2025年06月30日
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減給は10分の1までしかできない? 減給の上限をケース別に解説

減給は10分の1までしかできない? 減給の上限をケース別に解説

企業では従業員の不祥事や職務懈怠、能力不足、あるいは会社の業績不振など、様々な理由で従業員の減給を検討することがありますが、無制限に減給できるものではありません。

減給の方法によっては、法律で「10分の1まで」という上限が決められていますし、その他の方法による場合でも、合法な上限のラインとして「10分の1まで」が目安とされることが多いです。

従業員にとって給料は生活の糧として欠かせないものなので、正当な理由によって減給される場合でも、大幅に減給することは難しいといえます。

過大な減給を行うと、対象従業員から差額分の賃金等を請求されたり、会社側に罰則が適用されたりするおそれがあります。適法に減給するためには、企業法務や労働問題に強い弁護士に相談し、個別具体的なアドバイスを受けた方がよいでしょう。

1、減給は10分の1までといわれる理由

減給は10分の1までといわれる理由は、次の2点です。

  • 懲戒処分としての減給処分について、法律上の上限が「10分の1まで」とされているから
  • 法律上の上限が定められていない減給方法でも、合法な上限のラインとして「10分の1まで」が目安とされることが多いから

懲戒処分としての減給処分については、労働基準法第91条で、「1回の額が平均賃金の1日分の半額まで」で、かつ、「総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1まで」と定められています。

減給処分は1つの問題行動に対して1回しかできませんが、複数の問題行動があった場合は、一度の給料日において複数回の減給処分が可能です。「1回の額」が平均賃金1日分の半額までに制限されていても、問題行動の件数が多ければ減給の総額が大きくなる可能性があります。

そこで、労働者の生活を守る観点から、一度の給料日において減額できるのは、「一賃金支払期における賃金の総額」(月給制の場合は1か月分の月給)の10分の1までという上限が定められているのです。

その他の減給方法による場合も、労働者の生活を守る観点を外すことはできません。そのため、一般的に「10分の1」を超える大幅な減給を行うと、減額の合理性・客観性(公平性)を欠くなどの理由で違法・無効と判断される可能性が高くなります。

以上が、「減給は10分の1まで」といわれる理由です。

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2、「減給10分の1」はいくら? 計算方法について

それでは、「減給10分の1」の金額はいくらになるのか、簡単な例を挙げて、労働基準法第91条に基づく計算方法を紹介します。

  1. (1)「1回の額」の計算

    まずは、減給処分「1回の額」の上限を計算することが必要です。

    1回の額は「平均賃金の1日分の半額まで」です。

    ここでいう「平均賃金」とは、直近3か月間に当該労働者へ支払った賃金の総額を、その期間の総日数で割った金額のことを指します(労働基準法第12条第1項本文)。

    「賃金」は、税金や保険料等を控除する前の支給総額のことを指します。基本給だけでなく、残業代などの割増金や各種手当も含まれますが、賞与や、見舞金、私傷病手当など臨時に支払われるものは含まれません。

    「直近3か月間」の期間は、賃金締切日がある場合には直前の賃金締切日から起算します(同条第2項)。

    対象従業員へ直近3か月間に支払った賃金の総額が135万円(月給45万円)、その3か月間の総日数が90日だとすると、「平均賃金の1日分」は1万5000円(135万円÷90日)です。減給処分「1回の額」の上限は、その半額にあたる7500円となります。

  2. (2)平均賃金の最低保障額の確認

    労働基準法では、賃金の一部または全部が出来高払制その他の請負制によって定められている場合などについて、賃金総額をその期間の総労働日数で除した金額の6割を下ってはならないという最低保障額の計算方法が定められています(労働基準法第12条第1項但書)。

    上記(1)の原則的な計算方法によって算出された額が、この最低保障額を下回る場合には、当該最低保障額が平均賃金となります。

    「直近3か月間の賃金総額」÷「直近3か月間に労働した日数」×0.6

    上記の例で、対象従業員の直近3か月間の総勤務日数が66日だとすると、この計算方法による金額は1万2273円です。

    135万円÷66日×0.6≒1万2273円

    今回のケースだと、原則的な計算式による平均賃金は1万5000円なので、上記の最低保障額(1万2273)を上回っており、問題ありません。

    もし、原則的な計算式による平均賃金がこの最低保障額を下回っている場合は、最低保障額を平均賃金として、減給額の計算をする必要があります。

    結局、今回のケースでは、減給処分「1回の額」の上限は原則どおり、7500円です。

  3. (3)減給の総額の計算

    ここから、「減給は10分の1まで」の上限が問題となってきます。

    上記の例で、対象社員の問題行動が1件しかなければ、減給額の上限は7500円であり、月給45万円の60分の1にとどまっているので、問題ありません。しかし、対象社員の問題行動が複数ある場合には、「総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1まで」の上限を上回らないかを確認する必要があります

