近年、過労死の増加が社会問題となっています。
過労死が発生すると、企業が損害賠償責任を負ったり、企業イメージの低下を招いたりするリスクもあります。それ以前に、健全な経営を維持するためには、大切な従業員を過労死から守ることが何よりも重要です。
そのためには、過労死の原因を知り、もし、従業員に過労死の前兆が見受けられるときには、早急に対処する必要があります。
そこで今回は、
・ 過労死の原因
・ 過労死を引き起こしやすい疾病
・ 過労死の前兆
などについてわかりやすく解説します。
過労死の主な原因として、次の3点が挙げられます。
それぞれについて、具体的にみていきましょう。
睡眠が不足すると、自律神経やホルモンのバランスが乱れ、さまざまな体調不良を引き起こしやすくなるといわれています。また、成長ホルモンが十分に分泌されなくなることから老化を促進し、生活習慣病になりやすいともいわれています。
連日の長時間残業や休日出勤が続くと、自由時間が少なくなる上に心も休まらないことから、睡眠が不足してしまう人も多いことでしょう。
疲れが抜けないまま長時間労働を続けると、やがて心身に不調をきたして過労死に至る危険性があります。
肉体的な疲労を回復させないまま無理に仕事を続けると疲労が蓄積してしまい、やがて脳や心臓の疾患を引き起こすことがあります。
このような疾病を抱えたまま適切な治療を受けずに仕事を続けると、過労死に至る危険性があるでしょう。
仕事で肉体的な疲労が蓄積する原因としては、肉体作業などの重労働や長時間労働の他にも、交替制勤務や深夜勤務、不規則な勤務、出張の多い業務、高温・低温などで過酷な作業環境など、さまざまなものが考えられます。
精神的なストレスを解消しないまま無理に仕事を続けた場合には、脳や心臓の疾患の他にも、うつ病や神経症などの精神疾患を引き起こすおそれがあります。
精神疾患も医師による治療が必要であり、適切な治療を受けないまま仕事を続けると症状が悪化し、過労死や自殺に至る危険性があります。
肉体的に大きな負荷がかかる仕事の連続によって、同時に精神的なストレスがたまることもありますが、パワハラやセクハラ、職場の人間関係などが原因で深刻な精神的ストレスをためてしまう人も少なくありません。
問題社員のトラブルから、
過労死は突然死とは異なり、上記の原因で何らかの疾病に罹患し、その疾病が悪化して死亡に至るものです。
過労死を引き起こしやすい疾病として、主に次の4つが挙げられます。
厚生労働省が策定した脳・心臓疾患の労災認定基準では、労災の対象となる脳血管疾患として、次の4つが掲げられています。
参考:「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(厚生労働省労働基準局長)
① 脳内出血
脳内出血は、脳の血管が破れて脳内に血液が漏れ出す病気です。
主な症状として、筋力や感覚の低下、しびれ、ろれつが回らない、言葉が出てこない、視力や視野の異常、頭痛、吐き気、めまいなどが挙げられます。重度の場合には意識障害や、呼吸停止により死に至ることもあります。
② くも膜下出血
くも膜下出血は、脳を覆う硬膜・くも膜・軟膜という3層の膜のうち、くも膜と軟膜の隙間で出血が生じる病気です。
主な症状は頭痛ですが、吐き気や嘔吐、意識障害を伴うことも多いです。脳動脈瘤が破裂した場合には3割近くが死に至るとされており、一命を取り留めたとしても重篤な後遺症が残りやすいです。
③ 脳梗塞
脳梗塞は、脳の動脈が詰まって血流が滞り、脳が壊死してしまう病気です。
主な症状として、片方の手足の麻痺やしびれ、ろれつが回らない、言葉が出てこない、視野が欠ける、めまい、意識障害などが挙げられます。
脳内出血やくも膜下出血と比べると、短時間のうちに死に至る可能性は低いですが、後遺症が残る可能性は高いです。
④ 高血圧性脳症
高血圧性脳症は、急激な血圧の上昇により脳に障害が生じる病気です。主な症状として、頭痛や吐き気、嘔吐、意識障害、けいれんなどが挙げられます。高血圧性脳症も、脳内出血やくも膜下出血と比べると短時間のうちに死に至る可能性は低いですが、適切な治療を受けなければ治療不可能な脳障害が生じて死に至ることもあります。また、高血圧の影響で腎臓や循環器系の他の疾病を引き起こすこともあります。
厚生労働省が策定した脳・心臓疾患の労災認定基準では、労災の対象となる心臓疾患として、次の5つが掲げられています。
① 心筋梗塞
心筋梗塞は、心臓の筋肉に血流を送る冠動脈が詰まって血流が滞り、心筋が酸素不足に陥る病気です。
主な症状は、突然の胸の痛みや圧迫感で、冷や汗や吐き気・嘔吐を伴うことも多いです。
適切な治療を受けなければ、やがて心筋の細胞が壊死してしまい、死に至ることもあります。
② 狭心症
狭心症は、心筋梗塞の前段階ともいえる病気であり、冠動脈が狭くなることで一時的に心筋が酸素不足に陥るものです。
主な症状は、急激に胸の痛みや圧迫感を伴う「発作」が起こることです。発作は数分程度で収まることが多いですが、放置すると冠動脈が完全に詰まって心筋梗塞に至る可能性が高いとされています。
③ 心停止
心停止とは、心臓の機能が停止した状態のことを指します。心臓が停止すると、数秒で意識を失い、呼吸も停止してしまいます。
