2025年11月19日
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36協定の特別条項とは? 記載例・手続き・注意点などを解説

36協定の特別条項とは? 記載例・手続き・注意点などを解説

企業が労働者に残業をさせるには、「36協定」の締結・届け出が必要になります。また、36協定に特別条項を定めることで、企業側に臨時的な必要性があれば、労働基準法上の上限を超えて、労働者に対して残業を指示することも可能です。

しかし、特別条項を設ける場合には、正しい記載内容や手続きが求められ、不備があるとペナルティが科されるリスクがありますので、注意しましょう。

今回は、特別条項付き36協定の概要や記載例、手続きの流れ、注意点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、36協定の特別条項とは?

36協定とは、企業が労働者に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働をさせるために必要となる協定です。労働基準法36条に基づく協定であることから、「36(サブロク)協定」と呼ばれています。

36協定を定めることで労働者に残業をさせることが可能になりますが、残業時間には月45時間・年360時間という上限が設けられています。しかし、業務が集中する時期や繁忙期などは、残業時間の上限を超えて働く必要がある企業も多いでしょう。このような臨時的な特別の事情がある場合は、「特別条項」を設けることで、労働者に残業時間の上限を超えて労働させることが可能になります

ただし、特別条項を定めた場合でも、以下の上限を超えることはできません。

  • 時間外労働は年720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計について、2~6か月の各月平均がいずれも1か月あたり80時間以内
  • 時間外労働が月45時間を超えるのは、年6回まで
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2、36協定の特別条項の記載例

以下では、36協定の特別条項の主な記載事項とその記載例を紹介します。ありがちな誤記や曖昧な記載例も紹介していますので、特別条項付き36協定を作成する際の参考にしてみてください。

  1. (1)臨時的に限度時間を超えて労働させることができる場合

    「臨時的に限度時間を超えて労働させることができる場合」の欄には、どのような場合に限度時間を超えた労働をさせるのかを具体的に記載します。特別条項は、臨時的な特別の事情がある場合に限り設けられるものですので、それに沿った事情でなければなりません。

    【記載例】
    • 新製品の開発に伴う業務量の増加
    • 突発的なクレームや仕様変更への対応
    • 機械トラブルへの対応
    • 自然災害による事故対応

    【望ましくない例】
    • 業務の都合により
    • 必要がある場合
    • 決算に伴う経理対応
    • 新卒の受け入れ対応

    曖昧な表現や予見できる事情を記載した場合には、労働基準監督署による確認の際に特別条項として適切と判断されないおそれがあります。

  2. (2)限度時間を超えて労働させる場合における手続き

    「限度時間を超えて労働させる場合における手続き」の欄には、限度時間を超える時間外労働をさせる場合の手続きを具体的に記載します。

    【記載例】
    • 特別条項を適用する場合は、部門長の申請および人事部の承認を経て、過半数代表者との協議を行うこととする

    【望ましくない例】
    • 都度対応する
    • 適宜の方法により対応する

    手続きの流れが不明確な表現は特別条項の記載としては不適切です。

  3. (3)限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康および福祉を確保するための措置

    「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康および福祉を確保するための措置」の欄には、限度時間を超えて労働させる労働者に対して行う健康と福祉を確保する措置として、以下の①~⑨から該当するものを選択し、具体的な内容を記載します。

    • ① 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること
    • ② 午後10時から午前5時の深夜労働をさせる回数を1か月に一定回数以内とすること
    • ③ 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること
    • ④ 労働者の勤務状況および健康状態に応じて、代償休日または特別な休暇を付与すること
    • ⑤ 労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
    • ⑥ 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得するよう促進すること
    • ⑦ 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
    • ⑧ 労働者の勤務状況およびその健康状態により必要な場合には適切な配置転換をすること
    • ⑨ 必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、保健指導を受けさせること

    【記載例】
    • 時間外労働が月80時間を超える可能性がある従業員に対しては、産業医との面談指導を実施し、健康診断の受診を促す。加えて、有給休暇の取得や作業負担の軽減に努める

    【望ましくない例】
    • 健康に配慮する

    抽象的な記述では、実効性に欠けると判断される可能性があります。

3、特別条項付き36協定を締結する際の手続き

特別条項付き36協定を締結する場合、以下のような流れ・手続きにより行います。

  1. (1)労働組合等との交渉

    労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合と、労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する人を選出し、その人との間で交渉を行い特別条項付き36協定の内容について検討していきます。
    なお、過半数代表者は、会社側の意向に左右されない中立的な人物でなければなりませんので、会社の役員や管理監督者など経営側とみなされる人物は代表者にはなれません。

    この協議段階では、企業側が特別条項を設ける必要性やその適用範囲、健康確保措置の内容などについて丁寧に説明し、労働者側の理解と合意を得ることが求められます。

  2. (2)特別条項付き36協定の締結

    労使間で協議が整えば、36協定を締結し、労使双方が署名・押印を行います。協定書には、以下のような情報を明確に記載する必要があります。

    特別条項付き36協定の記載事項は、すでに説明しましたが形式的な内容ではなく、実態に即した具体的な内容を盛り込むことが重要です。曖昧な記載は、後にトラブルとなる可能性がありますので注意が必要です。