    一賃金支払期とは、1回に支払う賃金額を計算するための算定期間のことです。月給制なら1か月、週給制なら1週間が一賃金支払期となります。

    上記の例で、対象従業員の問題行動が10件あったとすれば、減給の総額は7万5000円(7500円×10回)となりそうです。

    しかし、当該従業員の月給(一賃金支払期の賃金総額)が45万円なら、減給総額の上限は、その10分の1にあたる4万5000円となります。

    したがって、一度の給料日に減給できる上限額は4万5000円です。

    減給しきれなかった3万円については、次の給料日に持ち越すことができます。つまり、減給1か月目は4万5000円、2か月目は3万円を、それぞれ、本来の給料から差し引けます。ただし、これを超えて減給することはできません。

    以上の計算を簡単にまとめると、一度の給料日に減額できるのは月給の10分の1までということになり(月給制の場合)、その金額は、月給45万円なら4万5000円ということになります。

3、10分の1までしか減給できないケース

10分の1までしか減給できないのは、懲戒処分として減給するケースです。

月給制の場合、基本的には毎月支給する給料のみが、この上限規制の適用対象となります。しかし、場合によっては賞与(ボーナス)も「10分の1まで」の上限規制の適用対象となる可能性があるので、注意が必要です。

以下で、詳しく説明します。


  1. (1)懲戒処分として減給する場合

    すでに説明したとおり、懲戒処分として減給する場合は、月給の10分の1まで(月給制の場合)という上限規制が適用されます。

    問題行動を起こした従業員に対して制裁を加える必要があるとしても、対象従業員が生活に困窮するほどの罰を与えることは許されません。

    そのため、減給処分をする場合には「10分の1まで」という上限が設けられているのです。

  2. (2)賞与(ボーナス)を減額する場合

    賞与は基本給とは異なり、会社側の裁量によって支給される性質の賃金です。そのため、基本的には労働基準法第91条の適用対象にはなりません。

    しかし、就業規則や給与規程などで、賞与の支給基準や支給額、金額の算定基準などを明記している会社も多いことでしょう。その場合は、所定の条件を満たした従業員には具体的な請求権が発生しますので、月給と同様に、労働基準法第91条の適用対象になる可能性が高いと考えられています。

    したがって、「月給で10分の1までしか減給できないのなら、ボーナスをカットしよう」などと考えて、賞与を大幅に減額すると、労働基準法第91条違反となるおそれがあるので注意しましょう。

4、10分の1を超えて減給することが可能なケース

懲戒処分として減給する場合以外は、10分の1を超えて減給することも、法律上は可能です。

主なケースとして、以下のものが挙げられます。

各ケースについて、注意点も含めて具体的に解説していきます。

  1. (1)従業員との合意に基づく場合

    給料の額は雇用契約で定められていますが、当事者双方の合意があれば、雇用契約を変更して減給することが可能です。理論上は、「契約自由の原則」に基づき、いくら減給しても構わないといえそうです。

    しかし、従業員の「合意」は真意に基づくものでなければなりません。会社側から執拗に減給を迫ったり、「減給に応じないのなら解雇する」などと脅したりした場合は、形式的に合意があったとしても真意に基づくものでなく、無効と判断される可能性が高いです。

    また、大幅な減給をした場合も、後に対象従業員から無効を主張されると、具体的な状況にもよりますが、合意は無効と判断されやすくなります。

    合意に基づく減給に明確な上限規制はありませんが、トラブルを回避するためには、なるべく「10分の1まで」の減給にとどめたほうがよいでしょう

  2. (2)出勤停止処分に伴う場合

    懲戒処分として減給ではなく「出勤停止」の処分を行う場合には、労働基準法第91条は適用されません。

    出勤停止処分の場合、対象従業員が出勤しなかった日数分については、「ノーワーク・ノーペイの原則」により、給料を支払う必要はありません。そのため、出勤停止とした日数分だけ減給することができます。

    出勤停止を命じることができる日数は、問題行動の内容や程度、件数などの状況によりますが、あまりにも長期間の出勤停止処分は、懲戒権の濫用として無効と判断される可能性があります。

    この理由により、出勤停止処分に伴い減給する場合も、結果として「10分の1まで」にとどまるケースが多いと考えられます。

    なお、懲戒処分を行うためには、就業規則に根拠規定が明記されていなければなりません。出勤停止処分に伴い減給する場合は、「出勤停止期間中の賃金は支給しない」旨が明記されていることも必要です。

  3. (3)降格処分に伴う場合

    降格処分を行う場合も、社内のポストに応じて待遇に差がある場合は、降格に伴い減給する結果となります。

    降格処分には、懲戒処分として行う場合と、人事権の行使として行う場合の2通りがあります。

    懲戒処分としての降格は、解雇に次いで重い処分です。そのため、相当に重大な問題行動がなければ、降格処分はできません。問題行動の内容や程度、件数などの状況に照らし、降格処分が重すぎると判断された場合は、懲戒権の濫用として処分が無効となります(労働契約法第15条)。