心停止を引き起こす可能性がある疾病のひとつとして、不整脈が挙げられます。不整脈は、心臓の脈拍が正常とは異なるタイミングで起こる病気です。
重篤な不整脈では、脳に十分な血液が行き渡らず、失神やふらつき、息切れ、呼吸困難、さらには心停止を引き起こす可能性があります。
④ 重篤な心不全
心不全は、心臓の機能に何らかの障害が生じ、さまざまな症状を引き起こす病気です。
初期の症状としては、息切れや疲労感、むくみなどが多いですが、放置すると心臓の機能が低下していくため呼吸困難を引き起こすことがあります。重篤になると、心停止に至ります。
⑤ 大動脈解離
大動脈解離は、大動脈を構成する外膜・中膜・内膜という3層の膜のうち、内膜が裂けて隙間に血液が流れ込み、血管が縦方向に剥がれるように裂ける病気です。
大動脈解離が発症すると、急激に胸や背中に強い痛みが起こります。血管の壁が薄くなってしまうため破裂しやすくなり、破裂してしまうと心不全を発症し、間もなくして死に至ることもあります。
厚生労働省が策定した精神障害の労災認定基準では、労災認定の対象となる精神障害は、以下の国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)の第5章「精神および行動の障害」に分類される精神障害(以下の表に掲載されたもの)であって、器質性のもの(F0)と有害物質に起因するもの(アルコールや薬物による障害など)(F1)を除いたものとされています。
「精神および行動の障害」分類分類コード | 疾病の種類 |
---|---|
F0 | 症状性を含む器質性精神障害 |
F1 | 精神作用物質使用による精神および行動の障害 |
F2 | 統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害 |
F3 | 気分(感情)障害 |
F4 | 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害 |
F5 | 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群 |
F6 | 成人のパーソナリティおよび行動の障害 |
F7 | 精神遅滞(知的障害) |
F8 | 心理的発達の障害 |
F9 | 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害、特定不能の精神障害 |
引用元:「精神障害の労災認定」(厚生労働省)
このうち、業務に関連して発症しやすいものとしては、うつ病(F3)や急性ストレス反応(F4)が挙げられます。
① うつ病
うつ病の症状は多岐にわたりますが、以下の症状が現れて日常生活に大きな支障を来す状態が代表的です。
② 急性ストレス反応
急性ストレス反応は、極めて大きな心理的負荷を受けてから一定期間、さまざまな症状が持続する精神疾患です。
症状は人によって異なりますが、以下のようなものが多いとされています。
他にも、厚生労働省が策定した労災認定基準では対象疾病として掲げられていないものの、過労死につながりやすい疾病にはさまざまなものがあり、業務との関連性が認められると労災に認定される可能性もあります。
その中でも、次のような生活習慣病は過労死を引き起こしやすいと考えられます。
① メタボリックシンドローム
メタボリックシンドローム(メタボ)とは、内臓に脂肪がたまって腹囲が大きくなる「内臓肥満」に、高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさることで、心臓病や脳卒中などを発症しやすい病態のことです。
一般的にウエストが一定の数値を超えると「メタボ」と呼ばれますが、単にウエストが大きいだけでは医学上のメタボリックシンドロームには該当しません。
仕事が忙しく、食事が不規則になったり運動が不足すると、メタボリックシンドロームになりやすいといえます。放置するとメタボの程度が加速し、動脈硬化から心臓病や脳卒中につながり、過労死の危険性が高まるので注意が必要です。
② 高血圧
高血圧とは、血圧を繰り返し測定しても正常の数値よりも高い状態のことを指します。血圧の正常値は、最高血圧が140mmHg未満、最低血圧が90mmHg未満とされています。
高血圧を引き起こす原因は多岐にわたりますが、業務と関連する可能性があるものとして、次のことが考えられます。
高血圧が悪化すると、動脈硬化から脳内出血や脳梗塞、心筋梗塞、心不全などにつながり、過労死に至る危険性があるといえます。
③ 睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に空気の通り道である「上気道」が狭くなることで、大きないびきと呼吸停止(無呼吸状態)が繰り返される病気のことです。
無呼吸状態のまま死に至ることはほとんどありませんが、良質な睡眠が妨げられることと、睡眠中に体内の酸素量が不足しがちになることから身体に大きな負担がかかり、高血圧や脳卒中、心筋梗塞などにつながりやすいとされています。
