企業法務コラム
「破門」とは、僧や神職などを宗派から追放することや、弟子との師弟関係を強制的に終了させることなどを意味します。
破門される人(破門者)が労働者に当たる場合は、解雇と同等のルールが適用される点に注意が必要です。弁護士のアドバイスを受けながら、適切な手続きを踏んで破門・解雇を行いましょう。
本記事では、信徒や弟子を破門する場合の手続きや注意点などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「破門」とは、宗教の信徒を除名等によって追放することや、芸道や武道などにおける師弟関係を師匠の側から打ち切って弟子を追放することを意味します。
宗教や哲学には経典や教義が存在し、日本の伝統的な芸道や武道などにも一門の掟が存在します。
これらのルールに違反した信徒や弟子は、宗派(教会・寺院など)や一門の一員たる資格がないものと判断され、教祖や師匠から「破門」されることがあります。
破門された信徒や弟子は、宗派や一門におけるポストや職業をはく奪され、施設への出入りを禁止されるなどの処分を受けるのが一般的です。
破門が職業のはく奪を伴う場合は、解雇に関する規制が適用され得る点に注意が必要です。
旧労働省(現・厚生労働省)の通達「宗教法人又は宗教団体の事業又は事業所に対する労働基準法について」(昭和27年2月5日基発49号)では、宗教の信者などの労働者性について、以下のとおり基準が示されています。芸道や武道の一門の弟子についても、同様の考え方が適用し得ると考えられます。
無報酬で奉仕する者は労働者に当たりませんが、賃金や報酬を受けて勤務している者については、労働者に該当すると判断される可能性があります。
労働者に該当する場合は、労働基準法による労働条件の最低ラインが適用されることに加えて、解雇に関する厳格な規制が適用されます。すなわち、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効となります(労働契約法第16条)。
破門によって信徒や弟子の勤務を解く場合において、その信徒や弟子が労働者に該当するときは、上記の規制に従って解雇の有効性が判断されます。
使用者側が解雇の合理性を十分に説明できない場合は、不当解雇に当たると判断され、復職や解決金の支払いなどを強いられるおそれがあるので十分ご注意ください。
信徒や弟子を破門する際の手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。各段階における注意点を踏まえて、適切な形で手続きを進めましょう。
破門の可否を適切に判断するためには、まず事実関係を正確に把握しなければなりません。
文書やメールなどの記録が残っていれば、その内容を精査しましょう。また、関係者から事情を聞き取ることも、事実関係の把握に役立ちます。
本人に対しても聞き取りを行うべきですが、その時期は慎重に判断する必要があります。
証拠の隠滅などを防ぐため、その他の調査がひと通り完了し、事実関係の把握がおおむね済んでから本人に対する聞き取りを行うのが適切でしょう。
破門について宗教や一門の内部ルールがある場合は、まずそのルールを適用して破門の可否を判断します。
明確な内部ルールが設けられていない場合には、過去の先例とのバランスを考慮して破門の可否を判断しましょう。
いずれにしても、残る信徒や弟子が適切な規範意識を持てるように、合理的な判断をすることが求められます。
前述のとおり、破門される人が労働者に該当する場合は、解雇に関する規制が適用されます。
この場合、宗教や一門の内部ルールだけでなく、解雇に関する規制も考慮した上で破門・解雇の可否を判断しなければなりません。
具体的には、労働者に該当するのかどうか、および解雇できる場合であるかどうかを法的に検討する必要があります。弁護士のアドバイスを受けながら、破門・解雇の可否を慎重に判断しましょう。
破門される人が労働者に当たる場合は、強制的に解雇すると、後にトラブルへと発展するリスクがあります。
そのためできる限り、破門される人から退職の同意を得て、その旨を記載した書面(=退職合意書)を作成・締結することが望ましいです。
退職合意書では、使用者に対する請求や訴訟提起などを行わない旨を、労働者側(=破門される人)に合意してもらいましょう。そうすれば、破門後のトラブルを予防できます。
労働者に当たる信徒や弟子を、破門に伴ってやむを得ず解雇する場合は、原則として30日以上前に解雇予告を行う必要があります(労働基準法第22条第1項)。
配達証明付き内容証明郵便で解雇予告通知書を発送し、いつ解雇予告を行ったかを後から証明できるようにしておきましょう(配達日が解雇予告日となります)。
解雇予告をしない場合や、解雇の30日前の日を経過してから解雇予告をする場合には、解雇予告手当の支払いが必要になります(同項)。
弁護士のサポートを受けて解雇予告手当の金額を正しく計算し、確実に支払いを行いましょう。
破門の時期は宗教や一門のルールに従って決めればよいですが、退職や解雇の日については以下の要領で決まります。
労働者の退職(解雇を含む)に伴い、社会保険・雇用保険の資格喪失手続きや、離職票・源泉徴収票の交付が必要になることがありますので、忘れずに対応しましょう。
東京地裁平成22年3月29日判決の事案では、宗教法人が複数の僧侶を破門したことが、不当解雇に当たるかどうかが争われました。
東京地裁は、宗教法人と僧侶らが雇用契約を締結していることを認定し、破門による雇用契約の解消が解雇規制に服することを指摘しました。
その一方で、僧侶らは宗教法人代表者からの教務会への出席要請に応じず、一部の僧侶が適式な手続きを踏んでいないにもかかわらず、住職へ就任したとして就任式を行いました。
宗教法人は、僧侶らによるこれらの行動を踏まえて一定の禁止事項等を通知し、従わなければ破門等を行う旨の警告をしたものの、僧侶らはこれに従わなかったので、1か月以上の期間を置いて破門されたという経緯がありました。
東京地裁は上記の経緯を踏まえ、業務命令違反を理由として宗教法人が行った解雇処分は有効であると判示し、僧侶らの不当解雇の主張を退けました。
本事案では、僧侶らの重大な問題行動が認められた一方で、宗教法人側は事前に破門の警告を行うなど段階的な対応を行った点が評価され、不当解雇の認定は免れました。
しかしながら、破門について解雇規制が適用され得ることが明確に示されており、具体的な状況によっては不当解雇と判断され得る点に注意が必要です。
宗教や芸道・武道などの師弟関係の世界でも、破門に伴う解雇などの労働問題が生じることがあります。労使トラブルを未然に防ぐため、および万が一トラブルが発生した際に適切な収拾を図るためには、弁護士のサポートを受けましょう。
弁護士は、宗教や師弟関係に伴う労使トラブルや、その他のトラブルについて、状況に合わせた効果的な予防策をご提案いたします。
実際にトラブルが発生した際にも、弁護士は代理対応を通じてスムーズな解決を図り、クライアントの損害を最小限に抑えるべく尽力いたします。もし裁判等に進んだ場合も、弁護士であれば代理人として対応することが可能です。
信徒や弟子とのトラブルに備えたい宗教法人や芸道・武道などの主宰者の方は、一度弁護士へご相談ください。
宗教や芸道・武道などの一門における「破門」は、法律上「解雇」と評価されることがあります。
特に破門者が何らかの職務に就いており、宗教法人や主宰者から賃金を得ている場合には、厳格な解雇規制が適用される可能性が高いため、注意が必要です。
破門およびそれに伴う解雇をする際には、破門者とのトラブルを防ぐため、事前に弁護士へ相談しましょう。
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