下の各点が挙げられます。
黄金株を発行する手続きは、大きく分けて以下の2種類です。
黄金株を新規に発行する場合の手続きの流れは、以下のとおりです。
発行済株式を黄金株に変更する場合の手続きの流れは、以下のとおりです。
会社が黄金株を発行する際には、以下の各点に注意して黄金株の内容を設計しましょう。
強力な効果を有する黄金株を、保有者の気まぐれで第三者に譲渡されてしまっては、経営上予期せぬ事態が生じるおそれがあります。
黄金株には必ず譲渡制限を付し、譲渡時には会社の承認を必要としましょう。
黄金株の拒否権はあまりにも強力であるため、拒否権を無期限とするのは独裁につながるリスクが高いです。そのため、黄金株の拒否権には、一定の有効期限を定めておきましょう。
経営能力のない人に黄金株が相続されると、会社経営が傾いてしまうリスクが高くなります。保有者が亡くなった際には拒否権を失効させるなど、黄金株の相続が発生した際の処理を検討しておきましょう。
黄金株は経営権の強化や買収防衛策に関して効果を発揮しますが、その強力過ぎる効果ゆえに、独裁的な経営や相続トラブルなどの大きなリスクを秘めています。黄金株を発行するかどうかは、弁護士のアドバイスを受けながら十分慎重に検討しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、企業法務に関するご相談を随時受け付けております。黄金株の発行や取り扱いについてお悩みの企業は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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