「持株比率」とは、株式会社において、特定の株主がどれだけの株式を所有しているかを数値で示したものです。企業経営を安定させるためには、自社の持株比率を意識する必要があり、特に3分の1、2分の1、3分の2などのラインが重要です。
特定の株主が持株比率を高めようとしてきたときは、必要に応じて買収防衛策を検討しましょう。本記事では、企業の持株比率についてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
企業が安定的に経営を行うためには、持株比率の考え方が重要になります。まずは、持株比率に関する基礎知識を確認しておきましょう。
「持株比率」とは、株式会社の発行済株式のうち、特定の株主が保有している株式の割合を意味します。
株主には、保有株式数に応じた権利が認められています。持株比率が高まれば、株主総会での影響力が強くなり、さらに「少数株主権」という強力な権利も認められるようになります。
特に現経営陣にとっては、代表者の親族など身内以外の株主が持株比率を高めることで、経営権が不安定になってしまうおそれがあります。そのため、常に持株比率の変動状況をチェックし、必要に応じて早めに対策を講じることが大切です。
持株比率は、以下の式によって計算します。
たとえば、A社の発行済株式総数が1万株で、そのうちXが5000株、Yが4000株、Zが1000株を保有しているとします。
この場合、X・Y・Zの持株比率は以下のとおりです。
この構成では、Xが過半数を保有しているため、取締役の選任・解任など普通決議(過半数の賛成で可決)において、単独で意思決定を行える力を持っています。
持株比率の影響については、「3、経営者が意識すべき持株比率のライン|3分の1、2分の1、3分の2」で、詳しく解説しています。
持株比率と似ている用語には「議決権比率」「持分比率」「出資比率」などがあります。
各用語は、それぞれ以下のように使い分けられています。
用語 | 意味 | 持株比率との違い |
---|---|---|
持株比率 | 株式会社の発行済株式のうち、特定の株主が保有している株式の割合 | - |
議決権比率 | 株式会社の株主総会において、特定の株主が行使できる議決権の割合 | 持株比率:議決権を行使できない株式も含めて計算する 議決権比率:議決権を行使できない株式は除外して計算する |
持分比率 | 連結子会社の純資産に対する、親会社の持分の比率 ※連結財務諸表などに使われる |
持株比率:連結親会社・連結子会社の関係がない場合にも用いられる 持分比率:連結親会社・連結子会社の関係がある場合に限って用いられるのが一般的 |
出資比率 | 出資総額のうち、特定の出資者が出資した額の割合 | 持株比率:株式会社に限って用いられる 出資比率:株式会社に限らず、別の形態の組織(合同会社やLLPなど)についても用いられる |
株主にはさまざまな権利が認められているところ、持株比率が高くなればなるほど、株主の権利は強力になります。
持株比率に応じて認められる株主の主な権利は、以下のとおりです。
株主は原則として、株主総会において議決権を行使することができます(無議決権株式や単元未満株式を除きます)。
議決権は株式の個数分(単元株制度を導入している場合は、単元数分)行使できるため、持株比率が高ければ高いほど、株主総会で多くの議決権を行使することができます。
3章で後述するように、株主総会決議を行うためには、一定割合以上の賛成の議決権が行使されることが必要です。したがって、持株比率の状況は株主総会決議の成否に大きな影響を及ぼします。
株主は、保有株式の数に応じて剰余金の配当を受けることができます。
剰余金の配当の額は「1株当たり○円」という形で定められます。
たとえば1株当たり20円の配当を行う場合、100株持っている人は2000円の配当を受け取れるにとどまりますが、100万株持っている人は2000万円の配当を受け取ることができます。
このように、持株比率が高ければ高いほど、多額の剰余金の配当を受けられます。
株主総会の議決権や剰余金の配当を受ける権利は、原則として1株からでも行使できるので「単独株主権」と呼ばれています。
これに対して、一定数以上の株式を保有している場合に限って行使できる権利を「少数株主権」といいます。特に上場企業では、少数株主権を行使するためには非常に多数の株式を保有していることが必要です。
少数株主権の行使条件は、持株比率(議決権比率)・議決権数・保有期間によって定められています。
主な少数株主権は、以下のとおりです。
少数株主権の種類 | 内容 | 持株比率(議決権比率)・議決権数の要件 | 保有期間の要件 |
---|---|---|---|
議題提案権(会社法第303条第2項) | 取締役会設置会社において、株主総会の議題を提案する権利 ※取締役会非設置会社では、単独株主権 |
総株主の議決権の1%以上、または300個以上 | 行使前6か月間の継続保有 |
議案要領記載請求権(同法第305条第1項但し書き) | 取締役会設置会社において、提出議案の要領を株主への通知に記載するよう請求する権利 ※取締役会非設置会社では、単独株主権 |
総株主の議決権の1%以上、または300個以上 | 行使前6か月間の継続保有 |
