2025年07月24日
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従業員の能力不足で減給はできる? 適法な減給方法と注意点を解説

従業員の能力不足で減給はできる? 適法な減給方法と注意点を解説

従業員が給料に見合った仕事をしてくれない、指導や研修を行っても能力不足で改善がみられない、このようなとき、減給したいと考えることもあるでしょう。

しかし、雇用契約で定めた給料の額を減らすことは、簡単にはできません。安易に減給処分を下すと法律に違反して無効となり、対象従業員から差額分の賃金や損害賠償の請求を受ける可能性もあるので、注意が必要です。

そこで今回は、能力不足の従業員に対する減給処分をお考えの経営者や担当者の方に向けて、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。

1、能力不足でも一方的に減給することはできない

結論からいうと、従業員の能力が不足する場合でも、それだけの理由で一方的に減給することは原則としてできません

なぜなら、給料の額は雇用契約で定められているからです。いったん締結した契約の内容を勝手に変更することは許されないため、雇用契約の内容である給料の額を強制的に減らすことは原則としてできないのです。

しかし、従業員の能力が著しく不足する場合にも一切減給できないのでは、会社側の不利益が大きくなります。

一定の事由がある場合には、例外的に能力不足を理由として減給することも可能です。そのための具体的な方法を、以下でみていきましょう。

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2、能力不足を理由に減給する方法

従業員の能力不足を理由に減給する方法として、以下の5つが挙げられます。

それぞれ、具体的な内容をみていきましょう。


  1. (1)雇用契約の変更による減給

    契約内容を一方的に変更することはできませんが、当事者双方が合意すれば変更可能です。

    そこで、能力が不足する従業員と話し合い、双方が納得する給料の額で合意し、雇用契約の内容を変更すれば、減給することができます。

    ただし、従業員には納得の上で合意してもらうことが重要です。会社側から執拗に減給を迫るなどして雇用契約の変更を押しつけた場合は、形式的には合意があったとしても、真意に基づく合意ではないと判断され、減給が無効となるおそれもあります。

  2. (2)配置転換による減給

    能力不足の従業員を配置転換し、その結果として減給することも考えられます。

    たとえば、営業職としての能力が不足する従業員を、事務職の部門に配置転換するようなケースがこれにあたります。営業職の部門よりも事務職の部門のほうが給料が低ければ、配置転換に伴い減給する結果となるでしょう。

    配置転換は、会社の人事権に基づく業務命令なので、対象従業員は原則として拒否できません。

    ただし、配置転換を半強制的に命じるためには、就業規則や雇用契約書に、業務上の必要性がある場合には、会社側の判断で配置転換を行う旨の規定が記載されていなければなりません。

    また、会社の意に沿わない従業員に対する嫌がらせ目的や、退職に追い込む目的で配置転換を命じる行為は、人事権の濫用に該当して違法となる可能性もあることに注意が必要です。

    会社としては、能力不足の従業員を配置転換する際にも、十分に話し合って納得を得るべきでしょう。

  3. (3)人事評価による減給

    会社の人事評価において、従業員のスキルや業績に応じて待遇に差異を設けるシステムを採用している場合は、能力不足の社員の人事評価を適正に行うことにより、減給できる可能性があります。

    客観的な基準に基づき従業員のランク制が採用されている場合は、比較的問題が少ないですが、「能力が一定の基準に満たない場合は減給する」といったシステムの場合は、要注意です。

    特定の従業員の能力が所定の基準に満たないとしても、いきなり減給するとトラブルになりやすいです。会社としては、対象従業員について、どのような能力がどの程度欠如しているのかを見極め、必要な注意・指導・研修を行い、それでも改善がみられない場合に減給を検討した方がよいでしょう。

    なお、人事評価による減給を行う場合も、就業規則や雇用契約書で、人事評価により賃金が増減する旨と、その基準を定めておく必要があります。

  4. (4)業績給や調整給による減給

    基本給に加えて「業績給」や「調整給」を支給している場合は、これらの費目を適正に算出することにより、能力不足社員へ支給する給料を減額できる可能性があります。

    「業績給」にはいくつかの意味合いがありますが、個々の従業員の成果に応じて給料を上乗せするシステムの場合は、能力不足で成果が低い従業員については、業績給を減額するか、不支給とすることもできるでしょう。

    「調整給」とは、様々な事情により従業員間の給料に不均衡が生じた場合に、バランスを適正に保つ目的で支給される賃金のことです。能力不足の従業員にも調整給が継続的に支給されている場合は、その金額を減らすか、不支給とすることで適正に減給できる場合もあるでしょう。

    ただし、これらの方法で減給を行うためには、就業規則や雇用契約書で、業績給や調整給が減額または不支給となることがある旨と、その基準を定めておかなければなりません

  5. (5)懲戒処分による減給

    従業員の能力不足が著しい場合は、懲戒処分を行うことで減給できる可能性があります。

    懲戒処分とは、企業の秩序や職場の規律に違反した従業員に対して、会社が下す制裁のことです。

    対象従業員の減給につながる可能性のある懲戒処分には、次の3種類があります。

    • 減給:その名のとおり、対象従業員へ支給する給料から一定額を減らす処分
    • 出勤停止:一定の日数につき出勤させない処分のことであり、対象従業員が出勤しなかった日数分だけ減給となる
    • 降格:部長職から課長職への降格のように下位の役職へ降ろす処分のことであり、役職に応じて待遇に差がある場合には、結果として減給となる

    懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒処分の種類と、種類ごとに該当する事由が定められていなければなりません

    ただし、能力不足という理由だけで減給を伴う懲戒処分を下すことは困難です。所定のプロセスを経て懲戒処分が可能となることもありますが、その点については次章で詳しく解説します。

3、能力不足で減給するときの注意点

従業員の能力不足で減給するときは、以下の3点に注意が必要です。

それぞれ、具体的な内容をみていきましょう。


  1. (1)合理的な理由がなければ違法となる

    どの方法で減給を行う場合でも、対象社員の能力不足が減給に相当するだけの合理的な理由にあたるといえなければ、その措置は違法となります。

    合理的な理由があることを説明できるようにするために、対象従業員について、どのような能力がどの程度欠如しているのかを具体的に、かつ、なるべく客観的に把握することが必要です。

    業務日報などが役に立つこともありますが、対象従業員の能力に関する具体的な記載がない場合には、別途、記録していく必要があるでしょう。

    対象従業員に減給の措置を納得して受け入れてもらうためにも、その仕事ぶりを記録して証拠化しておくことは重要です。

    経営者や担当者の主観的な評価だけで「能力不足」と決めつけると、合理的な理由があることの説明が難しくなるので、注意しましょう。

  2. (2)適正な手続きを踏まなければ無効となる

    減給に相当する合理的な理由があったとしても、適正な手続きを踏まなければ減給の措置が無効となることがあります。

    雇用契約を変更して減給する場合は、対象従業員と十分に話し合い、真意からの同意を得ることが「適正な手続き」として必要です。

    配置転換や人事評価、業績給・調整給による減給の場合は、それぞれ、就業規則や雇用契約の定めに従って手続きを進めなければなりません。

    懲戒処分を行う場合は、就業規則に根拠規定があることを前提として、さらに念入りな手続きが必要となります。

    先に述べたとおり、能力不足という理由だけで懲戒処分を行うことは、通常、困難です。
    また、対象従業員を懲戒するためには、就業規則に懲戒の対象となる事由(懲戒事由)と懲戒処分の種類が定められ、その就業規則が周知されていなければなりません。

    まずは対象従業員に対して必要な注意・指導・研修を行うべきです。また、対象従業員がどこまでの業務に対応できて、どこからの業務に対応できないのかを見極め、対応できない部分について重点的に教育するというように、実効的な指導が必要です。

    そして、実際に懲戒処分を行う際には、対象となる問題行為の事実関係を確認して証拠を確保した上で、対象従業員の行為が就業規則に定めた懲戒事由に該当することについて、弁明の機会を与えることも必要です。

    適正な手続きを踏まずに懲戒処分を行うと、その処分が社会通念上相当であることを確認するプロセスを怠ったことになるため、権利の濫用として懲戒処分が無効となる可能性があります(労働契約法第15条)。

  3. (3)懲戒処分としての減給には上限がある

    懲戒処分としての減給処分を行う場合には、減給する金額に上限があることにも注意が必要です。

    減給の上限は、労働基準法第91条で以下のとおり定められています。

    • 1回の減給の上限は平均賃金1日分の半額まで
    • 減給の総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1まで

    対象従業員の平均賃金1日分が1万1000円だとすると、1回の減給の上限は、その半額にあたる5500円となります。

    複数回の問題行動があった場合には、その回数に応じた減給処分ができますが、「減給の総額」は一賃金支払期の賃金総額の10分の1までです。

    上記の例で10回の問題行動があった場合、減給の総額は5万5000円(5500円×10回)ではなく、3万3000円となります(一賃金支払期の賃金総額33万円×1/10)。

    ただし、差し引ききれなかった2万2000円は、次の賃金支払期(月給制の場合は翌月の給料日)に差し引くことが可能です。

    この上限規制に違反して過大な減給処分をすると、会社側に「30万円以下の罰金」という刑事罰が科せられるおそれもあるので、注意しましょう(労働基準法第120条第1号)。

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4、能力不足の社員への対処は弁護士へ相談を

ここまで解説してきたように、能力不足の社員に対する減給には、法律上の複雑な問題があります。減給したいと考えても、会社側裁量から安易にできるものではありません。しかし、放置すると、他の社員の士気が低下するなどのリスクもあります。

対象従業員の能力が客観的に不足する場合には、まず必要な注意、指導、研修を行い、それでも改善が見られない場合に、減給などの適切な措置を検討しましょう。

経営者や担当者の主観的な評価で安易に減給を行うと違法となり、対象従業員から差額分の賃金や損害賠償等を請求され、裁判に発展するおそれもあります。適法に減給するためには専門的な知識や経験が要求されるので、弁護士へのご相談を強くおすすめします

企業法務や労働問題に強い弁護士のサポートを受けることで、状況に応じて適切な方法を選択した上で、適切な手続きを踏んで減給を行うことが可能となるでしょう。

対象従業員が反発する場合には、弁護士を通じて話し合うことで解決を図ることも可能です。

ベリーベスト法律事務所には、企業法務の実績が豊富にございます。能力不足の社員への対応をはじめとして、労使のトラブルに関するあらゆる法律問題について、親身にサポートいたします。

初回相談30分を無料で受け付けていますので、能力不足の社員への対処にお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
この記事の監修者
鮎澤 季詩子
鮎澤 季詩子  弁護士
ベリーベスト法律事務所
所属 : 大阪弁護士会
弁護士会登録番号 : 59682
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