役員や従業員による横領が疑われる場合は、弁護士のサポートを受けながら調査を行いましょう。
特に、「横領していることがバレていない」と当事者が思っているケースでは、横領の証拠を収集するためにも、内密に内部調査を行うことが重要です。迅速かつ適切な対応が、事態のスムーズな収拾や会社の評判の低下を防ぐことにつながります。
本記事では、横領に関する内部調査の手順や注意点、横領をした役員や従業員の責任を追及する方法などを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
役員や従業員による横領が疑われるとき、内部調査はおおむね以下の流れで実施します。
最初に、横領に関する社内調査チームを設置するところから始めます。
社内調査チームのメンバーには、法律やコンプライアンスについての知見を有する人を含めましょう。法務担当者やコンプライアンス担当者に加えて、弁護士などの外部専門家も有力な候補者です。
関係者に対する調査を円滑化するため、横領が疑われる従業員が所属する部署の上司や同僚を参加させることも考えられます。
ただし、調査対象者と親しすぎる人を参加させると、情報がリークされるなどして調査に支障を来すおそれがあるので、人選には注意が必要です。
また、公正な調査を行うことができるように、社内調査チームのメンバーの独立性を確保しなければなりません。特に横領が疑われる方について、調査の内容や結果にかかわらず待遇を保障し、不利益な取り扱いをすることは避けましょう。
社内調査チームを組織したら、速やかに横領に関する事実の調査を行いましょう。まずは客観的な資料を当たり、横領の手掛かりを探します。
客観的な資料の調査がおおむね完了したら、調査対象者だけでなく、調査対象者と関係性が近しい人や横領の関係者と思われる人などに対して、ヒアリングを行います。ヒアリングによって新たな情報が得られたら、横領の事実を固めるための追加調査を行いましょう。
なお、パソコンやメール、会計システムなどのデジタルデータから収集・解析を行い、事実関係を明らかにする作業をフォレンジック調査といいます。法的対応を見据えた証拠確保のプロセスであるため、社内での対応が難しい際は、外部のフォレンジック専門機関に相談するとよいでしょう。
なお、調査対象者には弁明の機会を与えるべきです。
弁明の内容が不合理であれば懲戒処分などの根拠になり得ますし、弁明が合理的であれば、会社側の認識の誤りを正すきっかけになります。
調査後に横領の事実が認められる場合は、横領をした者に対する処分を検討しましょう。
本コラム2章の「横領をした役員・従業員の責任を追及する方法」にて、具体的な責任追及の方法を解説します。
横領が行われた経緯を分析して、再発防止策を検討することも重要です。
たとえば、金庫内の資金が勝手に持ち出された場合は、金庫の鍵の管理をより厳重に行うべきでしょう。会社口座の資金が勝手に引き出された場合は、入出金に関するセキュリティーや承認のプロセスを厳格化すべきです。
同じような横領が再び起こることのないように、徹底した再発防止策を講じるようにしてください。
株主などのステークホルダーに対して、社内で横領が発生した事実をきちんと説明する必要があります。
特に上場会社では、横領の事実が大々的に報道される可能性が高いため、株主・取引先・債権者などに幅広く情報開示を行うことが大切です。
非公開会社においても、株主には最低限情報開示を行うべきでしょう。
適切な形で情報開示を行うことが、不祥事によるレピュテーションの低下を最小限に抑えるためのポイントです。
ここからは、横領をした役員・従業員に対して責任を追及するための方法を説明します。
横領をしたことが分かった役員は、臨時株主総会を開いて速やかに解任しましょう。
役員の解任は、出席株主の過半数による普通決議で決定することができます(会社法第339条第1項)。ただし、実際には横領の事実がなかったことが後に判明すると、解任した役員に対して、会社は損害賠償責任を負うことがある点にご注意ください(同条第2項)。
従業員による横領が判明した場合には、当該従業員に対して懲戒処分を行いましょう。
会社資金の横領は重大な非違行為であるため、直ちにもっとも重い処分である懲戒解雇としても違和感はありません。ただし、横領が事実誤認である場合には、懲戒処分が無効となってしまいます。
従業員に対して懲戒処分を行う際には、横領の事実が確かに認められることを、事前にきちんと調査することが大切です。
横領された会社資金は、横領をした役員や従業員に対して、不法行為に基づく損害賠償または不当利得に基づく返還を請求できます。
また、横領によって会社に生じたその他の損害についても、横領をした者に対して賠償を請求することが可能です。たとえば、横領の調査に要した人件費その他の費用や、横領の発覚に伴って減少した売り上げなどが損害賠償の対象になり得ます。
被害の状況によっては、損害賠償が極めて多額に及ぶこともあり得るため、横領の調査や責任追及について、弁護士のサポートを受けながら対応しましょう。
役員や従業員による会社資金の横領は、業務上横領罪(刑法第253条)によって処罰の対象となります。業務上横領罪の法定刑は、10年以下の懲役です。
刑事告訴をすれば、警察や検察による捜査が行われ、犯人の検挙につながる可能性があります。横領をした者への厳罰を希望する場合は、刑事告訴を検討しましょう。
横領に関する内部調査を行う際は、調査対象者や関係者に情報が漏れないように注意を払うべきです。また、ステークホルダーの信頼を失うことがないように、真摯な状況説明を行いましょう。
横領に関してヒアリングを行う際は、調査対象者やその近しい人などに狭く限定しましょう。
ヒアリングの対象者が多すぎると時間がかかり、情報が漏れるリスクが高まるためです。
また、横領の調査を行う担当者についても、最小限の人数に限定すべきです。多くの人を調査に参加させると、やはり情報が漏れるリスクが高まってしまいます。
横領をしたと思われる本人や関係者へのヒアリングは、できる限り短期間で集中的に行いましょう。
ヒアリングに時間がかかると、本人や近しい人に調査情報が漏れてしまうリスクが高まります。
特に横領が疑われる人へのヒアリングは、本人に対して調査情報が漏れないように、実施するタイミングなどを慎重に検討すべきです。
社内で横領が発生したことが大々的に報道されると、ステークホルダーは大きな不安を覚えます。
上場会社の場合は、株価の大幅な下落が避けられないでしょう。非公開会社においても、株主からの信頼を失えば経営が困難になりますし、取引先からの信頼を失えば売り上げの大幅な低下につながりかねません。
横領の発覚によってレピュテーションが低下することはやむを得ませんが、そこからいかに信頼を回復するかが重要です。
信頼回復のためにも、ステークホルダーには真摯に状況説明を行いましょう。横領者に対して行った処分や再発防止策の内容などを、ステークホルダーに対してタイムリーに発信するようにしてください。
横領の内部調査を行う際には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することの主なメリットは、以下のとおりです。
弁護士のサポートを受けながら対応することが、横領による不祥事の迅速な収拾につながります。社内における横領が発覚したら、速やかに弁護士へご相談ください。
社内での横領が発覚したら、短期間で集中的に調査を行い、会社資金の回収やレピュテーション低下の防止に努めましょう。弁護士のサポートを受ければ、横領の内部調査を効率よく行うことができます。
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