総会検査役選任請求権(同法第306条) | 株主総会の招集手続きや決議方法を調査させるため、裁判所に対して検査役の選任を申し立てる権利 | 総株主の議決権の1%以上 | 原則としてなし ※公開会社である取締役会設置会社では、行使前6か月間の継続保有 |
会計帳簿閲覧等請求権(同法第433条) | 会計帳簿などの閲覧や謄写を請求する権利 | 総株主の議決権の3%以上、または発行済株式の3%以上 | なし |
検査役選任請求権(同法第358条) | 不正行為や法令・定款違反が疑われる場合に、株式会社の業務や財産の状況を調査させるため、裁判所に対して検査役の選任を申し立てる権利 | 総株主の議決権の3%以上、または発行済株式の3%以上 | なし |
役員・清算人解任の訴えの提起権(同法第854条、第479条第2項) | 不正行為や法令・定款違反が疑われる役員や清算人の解任を請求する訴訟を提起する権利 | 総株主の議決権の3%以上、または発行済株式の3%以上 | 行使前6か月間の継続保有 |
役員等の責任免除に対する異議権(同法第426条第7項) | 定款の定めに基づく役員等の責任免除について異議を申し立てる権利 | 総株主の議決権の3%以上 | なし |
株主総会招集権(同法第297条第1項) | 取締役に対し、株主総会の招集を請求する権利 | 総株主の議決権の3%以上 | 行使前6か月間の継続保有 |
解散請求権(同法第833条第1項) | 株式会社の解散を請求する訴訟を提起する権利 | 総株主の議決権の10%以上、または発行済株式の10%以上 | なし |
※持株比率(議決権比率)・議決権数・保有期間の要件は、定款によって緩和することができます。
株式会社の株主総会決議は、ほとんどの場合「普通決議」または「特別決議」によって行います。通常の議案に対しては普通決議、重要度の高い一定の議案に対しては特別決議が必要となります。
普通決議および特別決議を行うためには、定足数・賛成数について以下の要件を満たさなければなりません。
株主総会決議の種類 | 定足数の要件 | 賛成数の要件 |
---|---|---|
普通決議(会社法第309条第1項) | 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数の出席 ※定款によって緩和・過重可能 |
出席した当該株主の議決権の過半数の賛成 ※定款によって過重可能(緩和は不可) |
特別決議(同条第2項) | 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数の出席 ※定款によって緩和・過重可能(緩和は3分の1まで) |
出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成 ※定款によって過重可能(緩和は不可) |
普通決議および特別決議の要件との関係で、株式会社の経営者は「3分の1」「2分の1」「3分の2」の持株比率(議決権比率)を意識する必要があります。
持株比率(議決権比率)のライン | 意義 |
---|---|
3分の1(33.3%)以上 | 特別決議を拒否できる |
2分の1(50%)超 | 普通決議を必ず通せる |
3分の2(66.7%)以上 | 特別決議を必ず通せる |
特に、身内以外の株主が持株比率を3分の1以上に高めようとしてきた場合、身内の持株比率が3分の2未満や2分の1未満に低下しそうになった場合などには、早めに対策の必要性を検討すべきといえます。
特定の株主が持株比率を高めようとしてきたときは、現状の株主構成を確認して、経営の安定性に支障が生じないかどうかを検討しましょう。
持株比率の変動を許容できない場合は、買収防衛策を実施します。
主な買収防衛策としては、以下の例が挙げられます。
買収防衛策の種類 | 概要 | 注意点 |
---|---|---|
ライツプラン(ポイズンピル) | 既存株主に安価で新株を取得できる権利を付与し、敵対買収者の持株比率を希薄化させて影響力を弱める | 新株予約権の不公正発行に当たり差止を受けるなど一定の法的リスクがある |
ゴールデンパラシュート | 敵対的買収が成立した際に、経営陣が多額の退職金を受けとり資産を一部持ち出せるようにしておく | 企業自体の価値は減少することで株主の反発を招きやすい |
クラウンジュエル | 中核事業や重要資産を売却し、企業価値を低下させる | 企業自体の価値は減少することで株主の反発を招きやすい |
ホワイトナイト | 友好的な第三者に買収してもらう | 結局、持株比率・支配権は減少する |
パックマン・ディフェンス | 敵対的買収を仕掛けていた企業に対し、逆買収を仕掛ける | 攻防が泥沼化しやすく、費用・リスクが非常に高い |
MBO | 経営陣が自社株を買い上げて非公開化する | 多額の買収資金が必要となり、株主と経営陣の利益相反も生じやすい |
買収防衛策の実施に当たっては、状況に合わせた方法を検討しなければならないため、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
外部者が持株比率を高めると、株式会社の経営が不安定になってしまうおそれがあります。持株比率の変動状況を常にチェックし、必要に応じて買収防衛策などを行いましょう。
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