契約書を作成する際には、当事者がやむを得ず義務を履行できなくなる場合に備えて「不可抗力条項」を定めるのが一般的です。
不可抗力条項が適切な内容であるかどうかは、弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。
本記事では、契約書における不可抗力条項について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「不可抗力条項」とは、契約の当事者(債務者)がやむを得ず義務を履行できなくなった場合に、損害賠償などの債務不履行責任を免除する規定です。
当事者は原則として、契約に定められた義務を果たさなければなりません。たとえば売買契約では、売主は買主に対して目的物を引き渡す義務を負い、買主は売主に対して代金を支払う義務を負います。
しかし、予期せぬアクシデントなどの自分に責任がない原因により、契約上の義務を果たせなくなってしまうケースもあります。この場合、義務を果たせなかった当事者に責任を負わせるのは酷なので、不可抗力条項によって債務不履行責任が免除されます。
なお、契約書に不可抗力条項が定められていない場合でも、民法の「危険負担」の規定によって債務不履行責任が免除されることはあります。
それでもあえて契約書に不可抗力条項を定める目的は、当事者の合意によってルールを明確化し、取引の実態に合った形に調整することです。契約トラブルのリスクを最小限に抑えるためには、適切な内容の不可抗力条項を定めておくべきでしょう。
通常、不可抗力条項が必要になる場面というのは例外的であり、その効力を重要視される機会はあまり多くありませんでしたが、コロナ禍という世界的な事変を受けて、今一度その価値が意識されています。
「不可抗力」とは、契約上の義務を負っている当事者の責によらず発生し、その義務の履行を妨げる事由のことです。
主な不可抗力事由としては、以下の例が挙げられます。
「天災地変」とは、自然界で起こる災害を意味します。
天災地変は、契約当事者がコントロールできる事象ではないため、不可抗力による免責の対象となります。
「社会的事変」とは、社会全体に大きな影響を与える事件を意味します。
社会的事変は人為的な行為であるものの、天災地変と同じく契約当事者にはコントロールできないため、不可抗力による免責の対象となります。
「争議行為」とは、労働組合が労働条件の改善などを求めて、使用者に対して行う集団的な行動を意味します。
争議行為を受けたために債務を履行できなくなった場合において、契約の相手方に対して債務不履行責任を負うのかどうかについては、学説上見解が分かれています。
社内事情にすぎないため債務不履行責任を負うとする説がある一方で、操業の継続が不可能に近いことや、憲法上の権利の要請に鑑みて債務不履行責任を負わないとする説もあります。
このように解釈上曖昧な部分があるため、争議行為については不可抗力事由として免責の対象としておくことが、リスク管理の観点から適切と考えられます。
新たな法令の制定や、既存の法令の改正・廃止に伴い、契約締結当時に想定されていた義務が履行できなくなるケースもあります。たとえば、特定の業種に対する規制が強化された場合などが想定されます。
法令の制定・改廃は、契約当事者がコントロールできる事象ではないため、不可抗力による免責の対象となります。
法令に基づいて行われる行政機関や裁判所の命令や処分によっても、契約締結当時に想定されていた義務が履行できなくなるケースがあります。たとえば、感染症が流行したことによって営業の停止が義務付けられた場合などが典型例です。
公権力による命令・処分のうち、契約当事者の責によらないものは、不可抗力による免責の対象とするのが適切でしょう。
なお、自ら債務不履行を起こしたために財産が差し押さえられたなど、公権力による命令・処分について当事者に責任がある場合は、不可抗力免責の対象外となります。
当事者が大規模な火災に巻き込まれると、操業が困難または不可能な状態に追い込まれる可能性があります。
第三者が起こした火災の延焼を受けた場合には、それによる債務不履行の責任を当事者に負わせるのは酷です。そのため、当事者の責によらない火災については、不可抗力免責の対象とする例がよく見られます。
なお、当事者の失火によって火災が発生したなど、火災について当事者に過失が認められる場合は、不可抗力免責の対象になりません。
契約書における不可抗力条項の条文例を紹介します。
第1項では「地震、台風、津波、暴風雨…」等、不可抗力事由を列挙したうえで、不可抗力による履行遅滞・履行不能の責任を免除する旨を定めています。具体的な不可抗力事由については、取引の内容に応じて一部削除または追加することも考えられます。たとえば、海上における輸送を伴う売買取引であれば、海賊行為などの当該取引特有な具体的なリスクを明記することも考えられます。
第2項では、不可抗力による影響をできる限り軽減し、または回復する努力義務を定めています。
第3項では、不可抗力によって契約の目的を達成できなくなった場合に、契約を解除できる旨を定めています。事前協議を要件としていますが、協議をへることなく解除できる旨を定めることも考えられます。
不可抗力条項の内容は、取引の内容や当事者のニーズに応じて調整すべきです。条文例は参考にしつつも、そのまま流用するのではなく、弁護士に相談することをおすすめします。
契約書の不可抗力条項を作成する際には、特に以下の2点に注意しましょう。
他の契約条項と同様に、不可抗力条項についても明確な文言で記載することが重要です。
不可抗力条項の文言が曖昧だと、どのような場合に不可抗力免責が認められるのか、契約解除のために必要な手続きは何かなどが不明確となり、トラブルの原因になります。
日本語としての意味が通らない部分や、2通り以上の意味に解釈できる部分などがないかをよく確認し、問題がある文言は修正しましょう。
不可抗力条項の作成に当たっては、その条項が適用された結果、自社が負担する損害を許容できるかどうかを精査する必要があります。
不可抗力条項によって相手方が免責される場合、自社において発生した損害は自己負担となります。その損害を許容できるかどうか、相手方に負担させるべきではないかを十分に検討しなければなりません。
反対に、不可抗力によって相手方に生じた損害は、自社が負担することがないようにしておく必要があります。不可抗力条項の適用範囲が狭すぎると、思いがけず責任を負う可能性があるので要注意です。
不可抗力条項を含む契約書の作成やレビューを行う際には、弁護士に相談するのが安心です。
契約書の作成・レビューについて弁護士に相談することには、主に以下のメリットがあります。
弁護士のサポートを受けて適切な契約書を作成することは、将来的な契約トラブルを防ぐことにつながります。特に重要な契約を締結する際には、弁護士のアドバイスをお求めください。
不可抗力条項は、天災地変などの不可抗力によりやむを得ず契約上の義務を履行できなかった場合に、その当事者の債務不履行責任を免除する規定です。
将来の契約トラブルを予防するためには、不可抗力条項を含めた契約条項の全体をきちんとチェックする必要があります。そのためには、弁護士のサポートを受けるのが安心です。
ベリーベスト法律事務所は、契約書の作成やレビューに関する企業のご相談を随時受け付けております。ニーズに応じてご利用いただける顧問弁護士サービスもご用意していますので、いつでもお気軽にご相談ください。
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