  3. (3)就業規則の変更

    特別条項付きの36協定は、労働時間や休日、賃金といった労働条件に密接に関わります。そのため、協定内容が就業規則と整合しない場合には、就業規則の変更が必要となります。

    特に、常時10人以上の労働者を雇用している事業所では、就業規則の作成・届け出が義務づけられていますので、36協定の内容に変更があれば、それを反映させたうえで労働基準監督署に届け出なければなりません。

    ただし、すでに協定の要件が網羅された就業規則となっている場合には、再度の届け出は不要とされます。

  4. (4)労働者への周知

    協定が締結されたあとは、必ず労働者に対して協定内容を周知しなければなりません
    周知の方法としては、社内掲示板への掲示、電子メールの送付、書面配布などが考えられます。
    特に、特別条項付きの場合は、残業の可能性が通常よりも高くなるため、その旨を明確に伝えておくことが従業員との信頼関係の維持にもつながります。

  5. (5)労働基準監督署への届け出

    締結した特別条項付き36協定は、労働基準監督署に届け出なければ法的効力が生じません。時間外労働をさせる前に、必ず労働基準監督署へ届け出を行う必要があります
    なお、使用する様式は「様式第9号の2」です。これは厚生労働省のウェブサイトからダウンロード可能です。

4、36協定の特別条項に関するNG行為|労働基準法に違反するとどうなる?

特別条項付き36協定を締結したとしても、運用を誤ると労働基準法違反に問われる可能性があります。以下では、36協定の特別条項に関するNG行為の例とペナルティについて説明します。

  1. (1)労働基準監督署へ届け出なかった場合

    特別条項付き36協定を締結したとしても、労働基準監督署への届け出をしていない場合、特別条項の効力は発生しません。

    この場合は、労働基準法違反となりますので、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されます。

  2. (2)労働時間の上限を超えて働かせた場合

    特別条項付き36協定を締結・届け出することで、月45時間・年360時間という残業時間の上限を超えて働かせることが可能になります。しかし、その場合でも月100時間未満・複数月平均80時間以内など守らなければならない残業時間の上限があります。

    労働時間の上限を超えて働かせた場合、労働基準法違反となりますので6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されます。また、労働基準監督署による是正勧告の対象にもなりますので、速やかに違法状態を是正し、再発防止策を講じるようにしてください。

5、労働問題に関するご相談は弁護士へ

特別条項付き36協定の締結を含めた人事・労務管理についてお困りの際は、弁護士にも相談することをおすすめします

  1. (1)特別条項付き36協定の適切な締結・運用ができる

    特別条項付き36協定の締結や運用は、法律に基づいた慎重な対応が求められます。少しでも内容に不備があると、労働基準法違反として是正勧告や行政指導、場合によっては企業名の公表など重大なリスクにつながりかねません。
    特に、次のような場面では弁護士に相談することで、大きなメリットがあります。

    • 特別条項の記載内容が法的に妥当かどうか判断に迷うとき
    • 労働者代表の選出や協議の手続きに不安があるとき
    • 健康確保措置の内容が適切か確認したいとき
    • 残業トラブルや労使紛争に発展しそうな懸念があるとき
    • 労働基準監督署からの是正勧告に対応しなければならないとき

    このような場面では、労働法に関する法的な解釈や労使間の交渉・紛争対応が求められますので、弁護士のサポートが有効です。

  2. (2)顧問弁護士がいればリスクの少ない人事・労務体制の構築が可能

    日常的に労務管理の相談が発生する企業であれば、弁護士との顧問契約を結んでおくことが非常に有効です。顧問弁護士がいれば、以下のようなサポートが受けられます。

    • 就業規則や雇用契約書の法令対応チェック
    • 問題社員への指導や懲戒処分に関するアドバイス
    • 解雇や雇止めを行う際のリスク回避策の検討
    • 労働トラブルが発生した際の交渉や訴訟に向けた助言
    • 労働基準監督署の調査や行政対応のアドバイス、同席

    これらの支援を通じて、トラブルを未然に防ぎつつ、リスクの少ない人事・労務体制の構築が可能です。
    労働環境の健全化と企業経営の安定化を両立させるためにも、ぜひ労働問題に強い弁護士との顧問契約をご検討ください

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6、まとめ

特別条項付きの36協定を締結・届け出することで、繁忙期などに法定の上限を超えた残業が可能になります。ただし、特別条項付き36協定の記載事項は、具体的かつ明確でなければなりません。抽象的な表現や曖昧な内容では、労働基準監督署による確認で不備とされ、協定自体が無効と判断されるおそれがあります。
また、違反時には是正勧告や罰則の対象になりますので、運用には細心の注意が必要です。

人事・労務管理には、顧問弁護士による継続的なサポートが有効ですので、労働環境の健全化と企業経営の安定化を両立させるためにもベリーベスト法律事務所の顧問弁護士サービスをご利用ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
この記事の監修者
杉山 大介
杉山 大介  弁護士
ベリーベスト法律事務所
所属 : 第二東京弁護士会
弁護士会登録番号 : 59418
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