    無効となれば降格処分がなかったことになるため、処分により減給した金額を対象従業員に支払う必要が生じます。

    人事権の行使として降格処分を行う場合には、労働契約法第15条の適用はありませんが、業務上の合理的な理由に基づいて処分を行うことが必要です。問題行動の内容や程度、件数などの状況に照らし、降格処分が重すぎると判断された場合には、やはり、人事権の濫用として処分が無効となる可能性があります。

  4. (4)退職金を減額する場合

    従業員が重大な問題行動を起こした場合は、解雇して退職金を不支給、または減額したいと考えることもあるでしょう。

    法律上、会社に退職金制度を導入する義務はないので、就業規則や給与規程、退職金規程などで退職金を支給する旨を定めていない場合は、退職金を不支給とすることに問題はありません。

    しかし、退職金制度を設けている会社の場合は要注意です。判例上、従業員を懲戒解雇する場合でも、退職金を不支給、または減額するためには、次の2つの条件を両方満たす必要があると考えられています。

    • 就業規則や給与規程、退職金規程などで、不支給や減額に該当する事由が定められていること
    • 退職者に著しい背信行為があったこと

    たとえ懲戒解雇に該当する事由が認められる場合でも、「それまでの勤続の功を抹消または減殺するほどの著しい背信行為」がなければ、退職金の不支給や減額は認められないことに注意しましょう。

  5. (5)公務員の場合

    公務員は雇用契約に基づいて働く労働者ではないので、労働関係法令の適用は受けません。

    国家公務員に対する懲戒処分については、「人事院規則12-0(職員の懲戒)」に規定されています。減給については、1年以下の期間、俸給の月額の5分の1以下に相当する額を給与から減ずるものとされています(同規則第3条)。つまり、国家公務員の減給の上限は「5分の1」です。

    地方公務員に対する懲戒処分については、地方公務員法および各自治体の条例で定められています。減給の上限は自治体によって異なりますが、条例で「10分の1」と定めているところも多いです。

    公務員については、労働基準法第91条による「10分の1」の上限規制は適用されないということを、知っておくとよいでしょう。

5、「減給3か月」や「減給6か月」は違法?

新聞やニュースなどで、不祥事を起こした職員に対して、「減給3か月」や「減給6か月」の処分を行ったという報道を見聞きすることもあるでしょう。

しかし、会社員には労働基準法第91条の上限規制が適用されるため、このような処分をすることはできず、もし行うと違法となります。

「減給3か月」や「減給6か月」といった処分をなし得るのは、主に次の2つのケースです。

  • 委任契約に基づき就任した取締役などの役員の場合
  • 公務員の場合

どちらも、労働関係法令の適用がないケースです。

委任契約には民法の規定が適用されますが、報酬カットの上限に関する規定はありません。そのため、「減給3か月」や「減給6か月」といった処分も可能です。

国家公務員の減給期間は、人事院規則12-0(職員の懲戒)で1年以下と定められています。したがって、最長で「減給12か月」までの処分が認められます。

地方公務員の減給期間は、各自治体の条例によって異なりますが、「1日以上6か月以下」と定めているところが多いです。したがって、「減給6か月」までの処分は許されます。

6、減給処分をするときは弁護士へ相談を

ここまで説明してきたとおり、懲戒処分としての減給には、月給の10分の1まで(月給制の場合)という上限があります。

10分の1を超えて減給したい場合は他の減給方法を選択することになりますが、それでも、10分の1を超える減給は社会通念上相当とはいえず、違法・無効と判断される可能性があります。

適法に減給するためには専門的な知識を要するので、弁護士へのご相談を強くおすすめします。

企業法務や労働問題に強い弁護士のサポートを受けることで、状況に応じて適切な方法を選択した上で、適法な減給が可能となるでしょう

ベリーベスト法律事務所には、企業法務の実績が豊富にございます。ご相談いただければ、減給に関する法律上の上限ルールを踏まえて、処分の内容や手続きについて個別具体的にアドバイスいたします。

初回相談30分を無料で受け付けていますので、減給処分をお考えの際は、お気軽にお問い合わせください。

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7、まとめ

減給は10分の1までという上限規制が適用されるのは、懲戒処分としての減給を行う場合だけです。しかし、対象従業員とのトラブルを回避するためには、その他の減給方法をとる場合でも、なるべく10分の1までの減給にとどめた方がよいといえます。

10分の1の減給だけでは収まらないほど重大な問題行動があった場合には、出勤停止や降格、場合によっては解雇などの重い懲戒処分を検討した方がよいかもしれません。

会社の業績不振などで給料の支払いが厳しい場合には、リストラ解雇などの検討が必要な場合もあるでしょう。

減給の必要性が生じた場合には、幅広い選択肢の中から最適な解決方法を選択することが大切です。

お困りの際は、企業法務や労働問題に詳しい弁護士にご相談の上、適切に対処していきましょう。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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