放置すると、それらの合併症が進行し、死に至ることもあります。
睡眠時無呼吸症候群そのものは生活習慣病ではありませんが、肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病などを抱えている人に発症しやすいこと、働き盛りの30~60歳代に多く見られる傾向があることから、生活習慣病との関連性が強いとされています。
睡眠時無呼吸症候群は本人も自覚していないことが多いですが、睡眠不足で仕事中に眠気を催したり、仕事に集中できていない従業員がいたら、睡眠時無呼吸症候群を疑ってみた方がよいかもしれません。
過労死ラインとは、過労死につながる疾病を引き起こす危険性が高まる時間外労働数の目安のことです。
長時間労働による心身への負荷が病気につながりやすいと考えられることから、厚生労働省でも、労災認定の基準として時間外労働数の目安を定めています。これが俗に「過労死ライン」と呼ばれているのです。
厚生労働省が定めた過労死ラインの具体的な内容は、以下のとおりです。
ここでいう時間外労働の時間数は、法定労働時間である1週間当たり40時間を超えた労働時間数のことを指します。
参考:「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(厚生労働省労働基準局長)
従業員に1か月当たり45時間を超える時間外労働をさせる場合には、その従業員の健康状態に十分留意する必要があるといえるでしょう。
過労死の多くには、何らかの前兆があるものです。
企業の経営者や管理職の方は、従業員の様子を日々観察したり、定期的に面談するなどして、心身に不調はないか、特に本記事で解説した各疾病の症状が現れていないかをチェックした方がよいでしょう。
ここではさらに、厚生労働省が公表した以下の資料に基づき、労働者の仕事による疲労蓄積度を判定できるチェックリストを紹介します。
参考:「STOP!過労死 過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ」(厚生労働省)
上記の厚生労働省が発行している過労死対策の冊子にあるチェックリストは、労働者が自己診断を行うためのものですが、直属の上司などが部下の状況を把握するためにも参考になります。
一か月の時間外労働の多さや不規則な勤務の頻度などについて、改めて部下の勤務状況を把握することが大切です。
従業員の過労死のリスクを軽減するためには、このチェックリストにおける点数がなるべく小さくなるように、労務管理を徹底するとよいでしょう。
疲労の蓄積度については、労働者本人でなければわからない部分が多いものの、直属の上司などが部下をよく観察していればわかる部分もあります。
直属の上司が見てわかるほどの症状が複数あれば、その従業員の疲労蓄積度は重い可能性がありますので、早めの対処が重要です。
上述した冊子に労働者本人が疲労の蓄積度を判定するためのチェックリストがありますので、参考にしてみましょう。
過労死を未然に防ぐために企業がやるべきことは、まず、過労死ラインを超えるような長時間労働を是正することです。
どうしても長時間労働を回避することが難しい職種・職場などでは、有給休暇を計画的に取得させたり、勤務間インターバル制度を導入させたりして、従業員の疲労蓄積の軽減を図りましょう。
経営者や直属の上司などは従業員の様子を日々観察し、心身の不調が疑われる場合には、医療機関での受診やカウンセリングの利用などをすすめることも大切です。
過労死の防止対策に万全を期すためには、その他にもやるべきことが数多くあります。企業法務の経験が豊富な弁護士へご相談の上、会社の実情に応じた実効的な対策を検討していきましょう。
過労死が発生してしまうと、遺族への賠償問題などで、時間・労力・金銭的な面で企業に大きな負担がかかる可能性が高いです。
大切な従業員を守るためにも、健全な経営を維持するためにも、早めに弁護士へご相談の上、万全な過労死対策を策定することをおすすめします。
企業法務の経験が豊富な弁護士に相談すれば、幅広い知識と経験に基づく実践的なアドバイスが受けられます。
顧問弁護士の契約をして普段から社内の実情を弁護士が把握していれば、より的確なアドバイスや対応が可能となります。
ベリーベスト法律事務所には、企業法務の豊富な実績がございます。労使紛争に強い弁護士が対応し、トラブルの適切な解決を図ります。顧問弁護士については月額3980円から豊富なプランを用意していますので、気になる方はお気軽にご相談ください。
問題社員のトラブルから、
過労死は、主に長時間労働による睡眠不足をはじめとして、仕事による肉体的な疲労や精神的なストレスが蓄積されることが原因で起こります。
会社側は労務管理を徹底するとともに、働きやすい職場作りを推し進めて、従業員の疲労蓄積を軽減させることが大切です。
過労死対策を策定する際には、労働基準法や労働安全衛生法などに関する専門的な知識も要求されます。ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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